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43.大好きで大切な人 -瑠衣子side-
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私が……29のときかしらね。レストランも軌道に乗り始めて……。
あれは……12月30日の夜だったわね。仕事納めで、レストランを閉めて、空を見上げたの。
そしたら真っ暗な中に変な裂け目があって、ぼんやりと光が漏れていたの。
それでね……その裂け目から、赤ん坊を抱えた男の子が降ってきたの。
茶色の髪の、とてもきれいな男の子……そうね、大学生ぐらいの……。
もうね、びっくりしてしまって……ハッと目が合ってね。
でもあまりに奇麗で、私は見とれてしまったの。
どうしたの?って聞いたけど、言葉が通じないみたいだったの。
でも、顔色がすごく悪くて……どうしよう、と思っていたらその男の子は倒れてしまったの。
一緒にいた赤ちゃんも泣き出してしまって……。
それでタクシーを呼んで、家に連れて帰ったの。
朝日はきっと覚えていないと思うけど、今のこの家ではなくて……私の両親が残してくれた家よ。
見知らぬ男の人を自分の家に連れて来るなんて、普通なら考えられないわよね。
だけど空から降ってきた人なんて、そもそも普通じゃないでしょ? 赤ちゃんだっているし、だから……。
――いいえ、それだけではないわね。多分……私はもう、彼に惹かれてしまっていて……閉じ込めてしまいたかったのね、きっと。
彼は丸2日、ずっと眠っていたの。
目を覚ましたとき、やっぱり何も喋れなくて……。
ただ私の言っていることは何となく通じたみたいで……名前を聞いたら、辛うじて「ヒ」だけ聞き取れたから、「ヒロ」って呼ぶことにしたの。
赤ちゃんの方は、抱っこしてあげたらすぐに泣き止んだの。
瞳が青い、とても奇麗な子だったわ。
この子は逆に、全然眠らなかったみたいなの。目をつむって休むことはあったけど……。
でも、ぐずったりすることもなくて……大人しくヒロが目覚めるのを待っていたみたい。
ヒロに名前を聞いても分からなかったから……「アオ」って呼ぶことにしたの。
幸い次の日から一週間休みだったから、私は二人にずっとつきっきりだったの。
言葉も通じないし、赤ちゃんは初めてだし、大変だったけど……両親が死んでから4年間、ずっと独りだったから……むしろとても楽しくて。一生懸命お世話したのを覚えているわ。
* * *
「ルイ……こ……?」
ヒロがチェストの上に飾ってあった色紙でできた飛行機をつまみあげる。
「紙飛行機っていうのよ」
「かみ……ひこ、き?」
それは、瑠衣子の両親が交通事故で死ぬ直前……ドライブにでかける前に父親が何気なく折っていた紙飛行機だった。
父親の形見のような気がして、瑠衣子は飾っておいたのだ。
「こうやって……折るのよ」
父親の紙飛行機をもとの場所に戻すと……瑠衣子は別の紙で折ってみせた。
「それでね、こうして飛ばして遊ぶの」
瑠衣子が飛ばして見せる。リビングをすうっと飛ぶと、ハイハイをしていたアオが楽しそうに笑った。
「アオ、す……き……」
「ヒロも折ってみる?」
ヒロは嬉しそうに頷いた。
* * *
最初からヒロは、私の話はわかってたみたいだったの。だから、言葉を覚えるのがとても早かったわ。
一週間後には仕事始めだったんだけど……その頃には意思の疎通がとれるぐらいには会話できてたと思う。だから仕事には戻ったわよ。
そして、私が仕事をしている間、ヒロは私の家でアオの世話をしていたの。
夜になったら家に帰って……そうすると、灯りがともった家で二人が私を出迎えてくれる。
毎日がとても楽しくて……。最初は、それで十分幸せだったの。
でも、そんな中で、ヒロは私にとってかけがえのない人になっていった。
季節はめぐって……もう春になっていたけれど、ヒロがいつか帰ってしまう日が来るんじゃないかと、とても、怖くて……。
ある日……ちょっと喧嘩みたいになってしまったの。
* * *
「ルイ……どうして外に出かけたら駄目なの?」
