最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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19 大魔法使いの誕生

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 知識の継承を終えた私は改めて家の中を見回した。

 かつて私が暮らしていた家。エティ師匠、サーデル様、ユーグ師匠。みんなこの家の歴史の一部だ。

 ゆっくりと起き上がり、キッチンへと立った。

 今回はどれくらい経ったのか少し不安だったけれど、キッチンに置いていた野菜の具合からしても一日、二日といったところだろう。

 私はまず何からはじめようか。
 あ、そうだ!

 不老不死の研究を始める前に、王宮へ行かなければいけないんだったっけ。

 あとは、訪ねてきた令嬢の件だよね。

 師匠の記憶と自分の記憶がたまに混ざりそうになるけれど、定着していけば混乱することもなくなるはずだよね。

 私は正式な魔女の服を着てローブを羽織り、準備をする。

 師匠の記憶があるおかげで王宮がどんなものかは理解しているし、魔法使い総団長の部屋がどこにあるかも理解している。知識だけなら場所が分からずに困るかもしれない。

 師匠には感謝しかないよね。

 こうして私は準備を終えて王宮へ転移した。



 転移したのは王宮の玄関口の広間だった。

 私の恰好を見た騎士たちは突然現れた私を止めようとはしなかった。

「ここが王宮! 凄い。記憶はあるけど、実際に来てみると感じがこんなにも違うんだ」

 私は見るもの全てに圧倒されながら王宮の魔法使い棟へと歩いていく。

 中庭を眺めながら通路を歩いていると、通り過ぎていく文官や貴族たちは一様に私の髪色を見て顔を顰めているけれど、特に何かをしてくるわけではなかった。

 私は迷うことなく魔法使い棟の入口までやってきた。

 ここまで来ると魔法使いが出入りしているため私という違和感があまりないようにも思えたけれど、どうやら私が思っていただけのようだ。

 受付にいる魔法使いも部屋の中にいる魔法使いたちもみな明るい髪の色ばかりだ。

「……あの、モンシェール・グリフィッド魔法使い総団長はいますか?」
「失礼ですが、貴女は?」

 受付の魔法使いに聞いたのは間違いだったのかも。私を見るなり眉を顰め、明らかに嫌そうな態度をしている。

「グリフィッド様は誰ともお会いになりません」
「彼に来るように言われたんですけど」
「私は聞いておりませんので。お帰り下さい」

 彼の態度に苛立ちを感じ始める。どうしても私を通したくないようだ。私は鞄から手紙を出して見せると、受付の彼はそれを魔法で燃やしてしまった。

「ちょっと! 何するのっ」

 驚いて大きな声で燃えカスとなった手紙を手に取る。

「あんたはここに呼ばれてないんだよ。いいか、忌み子、ここはお前の来るところじゃない。帰れよ」

 受付の魔法使いは馬鹿にしたようなセリフを吐いた。

 ……これは怒っていいところよね。

 師匠なら即刻締め上げていただろう。

 知識の継承を行う前の私なら怖くて森に帰っていたかもしれない。けれど、師匠の記憶を見ている私にとってここは舐められてはいけないところだと理解している。

 私は身体から魔力を放出しはじめ、限界まで圧縮した火球を手のひらから出した。

「お前、何様だ。私はユーグ・イグナーツ・フュルヒテゴット・ヴィンツェンツの意志を継ぐ者だ。私の邪魔をするのなら消し飛べ」

 私がそう言うと、「ひっ」と彼は短く言葉を発し、後ずさった。

 その時、私の魔力を感知したらしく、白髪で長い口ひげを蓄えた細身の魔法使いが転移魔法で現れた。

「クロエ殿、ここで遊んでおられましたか」

 彼こそがここ王宮魔法使い総団長のモンシェール・グリフィッドだ。

 私はモンシェール魔法使い総団長が来たため、その場で火を消し、放出していた魔力を体内に収めた。

「はじめましてモンシェール・グリフィッド魔法使い総団長さん。貴方に呼ばれたのでここに来てみればとんだ扱いを今、ここで受けていたの。周りも私の髪を見てひそひそしてるし、知らん顔で酷いもんだよ」
「若いやつらが申し訳ない。ラルド、こやつを下げろ」
「はっ」

 ラルドと呼ばれた男の人はどうやらモンシェール魔法使い総団長の副官のようだ。

「クロエ殿、さあ、こちらへ」

 私はモンシェール魔法使い総団長に連れられて、彼の執務室へと入っていった。

 受付の人は悔しそうにラルドさんに食ってかかっているのが視界の端に映った。



「クロエ殿、どうぞ」

 私はソファへ座ると、モンシェール魔法使い総団長自らがお茶を淹れてくれる。

「モンシェール魔法使い総団長、私が淹れるよ。身体が、大変でしょう?」
「……やはり貴女には分かりましたか」
「よく保っているよね」

 彼もユーグ師匠と同じように寿命を伸ばす方法を取っているが、本来の寿命はもっと前に尽きていたのかもしれない。

 彼の身体を覆う魔力は弱々しく、少しのことで途絶えてしまいそうな感じが見て取れた。

「私の身体の具合が見れるのは王族と貴女くらいですよ」
「たしかに。私はユーグ師匠と同程度の魔力を持っているからね。どうする?」
「……私には弟子がおりません。ですがもう少しだけ、ここの魔法使いの者たちを導いてやらねばならないと思っています。先ほど貴女が見た通り、彼らはまだまだ経験が浅く、何も理解していない」

 モンシェール魔法使い総団長はこれからのことを憂いているようにゆっくりと息を吐いた。

「先ほどいたラルドという人?」
「彼は優秀だが、まだ若い。若さゆえ甘いところがある。儂はラルドを後継者として育てているのだが、まだ一人前にはほど遠い状態だ。知識の継承を行えば違うのですが、不安は消えない。クロエ殿。しばらくの間、ここ王宮の魔法使い総団長になってもらえませんか?」

「彼が育つまで?」
「ええ、そうです。クロエ殿はまだまだ若い。だが、誰よりも知識も魔女としても文句の付けようがない」

 私はモンシェール魔法使い総団長の言葉を受けて考える。彼の寿命をもう少し伸ばすのは彼の希望だ。

 寿命を伸ばしたとしても動き回るには身体が付いていかないだろう。彼が亡くなるまでにその間に先ほど会ったラルドという人を育てる。

 私も魔女の一人としてモンシェール魔法使い総団長の手伝いをするということだ。

 これは魔女の村で代々、魔女たちが協力し合っていたことだ。拒否することはない。ユーグ師匠もサーデル様やエティ師匠、サティア様たちはそうやっていた。

 だけど、私にできるだろうか。

 私はまだ十四歳で、ここ魔法使い棟の誰よりも若い。そして黒髪に黒目を持つ忌み子だ。貴族で構成された魔法使いたちが私に従うだろうか。
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