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翌日、俺は元の担任に連絡し、取材する日時を決めた。最初は拒否感があるかと思ったが、やはり土井ゆかりは彼の中でも最も印象深い児童だったようだ。
取材当日。
俺はいつもの取材セットを抱え、ファミレスへとやってきた。
「あの、連れがいるんですが」
「あちらの方のお連れ様ですか?」
俺は電話で予め服装を聞いていたので彼がそうだとすぐに分かり、彼の元へと歩いていった。
「お待たせして申し訳ありません。森本哲太さんですよね?」
森本哲太という男は土井ゆかりの小学三年生のクラス担任だった男で現在は教師を辞め営業職に就いている。
教師の面影は残っていて細身だがとても精悍な顔つきで女性からはモテそうな感じだ。
「ええ。貴方が佐光さん?」
「はい、週刊アラカシの佐光と言います。わざわざ来てもらってありがとうございます」
俺はいつものようにボイスレコーダーを置いて説明をした上で了解を取り、取材を始めた。
「土井ゆかりは当時、どんな小学生でしたか?」
「勉強も運動もそこそこにはできていたと思う。ただ、臆病な一面もあって慣れるまでは運動に一切参加しなかったかな。あの子はいい子だったが、興奮した時に他の子供たちと違った怖さを感じたよ」
「興奮した時、ですか?」
「ええ。例えばポートボールをした時、自分のチームの子がボールを相手チームに奪われると怒りで奪った子の背中を押して転ばせてその上に馬乗りになって頭を何度も殴りつけたことがあったんだ」
「そんなことがあったんですね。興奮しなければ暴力は振るわなかったんですか?」
「いや、他の女子達が可愛い文房具を持っていたりすると、その子にめがけて持っていた物で殴ったこともあった。
大体は支援員が止めていたので問題にはなっていなかったな」
「支援員が付いたのはいつからですか?」
「入学当初から。保育園と教育委員会からの申し送りで支援員が付いていた。
まあ、お兄ちゃんも毎日職員室で名前が出ない日はないほどの問題児だったから妹が入学してくると聞いただけで全職員が警戒するのは当たり前だな。ああ、これが当時のゆかりさんの写真だよ」
俺は見せられた写真をカメラで撮った。
クラス写真で彼女は三列ある中の二列目の一番端で友達と少し距離を取って映っていた。
「この写真、ゆかりさんは少し離れているだろう? これは横にいた友達が気に食わなくて大変だったんだ。
俺が『もっと左に寄って』と指示しても行かないので副担任が彼女の肩をトントンと軽くたたいて『寄ってちょうだい』って言ったらお友達の顔を殴ってしまい……。
あれには焦ったね。なんで? って言葉が出たのを今でも覚えている」
彼は苦笑しながら詳しく話してくれる。やはりここでも土井ゆかりは暴力に関してストッパーがあまり掛からない子だったのだろうと感じる。
「他の担任だった先生達の現在はどうされているんですか?」
「さあ、俺はクラスのおかげで精神を病んで退職したから他の先生の話は知らない。俺も若かったから続けるほどの余裕はなかった。他の先生も結構苦労していたと思うよ」
「失礼なことをお聞きしますが、教師を辞めた理由をお聞きしても?やはり土井ゆかりが問題を起こしていたからですか?」
俺は少し突っ込んだ話を聞いた。
精神を病むほどのことだ。本来ならあまり口にしたくはないのかもしれない。だが、彼は昔のことだと割り切っているようで笑顔で話してくれた。
「俺が教師を辞めた理由は確かに土井さんが問題児だったのも原因の一つだ。彼女が他害する度に相手の保護者に連絡し、謝罪していた。自分が悪いことをしたわけでもないのに謝罪するって結構ストレスなんだよ。
あとは教師の仕事自体も忙しくて書類や研究会、クラブ活動もあって身体を休める間がなかった。体力だけは自信があったんだが、流石に休む時間がないと身体に変調が出てきて。
