1話完結ホラー話

夢乃話

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隣の部屋

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大学進学を機に引っ越したアパートは、二階建ての古い建物だった。
私の部屋は201号室で、隣は202号室。管理人からは「隣の住人は静かだから安心だよ」と言われていた。

実際、その通りだった。
物音ひとつせず、廊下ですれ違うこともない。けれど、なぜか夜中になると壁越しに小さな声が聞こえた。
それは話し声というより、何かをぶつぶつと唱えているようだった。

ある晩、寝つけずに深夜1時過ぎまでスマホをいじっていると、例の声が聞こえた。
耳を澄ますと、「……まだ、そこにいる……」と聞こえる。
背筋が冷え、布団を頭までかぶった。

翌日、管理人にそれとなく聞いてみた。
「あの、隣の202号室の方って……夜、起きてるんですかね?」
すると管理人は少し驚いた顔をして言った。
「202号室? そこ、空き部屋だよ。去年からずっと誰も住んでない」

血の気が引いた。じゃあ、あの声は誰のものだ?
恐怖で引っ越しも考えたが、しばらく様子を見ることにした。

数日後の夜。再び例の声が始まった。
「……やっと、見つけた……」
声は以前より近い。まるで壁の向こうではなく、部屋の中から聞こえるように。

私は震える手でスマホを握りしめたが、動けなかった。
やがて声は止み、静寂が戻った。

翌朝、玄関を開けると、ドアの前に小さな紙切れが落ちていた。
『201号室のあなたへ 隣の部屋、ありがとうございます』とだけ書かれている。

その瞬間、昨日の声が脳裏に蘇った。
――「やっと、見つけた」
あれは壁越しではなく、すぐ耳元で囁かれていたのかもしれない。

今夜も壁の向こうから、微かな呼吸音が聞こえている。
けれどもう、その壁は隣の部屋との境じゃない。
ベッドと壁の隙間、そのわずかな空間の奥からだ。
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