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第11幕 収監令嬢は舞台に立ち続けたい
第8話 さあ、『野外探索』に復帰よ!
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ふと目を覚ますと、そこは外ではなく屋内だった。
少し離れたところに四角い木でできた脚が何本も並んでいるのが見える。それに油と土の匂い……。
あ、これ、初代フォンティーヌ公爵のアトリエだ。
起き上がろうとすると、スコルがドッカリと胸の上に乗っかっていて身動きが取れない。スースーと気持ちよさそうに寝息を立てている。
そしてクォンはというと、こちらも私の首筋にペタリと張り付き、じっとしていた。ぷしゅる~みたいな気の抜けた空気の音がするので、多分寝てるんだと思う。
「ちょっとスコル、どきなさい。いま何時?」
『んあ? 知らねー。ふわああぁぁ』
「……しれっとおっぱいを揉むんじゃないわよ、このエロ狼!」
ゴンッと脳天に拳骨を喰らわせると、スコルが「んげっ!」と声を上げる。ドンと突き飛ばして強引に起き上がると、スコルが
『何すんだよー』
と不機嫌そうな声を上げた。
「それはこっちの台詞! 人が寝てると思って何をしたの!」
『ちょーっと癒されてた。だってヘトヘトだったんだもん、オレー』
私の身体の上から転がり出されたスコルが、のべーんとうつ伏せの大の字になって木の床に横たわる。
『もー、オレがここまでマユを運んだんだぞー』
「どうして?」
『太陽が出てからとりあえず来てみたら、なーんかクォンが慌ててるしよ。そういや武装した奴らがこっちに向かってたな、と思って』
ここなら絶対に見つからないからさ、とスコルが頭をさすりながら不満そうにぼやいた。
太陽が出てから荒れ地にやってきたスコルは、倒れている私とパニくっているクォンを発見した。遠くにはヴァンクの土の軌道を辿って追いかけてきたと思われる大公宮の兵士の軍団がこちらに向かっている。
これはマズい、とフェルワンドが召喚された痕跡を消し、気絶したように眠っている私をどうにか背負い、この隠されたアトリエまで連れてきてくれたらしい。
スコルに謝りながらお礼を言い、私達は旧フォンティーヌ邸の裏からやや遠回りをしつつ、ロワーネの森に向かった。
太陽の位置はだいぶん高い。きっと、お昼頃だわ。
「スコル、ロワーネの森に入ったら箱を探してくれる?」
『箱?』
「巧妙に隠されているとは思うけど、『金の箱』と『銀の箱』があるの。魔法で鍵がかかってね。その中身を回収していかないといけないのよ」
『ふうん。人間って、面白い事してんのな』
昨日から今日までこき使いまくりだし申し訳ないなとは思ったんだけど、とにかく大幅に出遅れている。
こうなったら『金の箱』はマスト、『銀の箱』は全属性揃えるぐらいのつもりで取りかかった方がいい。
しかし幸いにもスコルの興味が引けるようなイベントだったらしく、かなり積極的に動き回ってくれた。
宝箱には魔法で施錠がしてあるため、スコルの鼻がかなり役立った。まるで花咲か爺さんのここほれワンワンみたい……って、スコルは狼だけどね。
ただ木に登ったり崖を下りたりはスコルの獣の手では難しいので、そこは私の魔法を使いながら、だけど。
水属性施錠の『金の箱』もサクッと見つかり、現れた魔物イミテーションもスコルの炎の息と私の火炎旋風でサクッと倒したところで、スコルが鼻をヒクヒクとひくつかせた。
『マユ、あっち。土の匂いがする』
「『銀の箱』ね。おっけー!」
さっさと金の箱から『水の金の鍵』を入手し、紐にぶらさげる。
ひぃふぅみぃ、銀の鍵は赤が3つ、青が2つ、緑が1つ、黄色が2つ。
スコルの鼻は確かだから、これで『土の銀の鍵』が揃うはずね。
うーん、フォンティーヌの森からロワーネの森まで1時間弱で来れるスコルの機動力、捨てたものではないわね。
颯爽とスコルの背に乗り、開きっぱなしになっている金の箱を後にする。
誰かが後ろで叫んだような気がして振り返ったけど、スコルのスピードが速すぎて何も見えなかった。
* * *
『土の銀の鍵』を揃えたところで、比較的すぐ近くから不穏な気配を感じた。
ひょっとして誰かが『金の箱』の試練をしているのかしら、と思いながら気配を辿りそっと覗くと、ミーアたちのパーティだった。
ベンが異常に見開いたバキバキの眼で何事かをブツブツ言いながら魔法陣を描いている。そしてミーアたち三人はその様子を遠巻きに見守っていた。
(何をしているのかしら)
小声でスコルに話しかける。珍しくむうっと黙り込んだスコルは、しばらくして「げっ」とでも言うように大きく身を仰け反らせた。
(あれ……聖女の魔法陣じゃねぇか?)
