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俺はホテルへ戻り、報告書を書き上げたら上司へ送信し、電話した。
「おお、佐光。どうだ?」
「今のところ順調に取材は出来ているっす。でも、聞けば聞くほど土井ゆかりの家庭環境が気になるっす。
父親の話がどこからも聞こえてこないっすね。後回しにしていた職場の方もそろそろあたった方がいいかな。土井ゆかりの同級生で彼女と連絡を取っていたのが立花綾乃という人物です。住所、分かります?」
「ああ、後で住所をメールで送っておく。父親の職場も当たれるか?」
「OKっす」
「引き続き頼んだ」
「了解っす」
俺は電話を切ってベッドに寝転がった。
森本哲太の話を聞く限りでは兄妹揃って当時からおかしなやつだったんだろう。
兄は研究員になったはずだ。研究に打ち込んでいる分、会話がなくても問題なくやっていけているのだろうか?
やはり疑問が浮かぶばかりで答えは見つかりそうにないな。
翌日、ホテルから少し離れた場所に土井ゆかりの父、土井啓介が務めている会社、広実建設にやってきた。
広実建設は地元では有名な会社で数年前に上場したほどだ。県内に三か所の支店があり、土井啓介も忙しく働いているのだろう。
「週刊アラカシの佐光と言います。下田さんはいらっしゃいますか?」
「下田ですね。暫くお待ちください」
受付の四十代と思われる髪の長い女性は俺が週刊誌の記者だと名乗ると眉間に皺をよせながらも対応してくれている。
土井ゆかりの事件で父親の方にも記者が挙ってここにやってきたのだろう。事前に連絡をしておいて良かった。
「佐光様、こちらへどうぞ」
受付の女性は商談室へと通してくれた。
商談室は光を取り込む設計がされていて、明るく落ち着いた雰囲気の部屋だ。そしてモスグリーンの布地に木目調で揃えられたソファとテーブルが置いてあり、恰幅の良いスーツ姿の男性が座っている。
「下田さんですか? 今日は取材に時間を取っていただきありがとうございます」
「連絡をいただいた佐光さんですね。どうぞ、そちらに座って下さい」
下田さんは優しそうな笑顔で俺に座るように促した。席に着くと、受付の女性がお茶を出してくれた。置かれたお茶に口を付けた後、女性にお礼を言う。
「お茶、美味しいです」
「あ、いえ、ありがとうございます」
すると先ほどまで良い顔をしていなかった受付の女性はふっと笑顔を溢し、受付に戻っていった。
彼と名刺を交換し、軽い雑談から話をはじめた。
「あの事件からこちらの会社には記者が沢山来て大変だったでしょう?」
「そうですね。土井ゆかりの父は一体どんな父親だったのかと聞いてましたね」
事前に連絡した時に『土井啓介はこの会社に務めているが、今は沿岸部へ転勤していて、ここで取材を受けるから彼に直接取材することは遠慮してほしい』と言われた。
そんな話を無視して父親の住んでいる場所を調べて張りこみ、直接取材をしようかと思ったが、とりあえず指示には従う。
この取材で疑いや疑問が浮かべば直接取材する予定だが。
「では、取材を開始します。まず、下田さんと土井啓介さんはどのような関係ですか?」
俺はいつものようにボイスレコーダーを起動させ、取材を始めた。彼も何度も取材を受けていたのだろう。
手慣れたように答えてくれる。
「私は土井君の元上司にあたります。彼は部署が何度か変わりましたが ここに新入社員の頃からいるんで良く知っていますよ」
下田さんは笑顔で話をしてくれる。
「現在、土井啓介さんはどのような状態なんですか?」
「彼は、娘さんが事件を起こしたので精神的に参っています。たまに連絡を取って状況を聞きますが仕事は問題なくこなしているようです」
少し困ったような表情を見せる下田さんは感情が豊かなようだ。
「下田さんから見た彼はどんな性格ですか?」
「少し変わったやつですが、仕事は出来るし面白い男だと思っています」
「女性関係はどうでしたか?」
彼は一瞬言葉を詰まらせたが、『分からない』と答えた。その一瞬に俺は何かを隠しているのではないかと感じる。
「土井啓介さんと奥さんの夫婦仲はどうでしたか?」
「さあ? 同僚の話では恐妻家だとは聞きましたが」
「恐妻家、ですか?」
「ええ。喧嘩をしてスマホを壁に投げられたとか、顔に怪我をして出勤してきたとか聞いたことはあります。
まあ、よくあるかはどうか分かりませんが、夫婦喧嘩なんてどこの家庭でもよくある話でしょうし、仕事場に持ち込まなければ問題はないです」
俺は下田さんの言葉が引っ掛かり、少し突っ込んで聞いてみる。
下田さんは彼を庇っているのか、本当に関心がないと思っているのか。
それにしても聞いていた話とは正反対だ。
幼稚園の先生や小学校の先生と随分違った印象を受ける。
どちらが嘘をついているんだろうか?
