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第4幕 収監令嬢は狼と仲良くなりたい
第4話 聖女の魔法陣があるんだって
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生まれつき治癒の力を持ち、火の創精魔法を扱えたシュルヴィアフェス。
魔物を抑え、魔獣とも意思を交わすことができる『聖女』の力を与えられた彼女が最初にしたことは、火の王獣フィッサマイヤに会うことでした。
人間も魔物も選べなかった彼女は『人類の救世主』と祀り上げられることを望まず、身を隠すことを選んだのです。
しかしジャスリー王子と出会い、
「圧倒的な力を持つ魔王軍によって人類は滅亡してしまう」
と説得され、人と魔物が共存するためにはどうすればよいかと考え始めます。
元々好戦的ではなかったフィッサマイヤは、
「自ら魔獣を説き伏せるがよい」
と、聖女に二つの魔法陣を授けました。
これは火の魔獣である『フェルワンド』『ガンボ』を一時的に制御する魔法陣。
言うなれば、火の王獣フィッサマイヤの護符のようなものでした。
* * *
「一方で、ジャスリー王子は人が魔物を必要以上に殺さないよう働きかけていた訳ですが……」
「聖女が魔獣を説得する間、魔獣を刺激することのないようにってこと?」
「そうですね」
セルフィスが説明してくれたフィッサマイヤの話は、最初に読んだ絵本についてより詳しく説明した内容、という感じ。
まぁ絵本では、
「二人の愛が世界を救ったのです!」
みたいな感じだったから、ちょっと印象は変わるけど。そう大きなズレはないかな。
「聖女シュルヴィアフェスは王獣と謁見することでその配下の魔獣の魔法陣を入手して護符としつつ、一体一体の魔獣と会話し、説得していきました」
「……ということは、魔獣にはそれぞれの魔法陣があるんだ。つまり八つ」
「そうです」
「へぇ~。どんな魔法陣なんだろ? 見てみたいな。属性魔法の魔法陣よりきっと複雑なのよね?」
「マユがそう言うだろうと思って、アイーダ女史は魔獣関係の書物は本棚から抜いたのでしょうね」
セルフィスが納得したように何度も深く頷いている。
「マユがハナから興味を持たないように」
「興味を持つと、そんなに困るの?」
「ええ。危険です」
だったら尚更メモりたいわよ……。注意しないといけないことがあるってことでしょ。
仕方ない、とにかく集中して聞こう、とセルフィスの金色の瞳をじっと見つめると、セルフィスは少し柔らかく微笑んだあと、ピシッと表情を引き締めた。
* * *
聖女が大地に描いた魔法陣はすぐに魔王によって消されてしまいました。
しかし聖女が魔界へと消えた後、聖女が降臨した各地の人々は聖女の功績を忘れまいとその魔法陣を再現して奉り、人類の教訓として崇めていました。
あるとき、一人の少年が何気なく『フェルワンド』の魔法陣を地面に描きました。するとその場に魔獣フェルワンドの幻影が現れ、辺りに火を吐き散らして攻撃したのです。
幻影はその一撃のみで消えてしまいましたが、辺りは一瞬で焼き尽くされてしまいました。突然の出来事だったため防ぐ手段もなく……昔の物語のワンシーンが再現された形になってしまったのです。
後に、少年はレグナンド男爵が平民の女性に生ませた子供だったことが分かりました。
レグナンド男爵は初代リンドブロム大公の五代下の孫に当たり、貴族ではありましたが下流貴族。しかも平民に生ませた子供ということで、完全に想定外でした。
この出来事から、世界各地では聖女の魔法陣を破壊し、以降は聖女の魔法陣を書物などに書き記すことも禁じられました。
聖女の意志を継ぐリンドブロム大公国。その大公国が創ったリンドブロム聖女騎士団は、魔法陣が復活することのないよう、世界各地を見張る役目も担うことになりました。
* * *
「えーと、つまり、どういうこと?」
魔法陣は、術者が魔精力を注ぎこみ完成させることで効果を発揮するもの。他人がただ真似ただけでは魔法は発動しない。じゃないと、魔法書などに記載されている魔法陣もすべて効果を発揮してしまうことになる。
ましてや聖女の魔法陣は王獣が聖女に直接授けた魔法陣。他人がなぞったところで術が発動する訳ないわ。だからこそ、各地でモニュメントとして飾られてたんだろうから。
