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涙に濡れる夜※
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ただいま、我が家!
重厚な扉が開いた瞬間、灯りがふわりと広がる。
磨き上げられた床にシャンデリアの光が反射して、きらきらと揺れた。
そして――
ずらりと並ぶ執事たち。
満面の笑み。
……え?
みんな、どうしたの?
一斉にお辞儀まで揃っているのだけれど。
私、そんなに大層な遠征に出ていたかしら?
「あっ、お土産はなくてごめんなさいね!
次は皆の分も買ってくるわ!」
場を和ませようと両手をひらひらさせると、
なぜか執事たちの笑みが一段と深くなった。
……あら?
なんだか、安堵の色も混じっているような?
ま、いっか!
⸻
夕食の席。
銀の食器が静かに触れ合う音。
スープの湯気がゆらりと立ち上る。
向かいのヴィンセントは、姿勢も所作も完璧。
けれど。
……その、瞳。
瞬き、忘れていないかしら?
グラスを傾ける指先は優雅なのに、
視線は微動だにせず、私を捉えたまま。
焦点、完全固定。
(これ、食事よね? 取り調べじゃないわよね?)
フォークを持つ手が、なんとなく落ち着かない。
ぞわ、と背中をなぞる気配。
まるで、
皿の上の肉料理ではなく、
私のほうが盛り付けられているみたい。
……食べづらい。
さすがの私でも、それはわかる。
でも、何がダメだったのかしら…
……まあ、後で聞けばいいわよね。
⸻
夕食後の湯浴み。
白くほどける湯気の中、ようやく肩の力が抜ける。
里帰りの緊張も、観劇の高揚も、
兄と夫の妙な空気も、すべて湯に溶けていくようで。
背中に温かな湯が流れ落ちる。
侍女の手つきはいつも通り丁寧で、優しい。
「奥様、今回の里帰り、同行させていただけて光栄でした」
「あなたがいなきゃ、私はもっと慌てていたわ。
これからも、ずっと側にいてね?」
冗談半分、本音半分で笑いかけると。
侍女は、はっと息を呑み、
そのまま跪きそうな勢いで言った。
「もちろんです!
死ぬ時まで……
いえ、死んでもお供いたします!」
「えっ、ちょ、それは重すぎない……!?」
湯気が揺れる。
愛の標準単位が「命」なのはおかしいって、誰か教えてあげて。
まずは、生きよう?
……ねぇ、本当に。
⸻
湯から上がり、薄手の夜着に袖を通す。
湯上がりの火照りが、首筋をじんわりと温めている。
スッキリした気分で寝室の扉を開けた――。
……そこには、暗がりに静かに佇む、私の愛しい夫。
燭台の灯りが揺れ、
長い影が床に伸びる。
「あ、ヴィン、まだ起きて……」
言葉は、彼の指先が頬に触れた瞬間に凍りついた。
指は、驚くほどひやりとしている。
なのに。
次の瞬間。
引き寄せられた腰から伝わる熱は、
火傷しそうなほどに高かった。
逃げ場を奪うように、力強く。
一気に引き寄せられたその腕の力だけで、
世界がきゅ、と音を立てて狭まる。
背中と彼の胸板のあいだに、
空気が逃げる隙間すらなくなる。
「……寒かっただろう。マリエッタ」
「え、お湯に入ったばかりだから、むしろ暑いくらい――」
「そうじゃない」
低い声が、喉元に落ちる。
距離が消える。
そのまま、音もなく背を壁へ押し付けられた。
トン……
っ……!?
壁の冷たさと、彼の熱。
両側から挟まれて、
私の身体の芯だけが、じわじわと溶けていく。
触れる吐息が頬を撫でる。
重い。
逃げ場のない、密度。
「……兄上に、抱き寄せられていたな」
(やっぱり!!そこだったのね!!)
