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第9話 恋は魔神の命令より強し
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予期せぬことが起きたのは、いよいよ総勢17名の特殊初心者証授与に移ろうという、まさにその時だった。
ギルドの魔法教室2日目で感じたあのゾワっとする感触が、今度は試験場全体を襲ったのだ。
サフシヨ含め、俺以外の全員が恐怖のあまり尻餅をついて倒れた。ここまでだったら魔法教室の時と全く同じだったのだが──今回は、空中に禍々しい粒子の集まりが蠢きだしたのだ。
その禍々しい粒子の集まりは、やがて見覚えのある姿へと形を変えた。
リンネル神話に載っていた、あの魔神である。
「人間よ、我は警告にやってきた」
魔神が言葉を発すると、周囲の気温が一気に下がるような感触が広がった。
あまりの威圧感に、試験を受けにきた者は俺以外全員泡を吹いて気絶してしまっている。
そんな中でも、サフシヨだけは流石聖女と言うべきか、青龍偃月刀を杖代わりに何とか立ち上がろうとしている。
「警告って何ですか?」
「お主の時空魔法だ」魔神の発言に、だんだん怒気が混じってきた。「今後、時空魔法を使うことは一切許さぬ。逆らった場合は......運が良ければ、俺がお前を殺す。運悪く時空魔法の使用がリンネル様にバレてしまえば......我もろとも、リンネル様の拷問魔法で生ける屍にされてしまうであろう」
・・・妙だな。今の発言だと、時空魔法の禁止は魔神個人の意向ではなく、破壊天使リンネルへの畏れから仕方なくやっているように聞こえる。
というか、「時空魔法の使用は破壊天使リンネルを呼ぶトリガー」とさえ捉えられるような発言内容だ。
「それはつまり、時空魔法を使えば破壊天使リンネルを呼べるという解釈でよろしいでしょうか」
「・・・お主!リンネル様を呼び捨てにするでない!」魔神が、目に見えて焦りだした。「確かに、お主が時空魔法を使えばある意味リンネル様にお会いすることはできよう。だが、そこに待っているのは死よりも辛い無限の苦しみ。決して試すことの無きように!」
「残念ですが、魔神様の命令に従うことはできません。......『恋は盲目』なので」
すると魔神は信じられない物を見たかのようにカッと目を見開き......次第に──魔神が泣くことがあるのかどうかは知らないが──涙目と形容できる表情に変わっていった。
「リンネル様が恋愛対象などと、大それたことを言いおって......だが頼む、それだけはやめてもらえぬか。この惑星の管理者は我だ。我が管理する惑星で不祥事が起きれば、我も責任の追求は免れられん。我は......あの懲罰だけは受けたくないのだ......」
正直、ここまで必死に懇願されては俺とて強引な手段には出られたもんじゃないな。何とか魔神の安全を確保した上で、破壊天使リンネルにお会いする方法を考えるとするか。
そんなことを考えていると、いつの間にか魔神は威厳のある表情に戻り、今度はサフシヨの方に向かい合っていた。
「それと、これはついでにすぎんのだがな......我を勝手に『マカッターリ・フワジーラ』などと命名するのはどうにかならんのか。まあこちらはそうキツく咎める物でもないが......あまり横暴が過ぎると、我が制裁に向かわなくもないかもしれんぞ」
サフシヨも流石に直に魔神と話すのは精神が持たなかったのか、「ウッ」と声を上げて気絶してしまった。
そして結局、魔神が帰っていくのを見届けたのは俺1人だった。
さて、どうするかな。
1人ずつヒールをかけて回るか?いや、それは効率が良くないな。
とりあえず、サフシヨから回復させるか。聖女なら範囲回復魔法の一つや二つ、知っているはずだしな。
「ヒール」
回復魔法をかけて数秒後。サフシヨが、ようやく意識を取り戻した。
