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08.体育祭
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忠明の予想通り、トイレで着替えれば何の問題もなかった。2回連続で合同体育を欠席していたので多少の困惑はあったが、すぐに慣れた。
中間試験が終わって気が抜けていた学校全体が一気に体育祭への熱が入った雰囲気になってきた。とはいえ、最低限の種目にしか参加しない忠明は気楽なものだった。一方で、選抜リレーの選手に抜擢されていた充はリレーの練習などで同じ授業でも別メニューに呼ばれることもあった。中学までバドミントンをやっていた忠明も瞬発力はあり足が遅い方ではないのだが、選抜リレーのメンバーを決める100メートル走を行った授業を2回とも欠席していたため、候補にすら入らなかった。
「あの、バトンパスの練習しませんか」
「え? あ、……ハイ」
充が明らかにリレーに関係のない女子たちに連れていかれて、山内が腕を組んで眺める。木村が困ったように笑って言う。
「宇治川くん、髪を切ってから女子にモテモテだよね」
「今までほとんど無視だったくせにいい気なもんだぜ」
喉まで出かかったそれはお前たちもだろうという言葉を飲み込み、忠明は曖昧に笑う。
「たぶん、あの子たちが本当はリレーに出ないってわかってないよね」
「だよな。真面目にバトンパスしてるわ……」
「女の子引いてるじゃん」
そのまま山内たちと充を眺めながら話していると、腑に落ちないという顔をした充がすぐに戻ってきた。
「もういいんだって。リレー大丈夫かな」
「うん、たぶん大丈夫だよ」
「宇治川、俺、君のこと誤解してたよ!」
山内が妙に嬉しそうに充の肩をたたく。充の内面がモテる要素ゼロなのが嬉しいのがありありとわかる。充はきょとんとして山内を見た。
「宇治川くんがそうでも代わりに山内くんがモテるわけじゃないけどね……」
河合が意外と鋭いツッコミを入れるので、忠明と木村は同時に噴き出した。
「集合ー!」
「お、行くぞ」
浮かれたまま全員で競うように駆けていく。
「今日は疲れたなー」
充が床に寝転がる。体育祭が近づくにつれ、充が忠明の家で過ごす時間は減っていた。チームに並々ならぬ情熱を燃やす先輩がいるらしく、選抜リレーの練習が忙しいのだ。それでも、今日は久しぶりに一緒に帰ってきた。
「弁当、母さんけっこう張り切ってるぞ」
「まじかー、楽しみだな」
充が笑う。窓から入る風が心地よく、忠明も笑った。
入学してすぐの頃に比べると充の笑顔は格段に増えた。
そんな賑やかで穏やかな時間を過ごしているうちに、体育祭当日を迎えた。
午前中はほぼ参加種目がない忠明にとって一番の関心は昼ご飯だった。午前の部が終わり、充を連れて忠明がキョロキョロしていると、弟の忠治が手を振りながら駆け寄ってきた。
「兄ちゃん」
「忠治も来てたんだ」
「うん、おばちゃんと恵ちゃんもいるよ」
「大所帯じゃん。おれそんなに出ないのに」
恵の名前を聞いて充をちらりと見遣ったが、充は無関心だった。
「そっちが友達?」
忠明の視線を追った忠治が話しかけてくる。
「あぁ、そう。充」
「よろしくな」
「どうも、兄ちゃんがお世話になってます」
「いいなー、俺も弟ほしかった。何歳?」
「3つ下」
「俺も兄貴と3歳差」
忠治の案内でレジャーシートへ向かうと、忠明の両親、伯母と恵が手を振った。
「あれ、ミッツン髪切ったんだね。似合うじゃーん」
恵が金髪や怪我だらけだったことを言わないかハラハラしたが、充にハイタッチしただけだった。
「恵ちゃんも知ってるの?」
「うん。中学が一緒だったんだ」
「お邪魔します」
「充くんだって」
一足先に紹介を受けていた忠治が紹介する。充が両親に向かって頭を下げると、母は「いいのよいいのよ」と嬉しそうに座るように促し、父は眩しそうに充を見上げた。
「充くんは背が高いなぁ」
「178cmっす」
「え、デカ! お前そんなにあんの」
明石一家は一番背が高い忠明で162cmなので、充だけが頭一つ分飛びぬけていた。
「ねぇ、お腹すいたんだけど」
「まずは手を拭いて。ウェットティッシュどうぞ」
母はまず賓客扱いの充に差し出した。充がぺこりと頭を下げる。母と伯母が手際よく取り分けていく横で、紙皿を受け取りながら恵が「アキとミッツンは何に出るの?」と聞いた。
「おれは全員出る100メートル走と、騎馬戦と……綱引きくらいかな」
「俺はそれプラス選抜リレー」
「へぇー、じゃあ、充くんは兄ちゃんより足早いんだな!」
忠治がキラキラした目で問うと、充は「おう」と答えた。測定の授業に出られなかったことを言うと心配させてしまうので説明はできなかったが、特に詮索もされなかった。
「兄ちゃんも中学で一番だったもんな。あ、でも3年のときは――……」
「忠治。しゃべってばっかりいないで食べなさい」
母がピシャリと言うので、忠治は口をつぐんだ。充は「美味しいっす」と言いながら食べていく。
「玉子焼き、甘じょっぱ系なんすね」
「お口にあうかしら」
「すげぇ美味しいっす!」
充は母とそんな会話をしながら、時折忠明を見てフッと笑う。
(『この味が好きなんだな』っていう顔、なんかムカつく……!)
