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扉が開かなかった夜。
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眠ることもなく、三日目を迎えた。
夜と朝の境目が、もう分からない。
目を閉じても、意識が落ちない。
思考だけが、ずっと、彼女の輪郭をなぞり続けている。
――限界だった。
理性は、とうに警告を出している。
これ以上、放置すれば壊れる、と。
だから、俺は動いた。
魔術で足音を消し、
結界を撫でるようにすり抜け、
夜の気配に溶ける。
バルコニーの前に立った瞬間、
胸の奥が、ひどく軋んだ。
――ここにいる。
確信があった。
「……マリエッタ?」
声は、思ったよりも低く、夜に溶けた。
呼びかけというより、祈りに近い。
一拍。
「……ヴィン?」
返ってきた声。
柔らかくて、澄んでいて、
俺の名を呼ぶ、いつもの声音。
それだけで、
胸の奥に溜め込んでいたものが、崩れそうになる。
「……ああ。マリエッタ。俺だ」
確認する必要なんて、なかった。
だが、言わずにはいられなかった。
生きている。
ここにいる。
俺を、呼んでいる。
「こんな夜に……どうしたの?」
問いかける声に、警戒はない。
拒絶もない。
ただ、困惑と、心配。
――なら、なぜ。
「……開けてくれるか?」
喉が、ひどく渇いていた。
君を、抱き締めたい。
君を、確認させてくれ。
そう言わなかったのは、
言えば、崩れてしまうと分かっていたからだ。
一瞬の、沈黙。
「……だめっ!!!」
強い拒絶。
必死に、押し返す声。
俺は、息を詰めた。
――拒まれた。
だが、それは、俺を拒む声ではない。
「……今は……逢えない」
震えを含んだ声音。
今は。
その、二文字。
「なぜだ!?
なぜだ……マリエッタ!!」
抑えきれず、声が荒れる。
理由が、欲しかった。
納得が、欲しかった。
「……ごめんなさい。ヴィン」
短く、けれど、確かに愛を含んだ声。
……沈黙。
夜が、重く落ちる。
俺は、目を閉じた。
魔術陣が、静かに浮かび上がる。
扉を開け放つ術式。
彼女を拘束する構成。
虚偽を暴く自白魔術。
記憶を辿る干渉式。
どれも、
一瞬で展開できる。
――できてしまう。
煌めいては、消える魔術陣。
踊るように、夜空に溶けていく。
……今は……逢えない?
今は。
……今……?
拒絶ではない。
声は、優しい。
俺を、呼んでいる。
だからこそ、分かる。
彼女は、俺を拒んでいない。
だが、開けられない。
理由が、ある。
理由が、あるはずだ。
ここで壊せば、
すべてが終わる。
奪えば、確かに手に入る。
だが、それは――
彼女が選んだ未来ではない。
俺は、深く息を吸った。
ぎゅっと、瞼を閉じる。
夜空を仰ぐ。
一度。
二度。
三度。
今は。
今は、開けない。
今は、壊さない。
今は、奪わない。
これは、理性が勝ったのではない。
理性しか、選べなかった。
「……なぜだ?
