【完結】婚約破棄された女騎士には溺愛が待っていた。

まるねこ

文字の大きさ
31 / 60

31

しおりを挟む
「おかえりなさい。お疲れ様」

今日は珍しく母が玄関で迎えてくれていた。

「ただいまお母様。お父様達はまだ仕事ですよね?」
「えぇ、ジルドは夜の護衛だと言っていたから今日は帰らないかもしれないわね。シャロアも明日から侯爵家に勉強しにいくのですから今日はゆっくり休みなさい」
「はい」

そうして私は早いうちに部屋で休むことになった。明日から侯爵家に通うの。地方貴族であれば通うことが難しく、相手の家に住みながら結婚まで家のしきたりや領地の勉強することになるわ。

「お母様、では行ってまいります」
「気を付けてね」

翌日の午前中に私は馬車でリンデル侯爵家に向かう。もう騎士を引退しているので騎士服を着る事は出来ないし、夫人の勉強をするためにドレスやワンピースでなければね。

「グレイス夫人、ごきげんよう」
「シャロアちゃん、こっちこっち」

私はグレイス夫人の手招きに笑顔で応える。今日は中庭のガゼボのようだ。

「グレイス夫人、今日は素敵なガゼボで何をされているのですか?」
「いい香りでしょう? ちょうど今花が見頃になっているからここで刺繍をしていたの。シャロアちゃんもどう? ラダンにハンカチをまだ渡していないのでしょう?」
「そう言われてみれば。家紋がいいでしょうか?」
「そうねぇ。家紋の他にシャロアちゃんがラダンに送りたい柄もいくつか作るといいわ。あの子はシャロアちゃんから貰う物全部喜びそうだけどね」

私は夫人に習いながら侯爵家の家紋をハンカチに刺繍していく。実はこの時間も私は結構好きなのよね。夫人と雑談しながら家のことを教えてもらうの。
夫人はとても博識で話をしていてとても楽しい。

私の義母がグレイス夫人で良かったなと本当に思う。家紋を刺繍した後は定番の獅子の刺繍や剣を刺繍したわ。あと、一枚だけラダン副団長がくれた猫のぬいぐるみの刺繍をしてみたの。

夫人はぬいぐるみの刺繍を見ながら微笑んで『毎日そのハンカチを持たせるといいわ』と言っていた。
私から見ても彼には似つかわしくないほど可愛く仕上がってしまったわ。もちろん刺繍だけが教育ではなく侯爵家で開く茶会やそのマナーを翌日は習うことになった。

刺繍の時とは違い、夫人はとても厳しく私を指導する。貴族を相手にするので一つ間違えば大事になりかねないからだ。

毎日侯爵家へ勉強しに行く私。






ある日のこと。

「シャロアちゃん、今度侯爵家でお茶会を開く予定なの。是非参加してちょうだい」
「自信が持てるほどのマナーが完璧ではないので不安ですが、頑張ります」

「ふふっ、そう畏まらなくていいのよ? 今回のお茶会は特に仲の良いお友達を呼ぶだけのお茶会なので厳しいことは言われないわ」
「グレイス夫人のお友達。今から緊張します」
「大丈夫、大丈夫。あぁ、でも当日、私はシャロアさんって呼ぶからシャロアちゃんはお義母様って呼んでね」
「もちろんです!」

それからグレイス夫人と当日のドレスやお茶に合うお菓子を考えて料理長と相談して決めていった。

我が家でもお茶会は少ないがたまにある。だが、全て母が仕切っているので私は詳しいことを知らなかったのよね。こうして一から教えてもらう事でまた一つ勉強になった。





迎えたお茶会当日。

「ようこそ、リンデル侯爵家へ」
「グレイス、お久しぶり。元気にしていたかしら?そちらのお嬢さんが噂の?」
「えぇ、そうよ。彼女がシャロア・エレゲン伯爵令嬢。私の義娘になる予定のご令嬢よ?まぁ、とにかく座って」

どうやら夫人は友人達に私のことを話していたみたい。今日の参加者は上位貴族の方々ばかり。けれど夫人のお友達と言う事もあってどの方も素敵な人達だったわ。

とても博識でいつも剣を振り回している私とは大違い。夫人たちは最近の流行や領地の話をしていたわ。
恥ずかし気も無く、と笑われてしまうかもしれないけれど、一杯聞いて教えてもらった。
やはり長年領地を治める生活しているせいか天候や流行などに敏感だと思う。

「グレイス、シャロア嬢が義娘になるなんて幸せね。侯爵家も安泰だわ」
「そうでしょう? ラダンが結婚することを諦めていたから婚約したい人がいると聞いて驚いたの。息子は人を見る目があったのだとちょっとホッとしたわ」

私達は和やかにお茶を飲んだ後、ごきげんようと夫人達は帰っていった。

「お義母様、今日は呼んでいただきありがとうございました。色々と勉強になりました。皆様とても博識で素晴らしい方ばかりでした」
「ふふっ、そうね。シャロアちゃんをみんなに自慢出来て良かったわ。結婚式までもう少しね。待ち遠しいわ」
「私も早くお義母様の足を引っ張らないよう勉強を頑張ります」
「嬉しいわ」

夫人の開いたお茶会は無事に終える事が出来てホッとする私。

翌日からまた夫人勉強に取り組む毎日。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

処理中です...