裸を見られたような奇妙な気分だった。
充にたくさん食べさせようとする母はとても嬉しそうで、はじめは無理してでも食べていた充が「さすがに走れなくなるっす」と断ると「あら」と言った。
「まだデザートが残ってるのに」
「わーい、あたしデザート食べる」
「俺はもう満腹っすね……」
「忠明は?」
「いや、おれもいいよ。もうそろそろ行かないと」
充だけでなく忠明もデザートを断ったことに不満げだったが、恵が食いついたので母は一定の満足を見せ二人を午後の部へと送り出した。
「弟くん、お前のことソンケーしてんだな」
「あいつは昔から、おれが世界で一番足が速いと思ってんだ」
「ちょっとわかる。俺も兄貴が世界で一番強いと思ってた。それにしても、美味かったなぁ……」
無理やりこじつけた理由で誘った昼ご飯だったが、充にとって悪くない時間だったようで忠明はほっとした。
午後の部では、忠明は100メートル走でぶっちぎりでゴールして忠治からの尊敬を守った。しかし騎馬戦では見るからに腕力がない忠明が集中的に狙われる――なお、当然ながら小柄な忠明は騎馬の騎手である――など目立った活躍はできなかった。充も選抜リレーでは2人を抜かす活躍を見せたが、チーム自体は2位と結果は振るわなかった。
結果はどうあれ、忠明は全体を通してかなり楽しんでいた。そんな忠明を見て母が目を潤ませていたというのは、後で恵からの密告で知ったことだ。
(心配かけちゃったからなぁ)
「それにしても、ミッツンってもっと遠慮して食べないタイプだと思ってたから、なんか安心した」
食料の差し入れついでに密告をしたばかりの恵は、テレビのチャンネルをぱちぱちと変えながら言った。忠明は飲み物を出しながら「だろ?」と少し胸を張る。
「おれの好きな味を覚えて作れって言ったんだ」
「えっ、ミッツンって料理できるの?」
「いや、料理覚えるところから。期待はしてないけど、おればっかり作るのって不公平だろ」
「えっ!? ミッツン、アキの家でご飯食べてんの?」
「うん。最近は食材もほぼ半分ずつ出して買ってる」
「……え、同棲してる?」
「そういう茶化し嫌い」
「ごめんごめん」
恵の「え」という驚きのバリエーションの多さに忠明はふっと笑った。恵は少し表情を柔らかくして「アキがミッツンと仲良くしてくれてよかったよ」と言った。
「あたしとミッツンはさ、同じ時期に親がいなくなるっていう経験をしたことで仲良くなってるから……。どうしても傷のなめあいっぽくなるっていうか」
「……そうなんだ」
「まぁ、最初は、あたしはミッツンのお母さんが亡くなったと思ってたし、ミッツンはミッツンでパパが出て行っただけだと思ってて『すぐ帰ってくるよ』とか言って、最悪なアンジャッシュしてたんだけど」
「恵、笑えない冗談言う癖直した方がいいよ」
懐かしいなぁ、と微笑ましく語る恵とは対照的に忠明は複雑そうな表情にならざるをえない。とはいえ、頭の片隅で納得もしていた。
(充が恵の恋愛対象にならないわけだ)
でも充はまだ――……。
そう考えて、忠明は少し遠い目をした。恵は、充にとって辛い時期を一緒に乗り越えた相手なのだ。敵うはずもない。
(いや、敵わないって何の対抗だよ)
自分に自分でツッコミを入れつつ、忠明は「でも、そうかぁ」と呟いた。
中間試験が終わって気が抜けていた学校全体が一気に体育祭への熱が入った雰囲気になってきた。とはいえ、最低限の種目にしか参加しない忠明は気楽なものだった。一方で、選抜リレーの選手に抜擢されていた充はリレーの練習などで同じ授業でも別メニューに呼ばれることもあった。中学までバドミントンをやっていた忠明も瞬発力はあり足が遅い方ではないのだが、選抜リレーのメンバーを決める100メートル走を行った授業を2回とも欠席していたため、候補にすら入らなかった。
「あの、バトンパスの練習しませんか」
「え? あ、……ハイ」
充が明らかにリレーに関係のない女子たちに連れていかれて、山内が腕を組んで眺める。木村が困ったように笑って言う。
「宇治川くん、髪を切ってから女子にモテモテだよね」