(ええっ!)
慌てて首にへばりついていたクォンを引き剥がす。クォーン、クォーンと小さく鳴いている。そして、涙をポロポロと……。
「ちょ、待っ……」
「これで、どうだー!」
私の声は、ベンの咆えるような叫び声にかき消された。ベンが想いの丈を込めるようにドン、と地面に杖を付く。
輪郭の円にそって、ポッポッポッと炎がつき、魔法陣の真上にゆらりと、陽炎が立ち昇る。
『ヤベぇ、本物のガンボだ! 逃げるぞ!』
スコルがぐいっと私の腕を咥え、強引に背中に乗せてしまった。その場から猛烈な勢いで走り始める。
慌ててギュウッとスコルの首を絞めた。
『ぐえええええ!』
「ちょっと待ちなさい! 逃げてどうするのよ!」
『ぐえ、そう何度も何度も、魔獣に会いたかねぇっつーの!』
私の腕を振りほどき、スコルがゲホゲホと咳き込む。
「駄目、戻って! あの人達みんな食べられちゃうわよ!」
ミーアとアンディにベン、それとシャルル様もいたわ。
さすがにこれは一大事よ! 見過ごすことなんてできない!
『いや、食べていいのはあのでけぇ男だけなんだけど』
「ヴァンクのことを忘れたの!? テキトーな理由をでっちあげて皆殺しよ! いいから戻りなさい!」
『ええええええええー……』
スコルが不満そうに足を止める。
「どうにかしないと。ガンボがベンを認めれば悲劇は避けられるけど……」
呟きながらベンの様子を思い浮かべたけど……うーん、きっと駄目ね。多分、魔導士としてはクリスより下だもの。
というより、今の魔導士で魔獣が認めるような人間がいれば、その人物が『聖なる者』になってるわよね。
『ガンボは最低ランクに近いけど、あいつじゃ無理だな。それは無ぇ』
「あ、じゃあ、スコルなら止められる? 確かランクは上なのよね?」
『オレだけじゃ無理。ハティを呼ばないと』
「わかったわ」
でも同じ炎だから相性は悪いんだよなー、とブツクサ言っているスコルを宥めつつ、銀の指輪に祈りを込めてハティを呼ぶ。
ポンッと現れたハティに事情を説明すると、
『分かった、頑張る!』
と力強く頷いた。
「こき使ってばかりでごめんね」
『だいじょぶ。毒でイチコロ』
ねっ!と小首を傾げるハティは可愛いけど、台詞が何気に怖い。
再びスコルの背に乗り、ハティと共にさっきの現場に戻る。
すると――とんでもない事態になっていた。
何と、紫の大蛇が大暴れしていたのだ。水ではなく割れた地面から体が突き出ていて、まるで龍のように天を昇っている。その巨体で周り中の木をなぎ倒し、ガンボがいくら宙を逃げ回っても逃がさない。
まるで狩りを楽しむかのように、身体をグニングニンと大きく曲げてガンボを追いかけ回している。
もっと高く飛べばガンボも逃げられるはずだけど、腰が引けているのかすでにヨロヨロだ。
「ちょっと、どうなってるの!?」
紫の大蛇……まさか、サーペンダー!?