その日は瑠衣子は仕事が休みで家にいたが……外の世界を見に行きたいというヒロと少し押し問答になっていた。
「……駄目……」
「どうして? もうだいぶん慣れたよ、ここのこと……」
「……」
瑠衣子はしばらく黙っていたが、見る見るうちに大きな瞳から涙を零していた。
「……ルイ? どうして……泣いているの?」
「……ごめんなさい。わかってるの。私の……我儘なの」
ヒロが手を伸ばすと……瑠衣子はヒロに抱きついた。
「……とても大事なの。あなたたちを……ヒロを、閉じ込めてしまいたいの……」
「ルイ……」
「いつか……私の前からいなくなったら、と思うと……とても怖いの……」
ヒロは瑠衣子を抱きしめた。
「……同じだよ。僕も、ルイが大事。……ずっと一緒にいたい」
「ヒロ……」
瑠衣子が涙に濡れた大きな瞳でヒロを見上げた。
二人はそっと唇を重ね合わせた。
「大好きだよ、ルイ……」
* * *
夏までの間……私は仕事が相変わらず忙しかったけど、休みの日には一緒に散歩に行ったり、海を見に行ったり、食事に出かけたり……とても楽しく過ごしたわ。
ヒロもこの世界にすっかり慣れて、たまには私の仕事を手伝ってくれて……こんな日々がずっと続いていくんだって、信じて疑わなかった。
でも、そんな夏のある日……突然、二人はいなくなってしまったの。
本当に突然で……訳がわからなかった。
今までの出来事はすべて夢なんじゃないかって……そう思ったくらいだったのよ。
しばらくは何も手につかなくて……夜、暗い家に独りになると……泣いてばかりいたの。
そのうち具合が悪くなって……倒れてしまったの。
……でもね。それで、夢じゃないってわかったの。
だって……私のお腹の中には、朝日がいたから。
* * *
「おめでとうございます。おめでたですよ」
「赤……ちゃん……?」
「はい」
「……ヒロ……?」
「ただ……ちょっと最近無理をされていたみたいだから……しばらく入院しましょうね」
「はい……。あの……出産予定日って……」
「えーと……そうですね。……12月30日ですね」
「……!」
* * *
……その時の喜びが、わかる?
ヒロは確かにいた……何か事情があって消えてしまったけど……1年前に出会ったあの日……その同じ日に、私に朝日を残してくれた。
実際には……一週間早くあなたは生まれてきたけど……。
あなたを抱いたときに、本当に強く思ったの。
泣いてばかりいられない。
生きてさえいれば……いつか、きっと会える。
朝日をちゃんと育てて……二人で待っていようって。そう、決めたの。
それが叶ったのは……4年後。
でも……それが――最後になって……しまった……のね……。
* * *
インターホンが鳴る。社員と家で打ち合わせをしていた瑠衣子が映像を覗くと……忘れもしない、ヒロの姿だった。
「ヒロ!」
瑠衣子は慌てて玄関に走った。ドアを開ける。
「ルイ……」
「……!」
何も言えず、瑠衣子はヒロに抱きついた。
「ごめん……」
「……」
ヒロは瑠衣子を離すと、じっと見つめた。
「ルイ……アサヒのこと……ありがとう」
「朝日のこと、知ってるの?」
「……うん」
「帰ってきてくれたの?」
「……」
少し微笑むと……ヒロは黙って首を横に振った。
「……ごめん。二人を守るために……僕は、行かなければならないんだ。もう……多分、会えない」
「……!」
瑠衣子は激しく首を横に振った。
「アサヒを……必ず、ずっと傍で見守ってて。片時も目を離さないで。頼む」
瑠衣子の顔を両手で包むと……ヒロは耳元で囁いた。
その声があまりにも切なげで切羽詰まっていて……瑠衣子はただヒロの顔を見つめるだけだった。
もう会えない……これが最後という言葉が頭をかけめぐる。
言いたいことはたくさんあるのに……何も伝えられない。
「……ずっと……」
ヒロは何か言いかけたが――それは言葉にならなかった。
そしてもう一度力強く瑠衣子を抱きしめると何かを唱え始めた。
「……!」
瑠衣子は何も言うことができなかった。
……気がつくと、そこには誰もおらず……いつもの風景があるだけだった。
* * *
