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そして土井家の周辺への聞き込みを五軒ほど続けたが、みな隣人と同じような話をしていて特に目新しい情報は出てきていない。
俺はその後、水本第二小学校へと向かい、取材を試みた。だが、小学校や中学校は先生が転勤で移動があり、当時の話を知る先生は居なかった。
一番の古株だという先生から聞いても当時を担任していた先生達は皆、精神を病んで休職や退職していたので話を聞くのは難しいと言っていた。
担任が皆心を病む?
両親は先生に対して強い態度に出ていたのか?
それとも子供が問題児過ぎてクラスが大変だったのか?
疑問を抱えながら次に向かったのは青空保育園だ。
ここは建て替えをして綺麗になってはいるが、昔からある保育園ということだ。俺は予め連絡をしてから取材に向かった。
当時、ゆかりを担任していた先生は今主任になっていた。
保育園に着くと、主任は『立ち話もなんですから』と四畳ほどの狭い個室へと案内してくれた。
「あの、お名前をお聞きしてもいいですか?」
「すみません、言い忘れていましたね。私の名前は朝生かおりと言います」
取材に嫌な顔をせず対応してもらえたのは有難い。
五十代で白髪交じりの優しそうな先生だなという印象だ。彼女は土井ゆかりの一歳の時と五歳児の担任だったようだ。
朝生さんは畳の部屋で机を挟んで座った。
「どうぞ座って下さい。土井ゆかりちゃんのお話でしたね」
「はい。お時間を取らせて申し訳ないです。今回取材のご協力をありがとうございます」
俺はボイスレコーダーを机に置いてメモ帳を手に取り、一通り説明した後、取材を始めた。
「担任をされていたという話ですが、土井ゆかりのことは覚えていますか?」
「ええ、もちろん。保育士は自分が持った園児は殆ど覚えていますよ。特に手のかかった子は絶対に忘れないです」
朝生先生は昔を懐かしむようにふっと笑顔を見せた。
「早速で申し訳ありませんが、土井ゆかりはどんな園児でしたか?」
「ゆかりちゃんは今まで持った中で一位、二位を争うほど強烈な印象を与えた子でした」
「強烈な子?」
「ええ。彼女は一歳半で入園してきたんですが、こだわりが強くて、慣らし保育に二か月も掛ったんです。
保育園での食事が食べられなくてね、あの当時は家からふりかけを持ってきてもらってようやく食べるようになったの。そこからようやく慣らし保育が完了したんです」
「慣らし保育というのは?」
残念ながら俺は独身で保育園のことを良く知らないため聞いた。
「慣らし保育というのは子供も保護者も保育園の生活に慣れてもらうまでの短時間保育なんです。少しずつ時間を伸ばして子供が安心して保育園で過ごせるように慣れていくを慣らし保育っていいます」
「慣らし保育っていうのはどれくらいの期間するものなんですか?」
「一週間~十日程です。途中で病気になってしまうと伸びることはありますが、大体はそのまま通常の保育に移行します」
俺はその話を聞いて正直驚いた。一週間で済むのを二か月掛かったのか。それだけ手が掛かれば先生の記憶にも鮮明に残るだろうな。
「記憶に残るのは他にも?」
「ええ、とにかく暴力に対して何の抵抗感を抱かない子でした。これはお兄ちゃんも一緒でしたけどね」
「兄妹揃って、ですか?」
「お兄ちゃんはまたちょっと違うタイプなのですが、カッとなったらすぐ首を閉める子でした。ゆかりちゃんは急所を狙う子だった。
箸でお友達の目を刺そうとしたり、屈んだお友達の首に踵を落としたり、給食のお皿を目に投げつけたり、髪の毛を鷲掴みにして引きちぎったりと暴力行為は通常運転だったの。
年長さんになってからは少し落ち着いたけどね。普通なら小さい子って言葉が出ずにイライラして噛みついたり、押したりはするものだけど、急所を狙ってくるのは……ちょっとね」
すげえな、一体どんな子供だったんだ。俺は先生の話を聞いて驚きを隠せないでいた。
「年長に入ってから落ち着いたのはどうしてなんですか?」
「暴力行為は減りましたが、落ち着いてはいませんでしたよ。八時登園してお迎えは十九時を越えていたし、週六日の十一時間在園していたら誰だって疲れますよね。ゆかりちゃんも同じで疲れ切っていつもイライラしていました。
両親は週五日しか働いていないのに。可笑しいですよね。夜遅くに帰ってお父さんやお母さんとゆっくり過ごす時間はない。子供なりに信号を出していたんです。
それでお母さんの平日休みの日にゆかりちゃんだけの日を作ってもらうようにお願いしたんです。
自分だけをゆっくりと見てくれる時間が出来たことでかなり落ち着いたのを覚えています。
まあ、まさか大人になってあんな事件を起こすとは多少は予想していましたが、まぁ、なんていうか……」
言葉を濁しているが、先生の予見は当たったのだろう。普段から暴力に抵抗がなければいずれどこかで警察沙汰になると考えていてもおかしくはない。
朝生先生は彼女のことをしっかりと見ていたのだろうな。
俺はその後、水本第二小学校へと向かい、取材を試みた。だが、小学校や中学校は先生が転勤で移動があり、当時の話を知る先生は居なかった。
一番の古株だという先生から聞いても当時を担任していた先生達は皆、精神を病んで休職や退職していたので話を聞くのは難しいと言っていた。
担任が皆心を病む?
