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急がば回れ!はしません
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公爵家の庭にある東屋は、
午後の光を受けて、柔らかく影を落としていた。
蔦が絡む柱。
白い石の床。
遠くで水音がして、風に花の香りが混じる。
――完璧な舞台。
「というわけで!
式は絶対に、貴方としたいのですわ!」
勢いよく言い切った私に、
ヴィンセントは一拍遅れて、目を瞬いた。
「……それはまた……」
言葉を選ぶ様子が、いかにも彼らしい。
だが、私は止まらない。
だって。
死ぬ前に!
病で伏せて、静かに逝く前に!
推しと、ちゃんと、向き合っていたい。
そう、早急に。
溜まりに溜まった知識を、
この世界の“推し”と共有したい。
……にまぁ。
しまった。
今、変な顔した。
はっ、と我に返る。
この顔を見せたら、
ヴィンセントに警戒されてしまう。
逃げられたら、困る。
「……あの男は、やらかしますわ!」
慌てて、話題を切り替える。
「尻拭いをしてきた私が言うのです。
間違いありません!」
そう、アイツ。
もとい、カスティン王子。
何かと詰めが甘く、
何かと余計なことをし、
最後に“しまった”と言う男。
私が散々フォローしてきたからこそ、
“出来る王子”を気取れていただけ。
……今なら、分かる。
乙女ゲームでも、
きっと両親は、
使い潰されないように、
私を修道院へ送ったのだ。
――病で、ぽっくり逝ってしまったけれど。
……病。
そうよ、病!
前もって症状が分かれば、
回避できるんじゃない?
脳内で、電球が点く。
「ねぇ、ヴィンセント。
お願いがあるの」
声を落とすと、
彼は自然に距離を詰めてきた。
「なんだい、マリエッタ」
指が、私の髪を掬う。
そのまま、額に、軽い口付け。
……ずるい。
なんて、綺麗な瞳。
声も、やっぱり好き。
思考が、ふわっと溶ける。
はっ!
「私ね、身体が……その……
少し、弱いみたいで……」
言葉を選びながら、
あえて曖昧に、
不安を滲ませる。
「流行病に侵されたら、
天に召されてしまうかもしれない……」
胸が、きゅっとする。
「ヴィンセントと、
ずっと一緒に生きたいのに……
それは、嫌だなって……」
彼は、即答だった。
「わかった。
流行病なんてものは、
全て消し去ってあげるよ」
……言い切った。
重い。
でも、頼もしい。
「ふふ。
本当に?」
少しだけ、大袈裟に笑う。
「嬉しいわ、ヴィンセント」
(治療薬、優先的に手に入れてくれたら……嬉しい、なんて)
そんな打算は、
心の奥にしまっておく。
それからの彼は、
宣言通り、とても大切にしてくれた。
毎日のように、逢瀬。
庭園、書斎、温室。
どこでも、穏やかで、丁寧で。
……丁寧すぎる。
婚約者には、なっている。
式までは、あと二ヶ月半。
初夜!
――待ち切れない。
死ぬ前に。
元気なうちに。
看取られるように、
静かに抱かれるのではなく。
熱い夜のほうで、
ちゃんと、抱かれたい。
そう!
それが、私の望み!
ちらっ。
ヴィンセントの唇を見る。
……綺麗。
ちら、ちら。
ねぇ?
口付けくらい、しても良くない?
視線を絡める。
胸が上下して、呼吸が重なる。
ほら。
聞こえるでしょ?
私、
待ってるよ???
ヴィンセントの瞳に、
確かに、熱が灯った。
……と思った、次の瞬間。
ぱっと、視線を逸らされた。
「……マリエッタ」
低く、名を呼ばれる。
……ちっ。
ヒロインじゃないから、
進み方が分からない。
もう!
私にも、選択肢があればいいのに!
“キスする”
“焦らす”
“押す”
どれを選べば、
フラグが進むの!?
東屋の影で、
私はひとり、
小さく拳を握った。
――急がば回れ?