「聖女の『魔獣を制御する』魔法陣。本来は、聖女自らが魔獣本体に対して使用するもの。しかし聖女の血を引く者の中には、その魔法陣に刻まれている呪文から魔獣の姿を幻影として蘇らせることができる者がいる、ということです」
「え?」
「聖女の力が形を変えて引き継がれた、ということですね。これが、俗にいう召喚魔法です」
初代リンドブロム大公の五代後の孫というと、大公国ができてからせいぜい二百年ぐらいしか経っていない。今から八百年ぐらいは昔の話になるのか……。
あれ? でもそれにしちゃ、セルフィスの話は具体的過ぎるわね。
「どうしてセルフィスはそんなに詳しいの? もう失われている魔法でしょ?」
「いえ、失われてはいません。聖女の魔法陣は、切り札ですから」
「切り札?」
「はい」
それはあれかな、他国への牽制ということかな。
聖女騎士団は千年前の盟約のもと、人間が魔物を殺し過ぎないように見張る役割を担っている。
そのため世界各地へと遠征している訳だけど……それは同時に、各国中枢の動きに目を光らせている、とも言えるのだ。
リンドブロム大公国は他国を統べているわけではないけれど……何と言うか、治外法権というか、他の国々からすれば目の上の瘤というか。
そういう感じかな、とも思う。
「リンドブロム大公のもと上流貴族八家で話し合いが行われ、八つの魔法陣はそれぞれ八家で管理することが決まりました。フォンティーヌ家ではフェルワンドの魔法陣を所有しています」
「えっ!?」
「下流貴族がどんなに功を立てようとも上流貴族になれないのは、この魔法陣の存在があるからです」
「なるほど、ねえ……。それが他国への切り札かあ」
聖女の血を引く魔導士であれば、その魔法陣を使いこなせる可能性がある。
使っていないだけで、いざとなれば召喚聖女を蘇らせることができる訳だ。
あ、最初に発動したのは少年だったから、女とは決まってないわね。召喚聖者とでもしておくか。
「他国もそうですが……主目的は、魔王ですよ?」
セルフィスが「やれやれ分かってませんね」とでもいうように両手を上げる。
「魔王? どうして?」
「どうしてって、今、この世に聖女はいない。そして人々は、同じ過ちを繰り返そうとしている」
そう言えばニコルさんが言ってたっけ。聖女騎士団もかつてのようなヒトと魔物の仲裁という役割とはかけ離れてきてるって。
魔物狩りを見逃したり、むしろ一緒になって魔物狩りをしたりしてるって……。
「魔王が『約定を違えた』と判断すれば、王獣や魔獣と共に世界を蹂躙する日々が始まります。それに対抗できるのは、『聖女の魔法陣』だけです」
「でも、それって幻影を一瞬出すだけでしょ?」
「『聖女の魔法陣』を使える魔導士なら、魔獣と対話することもできるかもしれません。それに、」
そこまで言って、セルフィスは「しまった」というような顔をした。どうやら喋り過ぎた、と思っているようだ。
横を向いて、シラーッとした顔をしている。
ちょっとアンタ、今確実に何か言いかけたでしょうが。そんな表情で誤魔化せるとでも?
「何よ、言いなさいよ」
「……」
「急に黙るな!」
「……では言いますが、すぐに忘れてくださいね」
「うんうん」
忘れる訳ないでしょー。「ここだけの話なんだけど」ってやつは、大抵面白くて忘れられない話なんだから。
……と頷きながらも、心のメモ帳はバッチOK!の状態だったんだけど。
「魔法陣からは、稀に本物の魔獣が出現します」
というとんでもない言葉が聞こえてきて、脳ミソが一瞬フリーズしてしまった。
本物の、魔獣……? 千年前に世界を恐怖に陥れた、魔王の臣下が?
目の前に? 現れるってこと?
「――――ええっ!?」
「呼び出した魔導士を認めなければ喰われますが、会話ができれば直接契約を交わすことも可能でしょう。……かつての聖女のように」
「……はぁ」
「……」
「なるほど、だから切り札なのね。へぇー」
「……気づいてないなら、いいです」
「へ? 何が?」
聞き返したけど、セルフィスは何も言わない。例によって肝心なことは教えませんってやつだ。
セルフィスって、聞けば詳しい説明をしてくれるけど、こうした方がいい、みたいな具体的なアドバイスは一切してくれないのよね。誰かに何か言われてるのかな?
まぁ、それはいいとして……あれ? おかしいな?
