22 / 47
第二章 神祇官の長として
二十三
しおりを挟む
そうして月日は巡り、とうとう私達秋の国の年になった。
「宵闇、これから私は四季殿に入ります。初めてのことで大変だとは思いますが、神祇官の長としての役割、お願いします」
「白帝様……。私、少しでも白帝様の支えとなるように頑張ります。まだまだ未熟者ですがこちらの方こそ宜しくお願い致します」
「では行きましょう」
「はい」
白帝様は錫杖を持ち、転移門へとゆっくりと歩き出した。
この日ばかりは秋の国の天上人はみな白帝様をお見送りするため転移門の前で立っている。
私は白帝様の後をついて歩いていく。
「白帝様、いってらっしゃい!」
「白帝様、無理をなさらないようにお願いします」
沢山の人達から声が掛かり、白帝様は笑顔を返している。
そして転移門の前には葵様と山吹様が立っていた。二人とも頭を下げている。
「葵、山吹。あとのことはお願いしますよ」
「「承知いたしました」」
そうして錫杖をトンッと地面に突き、転移門を開けると白帝様と私は乞ふ四季殿へと向かった。
「……ここが、乞ふ四季殿なんですね」
転移門は四季殿の前に開いた。
宙に浮かんでいる小島に建てられた社で橋が一つ架けられているだけだ。社の周りには季節の樹木が植えられており、季節を社の中で感じることができるようになっている。
そしてここは神の領域でもあるため限られた者のみ入ることが許されている。
「宵闇、木札はちゃんと持っていますか?」
「もちろんです。ここに下げています」
私は白帝様に首に掛けた木札を見せると白帝様は頬笑んだ。
「この中には木札を持つ者しか入れません。木札を持つものは各国の帝と神祇官の長の八人のみ。もし、ここに何かあれば彼らを頼りなさい」
「はい」
白帝様はそう言うと、橋を渡り始め、私は後を付いていく。
橋を渡り始めるとまるで別世界へ踏み込んだような感覚になる。
どこからか心地よい風が吹き、花弁が舞い始めた。それはとても幻想的で立ち止まり、うっとりと眺めていたいほどだった。
「……幻想的でとても素敵ですね」
「ここに来る僅かな喜びです」
ゆっくりと幻想的な風景を眺めながら橋を渡り切ると花弁は止み、また元の景色に戻った。
白帝様は気にする様子はなく、そのまま社の中へと向かった。社の前では夏の国の神祇官の長である炎陽様が御辞儀をしている。
炎陽様は明るくやや赤い髪に烏帽子を被り、精悍な顔つきの人だ。
「秋の国の白帝様、お待ちしておりました」
「炎帝は無事ですか?」
「ええ」
炎陽様はそう短く答えた。五年もの間、社から出ることが叶わない。風を読み続けなければいけないため、相当な疲労をしているのだろう。
「中へどうぞ」
炎陽様はそう言うと、白帝様は社の中へと入っていく。
「宵闇は入口にいてください」
「わかりました」
私は白帝様の言いつけ通りに入口で待つことにした。白帝様はこれから炎帝様と風読みを交代するのだ。この交代の儀式は帝だけが行うため神祇官はこうして入口で待つことになっている。
「炎陽様、五年間お疲れ様でした」
「ああ、宵闇は神祇官の長としてここへ来るのは初めてだったな」
「はい。あの橋を渡るときにとても綺麗で感動しました」
「そうだな。あれは我々神祇官が入ってきたことを帝に知らせるものだと知っていたか?」
「知らなかったです」
私は炎陽様と立ち話を始めた。
「帝様方が入られた時は変わらないのですか?」
「そうだ。ずっとここに居られるため知らせても意味はないだろう?俺は聞いただけだが、神が降りる場合は白や金の花弁が舞うらしい」
「凄いですね。過去に神がここに降り立たれたのですね」
「一度だけあったと口伝えで残っているくらいだな」
「神様が降り立つ時ってどんな時なのでしょうか」
「さあな。ただ、各国を守護している四神は天上界を支えているのは知っているな?」
「はい」
「神界から天上界に神が降りればそのエネルギーで国全体が不安定になるから余程のことがない限り神は天上界に降りてこない。