そこに問題行動が目立つ子の個別の計画や対応も加わってくる。彼女一人だけならまだ良かったんだけど、ちょうどクラスに発達障害の診断が降りた子供が他にも三人ほどいて俺の処理能力が追いつかなかった。
ある日、いつものように土井さんの家に連絡し、その日の行動を説明したんだ。
家に帰る頃には疲れ切っていて身体が重いなーって思っていたんだが、翌朝ベッドから起き上がれなくなった。
なんとか家族に支えられて病院にかかったんだけど、鬱だと診断されて任期の途中で休養せざるを得なくなって教師を辞めることになった。妻の助けもあって今はこうして働けるようになったが。あの時は本当に大変だったな」
彼は当時のことを思い出したように呟いた。
「そうだったんですね。土井ゆかりの親はどんな感じだったんですか?」
「ゆかりさんもそうだけど、お兄ちゃんの方も毎日何かしら問題を起こしていたと話をしたでしょう? ほぼ毎日兄ちゃんの担任が電話していたし、月一回は親との面談もあった。
だけど、親の反応は暖簾に腕押しという状態だったんだ。
ゆかりさんのことは年長時に保育士が指摘してようやく母親は危機意識をぼんやり持ったくらいだったようだ。
俺が電話で話をしたときも『……はあ、そうですか。……はあ、すみません』と生返事しかしていなかったしな。
面談をお願いしても忙しいと伸ばして、伸ばしてようやくこぎつける感じ。
結局父親は一度も面談にこられたことはない。『ゆかりさんの問題行動の話をして家庭ではどうですか?』と聞くと話をしてくれるが、逆に聞かないと話さない。
問題意識を持っていないというかなんというか。関わってほしくないという感じをヒシヒシと感じていた。被害者の親は怒鳴りこんでくるし、辛かったな」
「そうだったんですね」
森本さんは当時を思い出すような仕草をしながら話をしていて嘘を付いているようには見えない。朝生かおりも同じだった。
やはり当時から教師達はクレームや子供達に怪我がないよう神経をすり減らしていたんだな。
取材当日。
俺はいつもの取材セットを抱え、ファミレスへとやってきた。
「あの、連れがいるんですが」
「あちらの方のお連れ様ですか?」
俺は電話で予め服装を聞いていたので彼がそうだとすぐに分かり、彼の元へと歩いていった。
「お待たせして申し訳ありません。森本哲太さんですよね?」
森本哲太という男は土井ゆかりの小学三年生のクラス担任だった男で現在は教師を辞め営業職に就いている。
教師の面影は残っていて細身だがとても精悍な顔つきで女性からはモテそうな感じだ。
「ええ。貴方が佐光さん?」
「はい、週刊アラカシの佐光と言います。わざわざ来てもらってありがとうございます」
俺はいつものようにボイスレコーダーを置いて説明をした上で了解を取り、取材を始めた。
「土井ゆかりは当時、どんな小学生でしたか?」
「勉強も運動もそこそこにはできていたと思う。ただ、臆病な一面もあって慣れるまでは運動に一切参加しなかったかな。あの子はいい子だったが、興奮した時に他の子供たちと違った怖さを感じたよ」
「興奮した時、ですか?」
「ええ。例えばポートボールをした時、自分のチームの子がボールを相手チームに奪われると怒りで奪った子の背中を押して転ばせてその上に馬乗りになって頭を何度も殴りつけたことがあったんだ」
「そんなことがあったんですね。興奮しなければ暴力は振るわなかったんですか?」
「いや、他の女子達が可愛い文房具を持っていたりすると、その子にめがけて持っていた物で殴ったこともあった。
大体は支援員が止めていたので問題にはなっていなかったな」
「支援員が付いたのはいつからですか?」
「入学当初から。保育園と教育委員会からの申し送りで支援員が付いていた。
まあ、お兄ちゃんも毎日職員室で名前が出ない日はないほどの問題児だったから妹が入学してくると聞いただけで全職員が警戒するのは当たり前だな。ああ、これが当時のゆかりさんの写真だよ」
