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「おはようございます。お嬢様」
カーテンが勢いよく開けられて目が覚める。私とした事が珍しくぐっすり寝すぎて寝過ごしてしまったみたい。
「ファルス、おはよう。すぐに着替えるわ」
私はいつものようにラフな服装にさっと着替えて練習場へと向かった。ファルスは昨日となんら変わりなく練習をこなしているわ。
私だったら興奮して眠れないかも?と思ったけれど、疲れてベッドに入ったらすぐに寝てしまうんだろうなぁ。私もトレーニングをこなしながらファルスに聞いてみる。
「ファルス、ビオレタには報告したの?」
「ん?母さんに?もちろんしたよ。一緒に魔法便で報奨金も送っといた」
「そうなの?親孝行なのね」
「マーロアだってそうだろう?何かにつけて母さんに送っているじゃないか」
「あら、知っていたの?」
「何年お前と一緒に過ごしているんだ?すぐわかるさ」
それもそうね、と笑い合いながらいつものメニューをこなしてから部屋に戻って学院の準備を始める。
「マーロアお嬢様、いってらっしゃいませ。昨日の今日ですし、お気をつけて下さいませ」
「……そうね。オットー行ってくるわ」
流石に今日は登校に馬車を使ったわ。道で声を掛けられて遅刻なんてもっての外よ。でもテスト前だから学院を休んでも問題ないのだけれどね。
「ファルス、もみくちゃにされないといいわね」
「そうだな。俺、寡黙な従者に徹するわ」
「ふふっ。寡黙ねぇ」
キリッと効果音が聞こえてきそうな程ファルスはポーズを決めている。
学院の入り口に着いたのでファルスのエスコートで馬車を降り、クラスへと歩き始める。昨日の今日なので生徒達が一斉に私達に視線が集まっているわ。去年は好奇の視線と好意的な視線が入り混じっていたけれど、今回は好意的な感じが多いわよね。
偶に私に睨むような冷たい視線を感じるわ。あれはファルスを慕う方々なのかしら。私は多くの視線を受けながらクラスへと入っていった。
「ファルス、優勝おめでとう」
シェルマン殿下の一声でクラスの皆が拍手と共におめでとうと声を掛ける。
「ありがとうございます。なんとか優勝する事が出来ました」
「ファルス、やっぱり強いな。今回、俺は準々決勝までいったんだがな。今度俺と勝負しようぜ」
ニコライ様が今にも対戦したくてウズウズしているわ。
「あーまた今度で。俺、試験勉強で忙しいんですよ。平民だから十位以内じゃないと困るんですよ」
「そ、そうか!そうだったな。試験が終わったらな」
ニコライ様の焦る様子を見て殿下やエレノア様達がフフッと笑い合っている。本当に良いクラスだと思う。そして授業が終わり、ファルスは騎士クラブに顔を出してから帰ると言っていたので私も付いていく事にしたの。
騎士クラブでは闘技大会に出ていた人達がワイワイと昨日の話をして盛り上がっていたようだ。ファルスを見るなり、上級生はあからさまに嫌がらせのように無視を決め込んでいたわ。
なんて嫌な奴等。
私は憤慨するけれど、ファルスはいつもの事だとあまり気にしていない様子。騎士クラブって貴族の遊びだったのね。
「あら、ここは騎士を目指す人達が集まるクラブでは無かったのかしら?平民が優勝したからって心折れてしまうほどのやわなクラブでしたのね」
「何だお前?喧嘩売っているのか?女のくせに騎士服着やがって」
上級生らしき男の一人が私に向かって言ってきた。
「あら、本当ではありませんか。騎士として恥ずかしくはありませんの?」
「うるせぇ!お前、ファルスの主人だろう。貴族なのに魔力無しなんだってな!笑えるぜ。おい、何とか言えよっ。エフセエ侯爵も落ちたもんだな」
彼の言葉に一緒につるんでいた生徒達が一斉に笑い始める。
……なんという事。
ファルスを馬鹿にするだけでなく我が家まで馬鹿にするとは。私は笑顔の裏で沸々と苛立ちが湧き上がってくる。
「ファルス、医務官と先生に知らせを」
私はそっとファルスに呟くとファルスは頭を下げて鳥を飛ばした。