両親は先生に対して強い態度に出ていたのか?
それとも子供が問題児過ぎてクラスが大変だったのか?
疑問を抱えながら次に向かったのは青空保育園だ。
ここは建て替えをして綺麗になってはいるが、昔からある保育園ということだ。俺は予め連絡をしてから取材に向かった。
当時、ゆかりを担任していた先生は今主任になっていた。
保育園に着くと、主任は『立ち話もなんですから』と四畳ほどの狭い個室へと案内してくれた。
「あの、お名前をお聞きしてもいいですか?」
「すみません、言い忘れていましたね。私の名前は朝生かおりと言います」
取材に嫌な顔をせず対応してもらえたのは有難い。
五十代で白髪交じりの優しそうな先生だなという印象だ。彼女は土井ゆかりの一歳の時と五歳児の担任だったようだ。
朝生さんは畳の部屋で机を挟んで座った。
「どうぞ座って下さい。土井ゆかりちゃんのお話でしたね」
「はい。お時間を取らせて申し訳ないです。今回取材のご協力をありがとうございます」
俺はボイスレコーダーを机に置いてメモ帳を手に取り、一通り説明した後、取材を始めた。
「担任をされていたという話ですが、土井ゆかりのことは覚えていますか?」
「ええ、もちろん。保育士は自分が持った園児は殆ど覚えていますよ。特に手のかかった子は絶対に忘れないです」
朝生先生は昔を懐かしむようにふっと笑顔を見せた。
「早速で申し訳ありませんが、土井ゆかりはどんな園児でしたか?」
「ゆかりちゃんは今まで持った中で一位、二位を争うほど強烈な印象を与えた子でした」
「強烈な子?」
「ええ。彼女は一歳半で入園してきたんですが、こだわりが強くて、慣らし保育に二か月も掛ったんです。
保育園での食事が食べられなくてね、あの当時は家からふりかけを持ってきてもらってようやく食べるようになったの。そこからようやく慣らし保育が完了したんです」
「慣らし保育というのは?」
残念ながら俺は独身で保育園のことを良く知らないため聞いた。
「慣らし保育というのは子供も保護者も保育園の生活に慣れてもらうまでの短時間保育なんです。少しずつ時間を伸ばして子供が安心して保育園で過ごせるように慣れていくを慣らし保育っていいます」
「慣らし保育っていうのはどれくらいの期間するものなんですか?」
「一週間~十日程です。途中で病気になってしまうと伸びることはありますが、大体はそのまま通常の保育に移行します」
俺はその話を聞いて正直驚いた。一週間で済むのを二か月掛かったのか。それだけ手が掛かれば先生の記憶にも鮮明に残るだろうな。
「記憶に残るのは他にも?」
「ええ、とにかく暴力に対して何の抵抗感を抱かない子でした。これはお兄ちゃんも一緒でしたけどね」
「兄妹揃って、ですか?」
「お兄ちゃんはまたちょっと違うタイプなのですが、カッとなったらすぐ首を閉める子でした。ゆかりちゃんは急所を狙う子だった。
箸でお友達の目を刺そうとしたり、屈んだお友達の首に踵を落としたり、給食のお皿を目に投げつけたり、髪の毛を鷲掴みにして引きちぎったりと暴力行為は通常運転だったの。
年長さんになってからは少し落ち着いたけどね。普通なら小さい子って言葉が出ずにイライラして噛みついたり、押したりはするものだけど、急所を狙ってくるのは……ちょっとね」
すげえな、一体どんな子供だったんだ。俺は先生の話を聞いて驚きを隠せないでいた。
「年長に入ってから落ち着いたのはどうしてなんですか?」
「暴力行為は減りましたが、落ち着いてはいませんでしたよ。八時登園してお迎えは十九時を越えていたし、週六日の十一時間在園していたら誰だって疲れますよね。ゆかりちゃんも同じで疲れ切っていつもイライラしていました。
両親は週五日しか働いていないのに。可笑しいですよね。夜遅くに帰ってお父さんやお母さんとゆっくり過ごす時間はない。子供なりに信号を出していたんです。
それでお母さんの平日休みの日にゆかりちゃんだけの日を作ってもらうようにお願いしたんです。
自分だけをゆっくりと見てくれる時間が出来たことでかなり落ち着いたのを覚えています。
まあ、まさか大人になってあんな事件を起こすとは多少は予想していましたが、まぁ、なんていうか……」
言葉を濁しているが、先生の予見は当たったのだろう。普段から暴力に抵抗がなければいずれどこかで警察沙汰になると考えていてもおかしくはない。
朝生先生は彼女のことをしっかりと見ていたのだろうな。
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