「それだと、その大事な魔法陣は上流貴族八家が持ってる訳で、大公家は何も持たないことになるけど? 謀反とかされたらマズくない?」
「大公家は『王獣フィッサマイヤの詩歌』を保管している、と言われています」
「それって凄いの?」
「フィッサマイヤの効果は『魔法無効』ですから、威力は絶大ですね。八大魔獣の殆どの攻撃を無効化しますし、殆どの魔道具が機能しなくなります」
「はぁ、なるほど……」
詩の詠唱と魔法陣を描くこと。どっちも大事だからとアイーダ女史には鍛えられてきたけども。
ちゃーんと意味があったのね。
で、大公家はその『フィッサマイヤの詩歌』を詠唱・起動できるだけの魔導士が必要で、だから魔精力の素質にこだわって血を繋いでいる、ということか。
「魔獣とは、それほど恐ろしいものなのです。その二体の魔獣に会っても、絶対に気を抜かずに」
「うん、わかった」
「魔獣について知りたいからって根掘り葉掘り質問しては駄目ですよ」
「えっ、何で!?」
だって誰も教えてくれないなら彼らに聞くしかないじゃないのー。
ってゆーか、どうして私の考えてることが分かったの?
「魔獣や王獣に知られたら、余計なことを知ろうとする危険な人間ということで消されるかもしれませんよ」
「へ……」
「魔獣は人に召喚されずとも、自ら人間界に来ることはできるんですよ? どれだけでも」
その二体の小さな魔獣がいい見本でしょう?とセルフィスが妙にドスの効いた声で言う。
背筋にゾクリとしたものを感じて思わず押し黙ると、セルフィスは
「くれぐれもこの話は内密に。そして気をつけてください」
と念を押し、扉からさっさと出て行ってしまった。
思えば、ちゃんと帰っていくところを見るのは初めてだわ。
……と、そんなことはどうでもよくて。
アイーダ女史は私が召喚魔法に興味を持たないように、本を隠したのかしら。
それって逆に言えば、私がうっかり魔獣を召喚してしまうかもしれないから?
だけど、魔法陣がどこに隠されてるのかも知らないのに。知らなければ召喚しようがないじゃない。そんな心配、要らないのになあ。
重要な話をたくさん聞いた気がする。だけどそれは御伽噺のようにしか感じられなくて……ただ呆然と、セルフィスがいなくなった扉を見つめることしかできなかった。
魔物を抑え、魔獣とも意思を交わすことができる『聖女』の力を与えられた彼女が最初にしたことは、火の王獣フィッサマイヤに会うことでした。
人間も魔物も選べなかった彼女は『人類の救世主』と祀り上げられることを望まず、身を隠すことを選んだのです。
しかしジャスリー王子と出会い、
「圧倒的な力を持つ魔王軍によって人類は滅亡してしまう」
と説得され、人と魔物が共存するためにはどうすればよいかと考え始めます。
元々好戦的ではなかったフィッサマイヤは、
「自ら魔獣を説き伏せるがよい」
と、聖女に二つの魔法陣を授けました。
これは火の魔獣である『フェルワンド』『ガンボ』を一時的に制御する魔法陣。
言うなれば、火の王獣フィッサマイヤの護符のようなものでした。
* * *
「一方で、ジャスリー王子は人が魔物を必要以上に殺さないよう働きかけていた訳ですが……」
「聖女が魔獣を説得する間、魔獣を刺激することのないようにってこと?」
「そうですね」
セルフィスが説明してくれたフィッサマイヤの話は、最初に読んだ絵本についてより詳しく説明した内容、という感じ。
まぁ絵本では、
「二人の愛が世界を救ったのです!」
みたいな感じだったから、ちょっと印象は変わるけど。そう大きなズレはないかな。
「聖女シュルヴィアフェスは王獣と謁見することでその配下の魔獣の魔法陣を入手して護符としつつ、一体一体の魔獣と会話し、説得していきました」
「……ということは、魔獣にはそれぞれの魔法陣があるんだ。つまり八つ」
「そうです」
「へぇ~。どんな魔法陣なんだろ? 見てみたいな。属性魔法の魔法陣よりきっと複雑なのよね?」
「マユがそう言うだろうと思って、アイーダ女史は魔獣関係の書物は本棚から抜いたのでしょうね」
セルフィスが納得したように何度も深く頷いている。
「マユがハナから興味を持たないように」
「興味を持つと、そんなに困るの?」
「ええ。危険です」
だったら尚更メモりたいわよ……。注意しないといけないことがあるってことでしょ。
仕方ない、とにかく集中して聞こう、とセルフィスの金色の瞳をじっと見つめると、セルフィスは少し柔らかく微笑んだあと、ピシッと表情を引き締めた。
* * *
聖女が大地に描いた魔法陣はすぐに魔王によって消されてしまいました。