「なんだお前、先生に告げ口か?弱いやつはピーピー煩いな。侯爵に泣きついたんだろう?」
「あら、私を知っていますの?昨年の闘技大会優勝者は私ですが」
「どうせずるしたんだろう。魔力無しで女のお前が俺らに勝てるわけがねぇんだよ」
そう言うと、周りが更に笑い始めた。私の我慢もそろそろ限界ね。
「なら剣を構えなさい。私のような女には負けないのでしょう?」
上級生を含む腕に自信のあろう生徒が二十人程私の前に出てきた。ニヤニヤしながら。一気に私に襲い掛かるつもりなのね。これが騎士になるなんて世も末ね。
「俺ら全員でお前の相手をしてやるよ。楽しみだ」
「……ゴミね」
私は模擬刀を取り、構えようとした時、
「止めてください。俺のせいで。怪我をしてしまいますから、止めてください」
ファルスは止めに入った。
「はっ。平民の従者風情が!そこをどけ。俺らはその女が気に入らねぇ」
ファルスの言葉で更に図に乗ったようだった。煽るファルスにフッと笑ってしまう。こればかりは仕方がないわよね。
「止めに入った私の従者を更に侮辱するなんて。私もあなた方を許す事は出来なさそうですわ。……では準備も出来たようですから私からいかせていただきますわ」
私は一瞬の間に彼らの後ろへ回り込み、峰打ちや平打ちで図に乗った生徒達を倒していく。抵抗する間も無く、あっという間に生徒達は倒れていった。あーあ、身体強化を使う間でも無かった。身体強化していたら首がもぎ取れていたかもしれないわね。
そうしていとも簡単に上級生達はやられてしまった。
「あっけないわ。本当に騎士を目指しているのかしら。学院卒業後、騎士団に入るつもりなの?」
私は一番侮辱した上級生の目の前に立ち、腹を蹴り上げる。
「マーロア嬢、君の怒りは収まったかい?」
その言葉に私は倒れている隣の上級生にも蹴りを入れようとしていたが、足を止めた。
「そうですね、怒りは収まりませんが殿下の顔を立ててこれくらいにしておきますわ」
そう、医務官と教師と共にやってきたのはシェルマン殿下だった。どうやら先生と職員室で話をしていた所、ファルスの鳥が飛んできたので一緒に来たみたい。
先生の顔は真っ赤になり、生徒達を叱り飛ばしている。
「ははっ。流石マーロア嬢。ファルス君もどうして止めに入らなかったんだい?」
「俺は止めましたよ?先輩方に怪我するから止めるようにって。それでも彼等は止めなかったんだから仕方がありません」
ファルスは肩をすくめてやれやれと医務官の手伝いに入る。シェルマン殿下は倒れている生徒達に向かってニッコリと微笑む。
「君たち、魔力の無い女の子に向かって剣を向けたんだね。それもこんなに大勢で。相手は一人なのにね。騎士道に反する者は王宮騎士団に必要ないかな。
あー、そうだ、いいことを思いついた。前期休暇もあることだから騎士の基礎の基礎から、一から叩き直す方がいいな。君達の憧れである騎士団と野営に行くのがいいかも。
それで鍛えなおして貰うといい。出来なければ退学かな。
マーロア嬢、これで怒りの矛を収めてくれるかい?」
殿下はいいアイデアが閃いたとばかりに笑顔でそう告げた。きっと魔獣相手の過酷な訓練になるに違いない。医務官やファルスに治療魔法を掛けて貰っている生徒達は皆青い顔を通り越して白くなって固まっているわ。
「勿論殿下の方針に従いますわ。……あぁ、忘れる前に!そこに倒れている方々には後で家から抗議が行きますので。では修行頑張って下さいませ。ファルス、行きましょう」
ファルスは医務官に引き渡そうと上級生を抱えていたが、ポイッと投げて私の後ろに立つ。従者モードに切り替わった。
「では、シェルマン殿下、先生方。私達はこれにて失礼を致しますわ。ごきげんよう」
「「「ごきげんよう、マーロア嬢」」」
その後、しっかりと父やオットーに報告し、我が家から各家に抗議の手紙を送ったのはいうまでもない。そして私が瞬殺してしまった事実を知った父は頭を抱えた事も。
後日、騎士クラブの方々から謝罪の手紙が沢山送られてきた。そしてどの手紙も野営強制参加を止めて欲しいと自分勝手に懇願する内容。弱くては人生、生き残れない。まぁ、頑張れとしか言いようが無いわ。
