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最終話 魔法少女と大好きな君への魔法(3)
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はやる思いから、「瞬間移動|《いどう》」の魔法を使ってしまった。
この魔法は名前通り、「思い描いた場所に一瞬で移動できる能力」。
人前で使うと、突然と姿を消してしまい。また突然と現れてしまうことから、絶対人前では使ってはならない魔法だ。
やばい! 誰か見ていた人は!
そう思い周りを見渡すも、人の気配はなかった。
良かった。あいつが指定した浜辺は奥地にあり、町の人はわざわざここまで来ない。だから誰も居なかった。
「良かった~」
私は思わず声に出す。すると。
「何が良かったんだ?」
そんな私に、軽く返事をしてくる人。
後ろから聞こえた声に、私の汗は止まらない。
「ふぇ~!」
「ふぇ~? 何だよ、それ?」
後ろを振り向くと、ふにゃとした表情で笑うこいつがいた。
青ざめた表情をした私に、こいつはクツを脱ぎ、差し出してきた。
「は?」
「裸足だから」
「!!」
私は足元を見て、より青ざめる。
そっか、ベッドで寝たままだったから! それって、つまり……。
私は、自分の服装に思わず叫ぶ。
パジャマ姿。しかもウサウサのパジャマだった。最悪!
「ウサウサ、かわいいから良いだろ?」
「良くない!」
どうしよう。これじゃあ明らかに、魔法使ってここまで来ました、と言ってるようなものだよね。
まあ。もう終わってるんだけど、どうしよう。
私の頭の中がパニックになっていると、こいつが海に向かって叫びだした。
「オレは王子様じゃなーい!」
突然のことに、私はポカンとしてしまう。
「何?」
こいつの顔をのぞき込むと、清々しい表情をしていた。
「……オレ、ずっと友だちが欲しかった」
「は? いるじゃん」
こいつの言っている意味が、分からなかった。
「うん。でもな、本当は男友だちが欲しかった。昼休みつるんだり、相談したり、一緒にバカやって叫べるやつ。でも、いつも女子たちがいるだろう? だから、友だちが作れなかったんだ。……オレのこと好きで来てくれているのに、無下にするのも悪いだろ?」
まただ。こいつは泣きそうな表情をしていた。
……前に、私がこいつを「イケメン王子様」と呼んだら、すごく怒っていた。
それって、王子様キャラを演じている自分が嫌だったからなんだ。
私が地味な自分を演じるみたいに、こいつもムリして、理想の王子様を演じていた。
その辛さ、私には分かる。
「だから、お助け係に立候補した。クラスのみんなと仲良くしたかったから。本当のオレを知って欲しかったから。優花を指名したのは、一緒に演じるの止めようと言いたかったから。……力を隠している姿が、辛そうだったからだ」
そう言ってこいつは、私の片足ずつをムリやり上げ、クツをはかせてくる。
「……いつから気づいていたの?」
私はこいつを見ず、押しては引いていく海の波を見つめてつぶやく。
「四年のころから。優花、落とし物係だっただろう? やたら持ち物把握しているな、と思って見ていたら。手からえんぴつ出すところを見かけたんだよ。まあ、オレが知らんぷりすれば良いと思っていたけど、新学期からペンケース浮かせてたし。いずれ誰かの前でやらかす。だから、この力はみんなを助けてくれる魔法だと伝えた方が良いと思ったんだよ」
私はクツをはかせてくれた、こいつを見下ろす。
すると、すごく優しい表情で笑っていた。
思い返すとこいつは、悩みがあるなら言えとか。
クラスで疑われたら真っ先に庇ってくれたりとか。
礼美ちゃんたちと仲良くなれるように、間に入ってくれたりとか。
魔法のことが分からないように、してくれていた。
全部、私のためにしてくれていたんだ。
それなのに、正体を明かすためなんて疑ってしまった。
最低だな私。
「……ありがとう」
私は本心から、そう言葉に出していた。
「いや。でも、悪かったな。寝ないと辛いんだろ?」
そう言いながら、こいつは上着までかけてくれた。
かけられた上着は、こいつの匂いがしてドキドキしてしまった。
そんなこいつに連れられて、二人で石垣に座り、海をながめる。
オレンジ色した夕日が海に映り、キラキラと光っていた。
「……うん。この魔法は思ったことが全て力になってしまうの。だから、コントロールするのに疲れてしまって……」
私は、ずっと隠してきたことをこいつに話した。
知って欲しかったからだ。
「思ったことが全て? だから手からえんぴつ出したり、今ここに来たり、階段から落ちそうになったオレを助けてくれたのか!」
「考え抑えられなくて……。ふっと、思ってしまうんだよね」
「そんなのオレも! いや、誰でもムリだろ! そんな力を持っていたのかよ! 友だちにも相談できず、一人苦しんでいたのか! ……悪い、オレと一緒だと思っていて。優花はオレより苦しんでいたのに」
こいつの真剣な表情に、心がまた温かくなっていく。