……マリエッタ……」
声は、震えていた。
夜気に溶けて、消え入りそうなほどに。
「……開けて……くれ……」
それ以上、言えなかった。
彼女が、扉を開けてくれるまで。
俺は、待った。
待つことでしか、
壊したい衝動を押し込められなかった。
やがて、気配が、遠ざかる。
扉は、最後まで開かなかった。
俺は、その場を離れた。
だが、胸の奥は、
何一つ、解決していない。
安心でもない。
納得でもない。
――延期だ。
今は、を繰り返す。
今は、会えない。
今は、引く。
だが。
次も引くとは、誰も言っていない。
マリエッタ。
彼女の名を、
何度も、何度も、心の中で呼ぶ。
その夜も、俺は眠れなかった。
「今は……」
その言葉だけを、
何度も、何度も、反芻しながら。
夜と朝の境目が、もう分からない。
目を閉じても、意識が落ちない。
思考だけが、ずっと、彼女の輪郭をなぞり続けている。
――限界だった。
理性は、とうに警告を出している。
これ以上、放置すれば壊れる、と。
だから、俺は動いた。
魔術で足音を消し、
結界を撫でるようにすり抜け、
夜の気配に溶ける。
バルコニーの前に立った瞬間、
胸の奥が、ひどく軋んだ。
――ここにいる。
確信があった。
「……マリエッタ?」
声は、思ったよりも低く、夜に溶けた。
呼びかけというより、祈りに近い。
一拍。
「……ヴィン?」
返ってきた声。
柔らかくて、澄んでいて、
俺の名を呼ぶ、いつもの声音。
それだけで、
胸の奥に溜め込んでいたものが、崩れそうになる。
「……ああ。マリエッタ。俺だ」
確認する必要なんて、なかった。
だが、言わずにはいられなかった。
生きている。
ここにいる。
俺を、呼んでいる。
「こんな夜に……どうしたの?」
問いかける声に、警戒はない。
拒絶もない。
ただ、困惑と、心配。
――なら、なぜ。
「……開けてくれるか?」
喉が、ひどく渇いていた。
君を、抱き締めたい。
君を、確認させてくれ。
そう言わなかったのは、
言えば、崩れてしまうと分かっていたからだ。
一瞬の、沈黙。
「……だめっ!!!」
強い拒絶。
必死に、押し返す声。
俺は、息を詰めた。
――拒まれた。
だが、それは、俺を拒む声ではない。
「……今は……逢えない」
震えを含んだ声音。
今は。
その、二文字。
「なぜだ!?
なぜだ……マリエッタ!!」
抑えきれず、声が荒れる。
理由が、欲しかった。
納得が、欲しかった。
「……ごめんなさい。ヴィン」
短く、けれど、確かに愛を含んだ声。
……沈黙。
夜が、重く落ちる。
俺は、目を閉じた。
魔術陣が、静かに浮かび上がる。
扉を開け放つ術式。
彼女を拘束する構成。
虚偽を暴く自白魔術。
記憶を辿る干渉式。
どれも、
一瞬で展開できる。
――できてしまう。
煌めいては、消える魔術陣。
踊るように、夜空に溶けていく。
……今は……逢えない?
今は。
……今……?
拒絶ではない。
声は、優しい。
俺を、呼んでいる。
だからこそ、分かる。
彼女は、俺を拒んでいない。
だが、開けられない。
理由が、ある。
理由が、あるはずだ。
ここで壊せば、
すべてが終わる。
奪えば、確かに手に入る。
だが、それは――
彼女が選んだ未来ではない。
俺は、深く息を吸った。
ぎゅっと、瞼を閉じる。
夜空を仰ぐ。
一度。
二度。
三度。
今は。
今は、開けない。
今は、壊さない。
今は、奪わない。
これは、理性が勝ったのではない。
理性しか、選べなかった。
「……なぜだ?
……マリエッタ……」
声は、震えていた。
夜気に溶けて、消え入りそうなほどに。
「……開けて……くれ……」
それ以上、言えなかった。
彼女が、扉を開けてくれるまで。
俺は、待った。
待つことでしか、
壊したい衝動を押し込められなかった。
やがて、気配が、遠ざかる。
扉は、最後まで開かなかった。
俺は、その場を離れた。
だが、胸の奥は、
何一つ、解決していない。
安心でもない。
納得でもない。
――延期だ。
今は、を繰り返す。
今は、会えない。
今は、引く。
だが。
次も引くとは、誰も言っていない。
マリエッタ。
彼女の名を、
何度も、何度も、心の中で呼ぶ。
その夜も、俺は眠れなかった。
「今は……」
その言葉だけを、
何度も、何度も、反芻しながら。
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