聖夜の光りシリーズ

貴船きよの

文字の大きさ
3 / 4
二人の年越し

1

しおりを挟む
 大晦日の百貨店は、通常よりも早く夕方六時に閉店時間を迎えた。
 門松やしめ飾りが夜の明かりに照らし出された街の景色は、あと少しでやって来る新年が息を潜めているようで、静かに浮き足立っていた。
 それぞれの売場で初売りの準備を終え、悠志ゆうし郁人いくとは九時前に郁人のマンションへと帰宅した。

 買ったものを冷蔵庫にしまいながら、悠志は言った。
「買い忘れたものはないよな?」
「リストにしておいたものは全部買ったよ、大丈夫」
 百貨店同様、通常よりも閉店時間が早まったスーパーマーケットに駆け込んで、どうにか正月を迎えるための買い出しができた。
 悠志は自分のエコバッグが空になると、郁人に訊ねた。
「いくらは?」
 郁人は、買ったもののなかから年越しそばの材料を調理台に並べていた。
「お節の? お重に入っているんじゃない?」
 床に置かれた、重箱が入っている紺色の手提げバッグをちらりと見やって、郁人は言った。
 けれど、悠志は首を横に振る。
「そうじゃなくて、お雑煮用の」
「お雑煮……あ、あった。こっちに入っていた」
「そっちに入れたのか」
「あと、これも冷蔵庫に入れておいて」
「ああ」
 郁人は、エコバッグのなかからいくらのトレーと三つ葉を取り出して悠志に渡した。
 二人で過ごす年末年始も二度目となると、準備はスムーズだった。
 

 スーツから部屋着に着替えた二人は、食事の準備を整え、テーブルに向かい合ってラグに座った。
 どんぶりに盛られたそばには大きな海老天が載り、ねぎとかまぼこが添えられていた。
「今年も一年、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした」
 お互いを労り、手を合わせて今年最後の夕食を戴く。
「いただきます」
「いただきます」
 そばをすすると、郁人は開口一番に「おいしい」と頬を緩ませた。
「去年はお店で食べたけど、家で作ってもおいしいね」
「そうだな。これからは、毎年家で作ってもいいかもな」
 悠志も、そばを食べながら満足げだった。
 生そばを茹でて市販のつゆで作っただけの年越しそばでも、寒空のもとを帰ってきた二人にはほっとする温かさだった。
「悠志は、明日は実家に帰るんだっけ?」
 次の一口の前に、郁人は訊ねた。
「ああ。昼間のうちに顔を出すよ」
「俺もそうする。二日からは仕事だもんね。あっ、でも、その前に初詣に行くんだよ?」
「わかっている。早く行かないと並ぶだろうな」
「早く行っても並ぶから、いつもどおりに行けばいいんじゃない?」
「それもそうか」
 予定を確認し合って安心したのも束の間、郁人が箸を止めた。
「あ、七味を忘れた」
「俺も欲しいな。取ってくるよ」
 悠志が立ち上がって部屋を出ると、慣れた様子で調味料棚から七味唐辛子の小瓶を取って戻った。
「ありがとう」
「うん」
 郁人が七味唐辛子をかけ終わると悠志も自分のそばにかけ、二人して残りのそばをすする。
「郁人は、このあと映画を見るんだろう?」
 悠志の問いかけに、郁人は頷いた。
「配信でチェックしておいたものがあったんだ」
「だったら、先にお風呂を借りてもいいか? ちょっと疲れているんだ」
「いいよ。俺は見終わってから入る」
 年越しそばを食べ終えると、悠志はキッチンで洗い物をして、郁人はテーブルを拭いた。いつのまにか、役割分担は自然となされていた。
 お風呂が自動で沸いたアナウンスが響くと、悠志は洗面所へ向かい、洗濯機上の収納に仕舞われていたバスタオルを取り出す。
 悠志は郁人の部屋で過ごすことにすっかり慣れて、今では自分の家のように動線を把握していた。
 その悠志の姿を廊下から見つめていた郁人は、ぽつりと言った。
「悠志さ……」
「ん? なんだ?」
 入浴するため洗面所のドアを閉めようとしていた悠志は、用もなく廊下に立っている郁人に顔を上げた。
 しかし、呼び止めた張本人の郁人は、曖昧に笑う。
「いや、なんでもない。お風呂いってらっしゃい」
 悠志は、首を傾げてドアを閉めた。
 郁人がお湯を沸かし、ほうじ茶のティーバッグを用意している間、洗面所からは歯磨きをする音が聞こえた。それが途切れてしばらくすると、バスルームへのドアが開き、閉まる音が響いた。


