まさか猫種の私が聖女なんですか?

まるねこ

文字の大きさ
64 / 125

64 フォード伯爵

しおりを挟む
「ナーニョ様、お待たせしました。お食事をお持ちいたしました」

 私は眠い目を擦りつつ、扉を開けて神官たちを部屋に入れた。

「先ほどはすぐに戻ってごめんなさい。本当なら怪我人の状態を確認しなければいけないのですが、旅の疲れもあって……」
「いえいえ、こちらの方こそ無理をさせて申し訳ありません」

 修道女はテーブルの上に食事を置いていく。

「怪我人の方はどうですか? 魔法が効かなかった方はいましたか?」
「いえ、みなさん怪我が治りほとんどの者が喜んで家に戻りました。重傷者もかなりよくなり、何もしなくても二、三か月で自宅に戻れると思います」

「それは良かった。街の人たちの治療についてなのですが、エサイアス様と滞在中の話し合いができればいいと思っております」

「先ほどエサイアス様から知らせがありました。この後、滞在計画を領主と話をするそうなので私たちも参加したほうが良さそうですね」
「そうでしたか。私も急いで食事を済ませますね」

 私は用意された質素な食事を食べ始めた。

 この街の木は実を付ける物が多いようで食事にもふんだんに取り入れられていた。食事をしている間に魔力もかなり回復し、ホッとする。

 その後、神官と一緒に駐屯地に向かった。

「ナーニョ様! 言ってくれれば迎えに行ったのに」
「エサイアス様、私こそ領主との話し合いに立ち合いたいとわがままを言ってしまったのですから」

 エサイアス様は笑顔で手を差し出した。

「では一緒に参りましょうか」
「はい」

 私はエサイアス様の手の温もりを感じながら馬車までエスコートされ、神殿の馬車に乗り、領主の邸へと向かう。

 カラカラと馬車の軽快に道を進む音を耳にしながら神官に聞いてみた。

「神官、ここの領主はどのような方なのですか?」
「領主のケインズ・ソール・フォード伯爵はとても物静かで芸術を好む方ですね。ただ、魔獣が出た時は自ら先陣に立ち、民を守る素晴らしい人です。

 領主の鏡と言っても過言ではありません。近年、魔獣との怪我で子息も大怪我を負い、自らも足を失われてからはあまり邸から出てこないです」

 神官は沈痛な面持ちでそう話す。

 神官の様子から見てフォード伯爵はみんなに慕われていたのだろう。

 子息はどのような怪我だったのだろうか。
 その事に触れても大丈夫だろうか。

 不安になりながらも私たちは領主の邸へと到着した。

「王宮騎士団のエサイアス様ですね。お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」

 私たちは執事の案内で応接室に案内された。すぐに領主のフォード伯爵がやってきた。

 彼の身体は大きく、ケイルート兄様のような雰囲気の持ち主だ。優しい顔つきで心地良い感じがする。

 そう思ったのは私だけかもしれないが。そして目についたのは彼の右の足が膝上から無い。

 普段は義足で生活しているのだろう。

「初めまして。王宮騎士団第十二団騎士団団長エサイアス・ローズルード・シルドアと申します。今回の巡視の責任者を務めております。そして横にいらっしゃるのがナーニョ・ヘルノルド・アローゼン王女です」

「ナーニョ・ヘルノルド・アローゼンです。今回の巡視を受け入れて下さりありがとうございます。巡視に同行するにあたり怪我の治療を担当しております。よろしくお願いいたします」

「!?」

 フォード伯爵はぎょっとしたように動きを止め、私を見て驚いている。
 まぁそうだろう。

 人間の頭には無い物が付いているのだ。それなのにアローゼンと名乗っている。

「貴女様が噂の王女様ですか。先ほどから騒がしかったのもそのせいか」
「ケインズ様、ナーニョ様が怪我人を治療して下さったのです!」
「そう、でしたか。ありがとうございます。あの、その耳と尻尾は本物なのでしょうか?」

 伯爵は耳と尻尾をちらりと見て聞いてきた。私としては慣れた質問だ。

「えぇ、私は落ち人です。猫種の獣人です。つい最近、養女となりました。私は騎士団と共に行動し、魔法で怪我を治療したり、戦闘に参加したりする予定です」

 私は笑顔でそう言うと、隣にいたエサイアス様が驚き、視線を送ってきた。

 彼は私を戦闘に参加させる気は微塵も考えていなかったようだ。

 あくまで後ろで控えて怪我人の治療に当たる事を考えていたのだと思う。

「勇ましい王女様ですね。私としては巡視を歓迎しています。どうか滞在中、なんなりとお申し付け下さい」

 私たちは軽く挨拶を済ませた。もちろん私の滞在が神殿になることも話はしている。

 そして大まかな巡視の日程をエサイアス様と話をしていた。

 二週間程度の滞在で魔獣の出没具合により滞在期間の切り上げや延長もあるようだ。そして私は毎日エサイアス様に同行する。

 街に戻ってからは魔力が無くなるまで怪我人の治療に当たることも話をした。

 その話を聞いた神官はとても興奮し、先ほどの怪我人の治療の様子を伯爵に熱く語った。

 彼はフムフムと興味深そうに神官様の話を聞いていた。

「あ、あのっ。フォード伯爵、右足が義足だとお見受けします。先ほど怪我人を治療したのでどこまで魔力が持つかわかりませんが、治療しても宜しいですか?」
「……それは、本当ですか? 良いのですか?」
「えぇ、もちろんです。お隣に移動しても?」
「!! お、お願いします」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...