「あれ......魔神は?マズいわ。マッタリーカ・フワジーラのことが伝わっていたのは想定外だった。お父様達を集めて協議しなきゃ」
「あー、そのマッタリーカ・フワジーラってのは何なのでしょうか?俺の見立てでは、あの魔神は結構温厚な方です。勝手にニックネームをつけた程度で目くじらを立てそうには思えないんですが......」
「いい?」サフシヨは声のトーンを落とした。「これから言うことは秘密にしておいて欲しいのだけれど......私たちフワジーラ家は、魔神を直系の祖先ということにして摂関政治を揺るぎないものにしているの。ちょうど青龍偃月刀が、信憑性の足しになっていることもあってね。政治と宗教、両方のトップを独占できているのはそのためよ。今回は、それが魔神の目に余ったみたい......」
・・・フワジーラ家、結構悪どい家柄なんだな。まあ俺に実害がない限りどうこうしようという気は無いが。
「分かりました、約束しましょう。あ、それともう一つ、何かいい範囲回復魔法をご存知無いですか?それに期待して聖女でいらっしゃるサフシヨ様から回復させたのですが......」
「残念だけど、1人1人回復させていくしかないわ。回復の魔力が場を包み込むイメージで使う『エリアヒール』という技は確かにあるけれど、『エリアヒール』程度の回復量じゃ到底魔神の威圧から回復させることは不可能なの。人数分、フルパワーヒールを使わないと......」
うーん、それは面倒極まりないな。
・・・「回復の魔力が場を包み込むイメージ」ね。やってみよう。
手加減の練習をしたおかげで、逆に魔力を多く使うのもコントロールできるようになった今の俺なら成功させられるかもしれない。
火傷したヤオジムを回復させた時の魔力量を、全員分用意するイメージで──
「──エリアフルパワーヒール」
むくり、またむくりと受験者達が起き上がる。
それを見て、サフシヨはただただ目を白黒させるより他なかった。
「全く......あの恐ろしい魔神を『温厚』だなんて言い出したかと思えば、今度は範囲高位回復魔法、ね。時空魔法使いを常識で測ろうとした方が間違いだったわね......」
ギルドの魔法教室2日目で感じたあのゾワっとする感触が、今度は試験場全体を襲ったのだ。
サフシヨ含め、俺以外の全員が恐怖のあまり尻餅をついて倒れた。ここまでだったら魔法教室の時と全く同じだったのだが──今回は、空中に禍々しい粒子の集まりが蠢きだしたのだ。
その禍々しい粒子の集まりは、やがて見覚えのある姿へと形を変えた。
リンネル神話に載っていた、あの魔神である。
「人間よ、我は警告にやってきた」
魔神が言葉を発すると、周囲の気温が一気に下がるような感触が広がった。
あまりの威圧感に、試験を受けにきた者は俺以外全員泡を吹いて気絶してしまっている。
そんな中でも、サフシヨだけは流石聖女と言うべきか、青龍偃月刀を杖代わりに何とか立ち上がろうとしている。
「警告って何ですか?」
「お主の時空魔法だ」魔神の発言に、だんだん怒気が混じってきた。「今後、時空魔法を使うことは一切許さぬ。逆らった場合は......運が良ければ、俺がお前を殺す。運悪く時空魔法の使用がリンネル様にバレてしまえば......我もろとも、リンネル様の拷問魔法で生ける屍にされてしまうであろう」
・・・妙だな。今の発言だと、時空魔法の禁止は魔神個人の意向ではなく、破壊天使リンネルへの畏れから仕方なくやっているように聞こえる。
というか、「時空魔法の使用は破壊天使リンネルを呼ぶトリガー」とさえ捉えられるような発言内容だ。
「それはつまり、時空魔法を使えば破壊天使リンネルを呼べるという解釈でよろしいでしょうか」
「・・・お主!リンネル様を呼び捨てにするでない!」魔神が、目に見えて焦りだした。「確かに、お主が時空魔法を使えばある意味リンネル様にお会いすることはできよう。だが、そこに待っているのは死よりも辛い無限の苦しみ。決して試すことの無きように!」
「残念ですが、魔神様の命令に従うことはできません。......『恋は盲目』なので」