どうして……あのとき、何も言ってあげられなかったのかしら。
あのとき、もっと強く引きとめていれば……話を聞いてあげられれば、何かが変わったのかもしれないのに。
独りで……全部抱え込んで……逝ってしまった……。
あれは……12月30日の夜だったわね。仕事納めで、レストランを閉めて、空を見上げたの。
そしたら真っ暗な中に変な裂け目があって、ぼんやりと光が漏れていたの。
それでね……その裂け目から、赤ん坊を抱えた男の子が降ってきたの。
茶色の髪の、とてもきれいな男の子……そうね、大学生ぐらいの……。
もうね、びっくりしてしまって……ハッと目が合ってね。
でもあまりに奇麗で、私は見とれてしまったの。
どうしたの?って聞いたけど、言葉が通じないみたいだったの。
でも、顔色がすごく悪くて……どうしよう、と思っていたらその男の子は倒れてしまったの。
一緒にいた赤ちゃんも泣き出してしまって……。
それでタクシーを呼んで、家に連れて帰ったの。
朝日はきっと覚えていないと思うけど、今のこの家ではなくて……私の両親が残してくれた家よ。
見知らぬ男の人を自分の家に連れて来るなんて、普通なら考えられないわよね。
だけど空から降ってきた人なんて、そもそも普通じゃないでしょ? 赤ちゃんだっているし、だから……。
――いいえ、それだけではないわね。多分……私はもう、彼に惹かれてしまっていて……閉じ込めてしまいたかったのね、きっと。
彼は丸2日、ずっと眠っていたの。
目を覚ましたとき、やっぱり何も喋れなくて……。
ただ私の言っていることは何となく通じたみたいで……名前を聞いたら、辛うじて「ヒ」だけ聞き取れたから、「ヒロ」って呼ぶことにしたの。
赤ちゃんの方は、抱っこしてあげたらすぐに泣き止んだの。
瞳が青い、とても奇麗な子だったわ。
この子は逆に、全然眠らなかったみたいなの。目をつむって休むことはあったけど……。
でも、ぐずったりすることもなくて……大人しくヒロが目覚めるのを待っていたみたい。
ヒロに名前を聞いても分からなかったから……「アオ」って呼ぶことにしたの。
幸い次の日から一週間休みだったから、私は二人にずっとつきっきりだったの。
言葉も通じないし、赤ちゃんは初めてだし、大変だったけど……両親が死んでから4年間、ずっと独りだったから……むしろとても楽しくて。一生懸命お世話したのを覚えているわ。
* * *
「ルイ……こ……?」
ヒロがチェストの上に飾ってあった色紙でできた飛行機をつまみあげる。
「紙飛行機っていうのよ」
「かみ……ひこ、き?」
それは、瑠衣子の両親が交通事故で死ぬ直前……ドライブにでかける前に父親が何気なく折っていた紙飛行機だった。
父親の形見のような気がして、瑠衣子は飾っておいたのだ。
「こうやって……折るのよ」
父親の紙飛行機をもとの場所に戻すと……瑠衣子は別の紙で折ってみせた。
「それでね、こうして飛ばして遊ぶの」
瑠衣子が飛ばして見せる。リビングをすうっと飛ぶと、ハイハイをしていたアオが楽しそうに笑った。
「アオ、す……き……」
「ヒロも折ってみる?」
ヒロは嬉しそうに頷いた。
* * *
最初からヒロは、私の話はわかってたみたいだったの。だから、言葉を覚えるのがとても早かったわ。
一週間後には仕事始めだったんだけど……その頃には意思の疎通がとれるぐらいには会話できてたと思う。だから仕事には戻ったわよ。
そして、私が仕事をしている間、ヒロは私の家でアオの世話をしていたの。
夜になったら家に帰って……そうすると、灯りがともった家で二人が私を出迎えてくれる。
毎日がとても楽しくて……。最初は、それで十分幸せだったの。
でも、そんな中で、ヒロは私にとってかけがえのない人になっていった。
季節はめぐって……もう春になっていたけれど、ヒロがいつか帰ってしまう日が来るんじゃないかと、とても、怖くて……。
ある日……ちょっと喧嘩みたいになってしまったの。
* * *
「ルイ……どうして外に出かけたら駄目なの?」
その日は瑠衣子は仕事が休みで家にいたが……外の世界を見に行きたいというヒロと少し押し問答になっていた。
「……駄目……」