「……うん、本当は苦しかった……。この力のこと、相談できる友だちが欲しかった。でもまた気味悪いと言われるのが怖くて。だからわざと、人と距離取って傷つかないために心とがらせていた……。私に勇気がなかったから……」
私は、両手をギュッと握りしめる。
「ほら、海に向かって叫べよ! 魔法を使え! ムリに抑えるからだめなんだ! もっと自分の力と向き合えよ! 俺が毎日見張ってやるから! お前は我慢し過ぎなんだよ! だから、もっと感情出せよ!」
こいつの言葉に、私はただ驚いてしまった。
今まで、自分の力を嫌って変えようとしなかった。
向き合ってこなかった。
感情なんて、出したことなかった。
だけどこいつの言葉に、私は初めて大きな声で叫ぶ。
「もう誰もキズつけたくない! 困っている人の力になりたい! だから魔法を使いこなせるようになりたい!」
それは、この力が消えるように願うより、自分を肯定できるような気がした。
あいつの言うとおりだった。
出来るだけ、気持ちを言葉で言い表すように心がけて。嫌なことがあった時は海に向かって叫んで。家では魔法を使うようにした。
そしたら驚くほど、魔法がコントロールできるようになった。
そういえば五年生になってしばらくすると、魔法の暴発が減っていた。
あれは翼に、言いたいこと言っていたからだったんだ。
そしてこの力は使い方によって人を助けることができる、神様からもらった力なのかもしれない。
そう思うことで、私はやっと自分を認めることができた。
二学期。
久しぶりに学校に行くために、集団登校の班で集まる。
すると後ろから、こいつの声がした。
「お、来たな」
「毎日、家に来られたら困るから!」
「オレは本当にやるからな!」
そう言って、またイタズラっ子のように笑う。
私は、この笑顔にまたドキドキしてしまう。
ずるいなー、もう。
学校に着き解散となる。
いざ校舎内に入っていくのは、すごく緊張する。
「行こう、優花ちゃん」
礼美ちゃんがそう言って、手をつないでくれる。
「ありがとう」
私は温かい礼美ちゃんの手を、ギュッと握る。
夏休み、礼美ちゃんたちは本当に遊んでくれた。
それが、学校に行く決意になったんだ。
こいつも、少し距離を取りつつ後ろにいてくれた。
「おはよう!」
おとなしめの礼美ちゃんが、クラスメイト全員に聞こえるぐらいの声を出す。
私の手をギュッと握ってきたことから、緊張しているのだと分かる。
すると伊藤さんたちが、私を見て近づいて来た。
何を言われるのかな? 学校に来るな? あいつに近づくな? 何言われてもおかしくないけど、怖いよ!
私が唇をかみしめると。
「ひどいこと言ってごめん!」
女子三人は、私に向かって頭を下げてきた。
「……え?」
私も礼美ちゃんも、後ろにいたあいつもポカーンとする。
「あれから冷静になって考えてたの! 夏休みの間、ずっと。このまま本当に、学校から居なくなったらどうしようって! 自分がハブられる立場で考えた! そしたら私たちがしてたこと普通に最低だって! 本当にごめん!」
あれから、そうやって考えてくれたんだ。
悪いのは私なのに。言われて当然のことだったのに。
「ううん。私こそ、ごめん……」
私はやっと、あの時のこと謝れた。
三人の硬い表情は、柔らかくなった。
本当に夏休み中、悩んでくれていたのだと分かった。
すると、三人は私を囲んでつぶやく。
「「「でも、翼くんは渡さないからね」」」
「わ、私も!」
思わず、そう返してしまった。
うわわわ。そんなの好きだと言っているようなものじゃない! 私のバカー!
「分かった、正々堂々と勝負するからね!」
そう言い、私たちは握手した。
でも、やっぱりライバルは手ごわい。
いつも通り、あいつに話しかけていくその姿勢は、マネできない。
そんな姿を見ていると。
「あ、ごめん。オレ、男友だちとつるみたいから!」
あいつはそう言い、佐々木くんたちの輪に入る。
「翼くん、お見舞いありがとう」
「いや、無事に治って良かったよ」
「おう、翼! 慎吾の快気祝い昼からやるけど来ないか?」
「うん! 行く行く!」
あいつは林間学校の男子グループと仲良くしている。
あの時にできなかったことを、今取り返そうと。あいつも一歩前に進んだんだね。
こうして不安だった二学期は、楽しく始まった。
「はい、それでは係を決めます」
松田先生の声に、教室中がピリつく。
「はい! 二学期もお助け係やります!」
こいつの声に、教室の空気は少し柔らかくなる。
「お、いいね! じゃあ、もう一人は……」
「はい! 今度は私が!」
伊藤さんたち三人が立ち上がる。
しかし……。
「もちろん優花を指名します! オレたち最高の相棒なのでー!」
「はぁー! あんた何言ってるのー!」
私はイスから立ち上がり、大きい声で叫ぶ。
「お、良いね。名コンビー!」
「よろしくー!」
パチパチパチパチ。
拍手が教室中に鳴りひびいた。
に、二学期も! ひ~、勘弁してよー!
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