 風呂を終えて髪を乾かした悠志は、部屋に戻ると、テレビ画面に釘付けの郁人の隣にそっと座った。
 暗くした部屋に、忙しい映像を映す画面が明るく浮かび上がっている。
「悠志も飲む? 飲むならなにか淹れるよ」
 冷めた残りのほうじ茶を飲み干して郁人が訊ねると、悠志はテレビ画面を見ながら答えた。
「俺はいい」
 二人とも、そのまま映画を最後まで見た。
 殺し屋と少年の交流を描いた、二十年以上前のアメリカ映画だった。
 映画が終わると、テレビを消してしんと静まった部屋に、遠くから除夜の鐘の音が届いた。
「鐘をついている人がいるんだな」
 悠志は、カーテンが引かれている窓のほうを見て言った。
「もうそんな時間か。俺もお風呂に入ってくるね」
「ああ」
 郁人が部屋を出ていくと、悠志は部屋の明かりを暗くしたまま、一人でベッドに仰向けに寝転んだ。
 エアコンが効いた部屋は暖かく、悠志はうとうとした。鐘の音は間隔をおいて聞こえ、その音が心地よかった。
 しばらくしてバスルームから郁人が戻ってくると、悠志はベッドで眠ってしまっていた。
 郁人がテーブルに置いていた携帯電話を見ると、時刻は零時を回り、日付は新年を迎えていた。
「……あけましておめでとうだね」
 郁人は悠志の横に腰掛け、カーテンから漏れる薄明かりしかないなかで、悠志の寝顔を見下ろした。
 今年も、悠志と一緒にいる。
 そう思えることが、郁人は嬉しかった。
 郁人は、悠志のやわらかいスウェットパンツの上から、やさしく太腿を撫でた。
 その手は徐々に悠志の体をのぼり、ウエストまで届くと、スウェットパンツを静かに下ろす。
 ベッドに膝をのせて上がった郁人は、悠志の足元に陣取り、慎重に彼の下着も下げた。
 そして、無防備に晒された悠志のペニスを手に取ると、躊躇なく口に含んだ。
 それから、数分が経過した。
 下半身が触れられている感覚がして、悠志はぼんやりと目を覚ました。
 自分の足元を見下ろすと、郁人が股間に顔を埋めている。
「郁人、なにして……っ」
 悠志は驚いたが、咄嗟のことで寝ぼけた声しか出なかった。
 郁人は、気を利かせたつもりで言った。
「悠志は寝ていていいよ。俺がするから」
「あぁ……っ」
 半分は勃ち始めていたペニスが、熱い口腔に根元まで咥え込まれる。
 目覚める前からこんなことをされていたのだと思うと、悠志は少なからず興奮した。
「んん、は……、あ、郁人……っ」
 ペニスに絡みつく郁人の唾液と熱い唇が離れない。
 執拗に味わう郁人の舌の動きに、溶かされてしまいそうだった。
 郁人の舌先は、悠志をイカせようと尿道の入り口をくすぐる。
「う、あ……出る……っ」
「出して。悠志の、飲みたい……」
「あ、あぁ……っ!」
 悠志が郁人の口内へと白濁液を放つと、郁人は最後の一滴までも搾り取るように吸い上げた。
「あぁっ、はぁ、はぁ……っ」
 悠志は、最後まで熱い息を漏らしていた。
 頬を赤らめる悠志を見ながら、郁人は口で受け止めた悠志の子種を、喉を鳴らして飲み込む。
「ごちそうさま」
「はぁ……っ、ばか……っ」
 にこにこと満足そうに余裕を見せる郁人とは対照的に、突然情欲を呼び起こされた悠志は、心が追いつかなかった。
 けれど、郁人はこれだけで終わらせるつもりなどなかった。
「姫始め、しちゃおうか」
 ぼうっと快感の余韻に浸る悠志に、郁人はいたずらっぽく笑った。
 悠志が答える暇もなく、郁人のキスが唇に着地する。
「ん……っ、んんっ!」
 舌に妙な味が触れ、それが自分の出した精液だと気づくと、悠志は思わず郁人を突き放した。
「俺のを飲んだ口で……っ」
「気にしない、気にしない」
「気にす、んんっ……っ!」
 慌てる悠志を横目に、郁人はキスを続けた。
「ん、ふ……、ほんとに、ばか……んっ」
「ばかでいいよ」
 やさしくそう呟いた郁人に口腔を舌でまさぐられ、悠志は次第に諦め、郁人に応えていった。
「んんっ、いく、と……っ」
 郁人の舌先が悠志の上顎をなぞると、じわりと痺れた悠志の吐息は甘くなる。
 悠志の気分がついてきたことを感じ取り、郁人は唇を合わせたまま、悠志の胸へと手を滑らせた。
「ぁあっ! あ、……郁人……っ」
「乳首、気持ちいいよね……?」
 布地の上からいじるだけで、悠志の突起はどんどん硬くなった。