声は静かだ。
荒れない。
だからこそ、
じわり、と胸の内側に沈んでくる。
どくん、どくん、どくん……
何も悪いことはしていないはずなのに…
心臓が早鐘を打つ。
「……だってお兄さまですもの。家族だからというか……」
「俺は、ああして我慢していた」
衣越しに、指が食い込む。
「……っ」
強い。
でも、壊さない。
そのぎりぎりを、彼は選んでいる。
「馬車でも。……玄関でも。今、この瞬間もだ」
抱擁が、ゆっくりと圧を増す。
息が浅くなる。
胸の奥で、熱が波打つ。
熱を孕んだ瞳に絡め取られる。
口付けが重なり、深く、深く沈んでいく。
くちゅ、ちゅく…
「ヴィ…んっ…」
はぁ……っ、ふっ……
温度差に、呼吸が奪われる。
胸が上下するたび、
彼の強すぎる鼓動が、私の背に直に響く。
「……楽しそうだな、と言ったが」
腕の力が、わずかに強まる。
「あれは、嘘だ」
その言葉と同時に、
首筋に熱が落ちる。
チクリ、と小さな痛みが走る。
痛い。
でも――離れないでほしい。
噛まれた場所から、
じわじわと甘い痺れが広がる。
怖いはずなのに、
それ以上に、嬉しい。
夜着をするりとほどかれていく。
指の熱が触れる温度。
肌の表面をなぞる湿った熱に、
背筋が震える。
ぬる……ちゅ……
はっ、……ぁ……っ
「兄上の腕は温かかったか?」
鼓膜の奥に、低い声が直接触れる。
「今――誰の腕の中にいる?」
腰を押し寄せられ、熱い剛直が沈み込む。
ぐちっ…ぬちゅり…
「ヴィ……んのっ……腕の……んぁっ」
奥が勝手に応えてしまう。
私の理性より先に、身体が彼を選んでいる。
境界が消える。
重なった場所から、
じんわりと、熱が奥へ染みていく。
ぱちゅ……ぬぷ、っ……
目を逸らせない。
顎を掴まれ、視線を縫い止められる。
「俺は、黙って耐えていた」
低く、喉の奥で震える声。
「玄関で。馬車で。今、この瞬間もだ」
彼がわずかに動くたび、
私の呼吸が乱れる。
内側が、きゅ、と締まり、
逃げ場を失った熱が揺れる。
くちゅ、……ぐじゅ……っ
はぁ、はぁ、……っ……
その揺れが、
小さく、湿った震えになってこぼれた。
音になりきらない、
甘い波。
「俺以外に触れられた温度、全部塗り替える」
吐息が絡む。
熱が混ざる。
ぐっ、ずん……っ
ぱちゅん、くちゅ……!
「お前は俺の妻だ。――意味がわかるか?」
鼓動が跳ねる。
さらに深く、身体が密着する。
心臓の音が重なり、区別がつかない。
呼吸が混ざり、どこまでが私なのか、わからなくなる。
「泣いてもいい。ただし、俺のせいで泣け」
耳元に、濡れた囁き。
ひどい。ひどい人。
そう思うのに――
彼に応えて必死に頷く。
「愛してる、マリエッタ」
その声に合わせて、
重なった場所が、わずかに角度を変えて押し込まれる。
ぱちゅ……!
内側で、柔らかい波が揺れる。
熱が絡み、
汗が混ざり、
小さく、甘い震えが漏れる。
ん、ふ、……ぁ、あ……っ……!
「他の理由で泣くな」
彼の呼吸が荒くなる。
その荒さが、皮膚越しに伝ってくる。
壁に押し付けられていた身体を抱き上げられ、
そのままベッドへ沈められる。
……っ、ぐちゅり……
ちゅぷ、
……ぱちゅぱちゅ……ぬぷっ
ギシ、ギシ、ギシ、
激しく、波のように容赦なく腰が打ち付けられ、
指を絡めて縫いとめられる。
「ん゛んっ、はげし…ヴィン…ぁっ」
骨が軋むほどの力。
けれど、痛みはない。
壊さぬよう、
それでも離さぬよう。
そのぎりぎりで、彼は私を抱いている。
額から落ちた汗が、
私の鎖骨へ滑る。
指先が、それを追いかける。
はぁ……っ、はぁ、……っ……んっ!
逃げたいわけじゃない。
逃げ場はない。
胸の奥が、甘く焼ける。
「マリエッタ」
「……ひぅっ……んっ」
「俺だけを見ろ。俺の腕の中でだけ、呼吸しろ」
吸って、吐いて。
彼に合わせる。
彼の呼吸が、私を支配する。
……はぁ……はぁ……
くちゅ……ぱちゅ、ぱちゅ、……んっ……!
動くたび、
熱が深く、ゆっくりと広がる。
……気持ちいい……だめ……きちゃ……ぅ……っ
意識が白く滲む。
「上書きしてやる」
強く引かれた腰がいっきに押し込まれる。
ずちっ……!
