モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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聖誕祭のお知らせ

気づけば、吐く息が白くなる季節になっていた。
学園の石畳も、朝は冷たく、歩くたびに靴底からじんと冷えが伝わってくる。

冬だ。

相変わらず、日々は容赦がない。
座学、合同訓練、治癒実習。
気力と体力と魔力を、順番に、あるいは同時に削られていく生活。

治癒魔術科の教室には、どこか「生き延びた者たち」の空気が漂っていた。
誰もが微妙に姿勢が悪く、どこかを庇うように座り、でも――ちゃんと出席している。

それが、私たちの誇りだ。

そんな空気の中で。

「はい!注目~!聖誕祭、迫ってますね?」

教官の一声で、教室の空気が一気にざわついた。

ざわざわざわざわ。

(来た……)

嫌な予感しかしない。
この学園で「祭り」や「祝日」という単語が出た時、無条件で警戒する癖が、全員に染みついている。

治癒魔術科の生徒たちは、目を細め、肩を強張らせ、全神経を教官に向けた。

(何を言い出す気だ……)

教官が、少し間を置く。

「学園は……」

ごくり。

誰かが喉を鳴らした音が、やけに大きく聞こえた。

「祝日です!」

……へ?

一瞬、理解が追いつかなかった。
祝日。
今、祝日って言った?

教室が、しんと静まり返る。

次の瞬間。

震えながら、恐る恐る手を挙げる生徒がいた。

「……祝日という名の、特訓メニューですか?」

声が裏返っている。
分かる。分かりすぎる。

教官は、にこっと笑った。

「特訓好きな君にプレゼント!」

ぎゃあ!

誰かが悲鳴をあげた。
椅子を掴む音、机を叩く音、絶望が一気に広がる。

(やっぱりだ!)
(信じた私たちがバカだった!)

しかし。

「……ということはなく」

え?

「お休みです」

一瞬の静寂。
次の瞬間。

わああああああああ!!

教室が、爆発した。

歓声、拍手、ガッツポーズ。
誰かが泣いている。
誰かが机に突っ伏して「生きててよかった……」と呟いている。

私も思わず、両手を握りしめた。

(本当に……休み……!?)

奇跡か。
これは奇跡なのか。

しかし、教官はそこで終わらなかった。

「あっ!」

その一言で、教室がピタリと静まる。

嫌な予感が、背骨を駆け上がる。

「食堂も学園も閉まるからね!?ご飯は自分たちでなんとかするのですよー!」

……。

……あっ。

一拍遅れて、理解が追いついた。

(休みだけど……サバイバル……)

でも。

それでも。

本当に、本当に。

特訓じゃない。
毒もない。
重りもない。
魔物もいない。

――休みだ。

治癒魔術科の生徒たちは、再び盛大に沸いた。

「街行こう!」
「聖誕祭だよ!」
「温かいもの食べたい!」
「甘いの!!」

教官は、その様子を満足そうに眺めてから、最後に一言。

「はい!お知らせ終わり!今日も楽しく気合い育てましょうね!」

ズーン……。

一瞬で現実に引き戻された。

(あ、今日の授業はあるんだ……)

それでも。

私は思った。

(休日という名の、聖誕祭プレゼントだ……!)

寒い冬の始まり。
でも、胸の奥は、少しだけあたたかかった。

――聖誕祭。
何が起きるかは、まだ分からないけれど。

少なくとも。

「生きて迎えられる祭り」だということだけは、確かだった。



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