降りられる場合があるとすれば、天上界の消滅させるほどの何かがあった場合だろうな」
炎陽様はそれ以上のことは口にしなかった。
各国を繋ぐこの場に力を持つ神が降り立つとなればバランスを崩し、天上界は不安定となり、消えてしまいかねない。
意図を持って降り立つとすれば余程の事態なのかもしれない。
「まあ、そんなことが起こるなんて思いたくはないが」
「そうですね。でも、ここには悪しきものが来ることはないのですか?」
「悪しきものが天上界に来ることはないだろうな。
人間界に発生した時点で風読みで位置を特定し、我々や衛門府の武官達が封印や散らしているからな。何千年と風読みがあるが、一度も悪しきものは天上界まで来たことがない。そうならないためにも我々がしっかりと帝を支えなければな」
「はい!」
私はそう言ったものの少し不安が残っていた。数年前には蒼帝様や春陽様が降りられることになった事態が起こった。
蒼帝様や春陽様だって長として長く過ごされていたはずで、蒼帝様が悪しきものを見落とすだろうか? あの時は人間が呪術を行うために悪しきものに落ちた神を国中にばら撒いたのだ。
蒼帝様は何故、悪しきものに気づかなかったのか。今後は起きないとは思いたい。
「……終わったみたいだな」
炎陽様の言葉にふと視線を社の入口へと向けると、炎帝様が立っていらっしゃった。
「炎帝様、五年間ありがとうございました」
「私はこうして炎陽に支えられ五年間を過ごすことが出来た。宵闇、白帝をしっかりと支えるのですよ」
「はい」
「何かあればいつでも相談に来てくださいね」
「ありがとうございます」
「では、炎陽。行きましょうか」
「はい。ではな」
炎帝様と炎陽様はゆっくりと橋を渡って夏の国へと戻っていった。
私は二人を見送った後、社の中へと入っていく。社の入口に入るとすぐに間があり、白帝様は静かに御神座に座っていた。
「宵闇、これから私は四季殿に入ります。初めてのことで大変だとは思いますが、神祇官の長としての役割、お願いします」
「白帝様……。私、少しでも白帝様の支えとなるように頑張ります。まだまだ未熟者ですがこちらの方こそ宜しくお願い致します」
「では行きましょう」
「はい」
白帝様は錫杖を持ち、転移門へとゆっくりと歩き出した。
この日ばかりは秋の国の天上人はみな白帝様をお見送りするため転移門の前で立っている。
私は白帝様の後をついて歩いていく。
「白帝様、いってらっしゃい!」
「白帝様、無理をなさらないようにお願いします」
沢山の人達から声が掛かり、白帝様は笑顔を返している。
そして転移門の前には葵様と山吹様が立っていた。二人とも頭を下げている。
「葵、山吹。あとのことはお願いしますよ」
「「承知いたしました」」
そうして錫杖をトンッと地面に突き、転移門を開けると白帝様と私は乞ふ四季殿へと向かった。
「……ここが、乞ふ四季殿なんですね」
転移門は四季殿の前に開いた。
宙に浮かんでいる小島に建てられた社で橋が一つ架けられているだけだ。社の周りには季節の樹木が植えられており、季節を社の中で感じることができるようになっている。
そしてここは神の領域でもあるため限られた者のみ入ることが許されている。
「宵闇、木札はちゃんと持っていますか?」
「もちろんです。ここに下げています」
私は白帝様に首に掛けた木札を見せると白帝様は頬笑んだ。
「この中には木札を持つ者しか入れません。木札を持つものは各国の帝と神祇官の長の八人のみ。もし、ここに何かあれば彼らを頼りなさい」
「はい」
白帝様はそう言うと、橋を渡り始め、私は後を付いていく。
橋を渡り始めるとまるで別世界へ踏み込んだような感覚になる。
どこからか心地よい風が吹き、花弁が舞い始めた。それはとても幻想的で立ち止まり、うっとりと眺めていたいほどだった。
「……幻想的でとても素敵ですね」
「ここに来る僅かな喜びです」
