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19話 墓参り
しおりを挟む一旦家に帰り、墓参り用のバケツや蝋燭、線香を準備する。そして近所のスーパーで仏花を三つ購入し、お互いの親の墓参りに行く。
空は厚い雲に覆われて暗く、太陽の光が一切入ってこないどんよりとした空雲だった。
「……お母さん……、お父さん……、孫を産めなくてごめんね……」
小春は一言呟く。
「……四十九日経てば、おじいちゃんおばあちゃんの元に行く。だから……」
「……うん」
小春は墓を見つめる。
小春の両親が亡くなったのは突然だった。結婚して家を出て半年が経った頃に、母親から父親が倒れたと連絡が来た。
小春の父親は、病院に着いた時には亡くなっていた。
死因は脳梗塞。病院に搬送された時には手の施しようがなかったとの事だった。
小春の父親はヘビースモーカーであり、煙草の吸い過ぎが一因だろうと医師より言われた。特に小春が結婚して家を出た事により、煙草の本数が増えたと以前より母から聞いていた。
小春は自分のせいだと苦しみ、そしてせめて母親には親孝行したいと願った。だから樹と相談し、二人が小春の実家に行く形で同居しないか提案した。
しかし小春の母は、新婚夫婦の邪魔をしたらお父さんに怒られると笑って拒否していた。そんな時、また次の悲劇が起こる。
母親と連絡が取れないと心配した小春が実家に戻ると母親が仏間の前で倒れていた。
小春は慌てて救急車を呼んだが、母親は前日に亡くなっていたと病院で聞いた。……夫の四十九日が明けて立ち直ろうとした所だったのに……。
死因は心筋梗塞だった。
母親は持病なんてなかった。……そう思っていたが母親は以前より胸が締め付けられる感覚や、息苦しさを感じており検査を受ける予定だった。しかし父親が急に亡くなり、検査を先延ばしにしてしまったから、対応が遅れ亡くなった……。
母親が亡くなり、小春は初めて知った。
そして、当然ながら樹に煙草を止めて欲しいと頼んだ。
樹も小春の為に止めようとした。しかし中堅の立場となり、責任ある仕事を進めていくうちに強いプレッシャーがストレスとなり煙草が我慢出来なかった。
結構、本数は減らせたが止める事は出来ず、小春も樹の真面目で気負う性格を分かっていた為、これ以上は言えなかった。
今回、我が子を身籠ったのをキッカケに樹の煙草の本数は明らかに減っており、このまま禁煙出来そうだった。
……しかし我が子を失った事により、また自分を守る為に煙草の本数が急増してしまった。小春を支えている樹も、極限まできていたのだ。
樹は小春の父親、母親の墓をぼんやり見ている。
優しく、仲の良い夫婦だった。父親を知らない自分に父親というものを教えてくれた。忙しい母に代わり、母親らしい事もしてくれていた。結婚の挨拶に行った時も、喜んでくれた。……父親には何かあれば殴ると言われていた。まさか結婚から一年もしない間に順番に亡くなるなど考えもしなかった。
樹にとっても小春の父母はかけがえのない存在だった。
そして樹は考えてしまう。もし、もし小春の母親が今も現存していたら……を。
もっと上手く寄り添ってくれるだろう。優しい言葉で小春に語りかけてくれるだろう。……乳腺炎になった事にもすぐ気付いて……、いや、なる前に対応を取っていただろう。少なくても自分みたいに下手なやり方はしなかっただろう。
今なら女医の言っていた「デリケートな問題だからそっとして欲しい」の意味も分かる。しかし、今さら気付いても遅いと樹はただ嘆くだけだった。
そして……。
── 煙草止めれなくてすみませんでした……。
心の底から小春の両親に詫びる。
「……行こっか……」
「ああ……」
「今日は一緒に病院に付いて来てくれてありがとう。あなたが居なかったら……」
小春は黙る。……樹がもし居てくれなかったら、何をしていたか分からなかった……。
「……ねえ、あなた……」
「なんだ?」
小春は樹の顔を見つめるが何も言えない。
「言いたい事があるなら言え」
「ううん、帰ってチビちゃんにも仏花供えよう。お線香も灯さないとね」
小春は一人歩き出す。
「……ああ」
小春はずっと言いたい事を我慢している。樹がこうなったのは自分のせいだと分かっているからだ。
立ち直ったように見えても、我が子を失った悲しみはまだ癒えず夫婦は立ち止まってしまった。
まだ立ち直りには時間が掛かるという事だろう。
夫婦が歩いていると、突如雲の隙間から太陽の光が差し二人を照らす。先程までのどんよりと暗かった空は、太陽の光りにより明るくなった。
まるで夫婦を励ますかのように……。
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