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第10話 違ぇーんだよ、こんなのは
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『ひゃはー? 面白れぇのがあんなとこにいるぜぇ!』
不意に離れたところからそんな気持ち悪い声が聞こえてきた。ハッとして顔を上げると、一人の死神が大鎌を構え、こちらを指差している。
ヤバい、見つかった!
奴らは死ぬまでなんて待ってくれねぇ。どさくさに紛れてチカの魂が狩られちまう。早くここからチカを逃がさねぇと。
「とにかく帰れ! 念じれば一瞬で身体に戻れるだろ!」
「やだ! 今戻ったら、もう死ぬまで出れない!」
チカがぎゅうっと俺の身体にしがみつく。ズボッと両腕をスカジャンの中に突っ込んだ。
「何しやがる! 腕を離せ!」
「やだ!」
正規の死神は機動力が高い。宙を飛んで真っすぐこちらに向かってくる。
「だから――足手まといだっての。……邪魔なんだよ!」
チカの両腕を掴み、思いっきり振り払った。俺の背中から、チカの気配が遠ざかる。
悪りぃ。もう俺から突き放すしかねぇんだ。
生霊だから、このまま白い緒を辿って自分の身体に戻れるはずだ。
だけど……最後だってのに、こんなセリフ吐きたくなかった……。
「……あ?」
胸元からしゅるしゅるしゅる……と幽界ロープが伸びていく。
その先を辿ると……チカの左手に。
「なっ……!」
『ひゃっはー、チャーンス!』
やって来た死神が大鎌をふるう。狙いは、俺から伸びている幽界ロープと――チカの踵から伸びている細い白い緒。
「やめろー!」
エンジンを急激にふかし、宙の死神の身体に前輪からツッコむ。ギリギリのところで大鎌は空を切り、死神は弾き飛ばされた。
『貴様! バイトごときが、歯向かってんじゃねーぞ!』
死神はドスを効かせた声で怒鳴ると、凄まじいスピードで俺のところに突っ込んできた。
ヤベ、目で追えな……。
『ふひゃひゃひゃっ、バーカ!』
声は俺の背後から聞こえた。
背筋がゾッと寒くなる。慌てて振り返る。
死神の大鎌が、俺から伸びている幽界ロープを断ち切った。
そして続けて、チカの白い緒へと――。
「カメちゃん……ごめんね!」
その光景は、スローモーションのように見えた。
チカは、右手にナイフをかざしていた。俺から奪った、幽界ナイフ。
死神の大鎌が白い緒を断ち切るより一瞬早く――自らの足元を断った。
チカの身体の輪郭が溶けるように無くなっていく。
淡い、ピンク色を放つ――ぼんやりとした魂の珠へと変わっていった。
――幽界ナイフ? 何それ?
――死者の現世への未練を断ち切る道具。
――でも、断ち切っちゃってどこか遠くに行っちゃったら? 困らない?
――それはねぇ。断ち切る操作は特別なんだ。
――特別?
――断ち切る操作は、魂に名を刻むこと……だっけな、シャチョーによると。道具の主に、優先権がある。
――失くさないように持ち物に名前を書く、みたいな?
――お、そうそう。だけど、俺はバイトだから使ったことはないし、刻むのは俺の名前じゃなくて事務所の名前だけどな。
マジで大バカだ、俺。
何でペラペラ喋っちまったんだろ。浮かれてたのか。
バカバカバカ。本当にバカだ。
きっとチカにだって、彼女に一分一秒長く生きていてほしいと願う、家族がいたはずだ。
なのに……こんなに早く死なせた。
「――確保だ、このやろぉ!」
聞き覚えのある低い太い声が聞こえたと思ったら、目の前にシャチョーが現れた。
俺のロープを切った死神の首根っこを引っ掴んでいる。
『はぐうぅぅぅ!』
「もう逃げられねぇからなあ!」
『うぅ……』
辺りを見回すと、あちらこちらに幽界警察が飛び散っている。ある死神は逃げようとしてブン殴られ、またある死神はロープでグルグル巻きに縛り上げられて。
そうだ……チカは? どうなったんだ!?
「……ここにいるよ」
タナトさんがシャチョーの背後から現れた。タナトさんのじゃない、銀色に輝くひときわキレイな幽界籠。そっと俺の前に差し出す。
「俺のだ。ややこしい事態になっちまったからなあ!」
警察に引き渡された死神を見送っていたシャチョーが、腕を組んだままジロリと俺を睨んだ。
「すんません……」
もう、何に対して謝ったらいいのかよく分からなくなった。
どうすればよかったんだろう。俺は、どこから間違えたんだ。
項垂れる俺に、シャチョーの容赦ないゲンコツが飛ぶ。
「い、痛ってぇ……」
熱くて硬くて――ひときわ重くて。
「おら、帰るぞ!」
そのまま俺のバイクはシャチョーの車に上にくくりつけられ、俺は後部座席に放り込まれ――俺たち三人は、まだ喧騒が続く下界の夜空から飛ぶように消えた。
不意に離れたところからそんな気持ち悪い声が聞こえてきた。ハッとして顔を上げると、一人の死神が大鎌を構え、こちらを指差している。
ヤバい、見つかった!
