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翌日ホテルから出てレンタカーを借り、土井ゆかりの実家に向かった。
土井ゆかりの実家は前回と同様に変わった様子はない。昼下がりのせいか通行人もおらず静かなものだ。
俺は覚悟を決めてペン型のボイスレコーダーを胸ポケットに挿し、起動させておく。
いつもの取材であればそんなことはしないのだが、やはり土井正樹の忠告や親戚の言葉がどこかで俺の頭に残っていたからだ。
これが都心部周辺ならカメラマンとして同僚を連れて二人で取材をしていたが、生憎と取材費はそこまでの費用が出ないので仕方がない。
俺は車を駐車場に停め、インターホンを押した。
「……はい」
暫くすると、インターホンから声が返ってきた。
心臓が高ぶるのを抑えながら口を開く。
「あの、週刊アラカシの佐光といいます。取材させてもらいにきました」
「扉は開けていますのでそのまま入って下さい」
「わかりました」
そのまま勝手に入っていいものなのか?
普通は玄関扉を開けてどうぞって言うもんじゃないのか?
俺は不審に思いながらもインターホン越しに聞こえてきた指示に従い、玄関の扉をガチャリと開けた。
「失礼します」
玄関扉を開けると、やや狭いがごく普通の、掃除の行き届いた玄関だ。
漆喰なのか白い壁に背丈ほどの靴箱が目に入る。そして猫の絵が描かれた玄関マットの上に一組のスリッパが準備されていた。
これを履いて入ればいいのか?
他所の家に勝手に入るのはやはり気が引けてしまうが、そのまま入れっていうんだし、後で文句言うなよ! と思いながら靴を脱いでスリッパを履いてキョロキョロと見回しながら入っていく。
間違えて目的の部屋に入ってしまうかとも思ったが、すぐに土井佐奈子のいる部屋は分かった。
玄関から右手にガラスがはめ込まれたドアが開かれたからだ。
「あなたが佐光さん?」
声を掛けてきたのは白髪混じりの短髪で細身の女性だった。
「土井ゆかりさんの母、佐奈子さんですか?」
「ええ、そうよ。こちらにどうぞ」
「失礼します」
土井佐奈子は顔色を変えることなく俺は部屋に通された。
「そこに座って」
促されて入った部屋はリビングだった。
南からの採光を考えられた作りにはなっているようだが、遮光カーテンが締め切られ、昼間にも拘わらず電気が付いていた。
対面キッチンと木目調のローテーブルとソファ、大きな花柄が特徴のカーテンで落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そうして部屋に入ってこっそり観察していると小さな違和感を覚えた。
どう言い表せばいいのかわからないほどの小さな違和感だ。
長年人が住んでいれば生活感が出てくる。だが、生活感はあるのだが、一人暮らしなのか? と思えるような感じだ。
何処がどうとは形容しにくいがなんとなく、だ。
俺は全く関心のない素振りでソファに座ると、佐奈子はキッチンからコーヒーとケーキを持って向いに座った。
俺は改めて姿勢を正し、佐奈子にまず取材を受けてくれたことの感謝を伝えた。
「今回、ゆかりさんのことで取材をお受けいただき、ありがとうございます」
すると佐奈子はふっと笑顔になり、口を開いた。
「受ける前に確認しておきたいんですが、取材に使う物をテーブルの上に乗せて下さい。あれでしょう? 取材って言ったらボイスレコーダーとか、スマホとか使うんですよね?」
「ええ、もちろん正確な情報を記録するために必要な物ですから」
「一応確認しておきたいの。もちろん全てを話すには信用したいし、それくらいのことはできるわよね?」
笑顔でそう言う佐奈子に俺の頭の片隅で警戒音が鳴り響く。
危険だと。
佐奈子を刺激しないように俺は鞄からいつもの取材セットを出し、テーブルにスマホを置いた。
「その、胸ポケットに挿しているものは?」
俺は務めて冷静に胸ポケットのペン型のレコーダーを取って見せる。
「これはボールペンですよ」
テーブルに置いた手帳に円を書いて見せると、本人は納得したようだ。
「これは予備のペンでいつもここに挿しているんです」
そう言いながら胸ポケットに挿しなおした。
佐奈子はボイスレコーダーを手に取り、スイッチを確認したり、スマホを手に取り録音したりしているかどうか確認している。
「鞄の中は? ポケットの中身も全部出して」
「鞄とポケットですか?」
俺は鞄を開いて危険物はないだろうと見せ、ポケットの中身も出してみせた。
佐奈子は何をそんなに警戒しているんだ?