何でここにサーペンダーがいるのよ!? あり得ない!
ふと視線を下に落とすと、そのサーペンダーの成り行きをじっと見守っているミーアの姿がある。
アンディとベンとシャルル様は完全に腰が引けていて、遠くの木の陰でブルブル震えていた。
ミーアはややハラハラした様子ではあるけど、怯えてはいない。
つまり、このサーペンダーを召喚したのはミーアということに……。
おかしいわね。ミーアは下流貴族のレグナンド男爵家よ。聖女の魔法陣なんて知るはずが無いのに……。
それはやっぱり、ミーアが私と同じ世界から来た人間だから?
――このゲームをやり込んでるからなの?
『マユ、あれ、偽物。ヒドイ』
「へっ?」
ハティが珍しく不機嫌そうな声を出した。
『そうだなー。サーペンダーは、あんなもんじゃねぇぞ』
スコルもチッと軽く舌打ちをした。あからさまにイライラしている。
魔の者としての仲間意識かな。特にサーペンダーはフェルワンドと双璧をなす、魔獣の中では穏健派の誇り高き生き物とされている。紛い物のサーペンダーに我慢がならないのかもしれない。
「え、じゃ、別の魔獣? でも、ハティとスコルはサーペンダーに会ったことはないんでしょ」
『ナイけど、あんなイジメ方、じゃない』
『魔獣じゃない、だけど力は魔獣並みのナニカの仕業だと思う。八大魔獣の、しかもサーペンダーに擬態するなんて、並の神経じゃやらねぇよ』
ブーブー文句を言う二人。その魔獣もどきが、どうにも気に入らないらしい。
「でも、ガンボが押されてるって……」
『力はアイツが上なのは確か。でも、ガンボも多分ニセモノだってわかってる。だけど魔獣のプライドもあって逃げられねぇんだろ。それが分かっててあのニセモノも決定的なダメージは与えずに追い回してる』
「ふうん……」
『性格悪ぃよ』
「確かにね」
『――マユ、本物、呼んで』
ブツクサ文句を言うスコルを押しのけ、ハティが一歩前に出た。私の制服の袖口を咥えてグイグイッと引っ張る。よっぽど腹に据えかねたらしい。
「本物?」
『本物呼べば、どっちも逃げるの』
「え、でも……」
今度はそのサーペンダーをどうしたらいいのよ?……と思ったけど、ふと肩にいたクォンと目が合った。
そうだ、クォンを返すように言われていたんだった。フェルワンドが話を通しておくと言っていたし、今なら大丈夫かも。
「わかったわ。ちょっと離れていて」
サーペンダーを召喚するとなると、これまでの魔獣の登場から考えてもかなりの魔精力が辺りに放たれる。注意するに越したことはないわ。
ハティとスコルがタタタ、と距離を取ったのを確認して、クォンの背中を撫でる。
キュン、と鳴いたクォンが首筋から肩に移り、コクッと頷いたように見えた。
ギュッと死神メイスを握り、精神を統一する。
「“水脈より昇り立つは、蒼浪の水を操る聡慧な蛇”……」
八大魔獣の魔法陣と誓約呪文は全部頭に入ってる。
意味を考え、一つ一つの文字と言葉に祈りを込めながら、ボコボコの大地に文字と記号を刻む。
描き進めるにつれ、ワン……と私の魔精力に魔法陣の文字が共鳴する。
「“水の王獣の盟約のもと、我は汝をここに縛る”」
ぐるりと杖を回し、息を整える。
呪文と描くべき文言は、あと二つ!
「“第二の魔獣、水のサー=ペントゥ=ル=ビィア”」
誓約呪文に刻まれているのは、魔獣の通称ではなく真の名。
魔王が名付けたと言われる、人間では聖女シュルヴィアフェスしか知らない、究極の事実。
「“――ここに、封縛せよ”!」
ドン、と杖を突く。クォンの『クォーン、クォーン』という泣き声が響き渡る。
魔法陣の輪郭に沿うように水が噴き出し、中央に時計回りの渦が現れた。私が描いた魔法陣は完全に水没し、ポッカリとした穴が開く。
さあ、本物のサーペンダー先生、出番です!
