モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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3回目の天井

目を開けた瞬間、嫌というほど見覚えのある天井が視界いっぱいに広がった。
白い。高い。無機質。
――あ、これ治療室だ。

ゆっくり瞬きをして、首だけ動かす。
周囲のベッドには、横たわる生徒、生徒、生徒。包帯、毛布、青白い顔。

……死屍累々。

「……3回目……」

思わず天井に向かって呟いた。
笑えない。これはさすがに笑えない。

なのに。

なぜか、右手が動いた。
きゅっと拳を握って、胸の横で小さく。

ガッツポーズ。

(……生きてる)

理由はそれだけだった。
意識がある。息ができる。心臓が動いている。
なら勝ちだ。完全勝利だ。

そんなことを考えていると、カツカツと軽い足音。
白衣の影が視界に入る。

「元気そうだねー!」

聞き慣れた、のんきな声。
安心するべきか、身構えるべきか、一瞬迷う。

「はい、ポーション」

視界に差し出される、小瓶。
淡く光る、あの色。

……反射だった。

舌打ち。

盛大に。

「この世から……いつか……ポーションを……滅殺してやる……」

喉がかすれて、言葉は半分くらい気合いだけで構成されていたけれど、気持ちは本気だった。

先生は「おお、怖い怖い」と笑いながら去っていく。
その背中を睨みつけてから、私は小瓶を受け取り、渋々口をつけた。

……不味い。
毎回言ってるけど、不味い。

飲み終えてベッドに沈み込んだ、そのとき。

「それは、なかなか恐ろしい宣言だな」

低く、落ち着いた声が降ってきた。

心臓が、ひとつ跳ねる。

ゆっくり視線を向けると、そこに立っていたのは――青い髪。
見慣れた制服。見慣れた、でも今は少しだけ柔らかい表情。

(……あ)

「おはよう」

そう言われた瞬間、胸の奥がじわっと熱くなった。
治療室の匂いも、さっきまでの疲労も、一気に遠のく。

「……おはよう」

声はまだ少し掠れていたけれど、ちゃんと返せた。

彼はベッドの横にある椅子に腰を下ろし、私の顔を確かめるようにじっと見る。
その視線が、優しいのに、どこか真剣で。

「歩けるか?」

「……たぶん。世界が回らなければ」

「十分だ」

小さく笑う。
その笑顔を見た瞬間、思い出が一気に押し寄せてきた。

背中。
揺れ。
あの匂い。
耳元で聞こえた呼吸。

(……あ)

耳まで熱くなったのが、自分でも分かった。

「……あの……」

言葉を探していると、彼の方が先に視線を逸らした。
ほんの一瞬。
でも、それだけで、彼も覚えているのだと分かってしまう。

「……無事でよかった」

静かな声だった。
それだけなのに、胸の奥がぎゅっと締まる。

(……ああ)

治療室の天井は、三回目でもやっぱり白い。
死屍累々の光景も、ポーションの味も、正直もう勘弁してほしい。

それでも。

この天井の下で、また彼と目が合った。
それだけで、今日はもう、悪くない日だと思えてしまう。

私は小さく息を吐いて、ベッドに身を預けた。

(……生きてる)

そして、ちゃんと――ここにいる。



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