カーテンが勢いよく開けられて目が覚める。私とした事が珍しくぐっすり寝すぎて寝過ごしてしまったみたい。
「ファルス、おはよう。すぐに着替えるわ」
私はいつものようにラフな服装にさっと着替えて練習場へと向かった。ファルスは昨日となんら変わりなく練習をこなしているわ。
私だったら興奮して眠れないかも?と思ったけれど、疲れてベッドに入ったらすぐに寝てしまうんだろうなぁ。私もトレーニングをこなしながらファルスに聞いてみる。
「ファルス、ビオレタには報告したの?」
「ん?母さんに?もちろんしたよ。一緒に魔法便で報奨金も送っといた」
「そうなの?親孝行なのね」
「マーロアだってそうだろう?何かにつけて母さんに送っているじゃないか」
「あら、知っていたの?」
「何年お前と一緒に過ごしているんだ?すぐわかるさ」
それもそうね、と笑い合いながらいつものメニューをこなしてから部屋に戻って学院の準備を始める。
「マーロアお嬢様、いってらっしゃいませ。昨日の今日ですし、お気をつけて下さいませ」
「……そうね。オットー行ってくるわ」
流石に今日は登校に馬車を使ったわ。道で声を掛けられて遅刻なんてもっての外よ。でもテスト前だから学院を休んでも問題ないのだけれどね。
「ファルス、もみくちゃにされないといいわね」
「そうだな。俺、寡黙な従者に徹するわ」
「ふふっ。寡黙ねぇ」
キリッと効果音が聞こえてきそうな程ファルスはポーズを決めている。
学院の入り口に着いたのでファルスのエスコートで馬車を降り、クラスへと歩き始める。昨日の今日なので生徒達が一斉に私達に視線が集まっているわ。去年は好奇の視線と好意的な視線が入り混じっていたけれど、今回は好意的な感じが多いわよね。
偶に私に睨むような冷たい視線を感じるわ。あれはファルスを慕う方々なのかしら。私は多くの視線を受けながらクラスへと入っていった。
「ファルス、優勝おめでとう」
シェルマン殿下の一声でクラスの皆が拍手と共におめでとうと声を掛ける。
「ありがとうございます。なんとか優勝する事が出来ました」
「ファルス、やっぱり強いな。今回、俺は準々決勝までいったんだがな。今度俺と勝負しようぜ」
ニコライ様が今にも対戦したくてウズウズしているわ。
「あーまた今度で。俺、試験勉強で忙しいんですよ。平民だから十位以内じゃないと困るんですよ」
「そ、そうか!そうだったな。試験が終わったらな」
ニコライ様の焦る様子を見て殿下やエレノア様達がフフッと笑い合っている。本当に良いクラスだと思う。そして授業が終わり、ファルスは騎士クラブに顔を出してから帰ると言っていたので私も付いていく事にしたの。
騎士クラブでは闘技大会に出ていた人達がワイワイと昨日の話をして盛り上がっていたようだ。ファルスを見るなり、上級生はあからさまに嫌がらせのように無視を決め込んでいたわ。
なんて嫌な奴等。
私は憤慨するけれど、ファルスはいつもの事だとあまり気にしていない様子。騎士クラブって貴族の遊びだったのね。
「あら、ここは騎士を目指す人達が集まるクラブでは無かったのかしら?平民が優勝したからって心折れてしまうほどのやわなクラブでしたのね」
「何だお前?喧嘩売っているのか?女のくせに騎士服着やがって」
上級生らしき男の一人が私に向かって言ってきた。
「あら、本当ではありませんか。騎士として恥ずかしくはありませんの?」
「うるせぇ!お前、ファルスの主人だろう。貴族なのに魔力無しなんだってな!笑えるぜ。おい、何とか言えよっ。エフセエ侯爵も落ちたもんだな」
彼の言葉に一緒につるんでいた生徒達が一斉に笑い始める。
……なんという事。
ファルスを馬鹿にするだけでなく我が家まで馬鹿にするとは。私は笑顔の裏で沸々と苛立ちが湧き上がってくる。
「ファルス、医務官と先生に知らせを」
私はそっとファルスに呟くとファルスは頭を下げて鳥を飛ばした。
「なんだお前、先生に告げ口か?弱いやつはピーピー煩いな。侯爵に泣きついたんだろう?」
「あら、私を知っていますの?昨年の闘技大会優勝者は私ですが」