「消してやる」
さらに深く。
何度も。何度も。
内側を掬い上げるたび、甘い衝動が押し上がる。
ぐちゅ……ぱちゅんっ……!!
「俺だけを感じろ」
囁きが、耳の奥で絡む。
「も……ぃく……ぃく……ぃっちゃ……ぅ」
反射的に、内側がぎゅっと締まってしまう。
く、と抑えきれない笑みが滲む。
「……可愛い。こんな声を出すのは、俺の前だけだ」
指先が顎をすくう。
「もっと鳴いてくれ。俺に刻みつけるみたいに」
その夜。
私は何度も名前を呼ばれ、
何度も、逃げ場のない熱に包まれた。
優しく。
けれど、確実に。
じわじわと、心の底の底まで。
はぁ、はぁ、……っ、あ……っ!
くちゅ、ぐちゅ……
ぱちゅぱちゅ……っ、ん、……んっぁあっ!!
「もぅ、だめっ、ヴィン」
「まだ、泣き足りないだろう?愛しいマリエッタ?」
達しても終わらない。
ひとつ、ふたつ、越えても、終わらない。
彼は、止まらない。
涙が滲むまで、
私は彼の腕の中で揺れ続けた。
抗えない。
深く、甘い愛に。
私は静かに、確信をもって沈められていった。
(……ちょっと実家に顔見せしただけで、どうしてこうなるの!?)
内心で抗議しながら。
死ぬ……
激しくて、本当に死んでしまいそう……
侍女に、生きようね!とほんの数分前に思ってた私が天に召される寸前だ。
腕は緩まない。
離さない。
夜は深い。
私は、彼の腕の中で呼吸を重ね続けるしかなかった。
そして――
意識がとろりと揺らぐ頃。
観劇の場面が、不意に脳裏をよぎる。
生命を捧げた幼馴染。
……生命。
私。
ヴィンセントと、生命、共有してるわよね?
あっれー!?
これ、拍手される側じゃないこれ!?
ぼんやりした頭で、天井を見つめる。
彼の重みがズッシリと身体にのっている。
ああ。
泣く理由は、遠い舞台ではなくて。
すぐ傍に、
もう、あったのだと。
マリエッタは、遅れて理解した。
重厚な扉が開いた瞬間、灯りがふわりと広がる。
磨き上げられた床にシャンデリアの光が反射して、きらきらと揺れた。
そして――
ずらりと並ぶ執事たち。
満面の笑み。
……え?
みんな、どうしたの?
一斉にお辞儀まで揃っているのだけれど。
私、そんなに大層な遠征に出ていたかしら?
「あっ、お土産はなくてごめんなさいね!
次は皆の分も買ってくるわ!」
場を和ませようと両手をひらひらさせると、
なぜか執事たちの笑みが一段と深くなった。
……あら?
なんだか、安堵の色も混じっているような?
ま、いっか!
⸻
夕食の席。
銀の食器が静かに触れ合う音。
スープの湯気がゆらりと立ち上る。
向かいのヴィンセントは、姿勢も所作も完璧。
けれど。
……その、瞳。
瞬き、忘れていないかしら?
グラスを傾ける指先は優雅なのに、
視線は微動だにせず、私を捉えたまま。
焦点、完全固定。
(これ、食事よね? 取り調べじゃないわよね?)
フォークを持つ手が、なんとなく落ち着かない。
ぞわ、と背中をなぞる気配。
まるで、
皿の上の肉料理ではなく、
私のほうが盛り付けられているみたい。
……食べづらい。
さすがの私でも、それはわかる。
でも、何がダメだったのかしら…
……まあ、後で聞けばいいわよね。
⸻
夕食後の湯浴み。
白くほどける湯気の中、ようやく肩の力が抜ける。
里帰りの緊張も、観劇の高揚も、
兄と夫の妙な空気も、すべて湯に溶けていくようで。
背中に温かな湯が流れ落ちる。
侍女の手つきはいつも通り丁寧で、優しい。
「奥様、今回の里帰り、同行させていただけて光栄でした」
「あなたがいなきゃ、私はもっと慌てていたわ。
これからも、ずっと側にいてね?」
冗談半分、本音半分で笑いかけると。
侍女は、はっと息を呑み、
そのまま跪きそうな勢いで言った。
「もちろんです!
