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1,地下の楽園
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しおりを挟む「いや。これは、可能性の話だけどね」
ロワールの言葉に反応したのは、ソラには心当たりがあったからだった。
「たしかに、私、絶望的な気持ちになって、死んでやるって叫んだりしていた……」
深刻そうな面持ちになってしまったソラに、ロワールは慎重に問いかけた。
「なにか、あったの?」
ソラは、俯いて話した。
「同僚だった彼氏に振られたの。尽くされるのが好きだって言うから頑張ったのに、挙句の果てには重いって言われて……。それで、居酒屋で友達に愚痴を聞いてもらっていたの。そのあと……、」
話しているうちに、ソラにはだんだんと記憶がよみがえった。
「そうだ、そのあと……。私、すごく酔っていて、歩いて帰っていたら、迷子になった。知っている道だったのに、急に濃い霧が立ち込めてきて……それで、どこかに落ちた気がする。……マンホール、かな」
ソラが居酒屋で友達と酒に溺れていたとき、外では瞬間的に突風が吹いた。
工事の間、いつもなら設置してあるはずのカラーコーンも立入禁止を示すサインスタンドも、その風によって電飾ごと吹き飛ばされていた。
しかも、そこは街灯の少ない裏道であり、脳髄まで酔いが回った足元のおぼつかないソラが気づける状態にはなかったのだった。
「でも、そんなことで死んじゃうなんて……」
ソラは、悔しそうに涙ぐんだ。
しかし、次の瞬間には、拳を握って後悔を爆発させた。
「あんな男一人のせいで死ぬくらいならッ!! 大好きなフルーツタルトをホールケーキでドカ食いして! 好きな服を買いまくって! 海外旅行にも行って! お姉ちゃんちの猫をモフモフしてから死ねばよかったぁぁぁ!!」
「そ、ソラ……?」
わんわんと声を上げて泣くソラをなだめようとしたロワールだったが、突然ソラが勢いよく立ち上がったのでびくりとした。
「それにあの男ッ!! よく見たらイケメンでもなんでもなかった! ちょっとやさしくされて勘違いしただけ! 私がバカだったんだわ! さっさと忘れて次の男を見つければよかった! ふんっ!!」
一人で啖呵を切るソラを見て、ロワールは思わず笑いが漏れた。
「……ぷっ。よくわからないけど、きみって面白い人間だね」
「はっ! ……ご、ごめんなさい。つい、取り乱して……」
近くにロワールがいたことを思い出し、ソラはミントカラーのフレアスカートを押さえて慌てて座った。
ロワールはひとつも気にしたようではなく、真上を指差して見せた。
「たぶん、ソラはあそこから落ちてきたんだよ」
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