「どうせずるしたんだろう。魔力無しで女のお前が俺らに勝てるわけがねぇんだよ」
そう言うと、周りが更に笑い始めた。私の我慢もそろそろ限界ね。
「なら剣を構えなさい。私のような女には負けないのでしょう?」
上級生を含む腕に自信のあろう生徒が二十人程私の前に出てきた。ニヤニヤしながら。一気に私に襲い掛かるつもりなのね。これが騎士になるなんて世も末ね。
「俺ら全員でお前の相手をしてやるよ。楽しみだ」
「……ゴミね」
私は模擬刀を取り、構えようとした時、
「止めてください。俺のせいで。怪我をしてしまいますから、止めてください」
ファルスは止めに入った。
「はっ。平民の従者風情が!そこをどけ。俺らはその女が気に入らねぇ」
ファルスの言葉で更に図に乗ったようだった。煽るファルスにフッと笑ってしまう。こればかりは仕方がないわよね。
「止めに入った私の従者を更に侮辱するなんて。私もあなた方を許す事は出来なさそうですわ。……では準備も出来たようですから私からいかせていただきますわ」
私は一瞬の間に彼らの後ろへ回り込み、峰打ちや平打ちで図に乗った生徒達を倒していく。抵抗する間も無く、あっという間に生徒達は倒れていった。あーあ、身体強化を使う間でも無かった。身体強化していたら首がもぎ取れていたかもしれないわね。
そうしていとも簡単に上級生達はやられてしまった。
「あっけないわ。本当に騎士を目指しているのかしら。学院卒業後、騎士団に入るつもりなの?」
私は一番侮辱した上級生の目の前に立ち、腹を蹴り上げる。
「マーロア嬢、君の怒りは収まったかい?」
その言葉に私は倒れている隣の上級生にも蹴りを入れようとしていたが、足を止めた。
「そうですね、怒りは収まりませんが殿下の顔を立ててこれくらいにしておきますわ」
そう、医務官と教師と共にやってきたのはシェルマン殿下だった。どうやら先生と職員室で話をしていた所、ファルスの鳥が飛んできたので一緒に来たみたい。
先生の顔は真っ赤になり、生徒達を叱り飛ばしている。
「ははっ。流石マーロア嬢。ファルス君もどうして止めに入らなかったんだい?」
「俺は止めましたよ?先輩方に怪我するから止めるようにって。それでも彼等は止めなかったんだから仕方がありません」
ファルスは肩をすくめてやれやれと医務官の手伝いに入る。シェルマン殿下は倒れている生徒達に向かってニッコリと微笑む。
「君たち、魔力の無い女の子に向かって剣を向けたんだね。それもこんなに大勢で。相手は一人なのにね。騎士道に反する者は王宮騎士団に必要ないかな。
あー、そうだ、いいことを思いついた。前期休暇もあることだから騎士の基礎の基礎から、一から叩き直す方がいいな。君達の憧れである騎士団と野営に行くのがいいかも。
それで鍛えなおして貰うといい。出来なければ退学かな。
マーロア嬢、これで怒りの矛を収めてくれるかい?」
殿下はいいアイデアが閃いたとばかりに笑顔でそう告げた。きっと魔獣相手の過酷な訓練になるに違いない。医務官やファルスに治療魔法を掛けて貰っている生徒達は皆青い顔を通り越して白くなって固まっているわ。
「勿論殿下の方針に従いますわ。……あぁ、忘れる前に!そこに倒れている方々には後で家から抗議が行きますので。では修行頑張って下さいませ。ファルス、行きましょう」
ファルスは医務官に引き渡そうと上級生を抱えていたが、ポイッと投げて私の後ろに立つ。従者モードに切り替わった。
「では、シェルマン殿下、先生方。私達はこれにて失礼を致しますわ。ごきげんよう」
「「「ごきげんよう、マーロア嬢」」」
その後、しっかりと父やオットーに報告し、我が家から各家に抗議の手紙を送ったのはいうまでもない。そして私が瞬殺してしまった事実を知った父は頭を抱えた事も。
後日、騎士クラブの方々から謝罪の手紙が沢山送られてきた。そしてどの手紙も野営強制参加を止めて欲しいと自分勝手に懇願する内容。弱くては人生、生き残れない。まぁ、頑張れとしか言いようが無いわ。
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