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第26話 加護を与えた
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魔神の手当てを終えて観客の方を振り向くと、一気に歓声が湧きあがった。
これで魔王直轄領と魔王妃領の軋轢が解消できた、とまでは思わないが少なくとも今この瞬間は心が一つになったようだ。
歓声の比率は……野太い歓声:黄色い歓声=7:3くらいか。
試しに投げキッスを送ってみると、見事に比率が逆転した。
魔神と魔王の間には、加護という絆が生まれるのだ。魔神たるもの、ファンサはきっちりしなければな。
覚醒魔法を起動する。
「みんな、盛り上がってるかーー!」
ウオオオオオォォォォォッッッッッ!
「愛してるぜーーっ!」
キャァァァァァッッッッ!
……なんかだいぶ板についてきた。
前世、彫り師なんてやってずにJから始まる事務所に所属してたら天寿を全うできたかもしれないな。
まあ、後の祭りだが。
とりあえず、先ほどの優勝者を正式に魔王とするために儀式を行わねばな。
治癒しながら魔神に聞いたが、この儀式には特に決まった形は無いらしい。
つまり、完全に俺流で大丈夫ってわけだ。
ならば……この方式でいくか。
「さあついにやって参りました、記念すべき第1回『魔神sのラジオ』、略して『マジラジ』のお時間です! なんとね、第1回から満員御礼ということで、好調なスタートを切ることができ嬉しい限りでございます」
みんな、真剣に聞いてくれている。バラエティ番組形式にしたのは正解だったな。
「さて本日のメインイベントなんですが、なんと今回、新しい魔王の選出となっております。魔王に最も相応しいと認められた方をゲストとしてお呼びしておりますので、改めて紹介したいと思います」
……あ、あの子の名前把握するの忘れてた。鑑定。ヤウォニッカちゃんね。
「ハ~イ、今回のゲストは先程行われた選抜試合で見事優勝を飾ったヤウォニッカちゃん! 燃えるような赤い髪に凛とした顔立ち、まさしく誰もが魔王と認めることでしょう。そんなヤウォニッカちゃんの強さに、チェ~ケラッチョ!」
拍手をしながら、ヤウォニッカに目線で「出ておいで」と合図する。
ヤウォニッカが歩いてくる中、会場は一気に拍手に包まれた。
目の前まで歩いてきてもらったところで手を上げ、一旦拍手をやめてもらう。
「それでは、実際に加護を与えましょう!」
自分の力の一部を転送するように意識しつつ、鑑定でちゃんとヤウォニッカの強さが上昇しているかをチェックする。
0.00236......0.00244......0.00312......0.00443......
『淳、待たんか!』
おっと、急に魔神から念話が入った。儀式の流れを切らないように工夫してくれたのはありがたいが、何事だろうか。
『どうしました?』
『いくら何でも与える加護が強すぎだろう! 既に元の強さの倍になっているではないか』
『しかし、これでも故・プレート=テクト=ニクスの60分の1にも満たない強さですよ?』
『そこを基準にするでない! そもそもカルイザワとプレート=テクト=ニクスの強さがおかしかったんだ。今の加護でもカルイザワの前の代に比べれば十分強い。そこで止めておけ』
それならば、と思い加護は結局0.00576で止めることにした。
一瞬人類とのパワーバランスのことが頭をよぎったが、そもそも人類の寿命は短い。俺が生きている間人類と魔族の交戦が無ければ良いだけの話だ。
「只今、加護の授与が完了しました。皆さん、新たな魔王に盛大な拍手を!」
再び会場が湧き上がる。
と、その時だった。ヤウォニッカが、とんでもないことを口走った。
「魔神様……いえ、淳様。淳様さえよろしければ……私と結婚してくださいませんか?」
……は?
一瞬、魔神に嵌められたかと思った。魔王と魔神は婚姻を結ぶ決まりになっているのを隠し、俺を破壊天使リンネルから遠ざけようとしたのかと。
だがそれはあり得ない話だ。
それなら、3人の「魔王妃」とは一体何だったんだという話になるからな。
というかあの魔王と魔神のカップルとか想像したくもない。
どちらかと言えば、より厄介なのは観衆の女魔族たちだ。
今に至っては、黄色い歓声が10割を占めてしまっている。
彼女らの期待の眼差しが、断りにくい雰囲気と化している。
……だが、この場を納めるヒントもまた彼女らの歓声の中にあると言えよう。
この子、おそらく恋心とファン心理の区別が付いてない。
「その気持ち、恋と憧れの区別がつくようになってもまだ覚えていたらもう一度言いに来いよ。いつか……必ず、俺より素敵な白馬の王子様が現れると思うけどな」
こう言って念話を切り頭を撫でてやると、ヤウォニッカは俯き「すみません。私など眼中に無かったのですね」と呟いた。
申し訳ないが、事実なので言い訳のしようもない。
……おい、今横から舌打ちが聞こえたぞ。
こんな事で俺が破壊天使リンネルを諦めるわけないだろう、アール=エルシィ。
この後は特にこれと言った非常事態は起こらず、加護の儀式は無事に終わった。
そろそろ王都に戻るとするか。
これで魔王直轄領と魔王妃領の軋轢が解消できた、とまでは思わないが少なくとも今この瞬間は心が一つになったようだ。
歓声の比率は……野太い歓声:黄色い歓声=7:3くらいか。
試しに投げキッスを送ってみると、見事に比率が逆転した。
魔神と魔王の間には、加護という絆が生まれるのだ。魔神たるもの、ファンサはきっちりしなければな。
覚醒魔法を起動する。
「みんな、盛り上がってるかーー!」
ウオオオオオォォォォォッッッッッ!