ニセモノはアッチですよ。もう、容赦なくやっちゃってください!
少し離れたところに四角い木でできた脚が何本も並んでいるのが見える。それに油と土の匂い……。
あ、これ、初代フォンティーヌ公爵のアトリエだ。
起き上がろうとすると、スコルがドッカリと胸の上に乗っかっていて身動きが取れない。スースーと気持ちよさそうに寝息を立てている。
そしてクォンはというと、こちらも私の首筋にペタリと張り付き、じっとしていた。ぷしゅる~みたいな気の抜けた空気の音がするので、多分寝てるんだと思う。
「ちょっとスコル、どきなさい。いま何時?」
『んあ? 知らねー。ふわああぁぁ』
「……しれっとおっぱいを揉むんじゃないわよ、このエロ狼!」
ゴンッと脳天に拳骨を喰らわせると、スコルが「んげっ!」と声を上げる。ドンと突き飛ばして強引に起き上がると、スコルが
『何すんだよー』
と不機嫌そうな声を上げた。
「それはこっちの台詞! 人が寝てると思って何をしたの!」
『ちょーっと癒されてた。だってヘトヘトだったんだもん、オレー』
私の身体の上から転がり出されたスコルが、のべーんとうつ伏せの大の字になって木の床に横たわる。
『もー、オレがここまでマユを運んだんだぞー』
「どうして?」
『太陽が出てからとりあえず来てみたら、なーんかクォンが慌ててるしよ。そういや武装した奴らがこっちに向かってたな、と思って』
ここなら絶対に見つからないからさ、とスコルが頭をさすりながら不満そうにぼやいた。
太陽が出てから荒れ地にやってきたスコルは、倒れている私とパニくっているクォンを発見した。遠くにはヴァンクの土の軌道を辿って追いかけてきたと思われる大公宮の兵士の軍団がこちらに向かっている。
これはマズい、とフェルワンドが召喚された痕跡を消し、気絶したように眠っている私をどうにか背負い、この隠されたアトリエまで連れてきてくれたらしい。
スコルに謝りながらお礼を言い、私達は旧フォンティーヌ邸の裏からやや遠回りをしつつ、ロワーネの森に向かった。
太陽の位置はだいぶん高い。きっと、お昼頃だわ。
「スコル、ロワーネの森に入ったら箱を探してくれる?」
『箱?』
「巧妙に隠されているとは思うけど、『金の箱』と『銀の箱』があるの。魔法で鍵がかかってね。その中身を回収していかないといけないのよ」
『ふうん。人間って、面白い事してんのな』
昨日から今日までこき使いまくりだし申し訳ないなとは思ったんだけど、とにかく大幅に出遅れている。
こうなったら『金の箱』はマスト、『銀の箱』は全属性揃えるぐらいのつもりで取りかかった方がいい。
しかし幸いにもスコルの興味が引けるようなイベントだったらしく、かなり積極的に動き回ってくれた。
宝箱には魔法で施錠がしてあるため、スコルの鼻がかなり役立った。まるで花咲か爺さんのここほれワンワンみたい……って、スコルは狼だけどね。
ただ木に登ったり崖を下りたりはスコルの獣の手では難しいので、そこは私の魔法を使いながら、だけど。
水属性施錠の『金の箱』もサクッと見つかり、現れた魔物イミテーションもスコルの炎の息と私の火炎旋風でサクッと倒したところで、スコルが鼻をヒクヒクとひくつかせた。
『マユ、あっち。土の匂いがする』
「『銀の箱』ね。おっけー!」
さっさと金の箱から『水の金の鍵』を入手し、紐にぶらさげる。
ひぃふぅみぃ、銀の鍵は赤が3つ、青が2つ、緑が1つ、黄色が2つ。
スコルの鼻は確かだから、これで『土の銀の鍵』が揃うはずね。
うーん、フォンティーヌの森からロワーネの森まで1時間弱で来れるスコルの機動力、捨てたものではないわね。
颯爽とスコルの背に乗り、開きっぱなしになっている金の箱を後にする。
誰かが後ろで叫んだような気がして振り返ったけど、スコルのスピードが速すぎて何も見えなかった。
* * *
『土の銀の鍵』を揃えたところで、比較的すぐ近くから不穏な気配を感じた。
ひょっとして誰かが『金の箱』の試練をしているのかしら、と思いながら気配を辿りそっと覗くと、ミーアたちのパーティだった。
ベンが異常に見開いたバキバキの眼で何事かをブツブツ言いながら魔法陣を描いている。そしてミーアたち三人はその様子を遠巻きに見守っていた。
(何をしているのかしら)
小声でスコルに話しかける。珍しくむうっと黙り込んだスコルは、しばらくして「げっ」とでも言うように大きく身を仰け反らせた。
(あれ……聖女の魔法陣じゃねぇか?)
