【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ

文字の大きさ
3 / 35

3

しおりを挟む
「ラジーノ様! またリヴィア様の所で油を売っていたのですか。リヴィア様などどうでもよいではないですか。部屋に戻りますよ」
「ジョルスっ、だってこいつが悪いんだ! 王太子になれない、なりそこないの王女が悪い」
「ええ、そうでしょうとも。リヴィア様はラジーノ様より軽い存在です。気にしなければよいのです。さあ、行きますよ」

 ラジーノの従者も大概だ。

 だが、周囲は陛下が溺愛しているアンバー側妃の息子ということで誰も彼を諫めることをしないわ。

 ラジーノを諫めた日にはアンバー側妃が陛下に泣きついて即刻クビを言われるのが決まっているもの。誰だって自分が可愛いからね。

「チッ」

 ラジーノは舌打ちをしてテーブルにあった花瓶を壁に投げつけて部屋を出て行った。

「……アルバン先生、ラジーノが申し訳ございません」
「お気になさらないでください。それよりリヴィア様が心配です」
「私は、いつものことですから」

 ダリアは割れた花瓶を片づけ始め、先生は授業を再開した。

 ラジーノが部屋にやってきてリヴィアに侮蔑の言葉を吐いて暴れるのはいつものこと。

 第二王子のゼノはラジーノに比べれば多少勉強はできたが、アンバーに似てリヴィアを小馬鹿にしたような話し方をしている。

 アンバー側妃と直接関わることは少ないが、陛下が居ない時は嫌味を言われる。

 つまり、『家族の仲は最悪』と言えよう。残念ながら王にだけは違って見えているようだが。



 そんな忙しい毎日を過ごし、十歳の誕生日を迎えた日に父であるエーゼット王から話があると執務室に呼ばれた。

 父の執務室へ来たのはいつぶりだろう?

 これまで一度か二度しか訪れたことがない。私は億劫に思いながらも勉強の手を止めて乳母兼侍女となったダリアと一緒に執務室に向かった。

「陛下、お呼びでしょうか」
「リヴィア、待っていた。少し見ない間にまた大きくなったな。まぁ、そこへ座っておくれ」

 父の指示通り、私はソファに座った。父は執務をキリがいいところで止め、向かいのソファに座った。

「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」
「お相手は誰なのでしょうか?」
「フェルディナンド・ペニーシェイク公爵子息だ。同じ歳だから話も合うだろう」
「婚約者の件、承りました」

 私は了承することだけを伝えて執務室を後にする。

 陛下は気にしていないが、以前から私と陛下の会話はこのように簡素なのだ。リヴィアは呆れたように一つ息を吐き、歩き始めた。

 ……婚約者、ね。

 たしかペニーシェイク公爵はワインを始めとして酪農を主産業にしている領だったわ。

 息子が三人。公爵家は豊かで家族仲も良い。同じ歳の子息はフェルディナンド様で、彼は金髪で容姿も良く、優しくて紳士で年頃の令嬢達から人気があると教師から聞いたことがある。

「リヴィア様、おめでとうございます。ようやく婚約者が決定しましたね」
「……ダリア、ありがとう」

 私は部屋に戻るとすぐにダリアは笑顔で口を開いた。だが、私の返事にダリアはすぐに気づく。

「リヴィア様、何か憂い事でも?」
「ええ、婚約者が公爵家なのだから王妃様は口を出してこないと思うけれど、どうかしら? 私にまともな縁談が来るとは思えなくて……」
「そんなことはありませんよきっと。陛下はリヴィア様の事を思って良い嫁ぎ先を見つけてくれたのだと思います。べニーシェイク公爵家の悪い噂は聞いたことがありませんし、大丈夫でしょう」
「……そうね。そう思う事にしておくわ」

 ダリアは一生懸命フォローしてくれているけれど、私は窓の外を眺めながらそう答えるしかなかった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

処理中です...