「愛してるぜーーっ!」
キャァァァァァッッッッ!
……なんかだいぶ板についてきた。
前世、彫り師なんてやってずにJから始まる事務所に所属してたら天寿を全うできたかもしれないな。
まあ、後の祭りだが。
とりあえず、先ほどの優勝者を正式に魔王とするために儀式を行わねばな。
治癒しながら魔神に聞いたが、この儀式には特に決まった形は無いらしい。
つまり、完全に俺流で大丈夫ってわけだ。
ならば……この方式でいくか。
「さあついにやって参りました、記念すべき第1回『魔神sのラジオ』、略して『マジラジ』のお時間です! なんとね、第1回から満員御礼ということで、好調なスタートを切ることができ嬉しい限りでございます」
みんな、真剣に聞いてくれている。バラエティ番組形式にしたのは正解だったな。
「さて本日のメインイベントなんですが、なんと今回、新しい魔王の選出となっております。魔王に最も相応しいと認められた方をゲストとしてお呼びしておりますので、改めて紹介したいと思います」
……あ、あの子の名前把握するの忘れてた。鑑定。ヤウォニッカちゃんね。
「ハ~イ、今回のゲストは先程行われた選抜試合で見事優勝を飾ったヤウォニッカちゃん! 燃えるような赤い髪に凛とした顔立ち、まさしく誰もが魔王と認めることでしょう。そんなヤウォニッカちゃんの強さに、チェ~ケラッチョ!」
拍手をしながら、ヤウォニッカに目線で「出ておいで」と合図する。
ヤウォニッカが歩いてくる中、会場は一気に拍手に包まれた。
目の前まで歩いてきてもらったところで手を上げ、一旦拍手をやめてもらう。
「それでは、実際に加護を与えましょう!」
自分の力の一部を転送するように意識しつつ、鑑定でちゃんとヤウォニッカの強さが上昇しているかをチェックする。
0.00236......0.00244......0.00312......0.00443......
『淳、待たんか!』
おっと、急に魔神から念話が入った。儀式の流れを切らないように工夫してくれたのはありがたいが、何事だろうか。
『どうしました?』
『いくら何でも与える加護が強すぎだろう! 既に元の強さの倍になっているではないか』
『しかし、これでも故・プレート=テクト=ニクスの60分の1にも満たない強さですよ?』
『そこを基準にするでない! そもそもカルイザワとプレート=テクト=ニクスの強さがおかしかったんだ。今の加護でもカルイザワの前の代に比べれば十分強い。そこで止めておけ』
それならば、と思い加護は結局0.00576で止めることにした。
一瞬人類とのパワーバランスのことが頭をよぎったが、そもそも人類の寿命は短い。俺が生きている間人類と魔族の交戦が無ければ良いだけの話だ。
「只今、加護の授与が完了しました。皆さん、新たな魔王に盛大な拍手を!」
再び会場が湧き上がる。
と、その時だった。ヤウォニッカが、とんでもないことを口走った。
「魔神様……いえ、淳様。淳様さえよろしければ……私と結婚してくださいませんか?」
……は?
一瞬、魔神に嵌められたかと思った。魔王と魔神は婚姻を結ぶ決まりになっているのを隠し、俺を破壊天使リンネルから遠ざけようとしたのかと。
だがそれはあり得ない話だ。
それなら、3人の「魔王妃」とは一体何だったんだという話になるからな。
というかあの魔王と魔神のカップルとか想像したくもない。
どちらかと言えば、より厄介なのは観衆の女魔族たちだ。
今に至っては、黄色い歓声が10割を占めてしまっている。
彼女らの期待の眼差しが、断りにくい雰囲気と化している。
……だが、この場を納めるヒントもまた彼女らの歓声の中にあると言えよう。
この子、おそらく恋心とファン心理の区別が付いてない。
「その気持ち、恋と憧れの区別がつくようになってもまだ覚えていたらもう一度言いに来いよ。いつか……必ず、俺より素敵な白馬の王子様が現れると思うけどな」
こう言って念話を切り頭を撫でてやると、ヤウォニッカは俯き「すみません。私など眼中に無かったのですね」と呟いた。
申し訳ないが、事実なので言い訳のしようもない。
……おい、今横から舌打ちが聞こえたぞ。
こんな事で俺が破壊天使リンネルを諦めるわけないだろう、アール=エルシィ。
この後は特にこれと言った非常事態は起こらず、加護の儀式は無事に終わった。
そろそろ王都に戻るとするか。
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