(ええっ!)
慌てて首にへばりついていたクォンを引き剥がす。クォーン、クォーンと小さく鳴いている。そして、涙をポロポロと……。
「ちょ、待っ……」
「これで、どうだー!」
私の声は、ベンの咆えるような叫び声にかき消された。ベンが想いの丈を込めるようにドン、と地面に杖を付く。
輪郭の円にそって、ポッポッポッと炎がつき、魔法陣の真上にゆらりと、陽炎が立ち昇る。
『ヤベぇ、本物のガンボだ! 逃げるぞ!』
スコルがぐいっと私の腕を咥え、強引に背中に乗せてしまった。その場から猛烈な勢いで走り始める。
慌ててギュウッとスコルの首を絞めた。
『ぐえええええ!』
「ちょっと待ちなさい! 逃げてどうするのよ!」
『ぐえ、そう何度も何度も、魔獣に会いたかねぇっつーの!』
私の腕を振りほどき、スコルがゲホゲホと咳き込む。
「駄目、戻って! あの人達みんな食べられちゃうわよ!」
ミーアとアンディにベン、それとシャルル様もいたわ。
さすがにこれは一大事よ! 見過ごすことなんてできない!
『いや、食べていいのはあのでけぇ男だけなんだけど』
「ヴァンクのことを忘れたの!? テキトーな理由をでっちあげて皆殺しよ! いいから戻りなさい!」
『ええええええええー……』
スコルが不満そうに足を止める。
「どうにかしないと。ガンボがベンを認めれば悲劇は避けられるけど……」
呟きながらベンの様子を思い浮かべたけど……うーん、きっと駄目ね。多分、魔導士としてはクリスより下だもの。
というより、今の魔導士で魔獣が認めるような人間がいれば、その人物が『聖なる者』になってるわよね。
『ガンボは最低ランクに近いけど、あいつじゃ無理だな。それは無ぇ』
「あ、じゃあ、スコルなら止められる? 確かランクは上なのよね?」
『オレだけじゃ無理。ハティを呼ばないと』
「わかったわ」
でも同じ炎だから相性は悪いんだよなー、とブツクサ言っているスコルを宥めつつ、銀の指輪に祈りを込めてハティを呼ぶ。
ポンッと現れたハティに事情を説明すると、
『分かった、頑張る!』
と力強く頷いた。
「こき使ってばかりでごめんね」
『だいじょぶ。毒でイチコロ』
ねっ!と小首を傾げるハティは可愛いけど、台詞が何気に怖い。
再びスコルの背に乗り、ハティと共にさっきの現場に戻る。
すると――とんでもない事態になっていた。
何と、紫の大蛇が大暴れしていたのだ。水ではなく割れた地面から体が突き出ていて、まるで龍のように天を昇っている。その巨体で周り中の木をなぎ倒し、ガンボがいくら宙を逃げ回っても逃がさない。
まるで狩りを楽しむかのように、身体をグニングニンと大きく曲げてガンボを追いかけ回している。
もっと高く飛べばガンボも逃げられるはずだけど、腰が引けているのかすでにヨロヨロだ。
「ちょっと、どうなってるの!?」
紫の大蛇……まさか、サーペンダー!?
何でここにサーペンダーがいるのよ!? あり得ない!