俺は見せられた写真をカメラで撮った。
クラス写真で彼女は三列ある中の二列目の一番端で友達と少し距離を取って映っていた。
「この写真、ゆかりさんは少し離れているだろう? これは横にいた友達が気に食わなくて大変だったんだ。
俺が『もっと左に寄って』と指示しても行かないので副担任が彼女の肩をトントンと軽くたたいて『寄ってちょうだい』って言ったらお友達の顔を殴ってしまい……。
あれには焦ったね。なんで? って言葉が出たのを今でも覚えている」
彼は苦笑しながら詳しく話してくれる。やはりここでも土井ゆかりは暴力に関してストッパーがあまり掛からない子だったのだろうと感じる。
「他の担任だった先生達の現在はどうされているんですか?」
「さあ、俺はクラスのおかげで精神を病んで退職したから他の先生の話は知らない。俺も若かったから続けるほどの余裕はなかった。他の先生も結構苦労していたと思うよ」
「失礼なことをお聞きしますが、教師を辞めた理由をお聞きしても?やはり土井ゆかりが問題を起こしていたからですか?」
俺は少し突っ込んだ話を聞いた。
精神を病むほどのことだ。本来ならあまり口にしたくはないのかもしれない。だが、彼は昔のことだと割り切っているようで笑顔で話してくれた。
「俺が教師を辞めた理由は確かに土井さんが問題児だったのも原因の一つだ。彼女が他害する度に相手の保護者に連絡し、謝罪していた。自分が悪いことをしたわけでもないのに謝罪するって結構ストレスなんだよ。
あとは教師の仕事自体も忙しくて書類や研究会、クラブ活動もあって身体を休める間がなかった。体力だけは自信があったんだが、流石に休む時間がないと身体に変調が出てきて。
そこに問題行動が目立つ子の個別の計画や対応も加わってくる。彼女一人だけならまだ良かったんだけど、ちょうどクラスに発達障害の診断が降りた子供が他にも三人ほどいて俺の処理能力が追いつかなかった。
ある日、いつものように土井さんの家に連絡し、その日の行動を説明したんだ。
家に帰る頃には疲れ切っていて身体が重いなーって思っていたんだが、翌朝ベッドから起き上がれなくなった。
なんとか家族に支えられて病院にかかったんだけど、鬱だと診断されて任期の途中で休養せざるを得なくなって教師を辞めることになった。妻の助けもあって今はこうして働けるようになったが。あの時は本当に大変だったな」
彼は当時のことを思い出したように呟いた。
「そうだったんですね。土井ゆかりの親はどんな感じだったんですか?」
「ゆかりさんもそうだけど、お兄ちゃんの方も毎日何かしら問題を起こしていたと話をしたでしょう? ほぼ毎日兄ちゃんの担任が電話していたし、月一回は親との面談もあった。
だけど、親の反応は暖簾に腕押しという状態だったんだ。
ゆかりさんのことは年長時に保育士が指摘してようやく母親は危機意識をぼんやり持ったくらいだったようだ。
俺が電話で話をしたときも『……はあ、そうですか。……はあ、すみません』と生返事しかしていなかったしな。
面談をお願いしても忙しいと伸ばして、伸ばしてようやくこぎつける感じ。
結局父親は一度も面談にこられたことはない。『ゆかりさんの問題行動の話をして家庭ではどうですか?』と聞くと話をしてくれるが、逆に聞かないと話さない。
問題意識を持っていないというかなんというか。関わってほしくないという感じをヒシヒシと感じていた。被害者の親は怒鳴りこんでくるし、辛かったな」
「そうだったんですね」
森本さんは当時を思い出すような仕草をしながら話をしていて嘘を付いているようには見えない。朝生かおりも同じだった。
やはり当時から教師達はクレームや子供達に怪我がないよう神経をすり減らしていたんだな。
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