妹の螺旋

有留エヌ

文字の大きさ
2 / 7

2話 学校での彼ら

しおりを挟む
 秀人は、クラスに入るや否や、渡邊さんに謝罪をした。

「ごめん、忘れ物しちゃって」

「いいよ、進路相談のプリントでしょ。加賀屋先生提出物に厳しいからね」

 渡邊さんは苦笑いしながら言った。そして申し訳なさそうに続けた。

「あ、あのさ。無理は承知で聞くんだけど、玲花さんの連絡先教えてくれたりしないかな...」

「ごめん、それはできない。誰か男に聞いてみてって言われた?」

「そうなの、うちの部活の男子がしつこくて、仕方ないから一回だけ聞いてくるからダメだったら諦めてって感じ」

 玲花はこの学校で「天使」と呼ばれていた。入学初日から、全校の注目の的で、歩けば皆振り返る花であった。芸能人レベル、いやそれ以上の何かを感じさせる美少女がうちの学校来た、と噂になったらしい。確かに玲香は惑う事なき美少女だ。

「でも大変だね、白光の美少女の兄は。玲花さんの話題が絶えないでしょう。」

「そうだねえ、周りにいる男たちはみんな玲花のことばかり聞いてくる。まあ、とにかく羨ましがられるね」

 秀人は微笑みながら応えて続けた。

「それでも、俺は玲花に助けられて生きてるし、自慢の妹だよ、本当。」

 今まで玲花がしてくれたことを思い出しながら言った。思い出すだけで胸が痛くなって、実は自分が我儘な兄なのでは無いかと記憶を辿り確認していた。

「でも、黒田くんも結構かっこいいってクラスで話題になってたよ。兄妹揃って大変だ。」

「そんな事初めてきいた、玲香の話を聴いてるとモテてもいい事あんまなさそうだなあ」

 秀人は歪んだ微笑みを浮かべて言った。自分がモテていることに対して興味はなく、ただ人に注目され続ける大変さを感じ取っていた。


 日直の仕事がひと段落して、朝のホームルームが始まるのを自席で待っていた。始まるのに時間がありそうなので、携帯で玲香のプレゼントを調べていた。

「なになに、彼女にプレゼント?このイヤリング可愛い!いいなあ。」

 藪から棒に顔を秀人の画面の前に突き出した女生徒がいた。クラスメイトの里佳だ。彼女はクラスのムードメーカーで体育祭実行委員をやったり、バスケ部と軽音学部を掛け持ちするほどアクティブ性格の持ち主であった。

「違うよ、玲香の誕生日プレゼントを考えてたんだ。」

「へー、優しいね。高校生の妹の誕生日に2、3万円するイヤリングなんて買うんだ。」

 彼女は、急に真顔で、クラス中に聞こえるような声で言った。その声はどこか白々しく、棘があるようであった。

「おい、そんな大きい声で言わなくていいだろ。」

 幸いクラスにはまだ数人ほどしかいなかった。

「だってさあ、あんな美人な妹にかまけてばっかじゃ彼女なんてできないよ。気づいたら40歳くらいになってるよきっと。」

「それは俺の勝手、いくら美人でも恋愛感情はないから、何度もいってるけどね。家族として、そして日頃の感謝を込めて選んでるだけだよ。」

 秀人は力強くクラスに聞こえるようにいった。

「はいはい、そうですよねえ」

 里佳は不機嫌そうにため息まじりで言った。



 一方、玲香はクラスの席に座って、読書をしていた。玲香のクラスである1年5組は、閑散としてまるで人がいないようであった。クラスの半分以上はすでに登校しているにも関わらず。なぜならば、皆、玲香が読書している姿を息を呑んで見ていたからである。当然他のクラスの生徒も廊下からその姿を覗いている。ただ一人の女生徒が登校するまでのことであるが。

「玲香、おはよう。」

「おはよう、華澄。」

 華澄はその長い眉毛を上下させることなく、ただ玲香のことを見ていた。

「何、そんなに凝視されると困るんだけど。顔に何かついてる。」

「玲香は、今日も可愛いね。お兄さんが羨ましいよ。」

「ありがとう。華澄、少し髪の毛切ったね。似合ってるよ。」

 玲香が華澄の髪をさらりと優しく触れると、華澄は嬉しそうな顔で答えた。

「玲香は本当に人のことよく見てるよな。容姿だけじゃなくて、性格もいいなんて好きになっちゃうよ。」

「私、人を見る目があると自負してるの。」

 玲香は不敵の笑みで言った。

 この光景を見ていた男子生徒二人組は、小声で話した。

「うちのクラスは、ラッキーだよな。」
「本当にラッキーだよ、学校いや、全国レベルで見てもあの二人は可愛い。しかものその二人が同じでクラスで友達だぜ。」
「玲香さんが輝きすぎて掠れてるけど、華澄さんのあのクールビューティーな感じも最高だ。」
「だなあ。背が高くてスレンダー、そしてあの冷たくも引き込まれるに魅惑の眼。あの切れ長な目に撃ち抜かれたい。」

 言わずもがな、玲香は学校中、ましてや他校からも注目の的であった。しかし、華澄も一目置かれるルックスをしていた。生徒たちは皆、華澄は身長が高く170cmほどあるそうだ。髪はもともと胸の辺りまで伸ばされていたが、切って鎖骨のあたりまでの長さになっていた。

「そういえば、さっき読書しながらニヤけてなかった。何か面白い文でもあったの。」

「うん、ちょっと可笑しな話があったの。今度この本貸すね。」

 玲香は左手を耳に当てる仕草をして、そのままその手をカバンに突っ込んだ。

「ありがとう、楽しみにしてる。そういえばさ、今日の放課後空いてる。新宿の方に気になる白玉ぜんざいのお店があってさ、一緒に行きたいんだけど。」

「ごめんね、今日は用事があるの。また今度行こ。相変わらず和菓子が好きなのね。」

「そっか、残念だ。また誘うね。」

 担任の教師が扉を開く音がして、みな席に座った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...