死ぬ時まで……
いえ、死んでもお供いたします!」
「えっ、ちょ、それは重すぎない……!?」
湯気が揺れる。
愛の標準単位が「命」なのはおかしいって、誰か教えてあげて。
まずは、生きよう?
……ねぇ、本当に。
⸻
湯から上がり、薄手の夜着に袖を通す。
湯上がりの火照りが、首筋をじんわりと温めている。
スッキリした気分で寝室の扉を開けた――。
……そこには、暗がりに静かに佇む、私の愛しい夫。
燭台の灯りが揺れ、
長い影が床に伸びる。
「あ、ヴィン、まだ起きて……」
言葉は、彼の指先が頬に触れた瞬間に凍りついた。
指は、驚くほどひやりとしている。
なのに。
次の瞬間。
引き寄せられた腰から伝わる熱は、
火傷しそうなほどに高かった。
逃げ場を奪うように、力強く。
一気に引き寄せられたその腕の力だけで、
世界がきゅ、と音を立てて狭まる。
背中と彼の胸板のあいだに、
空気が逃げる隙間すらなくなる。
「……寒かっただろう。マリエッタ」
「え、お湯に入ったばかりだから、むしろ暑いくらい――」
「そうじゃない」
低い声が、喉元に落ちる。
距離が消える。
そのまま、音もなく背を壁へ押し付けられた。
トン……
っ……!?
壁の冷たさと、彼の熱。
両側から挟まれて、
私の身体の芯だけが、じわじわと溶けていく。
触れる吐息が頬を撫でる。
重い。
逃げ場のない、密度。
「……兄上に、抱き寄せられていたな」
(やっぱり!!そこだったのね!!)
声は静かだ。
荒れない。
だからこそ、
じわり、と胸の内側に沈んでくる。
どくん、どくん、どくん……
何も悪いことはしていないはずなのに…
心臓が早鐘を打つ。
「……だってお兄さまですもの。家族だからというか……」
「俺は、ああして我慢していた」
衣越しに、指が食い込む。
「……っ」
強い。
でも、壊さない。
そのぎりぎりを、彼は選んでいる。
「馬車でも。……玄関でも。今、この瞬間もだ」
抱擁が、ゆっくりと圧を増す。
息が浅くなる。
胸の奥で、熱が波打つ。
熱を孕んだ瞳に絡め取られる。
口付けが重なり、深く、深く沈んでいく。
くちゅ、ちゅく…
「ヴィ…んっ…」
はぁ……っ、ふっ……
温度差に、呼吸が奪われる。
胸が上下するたび、
彼の強すぎる鼓動が、私の背に直に響く。
「……楽しそうだな、と言ったが」
腕の力が、わずかに強まる。
「あれは、嘘だ」
その言葉と同時に、
首筋に熱が落ちる。
チクリ、と小さな痛みが走る。
痛い。
でも――離れないでほしい。
噛まれた場所から、
じわじわと甘い痺れが広がる。
怖いはずなのに、
それ以上に、嬉しい。
夜着をするりとほどかれていく。
指の熱が触れる温度。
肌の表面をなぞる湿った熱に、
背筋が震える。
ぬる……ちゅ……
はっ、……ぁ……っ
「兄上の腕は温かかったか?」
鼓膜の奥に、低い声が直接触れる。
「今――誰の腕の中にいる?」
腰を押し寄せられ、熱い剛直が沈み込む。
ぐちっ…ぬちゅり…
「ヴィ……んのっ……腕の……んぁっ」
奥が勝手に応えてしまう。
私の理性より先に、身体が彼を選んでいる。
境界が消える。
重なった場所から、
じんわりと、熱が奥へ染みていく。
ぱちゅ……ぬぷ、っ……
目を逸らせない。
顎を掴まれ、視線を縫い止められる。
「俺は、黙って耐えていた」
低く、喉の奥で震える声。
「玄関で。馬車で。今、この瞬間もだ」
彼がわずかに動くたび、
私の呼吸が乱れる。
内側が、きゅ、と締まり、
逃げ場を失った熱が揺れる。
くちゅ、……ぐじゅ……っ
はぁ、はぁ、……っ……
その揺れが、
小さく、湿った震えになってこぼれた。
音になりきらない、
甘い波。
「俺以外に触れられた温度、全部塗り替える」
吐息が絡む。
熱が混ざる。
ぐっ、ずん……っ
ぱちゅん、くちゅ……!