「今までほとんど無視だったくせにいい気なもんだぜ」
喉まで出かかったそれはお前たちもだろうという言葉を飲み込み、忠明は曖昧に笑う。
「たぶん、あの子たちが本当はリレーに出ないってわかってないよね」
「だよな。真面目にバトンパスしてるわ……」
「女の子引いてるじゃん」
そのまま山内たちと充を眺めながら話していると、腑に落ちないという顔をした充がすぐに戻ってきた。
「もういいんだって。リレー大丈夫かな」
「うん、たぶん大丈夫だよ」
「宇治川、俺、君のこと誤解してたよ!」
山内が妙に嬉しそうに充の肩をたたく。充の内面がモテる要素ゼロなのが嬉しいのがありありとわかる。充はきょとんとして山内を見た。
「宇治川くんがそうでも代わりに山内くんがモテるわけじゃないけどね……」
河合が意外と鋭いツッコミを入れるので、忠明と木村は同時に噴き出した。
「集合ー!」
「お、行くぞ」
浮かれたまま全員で競うように駆けていく。
「今日は疲れたなー」
充が床に寝転がる。体育祭が近づくにつれ、充が忠明の家で過ごす時間は減っていた。チームに並々ならぬ情熱を燃やす先輩がいるらしく、選抜リレーの練習が忙しいのだ。それでも、今日は久しぶりに一緒に帰ってきた。
「弁当、母さんけっこう張り切ってるぞ」
「まじかー、楽しみだな」
充が笑う。窓から入る風が心地よく、忠明も笑った。
入学してすぐの頃に比べると充の笑顔は格段に増えた。
そんな賑やかで穏やかな時間を過ごしているうちに、体育祭当日を迎えた。
午前中はほぼ参加種目がない忠明にとって一番の関心は昼ご飯だった。午前の部が終わり、充を連れて忠明がキョロキョロしていると、弟の忠治が手を振りながら駆け寄ってきた。
「兄ちゃん」
「忠治も来てたんだ」
「うん、おばちゃんと恵ちゃんもいるよ」
「大所帯じゃん。おれそんなに出ないのに」
恵の名前を聞いて充をちらりと見遣ったが、充は無関心だった。
「そっちが友達?」
忠明の視線を追った忠治が話しかけてくる。
「あぁ、そう。充」
「よろしくな」
「どうも、兄ちゃんがお世話になってます」
「いいなー、俺も弟ほしかった。何歳?」
「3つ下」
「俺も兄貴と3歳差」
忠治の案内でレジャーシートへ向かうと、忠明の両親、伯母と恵が手を振った。
「あれ、ミッツン髪切ったんだね。似合うじゃーん」
恵が金髪や怪我だらけだったことを言わないかハラハラしたが、充にハイタッチしただけだった。
「恵ちゃんも知ってるの?」
「うん。中学が一緒だったんだ」
「お邪魔します」
「充くんだって」
一足先に紹介を受けていた忠治が紹介する。充が両親に向かって頭を下げると、母は「いいのよいいのよ」と嬉しそうに座るように促し、父は眩しそうに充を見上げた。
「充くんは背が高いなぁ」
「178cmっす」
「え、デカ! お前そんなにあんの」
明石一家は一番背が高い忠明で162cmなので、充だけが頭一つ分飛びぬけていた。
「ねぇ、お腹すいたんだけど」
「まずは手を拭いて。ウェットティッシュどうぞ」
母はまず賓客扱いの充に差し出した。充がぺこりと頭を下げる。母と伯母が手際よく取り分けていく横で、紙皿を受け取りながら恵が「アキとミッツンは何に出るの?」と聞いた。
「おれは全員出る100メートル走と、騎馬戦と……綱引きくらいかな」
「俺はそれプラス選抜リレー」
「へぇー、じゃあ、充くんは兄ちゃんより足早いんだな!」
忠治がキラキラした目で問うと、充は「おう」と答えた。測定の授業に出られなかったことを言うと心配させてしまうので説明はできなかったが、特に詮索もされなかった。
「兄ちゃんも中学で一番だったもんな。あ、でも3年のときは――……」
「忠治。しゃべってばっかりいないで食べなさい」
母がピシャリと言うので、忠治は口をつぐんだ。充は「美味しいっす」と言いながら食べていく。
「玉子焼き、甘じょっぱ系なんすね」
「お口にあうかしら」
「すげぇ美味しいっす!」
充は母とそんな会話をしながら、時折忠明を見てフッと笑う。
(『この味が好きなんだな』っていう顔、なんかムカつく……!)
