初体験しないまま死にたくなかった悪役令嬢

ChaCha

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一緒に踊りたい!

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結婚式まで、あと一週間。
嬉しいはずなのに、どこか落ち着かない。

幸せなのに、慌ただしくて。
この「恋人でいられる時間」が、少しずつ形を変えていくのを感じてしまうから。

衣装合わせは終わり、招待客の調整や細かな段取りも整いつつある。
私から申し込んだ婚約なのに、実務の多くはヴィンセントが担ってくれていた。

気づけば彼は、当たり前のように前に立っている。

……ありがたいし、頼もしい。

でも。

デート……デート……。
そう、問題はそこだった。

最近の私たちは、すっかり“お家デート”が定着している。
あの日の街歩きがあまりにも完璧すぎて、
次を考えるたび、机の前で唸る羽目になっていた。

しかも。
あの大成功の日を境に、ヴィンセントの距離感が、
少し――いえ、だいぶ変わった。

抱き寄せられる力が深くなり、囁きは耳元に落ちる。
触れ方も、以前よりずっと大胆で、しかも的確で
……その、綺麗な指が私を翻弄してくる。

挿入は、相変わらずない。
そこだけは、きっちり守られている。

なのに。
距離は近く、声は低く、息遣いはすぐそばで。
気づけば私は、あっさり負けてしまう。

だって。
推しの声が、反則なのだ。

その後、ヴィンセントはいつも、
何かを待つような目で私を見る。

問いかければ、
少し困ったように笑って、ただ強く抱き締めるだけ。

侍女が、前もって濡れたタオルやティーセットを用意してくれているのも、最近では見慣れた光景だった。

その気遣いが、なんとも言えず恥ずかしい。

……けれど。
優秀な侍女に、心から感謝しているのも事実だ。

「一発目のデートが完璧すぎたのよ! 次が思いつかない!」

思わず、机をドンと叩く。

「普通は、恋人の家でどう逢瀬を重ねるか悩むものですのに」

「それはそれ、これはこれよ!」

私は即答した。

「お家デートではなく、
恋人としての“お外でデート”がしたい、と?」

「そう!ついでに、私の彼氏がどれだけ素敵か自慢したいの!」

侍女は少し考え込み、それから、ふっと表情を変えた。

「でしたら……舞踏会はいかがでしょう」

舞踏会。
その単語に、ぴたりと動きが止まる。

「初夏の星祭が、王宮で開催されるそうです。招待状も、届いておりますが……」

あ。
そういえば、来ていた。

王宮からの招待状。
全力で、無視していた。

例の腐れ王子は、その後も手紙だの何だのと送りつけてきたけれど、両親がなんとかしてくれているのだろう。
すべて門前払いだ。
顔も見たくない。

「……挨拶だけ済ませて、絡まずに帰る、完全防御なら……」

私が呟くと、侍女がそっと耳打ちしてくる。

「ロマンチックな夜空。
    王宮の華やかな音楽。
    お二人で踊る、素敵な思い出」

ごくり。

「……天才かしら!採用よッ!!」

両親がこの侍女を雇ってくれたことに、全力で感謝した。

そうだ。
私、ヴィンセントと、ちゃんとダンスを踊ったことがない。

彼の指に翻弄されて踊っていたことはあっても
――華やかなホールで、音楽に身を委ね、
視線を絡めて踊る、甘い夢の時間。

想像しただけで、胸が高鳴る。

拳をぎゅっと握りしめ、次のデートプランは決定した。

夕方。
いつものように、ヴィンセントが訪れる。

「愛しい妻に、早く逢いたくて」

抱き締められ、口付けが落ちる。

「まぁ、ヴィン。気が早いですわ。まだ一週間ありますのよ?」

妻、だって。
私の中では、とっくに愛しい夫だけれど。

でも今は、恋人期間を全力で楽しむの。

「ねぇ、ヴィン」

「なんだい? 愛しいマリエッタ」

私の髪を指で遊ばせながら、優しく応える。

「私、ヴィンと踊りたいの」

「……それは、どっちで?」

昼か夜か、屋外か舞踏会か。
彼の理解が早すぎて、思わず笑ってしまう。

「もちろん、夜の」

その瞬間、彼の表情がぱっと明るくなった。
蕩けるような笑顔で、軽い口付けが落ちる。

「もちろんだよ」

「当日は、装いもばっちり決めてきてくださいませ」

「……装い?」

「かっこいいヴィンが見たいの」

「ああ。君が気に入ってくれるよう、頑張るよ」

私も、負けない。
華やかな姿で、彼を迎えるのだ。

その瞬間、彼の喉がごくりと鳴った。

よし。
これで、明日の舞踏会デートは確定。

……ゾクリ。

なぜか、背中に寒気が走る。
ちらりと見上げると、ヴィンセントの瞳孔が、見事に開いていた。

「……?」

とりあえず、口付けを落としておく。

ちゅっ。

「君を腕に抱けるのを、楽しみにしているよ」

「わたくしもですわ!」

胸がいっぱいで、にやにやが止まらない。

一緒に踊る夜。
それはきっと、忘れられない思い出になる。

私はそう信じて、
明日の予定を心待ちにしていた。

念の為に、しっかり完全防御装備で挑まなきゃね。

――問題が起きる理由は、ひとつもないはずだった。

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