すると魔神は信じられない物を見たかのようにカッと目を見開き......次第に──魔神が泣くことがあるのかどうかは知らないが──涙目と形容できる表情に変わっていった。
「リンネル様が恋愛対象などと、大それたことを言いおって......だが頼む、それだけはやめてもらえぬか。この惑星の管理者は我だ。我が管理する惑星で不祥事が起きれば、我も責任の追求は免れられん。我は......あの懲罰だけは受けたくないのだ......」
正直、ここまで必死に懇願されては俺とて強引な手段には出られたもんじゃないな。何とか魔神の安全を確保した上で、破壊天使リンネルにお会いする方法を考えるとするか。
そんなことを考えていると、いつの間にか魔神は威厳のある表情に戻り、今度はサフシヨの方に向かい合っていた。
「それと、これはついでにすぎんのだがな......我を勝手に『マカッターリ・フワジーラ』などと命名するのはどうにかならんのか。まあこちらはそうキツく咎める物でもないが......あまり横暴が過ぎると、我が制裁に向かわなくもないかもしれんぞ」
サフシヨも流石に直に魔神と話すのは精神が持たなかったのか、「ウッ」と声を上げて気絶してしまった。
そして結局、魔神が帰っていくのを見届けたのは俺1人だった。
さて、どうするかな。
1人ずつヒールをかけて回るか?いや、それは効率が良くないな。
とりあえず、サフシヨから回復させるか。聖女なら範囲回復魔法の一つや二つ、知っているはずだしな。
「ヒール」
回復魔法をかけて数秒後。サフシヨが、ようやく意識を取り戻した。
「あれ......魔神は?マズいわ。マッタリーカ・フワジーラのことが伝わっていたのは想定外だった。お父様達を集めて協議しなきゃ」
「あー、そのマッタリーカ・フワジーラってのは何なのでしょうか?俺の見立てでは、あの魔神は結構温厚な方です。勝手にニックネームをつけた程度で目くじらを立てそうには思えないんですが......」
「いい?」サフシヨは声のトーンを落とした。「これから言うことは秘密にしておいて欲しいのだけれど......私たちフワジーラ家は、魔神を直系の祖先ということにして摂関政治を揺るぎないものにしているの。ちょうど青龍偃月刀が、信憑性の足しになっていることもあってね。政治と宗教、両方のトップを独占できているのはそのためよ。今回は、それが魔神の目に余ったみたい......」
・・・フワジーラ家、結構悪どい家柄なんだな。まあ俺に実害がない限りどうこうしようという気は無いが。
「分かりました、約束しましょう。あ、それともう一つ、何かいい範囲回復魔法をご存知無いですか?それに期待して聖女でいらっしゃるサフシヨ様から回復させたのですが......」
「残念だけど、1人1人回復させていくしかないわ。回復の魔力が場を包み込むイメージで使う『エリアヒール』という技は確かにあるけれど、『エリアヒール』程度の回復量じゃ到底魔神の威圧から回復させることは不可能なの。人数分、フルパワーヒールを使わないと......」
うーん、それは面倒極まりないな。
・・・「回復の魔力が場を包み込むイメージ」ね。やってみよう。
手加減の練習をしたおかげで、逆に魔力を多く使うのもコントロールできるようになった今の俺なら成功させられるかもしれない。
火傷したヤオジムを回復させた時の魔力量を、全員分用意するイメージで──
「──エリアフルパワーヒール」
むくり、またむくりと受験者達が起き上がる。
それを見て、サフシヨはただただ目を白黒させるより他なかった。
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追記:2025/09/20
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もし気になる方は、
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