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7章

196話 バーリトゥード

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 いきなり激戦と言うか、レースやる気あるのかと言う状況になるのは分かり切っていた。
 その為のスタート地点の分散で少しでも人数を減らそうってのも分かる。ただそれでももうちょっと分散しておいた方が良かったんじゃねえのかって話よ。

「まあ、十兵衛の爺さんやマイカ、ボスに比べりゃノーマークだから、こっちはまだ楽なんだけどな」

 まだヘパイストス、鍛冶クランにいたときは「物珍しい銃を使うトカゲ頭」くらいしか認識されていないかっただろうし、ボスの所に移ってからそこまで露出はしていなかったのもあって一斉攻撃まではいかないが小競り合いに巻き込まれるくらいで済んでいる。
 闘技場の勝敗ランク1位の自分が言うとあまり説得力無いけど、対人行為を積極的にやらないならそこまで名前は知られていないと思う。言うほど他のプレイヤーからの抵抗が少ないのがその理由。

 今回のイベント、最高速度は変わらないのでいかにそれを維持するか、其れと合わせてスタートダッシュで一気に逃げに走るのがポイントだと思う。
 逆転要素もそれなりにあるとかイベントの内容にはあったが、レースゲームとしては一番正しい走り方だろ。

「その一番に抜けるのが一番難しい状況ではあるんだが」

 何と言うか、もう、すっごい混戦。全員が全員走りながらも攻撃したりスキル飛ばして戦闘しまくっているのだが、あまり相手を倒すという行為に集中してしまうと負ける可能性が高いと思うんだがなあ……。
 こういう時にボスなら前面にいる奴らを爆殺しながら進むんだろうけど、あいにく爆弾よりも大量に使う銃弾のせいでそっちにまで手を回せなかった。
 火炎瓶も作れることは作れるのだが、十兵衛の爺さんがアルコールでそんなに酒を使うなって禁止令を出したのもあってか銃弾作る分で手一杯だったりする……のだが、ある程度考慮しているとは言えボスはがんがんアルコール作ってるらしい。
 
「とは言え、今は余計な事を考えないでまずは此処を抜けないとな」

 このイベントで使っている機体、所謂ローラーダッシュが出来るゴーレム、加速重視の特殊能力マシマシ、特に手放しで動ける自動操縦付きと言うのが良い。
 何て言ったってこういう事が出来るんだから。

「血気盛んなのはいいが、もうちょっと考えて動いて欲しいな!」

 操縦席からゴーレムの頭上に手回しガトリングをマウントしたうえで前方にいる邪魔なプレイヤーに掃射し始める。
 後ろから重低音と無視できないダメージが発生すれば、慌てて射線から他のプレイヤーが逸れていくのでそこを突き抜ける。
 勿論それを許さないプレイヤーが後ろから攻撃してくるので、ボス用に作った時よりも良くしたガンシールドVer2を構えて防ぎつつ、ゴーレムにマウントしていたのをすぐさま後ろに向け、追撃してくる連中に掃射。
 ガトリングも上から落としいれるタイプから、ボックス型にして一般的な機関銃と変わらないように改良済みよ、これでジャムの発生率も下がったし、なによりも装弾済みマガジンはアイテムカウント1でスタックできるメリットもあるからボスのように大量の銃弾でスタックを消費する事も無い。
 これぞガンスミスだからこそ出来る知恵と言う物よ。

 そんな事を心の中で思いつつ、銃声を辺り一面に響かせながら追撃してくる相手に牽制を加えて集団を抜ける。
 追撃の手も収まった所で自動操縦を解除してマニュアル操作。
 自動操縦は楽にはなるんだが、問題としては機体自体のステータスが全体的に下がるのでずっと使っていると単純に機体の性能差で負けてしまうので、楽して勝てるわけではないと言う事。
 あと、回避行動や蛇行運転まではしてくれないので、攻撃の手を止めたらすぐに切り替えて動かないと一方的にやられる可能性が高い。結構デメリット多いな。

「うっし!このまま先頭集団キープよ」

 ローラーダッシュってだけで浪漫溢れる機体だってのに、自動運転とガトリングの相性が良すぎる。疑似フルオートとは言え、制圧射撃もしやすいし、変則的な動きが基本的に出来ないこのレースイベントだととにかく使える。
 何て言ったって移動撃ち出来るからぶっちぎりでガンナー1強じゃね?

「後ろと小競り合いさえ気を付けておけば順位維持は出来るか?」

 なんて思っていたら、高速接近してくるのが1人。あのでかい斧には見覚えがある。鍛冶クランのマスター、カコルだよ、あれは。

「よー、元気かー?」
「機体無いのってずるじゃないんか!」
「ちゃんと足についてるからセーフ、セーフ」

 そんなのあったんかい、所謂ローラーブレードだけど、それってどうなんだろう、乗ってるって言うか履いているものだろ?

「ルール的にありなのかよ!」
「選べるしありでしょ?それはさておき……闘技場ランク1位のバイパーはここで落としておかないとねー」 

 片方に刃、その反対側にブーストが付いている頭の悪い大型の斧を持ちながらこっちに接近してくる。
 あれはやばい、見た目からして殺意マシマシだし、こんな所で1ダウン取られたら先頭集団から落ちてしまう。

「だからって素直に落ちますって言うバカはいないだろ!」

 自動操縦に切り替え、カコルのいる方にガトリングを向けて掃射開始。
 土煙と硝煙、薬莢、銃声を辺りに撒き散らしながら元所属していたクランマスターだろうがお構いなしに撃ちまくる。
 金属同士がぶつかる音が響いている辺り、しっかり防御してくれてるな。
 あのローラーブレード、カコル自体のキャラクリ、持っている武器の関係からすっぽり隠れて耐えているってわけだ。

「あだだだ……!」
「ちぃ!」

 1個目のボックスマガジンが空になったのでがちゃがちゃと装填をし始める、そういえばボスに装填スキルは絶対最大値にしとけって言われてたっけか?

「装填隙はちゃんと無くさないと駄目って教わって来な!」
「クソ!」

 やっぱり思った通りあのブースト付き武器で加速して接近されると、乗っていたゴーレムに一撃貰う。
 機体が結構傾くレベルですぐに機体自体の警告音が発生する。
 どんだけ火力振りの武器作ってるんだよ、あんたは!

「やっぱゴーレムってHPと防御高めだなあ……もう一発いっとく?」
「だったら、こうだ!」

 がしゃっとマガジンを装填し直し、助走の為に距離を開けていたカコルに対してまた掃射開始、ただ今回は本体側ではなく、進行方向の足元に向けて。
 当たり判定が小さい分、ローラーブレード自体のHPと防御力は低いし、安定性はキャラクター本体の腕だろうと踏んだからだ。

「うわ、ちょっと、何して!」
「こんな所でやられると今のボスに笑われるからな!」

 こういう時に他プレイヤーが横やりを入れてくるものだが、流石にガトリング掃射とあのでかすぎるブースト付き斧で殴られると溜まったもんじゃないと踏んでいるのか、距離を取っているのはありがたい。
 とにかく相手の足元に向けてバリバリと撃ちまくり、土煙を上げさせ足場を不安定にさせる。
 
「こら、やめ!」
「人の事ぶん殴っておいて何言ってんだ!」

 「あっ」と声を上げると共に思いっきり躓いて転倒をしたのですぐさま自動操縦を切ってその場を離れる。

「クソ、戦っている間に距離取られた!」

 最高速度が落ちるのもあって余波を嫌がった相手が先に進んでいる。
 あまり長引いた戦闘をするのはこのイベントじゃダメか。
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