最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

文字の大きさ
60 / 62
新章 切掛

60 家族会議

しおりを挟む
「では採寸に入りますね」

 キャリーさんはてきぱきと採寸し、紙に書き留めていく。そして採寸後にデザインを描き始めた。

「これ、いいんじゃないか?」

 いつの間にかユーグ王子は食事を終え、何枚も描かれたデザインのうちの一枚を取り、キャリーさんに声をかけた。

「私もそのデザインがクロエ様に一番似合うと思っております」
「あと、これと、これも」

 ユーグ王子は迷いがないようで次々にデザインを選んでいく。

「……ではそのデザインでドレスを作らせていただきます」
「ああ、キャリー。金に糸目はつけない」
「ありがとうございます! 国内一、いや、世界一素敵なドレスを作ってみせます」

 キャリーさんは満面の笑みを浮かべ、デザインが描かれた紙を全て鞄に入れていた。

「では頼んだぞ」

 ユーグ王子はキャリーさんを転移させた。

 迷いなく相手を転移させているのが師匠らしい。

 私は五百年も生きてきていまだに人を転移させるのは得意ではない。

 私はさっきの方法でユーグ王子が持ってきた騎士服に着替えた。

「さて、クロエ。久々に王宮へ行くか」

 彼はそう言いながら立ち上がり、私の傍に来た。

「そうだね。ジルディット陛下たちが首を長くして待ってるしね」
「あー面倒だ」
「行くよ」
「ああ、待ってくれ」

 ユーグ王子はそう言うと、私をぎゅっと抱きしめて頬にキスをする。

「クロエ、俺はお前が好きだ。お前しか見ていない。そのことを忘れるなよ」
「……わかってる」

 顔に熱が集まるのを感じる。

「じゃあ、行くか」

 私たちは王宮のジルディット陛下のもとへ転移した。

「ユーグ、もう大丈夫なの!?」

 ふわりと風に運ばれて薔薇の香りがする。

 私たちが転移した先は王族専用の区画にある中庭だった。

 そこにはジルディット陛下やメルローズ妃、アルノルド王太子がそこでお茶をしていたようだ。

「ああ、母上。俺はもう大丈夫だ」
「お隣にいるのは誰かしら?」
「彼女は魔女クロエ様だ。この姿が本来の姿。俺の最愛だ」

 ユーグ王子は私の腰を抱き、私を見つめながらメルローズ妃に話をしている。

「クロエ様、どういうことでしょうか? なぜユーグがクロエ様を最愛と言っているのですか?」

 メルローズ妃は怪訝な顔をしながら私に聞いてきた。

「さあ? メルローズ妃はユーグ王子がお腹にいる時から違和感を抱いていたんじゃない? 生まれた時に彼の肩には印があった。

 遅かれ早かれ、封印は解かれる。封印は彼の前世の記憶だった。ただそれだけだよ。私はただ見守っていただけに過ぎない。選んだのは彼自身だからね」

 私の言葉に思う部分があったようで、メルローズ妃は言葉に詰まっている。

「この際だから言いますが、ユーグは第二王子です。平民のクロエ様を愛妾に迎えるのは歓迎しません」
「母上、何か、勘違いをしているな。俺はクロエ様を愛妾になんて迎えるつもりはない。私が生まれる前からも、そして今、これからもクロエだけだ」

 ユーグ王子がそう言うと、ジルディット陛下もアルノルド王太子も渋い顔をしている。

「ユーグよ、ではポストマ公爵令嬢はどうするのだ?」
「兄上、俺は眠りにつく前に父に伝えたはずだが? 彼女に興味はない。彼女のためにも一刻も早く婚約解消をした方がいい」

「だが、公爵家から多額の支援を受けているのは事実だ。今更なかったことにはできないだろう」

 アルノルド王太子は腕を組み、婚約解消には否定的なようだ。

 ジルディット陛下は魔法によって生活が一変することを理解している。

 そのため私という存在が国にとって重要人物であることを理解し、ユーグ王子が眠りについている間に婚約破棄に動いていることも知っている。

「父上の方が知識のある魔術師がどれほど重要なことなのかを理解している。兄上、公爵家からの支援は打ち切っても構わない。俺とクロエでその支援額を上回る収益をだせるからな」

 ユーグ王子は従者が用意した椅子に座った。

 私も隣に椅子が用意されたので座ろうとすると、彼は腰をグイッと引っ張り、私はユーグ王子の膝の上に座ることになった。

 そして私の髪を撫で、頬を触り、家族の前で見せつけるような仕草をしている。

「どういうことだ? たかだか数十名しかいない魔術師の魔法で何ができるというんだ」

 兄であるアルノルド王太子はユーグ王子の態度に眉間に皺を寄せ、苛立ちはじめているようだ。

 ユーグ王子はというと、余裕のある様子でポケットから一つの小瓶をジルディット陛下に投げて寄越した。

「……ユーグよ、これはなんだ?」
「これは研究途中の若返りの薬ですよ。父上」
 ユーグ王子の言葉にメルローズ妃が目を見開いた。
「若返りの薬、だと?」

「ええ。寿命が延びるわけではないが、これを肌に付けると数日間は十代の頃の肌に戻るというものだ」
「ユーグ、貸してみなさい」

 メルローズ妃がそう言って自分の侍女に液体を使わせてみた。古くから王妃に仕えている侍女で彼女のことを信頼している。

 侍女は数滴、顔に塗り広げると、淡い光が顔を包み、瞬く間にシミや皺がなくなり、十代の女性の顔になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん
恋愛
五年間の婚約を、一夜で破棄された。 理由は「家格の不一致」。 傷ついた翌朝、私は泣くのをやめて仕事着を着た。 王立文書院の渉外部職員として、今日も書類と向き合う。それだけでいいと思っていた。 出勤すると、一枚の張り紙があった。 新長官着任。エドワード・ヴァルツ・シュタイン侯爵。 昨夜の晩餐会で、遠くに座っていた「氷の侯爵」がそのまま上司になった。 彼は口数が少なく、笑わず、感情を見せない。 でも仕事の評価だけは正確だった。 「君の報告書は読みやすい」「渉外部はあの職員が要になっている」——誰かに選ばれたくて生きてきたわけではないのに、仕事を通じて初めて、自分の輪郭がはっきりしてくる気がした。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

処理中です...