「あ、あ、んん……っ」
 郁人は、キスをしながら悠志の胸を刺激した。
 妙なシチュエーションで起こされたからか、いつもよりも感じやすくなっていた悠志は、吐息の合間に嬌声を漏らしながら懇願した。
「あぁ、郁人……、ふ、んっ、胸は、そんなに……っ」
 乳首に触れられるだけでペニスが脈打ち、すぐにでも興奮が溢れ出そうだった。
「え? もっと?」
「ち、ちが……っ」
 郁人はにんまりと笑うと、服をたくし上げ、露わになった悠志の乳首にちゅっと吸いついた。
「ぁあっ、ああ……っ!」
 小さな突起を舌先でちろちろと舐めていたかと思えば、郁人は舌で押しつぶすようにも虐める。
 郁人に弱点を知り尽くされていた悠志は、これしきのことでも陥落してしまいそうだった。
「ああっ、あぁっ、もう……、乳首が弱いの、知っているくせに……っ」
「うん、知っているよ」
 郁人は乳首に吸いつきながら、同時に指先で悠志の耳の輪郭をなぞっていた。
 さわさわと触れていた指先が、ふと耳のなかに入る。
「あぁっ、そ、それ……っ」
「こういうのも好きだよね?」
「んん……っ」
 郁人に触れられれば触れられるほど、悠志は感じて昂ぶっていく。
「もう一回、出るかな?」
 愛撫するたびに悠志のペニスがひくひくと反応していることには、郁人も気づいていた。
 悠志は、郁人がペニスに触れようとする手を制した。
「ま、待て。俺も、おまえのをしたい……」
「俺のも舐めてくれるの?」
「俺ばかりおまえの好きにされるなんて、不公平だろ」
 なぜか対抗心を抱いている悠志を微笑ましく思いながら、郁人はスウェットパンツを脱ぎ、ベッドの上に両脚をひらいて座った。
 郁人のものは、下着の上からでも形がわかるほどに勃起していた。
「俺のちんぽ……、舐められる前から、こんななんだけど」
 郁人が下着を下げてみせると、硬いペニスが顔を出す。
 悠志は郁人の脚の間に身をおさめ、郁人のペニスをやさしく握って軽く扱いた。
「触ってもいないのに、元気だな」
「悠志が感じている姿を見るの、好きなんだよね」
「次は、おまえが感じる番……」
 悠志はそう言うと、つつ、と舌先で郁人のペニスに舌を這わせ、てっぺんからぱくりと頬張った。
 頬張りながら舌で亀頭を撫でると、郁人は堪えきれずに吐息を漏らす。
「あぁ……っ、悠志の舌、気持ちいい……」
「ん……っ」
 悠志は、角度を変えながら丁寧に舐めた。
 郁人はその悠志の黒髪を撫で、彼が一生懸命にペニスをしゃぶる姿を見下ろして言った。
「悠志が俺のちんぽを頬張っている顔、いやらしいよ……」
「……暗くて、見えないだろ?」
「そんなことないよ」
 郁人の手が悠志の顎を少し上げさせると、薄明かりの差し込んだ悠志の大きな瞳が郁人を見上げた。
「可愛いなぁ、悠志……」
「……じろじろ見るなよ」
 悠志は照れながら視線を逸らし、それから舌で竿を舐め上げると、裏筋を舌先でこすった。
「あぁ……、悠志、……そこ、いい……っ」
 郁人の反応を見ると、悠志はそのままペニスを口腔に含んだ。
「あ、……悠志……っ」
「このまま、出すか?」
「……ううん」
 郁人は、そっと悠志の口を自分から離させた。
 そして、見上げてくる悠志に言った。
「悠志のなかで、イかせて?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら

音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。 しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい…… ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが…… だって第三王子には前世の記憶があったから! といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。 濡れ場回にはタイトルに※をいれています おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。 この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...