神々の遠い記憶を継ぐ者

まるねこ

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第二章 神祇官の長として

二十三

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 そうして月日は巡り、とうとう私達秋の国の年になった。

「宵闇、これから私は四季殿に入ります。初めてのことで大変だとは思いますが、神祇官の長としての役割、お願いします」

「白帝様……。私、少しでも白帝様の支えとなるように頑張ります。まだまだ未熟者ですがこちらの方こそ宜しくお願い致します」
「では行きましょう」
「はい」

 白帝様は錫杖を持ち、転移門へとゆっくりと歩き出した。

 この日ばかりは秋の国の天上人はみな白帝様をお見送りするため転移門の前で立っている。

 私は白帝様の後をついて歩いていく。

「白帝様、いってらっしゃい!」
「白帝様、無理をなさらないようにお願いします」

 沢山の人達から声が掛かり、白帝様は笑顔を返している。

 そして転移門の前には葵様と山吹様が立っていた。二人とも頭を下げている。

「葵、山吹。あとのことはお願いしますよ」
「「承知いたしました」」

 そうして錫杖をトンッと地面に突き、転移門を開けると白帝様と私は乞ふ四季殿へと向かった。



「……ここが、乞ふ四季殿なんですね」

 転移門は四季殿の前に開いた。

 宙に浮かんでいる小島に建てられた社で橋が一つ架けられているだけだ。社の周りには季節の樹木が植えられており、季節を社の中で感じることができるようになっている。

 そしてここは神の領域でもあるため限られた者のみ入ることが許されている。

「宵闇、木札はちゃんと持っていますか?」
「もちろんです。ここに下げています」

 私は白帝様に首に掛けた木札を見せると白帝様は頬笑んだ。

「この中には木札を持つ者しか入れません。木札を持つものは各国の帝と神祇官の長の八人のみ。もし、ここに何かあれば彼らを頼りなさい」
「はい」

 白帝様はそう言うと、橋を渡り始め、私は後を付いていく。

 橋を渡り始めるとまるで別世界へ踏み込んだような感覚になる。

 どこからか心地よい風が吹き、花弁が舞い始めた。それはとても幻想的で立ち止まり、うっとりと眺めていたいほどだった。

「……幻想的でとても素敵ですね」
「ここに来る僅かな喜びです」

 ゆっくりと幻想的な風景を眺めながら橋を渡り切ると花弁は止み、また元の景色に戻った。

 白帝様は気にする様子はなく、そのまま社の中へと向かった。社の前では夏の国の神祇官の長である炎陽えんよう様が御辞儀をしている。

 炎陽様は明るくやや赤い髪に烏帽子えぼしを被り、精悍せいかんな顔つきの人だ。

「秋の国の白帝様、お待ちしておりました」
「炎帝は無事ですか?」
「ええ」

 炎陽様はそう短く答えた。五年もの間、社から出ることが叶わない。風を読み続けなければいけないため、相当な疲労をしているのだろう。

「中へどうぞ」

 炎陽様はそう言うと、白帝様は社の中へと入っていく。

「宵闇は入口にいてください」
「わかりました」

 私は白帝様の言いつけ通りに入口で待つことにした。白帝様はこれから炎帝様と風読みを交代するのだ。この交代の儀式は帝だけが行うため神祇官はこうして入口で待つことになっている。

「炎陽様、五年間お疲れ様でした」
「ああ、宵闇は神祇官の長としてここへ来るのは初めてだったな」
「はい。あの橋を渡るときにとても綺麗で感動しました」

「そうだな。あれは我々神祇官が入ってきたことを帝に知らせるものだと知っていたか?」
「知らなかったです」

 私は炎陽様と立ち話を始めた。

「帝様方が入られた時は変わらないのですか?」
「そうだ。ずっとここに居られるため知らせても意味はないだろう?俺は聞いただけだが、神が降りる場合は白や金の花弁が舞うらしい」

「凄いですね。過去に神がここに降り立たれたのですね」
「一度だけあったと口伝えで残っているくらいだな」
「神様が降り立つ時ってどんな時なのでしょうか」

「さあな。ただ、各国を守護している四神は天上界を支えているのは知っているな?」
「はい」

「神界から天上界に神が降りればそのエネルギーで国全体が不安定になるから余程のことがない限り神は天上界に降りてこない。

 降りられる場合があるとすれば、天上界の消滅させるほどの何かがあった場合だろうな」

 炎陽様はそれ以上のことは口にしなかった。

 各国を繋ぐこの場に力を持つ神が降り立つとなればバランスを崩し、天上界は不安定となり、消えてしまいかねない。

 意図を持って降り立つとすれば余程の事態なのかもしれない。

「まあ、そんなことが起こるなんて思いたくはないが」
「そうですね。でも、ここには悪しきものが来ることはないのですか?」
「悪しきものが天上界に来ることはないだろうな。

 人間界に発生した時点で風読みで位置を特定し、我々や衛門府の武官達が封印や散らしているからな。何千年と風読みがあるが、一度も悪しきものは天上界まで来たことがない。そうならないためにも我々がしっかりと帝を支えなければな」
「はい!」

 私はそう言ったものの少し不安が残っていた。数年前には蒼帝様や春陽しゅんよう様が降りられることになった事態が起こった。

 蒼帝様や春陽様だって長として長く過ごされていたはずで、蒼帝様が悪しきものを見落とすだろうか? あの時は人間が呪術を行うために悪しきものに落ちた神を国中にばら撒いたのだ。

 蒼帝様は何故、悪しきものに気づかなかったのか。今後は起きないとは思いたい。

「……終わったみたいだな」

 炎陽様の言葉にふと視線を社の入口へと向けると、炎帝様が立っていらっしゃった。

「炎帝様、五年間ありがとうございました」
「私はこうして炎陽に支えられ五年間を過ごすことが出来た。宵闇、白帝をしっかりと支えるのですよ」
「はい」

「何かあればいつでも相談に来てくださいね」
「ありがとうございます」
「では、炎陽。行きましょうか」
「はい。ではな」

 炎帝様と炎陽様はゆっくりと橋を渡って夏の国へと戻っていった。

 私は二人を見送った後、社の中へと入っていく。社の入口に入るとすぐにがあり、白帝様は静かに御神座おみざに座っていた。
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