「どうして? もうだいぶん慣れたよ、ここのこと……」
「……」
瑠衣子はしばらく黙っていたが、見る見るうちに大きな瞳から涙を零していた。
「……ルイ? どうして……泣いているの?」
「……ごめんなさい。わかってるの。私の……我儘なの」
ヒロが手を伸ばすと……瑠衣子はヒロに抱きついた。
「……とても大事なの。あなたたちを……ヒロを、閉じ込めてしまいたいの……」
「ルイ……」
「いつか……私の前からいなくなったら、と思うと……とても怖いの……」
ヒロは瑠衣子を抱きしめた。
「……同じだよ。僕も、ルイが大事。……ずっと一緒にいたい」
「ヒロ……」
瑠衣子が涙に濡れた大きな瞳でヒロを見上げた。
二人はそっと唇を重ね合わせた。
「大好きだよ、ルイ……」
* * *
夏までの間……私は仕事が相変わらず忙しかったけど、休みの日には一緒に散歩に行ったり、海を見に行ったり、食事に出かけたり……とても楽しく過ごしたわ。
ヒロもこの世界にすっかり慣れて、たまには私の仕事を手伝ってくれて……こんな日々がずっと続いていくんだって、信じて疑わなかった。
でも、そんな夏のある日……突然、二人はいなくなってしまったの。
本当に突然で……訳がわからなかった。
今までの出来事はすべて夢なんじゃないかって……そう思ったくらいだったのよ。
しばらくは何も手につかなくて……夜、暗い家に独りになると……泣いてばかりいたの。
そのうち具合が悪くなって……倒れてしまったの。
……でもね。それで、夢じゃないってわかったの。
だって……私のお腹の中には、朝日がいたから。
* * *
「おめでとうございます。おめでたですよ」
「赤……ちゃん……?」
「はい」
「……ヒロ……?」
「ただ……ちょっと最近無理をされていたみたいだから……しばらく入院しましょうね」
「はい……。あの……出産予定日って……」
「えーと……そうですね。……12月30日ですね」
「……!」
* * *
……その時の喜びが、わかる?
ヒロは確かにいた……何か事情があって消えてしまったけど……1年前に出会ったあの日……その同じ日に、私に朝日を残してくれた。
実際には……一週間早くあなたは生まれてきたけど……。
あなたを抱いたときに、本当に強く思ったの。
泣いてばかりいられない。
生きてさえいれば……いつか、きっと会える。
朝日をちゃんと育てて……二人で待っていようって。そう、決めたの。
それが叶ったのは……4年後。
でも……それが――最後になって……しまった……のね……。
* * *
インターホンが鳴る。社員と家で打ち合わせをしていた瑠衣子が映像を覗くと……忘れもしない、ヒロの姿だった。
「ヒロ!」
瑠衣子は慌てて玄関に走った。ドアを開ける。
「ルイ……」
「……!」
何も言えず、瑠衣子はヒロに抱きついた。
「ごめん……」
「……」
ヒロは瑠衣子を離すと、じっと見つめた。
「ルイ……アサヒのこと……ありがとう」
「朝日のこと、知ってるの?」
「……うん」
「帰ってきてくれたの?」
「……」
少し微笑むと……ヒロは黙って首を横に振った。
「……ごめん。二人を守るために……僕は、行かなければならないんだ。もう……多分、会えない」
「……!」
瑠衣子は激しく首を横に振った。
「アサヒを……必ず、ずっと傍で見守ってて。片時も目を離さないで。頼む」
瑠衣子の顔を両手で包むと……ヒロは耳元で囁いた。
その声があまりにも切なげで切羽詰まっていて……瑠衣子はただヒロの顔を見つめるだけだった。
もう会えない……これが最後という言葉が頭をかけめぐる。
言いたいことはたくさんあるのに……何も伝えられない。
「……ずっと……」
ヒロは何か言いかけたが――それは言葉にならなかった。
そしてもう一度力強く瑠衣子を抱きしめると何かを唱え始めた。
「……!」
瑠衣子は何も言うことができなかった。
……気がつくと、そこには誰もおらず……いつもの風景があるだけだった。
* * *
どうして……あのとき、何も言ってあげられなかったのかしら。
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