しません。
私は、
一直線で行きます。
だって。
時間が、ないのだから。
午後の光を受けて、柔らかく影を落としていた。
蔦が絡む柱。
白い石の床。
遠くで水音がして、風に花の香りが混じる。
――完璧な舞台。
「というわけで!
式は絶対に、貴方としたいのですわ!」
勢いよく言い切った私に、
ヴィンセントは一拍遅れて、目を瞬いた。
「……それはまた……」
言葉を選ぶ様子が、いかにも彼らしい。
だが、私は止まらない。
だって。
死ぬ前に!
病で伏せて、静かに逝く前に!
推しと、ちゃんと、向き合っていたい。
そう、早急に。
溜まりに溜まった知識を、
この世界の“推し”と共有したい。
……にまぁ。
しまった。
今、変な顔した。
はっ、と我に返る。
この顔を見せたら、
ヴィンセントに警戒されてしまう。
逃げられたら、困る。
「……あの男は、やらかしますわ!」
慌てて、話題を切り替える。
「尻拭いをしてきた私が言うのです。
間違いありません!」
そう、アイツ。
もとい、カスティン王子。
何かと詰めが甘く、
何かと余計なことをし、
最後に“しまった”と言う男。
私が散々フォローしてきたからこそ、
“出来る王子”を気取れていただけ。
……今なら、分かる。
乙女ゲームでも、
きっと両親は、
使い潰されないように、
私を修道院へ送ったのだ。
――病で、ぽっくり逝ってしまったけれど。
……病。
そうよ、病!
前もって症状が分かれば、
回避できるんじゃない?
脳内で、電球が点く。
「ねぇ、ヴィンセント。
お願いがあるの」
声を落とすと、
彼は自然に距離を詰めてきた。
「なんだい、マリエッタ」
指が、私の髪を掬う。
そのまま、額に、軽い口付け。
……ずるい。
なんて、綺麗な瞳。
声も、やっぱり好き。
思考が、ふわっと溶ける。
はっ!
「私ね、身体が……その……
少し、弱いみたいで……」
言葉を選びながら、
あえて曖昧に、
不安を滲ませる。
「流行病に侵されたら、
天に召されてしまうかもしれない……」
胸が、きゅっとする。
「ヴィンセントと、
ずっと一緒に生きたいのに……
それは、嫌だなって……」
彼は、即答だった。
「わかった。
流行病なんてものは、
全て消し去ってあげるよ」
……言い切った。
重い。
でも、頼もしい。
「ふふ。
本当に?」
少しだけ、大袈裟に笑う。
「嬉しいわ、ヴィンセント」
(治療薬、優先的に手に入れてくれたら……嬉しい、なんて)
そんな打算は、
心の奥にしまっておく。
それからの彼は、
宣言通り、とても大切にしてくれた。
毎日のように、逢瀬。
庭園、書斎、温室。
どこでも、穏やかで、丁寧で。
……丁寧すぎる。
婚約者には、なっている。
式までは、あと二ヶ月半。
初夜!
――待ち切れない。
死ぬ前に。
元気なうちに。
看取られるように、
静かに抱かれるのではなく。
熱い夜のほうで、
ちゃんと、抱かれたい。
そう!
それが、私の望み!
ちらっ。
ヴィンセントの唇を見る。
……綺麗。
ちら、ちら。
ねぇ?
口付けくらい、しても良くない?
視線を絡める。
胸が上下して、呼吸が重なる。
ほら。
聞こえるでしょ?
私、
待ってるよ???
ヴィンセントの瞳に、
確かに、熱が灯った。
……と思った、次の瞬間。
ぱっと、視線を逸らされた。
「……マリエッタ」
低く、名を呼ばれる。
……ちっ。
ヒロインじゃないから、
進み方が分からない。
もう!
私にも、選択肢があればいいのに!
“キスする”
“焦らす”
“押す”
どれを選べば、
フラグが進むの!?
東屋の影で、
私はひとり、
小さく拳を握った。
――急がば回れ?
しません。
私は、
一直線で行きます。
だって。
時間が、ないのだから。
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