裸を見られたような奇妙な気分だった。
充にたくさん食べさせようとする母はとても嬉しそうで、はじめは無理してでも食べていた充が「さすがに走れなくなるっす」と断ると「あら」と言った。
「まだデザートが残ってるのに」
「わーい、あたしデザート食べる」
「俺はもう満腹っすね……」
「忠明は?」
「いや、おれもいいよ。もうそろそろ行かないと」
充だけでなく忠明もデザートを断ったことに不満げだったが、恵が食いついたので母は一定の満足を見せ二人を午後の部へと送り出した。
「弟くん、お前のことソンケーしてんだな」
「あいつは昔から、おれが世界で一番足が速いと思ってんだ」
「ちょっとわかる。俺も兄貴が世界で一番強いと思ってた。それにしても、美味かったなぁ……」
無理やりこじつけた理由で誘った昼ご飯だったが、充にとって悪くない時間だったようで忠明はほっとした。
午後の部では、忠明は100メートル走でぶっちぎりでゴールして忠治からの尊敬を守った。しかし騎馬戦では見るからに腕力がない忠明が集中的に狙われる――なお、当然ながら小柄な忠明は騎馬の騎手である――など目立った活躍はできなかった。充も選抜リレーでは2人を抜かす活躍を見せたが、チーム自体は2位と結果は振るわなかった。
結果はどうあれ、忠明は全体を通してかなり楽しんでいた。そんな忠明を見て母が目を潤ませていたというのは、後で恵からの密告で知ったことだ。
(心配かけちゃったからなぁ)
「それにしても、ミッツンってもっと遠慮して食べないタイプだと思ってたから、なんか安心した」
食料の差し入れついでに密告をしたばかりの恵は、テレビのチャンネルをぱちぱちと変えながら言った。忠明は飲み物を出しながら「だろ?」と少し胸を張る。
「おれの好きな味を覚えて作れって言ったんだ」
「えっ、ミッツンって料理できるの?」
「いや、料理覚えるところから。期待はしてないけど、おればっかり作るのって不公平だろ」
「えっ!? ミッツン、アキの家でご飯食べてんの?」
「うん。最近は食材もほぼ半分ずつ出して買ってる」
「……え、同棲してる?」
「そういう茶化し嫌い」
「ごめんごめん」
恵の「え」という驚きのバリエーションの多さに忠明はふっと笑った。恵は少し表情を柔らかくして「アキがミッツンと仲良くしてくれてよかったよ」と言った。
「あたしとミッツンはさ、同じ時期に親がいなくなるっていう経験をしたことで仲良くなってるから……。どうしても傷のなめあいっぽくなるっていうか」
「……そうなんだ」
「まぁ、最初は、あたしはミッツンのお母さんが亡くなったと思ってたし、ミッツンはミッツンでパパが出て行っただけだと思ってて『すぐ帰ってくるよ』とか言って、最悪なアンジャッシュしてたんだけど」
「恵、笑えない冗談言う癖直した方がいいよ」
懐かしいなぁ、と微笑ましく語る恵とは対照的に忠明は複雑そうな表情にならざるをえない。とはいえ、頭の片隅で納得もしていた。
(充が恵の恋愛対象にならないわけだ)
でも充はまだ――……。
そう考えて、忠明は少し遠い目をした。恵は、充にとって辛い時期を一緒に乗り越えた相手なのだ。敵うはずもない。
(いや、敵わないって何の対抗だよ)
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