しかし聖女が魔界へと消えた後、聖女が降臨した各地の人々は聖女の功績を忘れまいとその魔法陣を再現して奉り、人類の教訓として崇めていました。
あるとき、一人の少年が何気なく『フェルワンド』の魔法陣を地面に描きました。するとその場に魔獣フェルワンドの幻影が現れ、辺りに火を吐き散らして攻撃したのです。
幻影はその一撃のみで消えてしまいましたが、辺りは一瞬で焼き尽くされてしまいました。突然の出来事だったため防ぐ手段もなく……昔の物語のワンシーンが再現された形になってしまったのです。
後に、少年はレグナンド男爵が平民の女性に生ませた子供だったことが分かりました。
レグナンド男爵は初代リンドブロム大公の五代下の孫に当たり、貴族ではありましたが下流貴族。しかも平民に生ませた子供ということで、完全に想定外でした。
この出来事から、世界各地では聖女の魔法陣を破壊し、以降は聖女の魔法陣を書物などに書き記すことも禁じられました。
聖女の意志を継ぐリンドブロム大公国。その大公国が創ったリンドブロム聖女騎士団は、魔法陣が復活することのないよう、世界各地を見張る役目も担うことになりました。
* * *
「えーと、つまり、どういうこと?」
魔法陣は、術者が魔精力を注ぎこみ完成させることで効果を発揮するもの。他人がただ真似ただけでは魔法は発動しない。じゃないと、魔法書などに記載されている魔法陣もすべて効果を発揮してしまうことになる。
ましてや聖女の魔法陣は王獣が聖女に直接授けた魔法陣。他人がなぞったところで術が発動する訳ないわ。だからこそ、各地でモニュメントとして飾られてたんだろうから。
「聖女の『魔獣を制御する』魔法陣。本来は、聖女自らが魔獣本体に対して使用するもの。しかし聖女の血を引く者の中には、その魔法陣に刻まれている呪文から魔獣の姿を幻影として蘇らせることができる者がいる、ということです」
「え?」
「聖女の力が形を変えて引き継がれた、ということですね。これが、俗にいう召喚魔法です」
初代リンドブロム大公の五代後の孫というと、大公国ができてからせいぜい二百年ぐらいしか経っていない。今から八百年ぐらいは昔の話になるのか……。
あれ? でもそれにしちゃ、セルフィスの話は具体的過ぎるわね。
「どうしてセルフィスはそんなに詳しいの? もう失われている魔法でしょ?」
「いえ、失われてはいません。聖女の魔法陣は、切り札ですから」
「切り札?」
「はい」
それはあれかな、他国への牽制ということかな。
聖女騎士団は千年前の盟約のもと、人間が魔物を殺し過ぎないように見張る役割を担っている。
そのため世界各地へと遠征している訳だけど……それは同時に、各国中枢の動きに目を光らせている、とも言えるのだ。
リンドブロム大公国は他国を統べているわけではないけれど……何と言うか、治外法権というか、他の国々からすれば目の上の瘤というか。
そういう感じかな、とも思う。
「リンドブロム大公のもと上流貴族八家で話し合いが行われ、八つの魔法陣はそれぞれ八家で管理することが決まりました。フォンティーヌ家ではフェルワンドの魔法陣を所有しています」
「えっ!?」
「下流貴族がどんなに功を立てようとも上流貴族になれないのは、この魔法陣の存在があるからです」
「なるほど、ねえ……。それが他国への切り札かあ」
聖女の血を引く魔導士であれば、その魔法陣を使いこなせる可能性がある。
使っていないだけで、いざとなれば召喚聖女を蘇らせることができる訳だ。
あ、最初に発動したのは少年だったから、女とは決まってないわね。召喚聖者とでもしておくか。
「他国もそうですが……主目的は、魔王ですよ?」
セルフィスが「やれやれ分かってませんね」とでもいうように両手を上げる。
「魔王? どうして?」
「どうしてって、今、この世に聖女はいない。そして人々は、同じ過ちを繰り返そうとしている」
そう言えばニコルさんが言ってたっけ。聖女騎士団もかつてのようなヒトと魔物の仲裁という役割とはかけ離れてきてるって。
魔物狩りを見逃したり、むしろ一緒になって魔物狩りをしたりしてるって……。
「魔王が『約定を違えた』と判断すれば、王獣や魔獣と共に世界を蹂躙する日々が始まります。それに対抗できるのは、『聖女の魔法陣』だけです」
「でも、それって幻影を一瞬出すだけでしょ?」
「『聖女の魔法陣』を使える魔導士なら、魔獣と対話することもできるかもしれません。それに、」
そこまで言って、セルフィスは「しまった」というような顔をした。どうやら喋り過ぎた、と思っているようだ。
横を向いて、シラーッとした顔をしている。
ちょっとアンタ、今確実に何か言いかけたでしょうが。そんな表情で誤魔化せるとでも?