奴らは死ぬまでなんて待ってくれねぇ。どさくさに紛れてチカの魂が狩られちまう。早くここからチカを逃がさねぇと。
「とにかく帰れ! 念じれば一瞬で身体に戻れるだろ!」
「やだ! 今戻ったら、もう死ぬまで出れない!」
チカがぎゅうっと俺の身体にしがみつく。ズボッと両腕をスカジャンの中に突っ込んだ。
「何しやがる! 腕を離せ!」
「やだ!」
正規の死神は機動力が高い。宙を飛んで真っすぐこちらに向かってくる。
「だから――足手まといだっての。……邪魔なんだよ!」
チカの両腕を掴み、思いっきり振り払った。俺の背中から、チカの気配が遠ざかる。
悪りぃ。もう俺から突き放すしかねぇんだ。
生霊だから、このまま白い緒を辿って自分の身体に戻れるはずだ。
だけど……最後だってのに、こんなセリフ吐きたくなかった……。
「……あ?」
胸元からしゅるしゅるしゅる……と幽界ロープが伸びていく。
その先を辿ると……チカの左手に。
「なっ……!」
『ひゃっはー、チャーンス!』
やって来た死神が大鎌をふるう。狙いは、俺から伸びている幽界ロープと――チカの踵から伸びている細い白い緒。
「やめろー!」
エンジンを急激にふかし、宙の死神の身体に前輪からツッコむ。ギリギリのところで大鎌は空を切り、死神は弾き飛ばされた。
『貴様! バイトごときが、歯向かってんじゃねーぞ!』
死神はドスを効かせた声で怒鳴ると、凄まじいスピードで俺のところに突っ込んできた。
ヤベ、目で追えな……。
『ふひゃひゃひゃっ、バーカ!』
声は俺の背後から聞こえた。
背筋がゾッと寒くなる。慌てて振り返る。
死神の大鎌が、俺から伸びている幽界ロープを断ち切った。
そして続けて、チカの白い緒へと――。
「カメちゃん……ごめんね!」
その光景は、スローモーションのように見えた。
チカは、右手にナイフをかざしていた。俺から奪った、幽界ナイフ。
死神の大鎌が白い緒を断ち切るより一瞬早く――自らの足元を断った。
チカの身体の輪郭が溶けるように無くなっていく。
淡い、ピンク色を放つ――ぼんやりとした魂の珠へと変わっていった。
――幽界ナイフ? 何それ?
――死者の現世への未練を断ち切る道具。
――でも、断ち切っちゃってどこか遠くに行っちゃったら? 困らない?
――それはねぇ。断ち切る操作は特別なんだ。
――特別?
――断ち切る操作は、魂に名を刻むこと……だっけな、シャチョーによると。道具の主に、優先権がある。
――失くさないように持ち物に名前を書く、みたいな?
――お、そうそう。だけど、俺はバイトだから使ったことはないし、刻むのは俺の名前じゃなくて事務所の名前だけどな。
マジで大バカだ、俺。
何でペラペラ喋っちまったんだろ。浮かれてたのか。
バカバカバカ。本当にバカだ。
きっとチカにだって、彼女に一分一秒長く生きていてほしいと願う、家族がいたはずだ。
なのに……こんなに早く死なせた。
「――確保だ、このやろぉ!」
聞き覚えのある低い太い声が聞こえたと思ったら、目の前にシャチョーが現れた。
俺のロープを切った死神の首根っこを引っ掴んでいる。
『はぐうぅぅぅ!』
「もう逃げられねぇからなあ!」
『うぅ……』
辺りを見回すと、あちらこちらに幽界警察が飛び散っている。ある死神は逃げようとしてブン殴られ、またある死神はロープでグルグル巻きに縛り上げられて。
そうだ……チカは? どうなったんだ!?
「……ここにいるよ」
タナトさんがシャチョーの背後から現れた。タナトさんのじゃない、銀色に輝くひときわキレイな幽界籠。そっと俺の前に差し出す。
「俺のだ。ややこしい事態になっちまったからなあ!」
警察に引き渡された死神を見送っていたシャチョーが、腕を組んだままジロリと俺を睨んだ。
「すんません……」
もう、何に対して謝ったらいいのかよく分からなくなった。
どうすればよかったんだろう。俺は、どこから間違えたんだ。
項垂れる俺に、シャチョーの容赦ないゲンコツが飛ぶ。
「い、痛ってぇ……」
熱くて硬くて――ひときわ重くて。
「おら、帰るぞ!」
そのまま俺のバイクはシャチョーの車に上にくくりつけられ、俺は後部座席に放り込まれ――俺たち三人は、まだ喧騒が続く下界の夜空から飛ぶように消えた。
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