彼女は疑問に答えるわけもなくただ笑顔を浮かべている。
よく見ると、柔和な笑顔を浮かべているが目が笑っていない。
これはもしかしなくても本当にヤバイんじゃないか。
俺は佐奈子を刺激しないようにしながらどう取材を切り上げるかと頭の中をフル回転させていく。
彼女の顔をよく見ていないと気づかなかったかもしれない。
俺はたまたま土井正樹の忠告や上司の忠告で注意を怠らなかったから気づけたようなもんだ。
「どうですか? 全く問題は無かったでしょう?」
「ええ、そうね」
俺はテーブルに出したスマホを鞄に入れ、ボイスレコーダーを手元に置こうとした時、向いに座っていた佐奈子が突然立ち上がった。
どうしたんですか? と声を掛けようと思った瞬間だった。
土井ゆかりの実家は前回と同様に変わった様子はない。昼下がりのせいか通行人もおらず静かなものだ。
俺は覚悟を決めてペン型のボイスレコーダーを胸ポケットに挿し、起動させておく。
いつもの取材であればそんなことはしないのだが、やはり土井正樹の忠告や親戚の言葉がどこかで俺の頭に残っていたからだ。
これが都心部周辺ならカメラマンとして同僚を連れて二人で取材をしていたが、生憎と取材費はそこまでの費用が出ないので仕方がない。
俺は車を駐車場に停め、インターホンを押した。
「……はい」
暫くすると、インターホンから声が返ってきた。
心臓が高ぶるのを抑えながら口を開く。
「あの、週刊アラカシの佐光といいます。取材させてもらいにきました」
「扉は開けていますのでそのまま入って下さい」
「わかりました」
そのまま勝手に入っていいものなのか?
普通は玄関扉を開けてどうぞって言うもんじゃないのか?
俺は不審に思いながらもインターホン越しに聞こえてきた指示に従い、玄関の扉をガチャリと開けた。
「失礼します」
玄関扉を開けると、やや狭いがごく普通の、掃除の行き届いた玄関だ。
漆喰なのか白い壁に背丈ほどの靴箱が目に入る。そして猫の絵が描かれた玄関マットの上に一組のスリッパが準備されていた。
これを履いて入ればいいのか?
他所の家に勝手に入るのはやはり気が引けてしまうが、そのまま入れっていうんだし、後で文句言うなよ! と思いながら靴を脱いでスリッパを履いてキョロキョロと見回しながら入っていく。
間違えて目的の部屋に入ってしまうかとも思ったが、すぐに土井佐奈子のいる部屋は分かった。
玄関から右手にガラスがはめ込まれたドアが開かれたからだ。
「あなたが佐光さん?」
声を掛けてきたのは白髪混じりの短髪で細身の女性だった。
「土井ゆかりさんの母、佐奈子さんですか?」
「ええ、そうよ。こちらにどうぞ」
「失礼します」
土井佐奈子は顔色を変えることなく俺は部屋に通された。
「そこに座って」
促されて入った部屋はリビングだった。
南からの採光を考えられた作りにはなっているようだが、遮光カーテンが締め切られ、昼間にも拘わらず電気が付いていた。
対面キッチンと木目調のローテーブルとソファ、大きな花柄が特徴のカーテンで落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そうして部屋に入ってこっそり観察していると小さな違和感を覚えた。
どう言い表せばいいのかわからないほどの小さな違和感だ。
長年人が住んでいれば生活感が出てくる。だが、生活感はあるのだが、一人暮らしなのか? と思えるような感じだ。
何処がどうとは形容しにくいがなんとなく、だ。
俺は全く関心のない素振りでソファに座ると、佐奈子はキッチンからコーヒーとケーキを持って向いに座った。
俺は改めて姿勢を正し、佐奈子にまず取材を受けてくれたことの感謝を伝えた。
「今回、ゆかりさんのことで取材をお受けいただき、ありがとうございます」
すると佐奈子はふっと笑顔になり、口を開いた。
「受ける前に確認しておきたいんですが、取材に使う物をテーブルの上に乗せて下さい。あれでしょう? 取材って言ったらボイスレコーダーとか、スマホとか使うんですよね?」
「ええ、もちろん正確な情報を記録するために必要な物ですから」
「一応確認しておきたいの。もちろん全てを話すには信用したいし、それくらいのことはできるわよね?」
笑顔でそう言う佐奈子に俺の頭の片隅で警戒音が鳴り響く。
危険だと。
佐奈子を刺激しないように俺は鞄からいつもの取材セットを出し、テーブルにスマホを置いた。
「その、胸ポケットに挿しているものは?」
俺は務めて冷静に胸ポケットのペン型のレコーダーを取って見せる。
「これはボールペンですよ」
テーブルに置いた手帳に円を書いて見せると、本人は納得したようだ。
「これは予備のペンでいつもここに挿しているんです」
そう言いながら胸ポケットに挿しなおした。
佐奈子はボイスレコーダーを手に取り、スイッチを確認したり、スマホを手に取り録音したりしているかどうか確認している。
「鞄の中は? ポケットの中身も全部出して」
「鞄とポケットですか?」
俺は鞄を開いて危険物はないだろうと見せ、ポケットの中身も出してみせた。
佐奈子は何をそんなに警戒しているんだ?
彼女は疑問に答えるわけもなくただ笑顔を浮かべている。
よく見ると、柔和な笑顔を浮かべているが目が笑っていない。
これはもしかしなくても本当にヤバイんじゃないか。
俺は佐奈子を刺激しないようにしながらどう取材を切り上げるかと頭の中をフル回転させていく。
彼女の顔をよく見ていないと気づかなかったかもしれない。
俺はたまたま土井正樹の忠告や上司の忠告で注意を怠らなかったから気づけたようなもんだ。
「どうですか? 全く問題は無かったでしょう?」
「ええ、そうね」
俺はテーブルに出したスマホを鞄に入れ、ボイスレコーダーを手元に置こうとした時、向いに座っていた佐奈子が突然立ち上がった。
どうしたんですか? と声を掛けようと思った瞬間だった。
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