それとも旦那の方が自分を良く見せるために大げさに妻を下げているのだろうか。
「旦那さんではなく、奥さんが手を出すんですか?」
「そうです」
もしかして夫婦共に子供の目の前で暴力をしていた可能性もあるな。下田さんの表情と詰まった言葉をチェックするようにメモを取っていく。
「おお、佐光。どうだ?」
「今のところ順調に取材は出来ているっす。でも、聞けば聞くほど土井ゆかりの家庭環境が気になるっす。
父親の話がどこからも聞こえてこないっすね。後回しにしていた職場の方もそろそろあたった方がいいかな。土井ゆかりの同級生で彼女と連絡を取っていたのが立花綾乃という人物です。住所、分かります?」
「ああ、後で住所をメールで送っておく。父親の職場も当たれるか?」
「OKっす」
「引き続き頼んだ」
「了解っす」
俺は電話を切ってベッドに寝転がった。
森本哲太の話を聞く限りでは兄妹揃って当時からおかしなやつだったんだろう。
兄は研究員になったはずだ。研究に打ち込んでいる分、会話がなくても問題なくやっていけているのだろうか?
やはり疑問が浮かぶばかりで答えは見つかりそうにないな。
翌日、ホテルから少し離れた場所に土井ゆかりの父、土井啓介が務めている会社、広実建設にやってきた。
広実建設は地元では有名な会社で数年前に上場したほどだ。県内に三か所の支店があり、土井啓介も忙しく働いているのだろう。
「週刊アラカシの佐光と言います。下田さんはいらっしゃいますか?」
「下田ですね。暫くお待ちください」
受付の四十代と思われる髪の長い女性は俺が週刊誌の記者だと名乗ると眉間に皺をよせながらも対応してくれている。
土井ゆかりの事件で父親の方にも記者が挙ってここにやってきたのだろう。事前に連絡をしておいて良かった。
「佐光様、こちらへどうぞ」
受付の女性は商談室へと通してくれた。
商談室は光を取り込む設計がされていて、明るく落ち着いた雰囲気の部屋だ。そしてモスグリーンの布地に木目調で揃えられたソファとテーブルが置いてあり、恰幅の良いスーツ姿の男性が座っている。
「下田さんですか? 今日は取材に時間を取っていただきありがとうございます」
「連絡をいただいた佐光さんですね。どうぞ、そちらに座って下さい」
下田さんは優しそうな笑顔で俺に座るように促した。席に着くと、受付の女性がお茶を出してくれた。置かれたお茶に口を付けた後、女性にお礼を言う。
「お茶、美味しいです」
「あ、いえ、ありがとうございます」
すると先ほどまで良い顔をしていなかった受付の女性はふっと笑顔を溢し、受付に戻っていった。
彼と名刺を交換し、軽い雑談から話をはじめた。
「あの事件からこちらの会社には記者が沢山来て大変だったでしょう?」
「そうですね。土井ゆかりの父は一体どんな父親だったのかと聞いてましたね」
事前に連絡した時に『土井啓介はこの会社に務めているが、今は沿岸部へ転勤していて、ここで取材を受けるから彼に直接取材することは遠慮してほしい』と言われた。
そんな話を無視して父親の住んでいる場所を調べて張りこみ、直接取材をしようかと思ったが、とりあえず指示には従う。
この取材で疑いや疑問が浮かべば直接取材する予定だが。
「では、取材を開始します。まず、下田さんと土井啓介さんはどのような関係ですか?」
俺はいつものようにボイスレコーダーを起動させ、取材を始めた。彼も何度も取材を受けていたのだろう。
手慣れたように答えてくれる。
「私は土井君の元上司にあたります。彼は部署が何度か変わりましたが ここに新入社員の頃からいるんで良く知っていますよ」
下田さんは笑顔で話をしてくれる。
「現在、土井啓介さんはどのような状態なんですか?」
「彼は、娘さんが事件を起こしたので精神的に参っています。たまに連絡を取って状況を聞きますが仕事は問題なくこなしているようです」
少し困ったような表情を見せる下田さんは感情が豊かなようだ。
「下田さんから見た彼はどんな性格ですか?」
「少し変わったやつですが、仕事は出来るし面白い男だと思っています」
「女性関係はどうでしたか?」
彼は一瞬言葉を詰まらせたが、『分からない』と答えた。その一瞬に俺は何かを隠しているのではないかと感じる。
「土井啓介さんと奥さんの夫婦仲はどうでしたか?」
「さあ? 同僚の話では恐妻家だとは聞きましたが」
「恐妻家、ですか?」
「ええ。喧嘩をしてスマホを壁に投げられたとか、顔に怪我をして出勤してきたとか聞いたことはあります。
まあ、よくあるかはどうか分かりませんが、夫婦喧嘩なんてどこの家庭でもよくある話でしょうし、仕事場に持ち込まなければ問題はないです」
俺は下田さんの言葉が引っ掛かり、少し突っ込んで聞いてみる。
下田さんは彼を庇っているのか、本当に関心がないと思っているのか。
それにしても聞いていた話とは正反対だ。
幼稚園の先生や小学校の先生と随分違った印象を受ける。
どちらが嘘をついているんだろうか?
それとも旦那の方が自分を良く見せるために大げさに妻を下げているのだろうか。
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