「何よ、言いなさいよ」
「……」
「急に黙るな!」
「……では言いますが、すぐに忘れてくださいね」
「うんうん」
忘れる訳ないでしょー。「ここだけの話なんだけど」ってやつは、大抵面白くて忘れられない話なんだから。
……と頷きながらも、心のメモ帳はバッチOK!の状態だったんだけど。
「魔法陣からは、稀に本物の魔獣が出現します」
というとんでもない言葉が聞こえてきて、脳ミソが一瞬フリーズしてしまった。
本物の、魔獣……? 千年前に世界を恐怖に陥れた、魔王の臣下が?
目の前に? 現れるってこと?
「――――ええっ!?」
「呼び出した魔導士を認めなければ喰われますが、会話ができれば直接契約を交わすことも可能でしょう。……かつての聖女のように」
「……はぁ」
「……」
「なるほど、だから切り札なのね。へぇー」
「……気づいてないなら、いいです」
「へ? 何が?」
聞き返したけど、セルフィスは何も言わない。例によって肝心なことは教えませんってやつだ。
セルフィスって、聞けば詳しい説明をしてくれるけど、こうした方がいい、みたいな具体的なアドバイスは一切してくれないのよね。誰かに何か言われてるのかな?
まぁ、それはいいとして……あれ? おかしいな?
「それだと、その大事な魔法陣は上流貴族八家が持ってる訳で、大公家は何も持たないことになるけど? 謀反とかされたらマズくない?」
「大公家は『王獣フィッサマイヤの詩歌』を保管している、と言われています」
「それって凄いの?」
「フィッサマイヤの効果は『魔法無効』ですから、威力は絶大ですね。八大魔獣の殆どの攻撃を無効化しますし、殆どの魔道具が機能しなくなります」
「はぁ、なるほど……」
詩の詠唱と魔法陣を描くこと。どっちも大事だからとアイーダ女史には鍛えられてきたけども。
ちゃーんと意味があったのね。
で、大公家はその『フィッサマイヤの詩歌』を詠唱・起動できるだけの魔導士が必要で、だから魔精力の素質にこだわって血を繋いでいる、ということか。
「魔獣とは、それほど恐ろしいものなのです。その二体の魔獣に会っても、絶対に気を抜かずに」
「うん、わかった」
「魔獣について知りたいからって根掘り葉掘り質問しては駄目ですよ」
「えっ、何で!?」
だって誰も教えてくれないなら彼らに聞くしかないじゃないのー。
ってゆーか、どうして私の考えてることが分かったの?
「魔獣や王獣に知られたら、余計なことを知ろうとする危険な人間ということで消されるかもしれませんよ」
「へ……」
「魔獣は人に召喚されずとも、自ら人間界に来ることはできるんですよ? どれだけでも」
その二体の小さな魔獣がいい見本でしょう?とセルフィスが妙にドスの効いた声で言う。
背筋にゾクリとしたものを感じて思わず押し黙ると、セルフィスは
「くれぐれもこの話は内密に。そして気をつけてください」
と念を押し、扉からさっさと出て行ってしまった。
思えば、ちゃんと帰っていくところを見るのは初めてだわ。
……と、そんなことはどうでもよくて。
アイーダ女史は私が召喚魔法に興味を持たないように、本を隠したのかしら。
それって逆に言えば、私がうっかり魔獣を召喚してしまうかもしれないから?
だけど、魔法陣がどこに隠されてるのかも知らないのに。知らなければ召喚しようがないじゃない。そんな心配、要らないのになあ。
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