「お前は俺の妻だ。――意味がわかるか?」
鼓動が跳ねる。
さらに深く、身体が密着する。
心臓の音が重なり、区別がつかない。
呼吸が混ざり、どこまでが私なのか、わからなくなる。
「泣いてもいい。ただし、俺のせいで泣け」
耳元に、濡れた囁き。
ひどい。ひどい人。
そう思うのに――
彼に応えて必死に頷く。
「愛してる、マリエッタ」
その声に合わせて、
重なった場所が、わずかに角度を変えて押し込まれる。
ぱちゅ……!
内側で、柔らかい波が揺れる。
熱が絡み、
汗が混ざり、
小さく、甘い震えが漏れる。
ん、ふ、……ぁ、あ……っ……!
「他の理由で泣くな」
彼の呼吸が荒くなる。
その荒さが、皮膚越しに伝ってくる。
壁に押し付けられていた身体を抱き上げられ、
そのままベッドへ沈められる。
……っ、ぐちゅり……
ちゅぷ、
……ぱちゅぱちゅ……ぬぷっ
ギシ、ギシ、ギシ、
激しく、波のように容赦なく腰が打ち付けられ、
指を絡めて縫いとめられる。
「ん゛んっ、はげし…ヴィン…ぁっ」
骨が軋むほどの力。
けれど、痛みはない。
壊さぬよう、
それでも離さぬよう。
そのぎりぎりで、彼は私を抱いている。
額から落ちた汗が、
私の鎖骨へ滑る。
指先が、それを追いかける。
はぁ……っ、はぁ、……っ……んっ!
逃げたいわけじゃない。
逃げ場はない。
胸の奥が、甘く焼ける。
「マリエッタ」
「……ひぅっ……んっ」
「俺だけを見ろ。俺の腕の中でだけ、呼吸しろ」
吸って、吐いて。
彼に合わせる。
彼の呼吸が、私を支配する。
……はぁ……はぁ……
くちゅ……ぱちゅ、ぱちゅ、……んっ……!
動くたび、
熱が深く、ゆっくりと広がる。
……気持ちいい……だめ……きちゃ……ぅ……っ
意識が白く滲む。
「上書きしてやる」
強く引かれた腰がいっきに押し込まれる。
ずちっ……!
「消してやる」
さらに深く。
何度も。何度も。
内側を掬い上げるたび、甘い衝動が押し上がる。
ぐちゅ……ぱちゅんっ……!!
「俺だけを感じろ」
囁きが、耳の奥で絡む。
「も……ぃく……ぃく……ぃっちゃ……ぅ」
反射的に、内側がぎゅっと締まってしまう。
く、と抑えきれない笑みが滲む。
「……可愛い。こんな声を出すのは、俺の前だけだ」
指先が顎をすくう。
「もっと鳴いてくれ。俺に刻みつけるみたいに」
その夜。
私は何度も名前を呼ばれ、
何度も、逃げ場のない熱に包まれた。
優しく。
けれど、確実に。
じわじわと、心の底の底まで。
はぁ、はぁ、……っ、あ……っ!
くちゅ、ぐちゅ……
ぱちゅぱちゅ……っ、ん、……んっぁあっ!!
「もぅ、だめっ、ヴィン」
「まだ、泣き足りないだろう?愛しいマリエッタ?」
達しても終わらない。
ひとつ、ふたつ、越えても、終わらない。
彼は、止まらない。
涙が滲むまで、
私は彼の腕の中で揺れ続けた。
抗えない。
深く、甘い愛に。
私は静かに、確信をもって沈められていった。
(……ちょっと実家に顔見せしただけで、どうしてこうなるの!?)
内心で抗議しながら。
死ぬ……
激しくて、本当に死んでしまいそう……
侍女に、生きようね!とほんの数分前に思ってた私が天に召される寸前だ。
腕は緩まない。
離さない。
夜は深い。
私は、彼の腕の中で呼吸を重ね続けるしかなかった。
そして――
意識がとろりと揺らぐ頃。
観劇の場面が、不意に脳裏をよぎる。
生命を捧げた幼馴染。
……生命。
私。
ヴィンセントと、生命、共有してるわよね?
あっれー!?
これ、拍手される側じゃないこれ!?
ぼんやりした頭で、天井を見つめる。
彼の重みがズッシリと身体にのっている。
ああ。
泣く理由は、遠い舞台ではなくて。
すぐ傍に、
もう、あったのだと。
マリエッタは、遅れて理解した。
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