ふと視線を下に落とすと、そのサーペンダーの成り行きをじっと見守っているミーアの姿がある。
アンディとベンとシャルル様は完全に腰が引けていて、遠くの木の陰でブルブル震えていた。
ミーアはややハラハラした様子ではあるけど、怯えてはいない。
つまり、このサーペンダーを召喚したのはミーアということに……。
おかしいわね。ミーアは下流貴族のレグナンド男爵家よ。聖女の魔法陣なんて知るはずが無いのに……。
それはやっぱり、ミーアが私と同じ世界から来た人間だから?
――このゲームをやり込んでるからなの?
『マユ、あれ、偽物。ヒドイ』
「へっ?」
ハティが珍しく不機嫌そうな声を出した。
『そうだなー。サーペンダーは、あんなもんじゃねぇぞ』
スコルもチッと軽く舌打ちをした。あからさまにイライラしている。
魔の者としての仲間意識かな。特にサーペンダーはフェルワンドと双璧をなす、魔獣の中では穏健派の誇り高き生き物とされている。紛い物のサーペンダーに我慢がならないのかもしれない。
「え、じゃ、別の魔獣? でも、ハティとスコルはサーペンダーに会ったことはないんでしょ」
『ナイけど、あんなイジメ方、じゃない』
『魔獣じゃない、だけど力は魔獣並みのナニカの仕業だと思う。八大魔獣の、しかもサーペンダーに擬態するなんて、並の神経じゃやらねぇよ』
ブーブー文句を言う二人。その魔獣もどきが、どうにも気に入らないらしい。
「でも、ガンボが押されてるって……」
『力はアイツが上なのは確か。でも、ガンボも多分ニセモノだってわかってる。だけど魔獣のプライドもあって逃げられねぇんだろ。それが分かっててあのニセモノも決定的なダメージは与えずに追い回してる』
「ふうん……」
『性格悪ぃよ』
「確かにね」
『――マユ、本物、呼んで』
ブツクサ文句を言うスコルを押しのけ、ハティが一歩前に出た。私の制服の袖口を咥えてグイグイッと引っ張る。よっぽど腹に据えかねたらしい。
「本物?」
『本物呼べば、どっちも逃げるの』
「え、でも……」
今度はそのサーペンダーをどうしたらいいのよ?……と思ったけど、ふと肩にいたクォンと目が合った。
そうだ、クォンを返すように言われていたんだった。フェルワンドが話を通しておくと言っていたし、今なら大丈夫かも。
「わかったわ。ちょっと離れていて」
サーペンダーを召喚するとなると、これまでの魔獣の登場から考えてもかなりの魔精力が辺りに放たれる。注意するに越したことはないわ。
ハティとスコルがタタタ、と距離を取ったのを確認して、クォンの背中を撫でる。
キュン、と鳴いたクォンが首筋から肩に移り、コクッと頷いたように見えた。
ギュッと死神メイスを握り、精神を統一する。
「“水脈より昇り立つは、蒼浪の水を操る聡慧な蛇”……」
八大魔獣の魔法陣と誓約呪文は全部頭に入ってる。
意味を考え、一つ一つの文字と言葉に祈りを込めながら、ボコボコの大地に文字と記号を刻む。
描き進めるにつれ、ワン……と私の魔精力に魔法陣の文字が共鳴する。
「“水の王獣の盟約のもと、我は汝をここに縛る”」
ぐるりと杖を回し、息を整える。
呪文と描くべき文言は、あと二つ!
「“第二の魔獣、水のサー=ペントゥ=ル=ビィア”」
誓約呪文に刻まれているのは、魔獣の通称ではなく真の名。
魔王が名付けたと言われる、人間では聖女シュルヴィアフェスしか知らない、究極の事実。
「“――ここに、封縛せよ”!」
ドン、と杖を突く。クォンの『クォーン、クォーン』という泣き声が響き渡る。
魔法陣の輪郭に沿うように水が噴き出し、中央に時計回りの渦が現れた。私が描いた魔法陣は完全に水没し、ポッカリとした穴が開く。
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