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16 ユーグの記憶 不老薬の知識
しおりを挟む「クロエディッタ、また無理をしているんじゃないか?」
「ユーグさん! 大丈夫です。あのときはたまたまですから」
「だといいんだけど。無理は禁物だ」
「はいっ」
そんな気軽な言葉を交わせるくらいには親しくなっている。
クロエディッタはエティ師匠の知識を自分の物にするため、昼夜問わず寝食を忘れ全てを紙に書き起こしたり、畑の薬草を全て使い、薬を作ったりと中々に破天荒な存在だった。
ユーグ師匠は彼女の破天荒ぶりに心配し、時には叱ることもあった。
私から見ると、人間味の薄いユーグ師匠は彼女のおかげで人間らしい感情が出てきたように思える。
クロエディッタの存在がユーグ師匠を作ったのかもしれない。
「クロエ、今回の調合はちょっと難しいから手伝って欲しいんだ」
「どんな薬を作るんですか?」
「今、北部の村では嘔吐、下痢の流行り病が広がっているんだ。薬師たちは薬を作って北部に送っているが、数が間に合わない。
魔女の村や我々王宮の魔法使いたちにも薬の要請が来た。本来なら薬師の仕事で我々は手伝うことなんてしないんだけど、どうも魔法使いが一枚絡んでいるらしいんだ」
「魔法使いが絡むとどうなるんですか?」
「流行病の感染が倍増するといっていい。とにかく感染力が桁違いになる。このままでは北部以外にも広まり、死者が増え国は成り立たなくなってくる」
「そうなんですね。私達は流行病の薬を作ればいいんですか?」
「私達の作る薬は魔法を無効化できる薬だ」
「ユーグ様のような魔法使いが現地まで行って魔法を唱えてしまえば終わりじゃないんですね」
「そういった方法もあるが、村人を一か所に集めて魔法を掛けたところでどうしても漏れが出てしまう。魔法で感染力を抑えたところで病がたちどころに治るということはない。
返って病を移され王都に持ち帰ってきてしまう危険性もあるから推奨はされていないんだ」
「確かにそうですね。ではどうやって無効化する薬を現地で使うんですか? 薬を配布する時に一緒に飲ませるとか」
「井戸だ。井戸に直接投げ入れる。そのため水中で効果が持続する薬を作る必要がある」
「ユーグさん……。それって」
「ああ、そうだ。大罪の水の作り方だ」
「危険ではないんですか?」
「もちろんヒャビクという動物の血を使う訳ではないし、薬草を混ぜて作る。問題はない。実際試しに一つ作って飲ませてみたからね」
ユーグ師匠は笑顔でさらりとまた凄いことを言ってのけた。
大罪の水の作り、それを基に薬を作ったのだ。そしてそれを誰かに飲ませている。
きっと国にいる犯罪者を実験台にしているのだと思うんだけど、笑顔でやってしまうところがなんともユーグ師匠らしい。
倫理観を持ち合わせていないのだろうか。
いや、理解はしていると思う。人々のためにという大儀があるからなのかな。
どちらにせよ師匠は変人だと言われる所以は既にこの頃からだったのかもしれない。
クロエディッタは若干引いたような顔をしているけれど、人々のために薬を作っているユーグ師匠に苦言を呈することはなかった。
そうして基となる薬を作り上げ、王宮の魔法使いや魔女の村の魔女たちと共に薬を作り、北部へ薬を配布しにいく騎士たちに渡した。
王都はしばらく流行病の話で持ち切りだったけれど、薬のおかげで収束してきたようだ。
ある日、ユーグ師匠がクロエディッタの家にいった時のこと。
「ユーグさん、エティ師匠の知識の中には若返りの薬はなかったんですが、エティ師匠は亡くなるまで二十代の姿でしたよね? あれはどうやっていたんですか?」
「知識がないってことは偶然の産物だったんじゃないかな。だから再現が出来なかったから知識として残っていない」
「偶然の産物……。女性にとって不老は夢のまた夢ですね。いつまでも美しくありたい」
「クロエなら完成させられるんじゃないか?」
「私にできるでしょうか?」
クロエディッタは少し困った表情をしながらも意欲はあるようだ。
「不老不死は人間の永遠のテーマだ。若返りや時間を止めること、永遠の命、どれか一つでも克服できれば偉大なる魔法使いの仲間入りだろう」
「私、頑張ってみますね」
クロエディッタはその日から若返りの研究を始めた。
エティ師匠は偶然の産物だったようだけれど、手元にあった薬草類は紙に書いて残っていたのでその紙から研究を始めたようだ。
ユーグ師匠はというと、大罪の水の研究をしているようだ。飲まされた時の対処法や無効化する魔法や薬などの研究だ。
基本的に魔女や魔法使いは知識の継承を基に依頼を受け、薬を調合し、生活をしている。
そのため新たな薬や魔法の研究などはあまりしていない。だからと言って興味がないわけではないのだ。
サーデル様や王宮魔法使いたちが研究し、その後、魔女や魔法使いの集会で研究結果を公表し、新しい情報を取り込んでいく。
その中でも人気のものはやはり若さに関係する薬や魔法だ。
昔に比べると徐々にだが寿命は伸びてはいるけれど、まだ憶測の域は出ていない。
確か師匠は二百年くらい生きてきたから研究の成果は出ているかな。
でも不老不死じゃなかった。
師匠は白髪のおじいさんだったもの。
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