ゆっくりと幻想的な風景を眺めながら橋を渡り切ると花弁は止み、また元の景色に戻った。
白帝様は気にする様子はなく、そのまま社の中へと向かった。社の前では夏の国の神祇官の長である炎陽様が御辞儀をしている。
炎陽様は明るくやや赤い髪に烏帽子を被り、精悍な顔つきの人だ。
「秋の国の白帝様、お待ちしておりました」
「炎帝は無事ですか?」
「ええ」
炎陽様はそう短く答えた。五年もの間、社から出ることが叶わない。風を読み続けなければいけないため、相当な疲労をしているのだろう。
「中へどうぞ」
炎陽様はそう言うと、白帝様は社の中へと入っていく。
「宵闇は入口にいてください」
「わかりました」
私は白帝様の言いつけ通りに入口で待つことにした。白帝様はこれから炎帝様と風読みを交代するのだ。この交代の儀式は帝だけが行うため神祇官はこうして入口で待つことになっている。
「炎陽様、五年間お疲れ様でした」
「ああ、宵闇は神祇官の長としてここへ来るのは初めてだったな」
「はい。あの橋を渡るときにとても綺麗で感動しました」
「そうだな。あれは我々神祇官が入ってきたことを帝に知らせるものだと知っていたか?」
「知らなかったです」
私は炎陽様と立ち話を始めた。
「帝様方が入られた時は変わらないのですか?」
「そうだ。ずっとここに居られるため知らせても意味はないだろう?俺は聞いただけだが、神が降りる場合は白や金の花弁が舞うらしい」
「凄いですね。過去に神がここに降り立たれたのですね」
「一度だけあったと口伝えで残っているくらいだな」
「神様が降り立つ時ってどんな時なのでしょうか」
「さあな。ただ、各国を守護している四神は天上界を支えているのは知っているな?」
「はい」
「神界から天上界に神が降りればそのエネルギーで国全体が不安定になるから余程のことがない限り神は天上界に降りてこない。
降りられる場合があるとすれば、天上界の消滅させるほどの何かがあった場合だろうな」
炎陽様はそれ以上のことは口にしなかった。
各国を繋ぐこの場に力を持つ神が降り立つとなればバランスを崩し、天上界は不安定となり、消えてしまいかねない。
意図を持って降り立つとすれば余程の事態なのかもしれない。
「まあ、そんなことが起こるなんて思いたくはないが」
「そうですね。でも、ここには悪しきものが来ることはないのですか?」
「悪しきものが天上界に来ることはないだろうな。
人間界に発生した時点で風読みで位置を特定し、我々や衛門府の武官達が封印や散らしているからな。何千年と風読みがあるが、一度も悪しきものは天上界まで来たことがない。そうならないためにも我々がしっかりと帝を支えなければな」
「はい!」
私はそう言ったものの少し不安が残っていた。数年前には蒼帝様や春陽様が降りられることになった事態が起こった。
蒼帝様や春陽様だって長として長く過ごされていたはずで、蒼帝様が悪しきものを見落とすだろうか? あの時は人間が呪術を行うために悪しきものに落ちた神を国中にばら撒いたのだ。
蒼帝様は何故、悪しきものに気づかなかったのか。今後は起きないとは思いたい。
「……終わったみたいだな」
炎陽様の言葉にふと視線を社の入口へと向けると、炎帝様が立っていらっしゃった。
「炎帝様、五年間ありがとうございました」
「私はこうして炎陽に支えられ五年間を過ごすことが出来た。宵闇、白帝をしっかりと支えるのですよ」
「はい」
「何かあればいつでも相談に来てくださいね」
「ありがとうございます」
「では、炎陽。行きましょうか」
「はい。ではな」
炎帝様と炎陽様はゆっくりと橋を渡って夏の国へと戻っていった。
私は二人を見送った後、社の中へと入っていく。社の入口に入るとすぐに間があり、白帝様は静かに御神座に座っていた。
1
あなたにおすすめの小説
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる