まさか猫種の私が聖女なんですか?

まるねこ

文字の大きさ
78 / 125

78 トエモロストロ

しおりを挟む
 私はエサイアス様のことが心配でローニャから送られてきた果物を小さく切り分けた後、そっとエサイアスの部屋に入った。

 部屋はランタンが一つ付いているだけの暗い部屋だ。

 ランタンの光がぼんやりと私の影を映し出している。彼は寝ているようだ。熱のためか、寝汗を掻き、うなされている。

 ベッド脇のテーブルに果物を置いて、私はエサイアス様の身体を濡れたタオルで拭いていく。

「ナ、ナーニョ、さま?」
「起こしてしまい、すみません。エサイアス様のことが心配で来てしまいました。お水は飲まれますか?」
「ああ、冷たい水が飲みたいな」

 私はターランの指輪で冷えた水をコップに注ぎ、エサイアスに差し出した。

「ああ、美味しい。とっても美味しい」
「果物も食べますか? さっき切ったばかりです。口当たりが良くてすっきりしますよ」
「ああ、いただこう」

 私はフォークで果物を刺して、エサイアス様にあーんと言って果物を口に運ぶ。

「……お、美味しい。だ、だが、こ、これくらいは自分で食べられる」

 エサイアス様は視線を泳がせながらそう言った。

「あ、そうですよね。ついついローニャと同じようにしてしまいました。ごめんなさい」
「いいんだ。全然いいんだ。むしろ嬉しいからっ」

 エサイアス様はアワアワと取り繕うように話す。

「それにしてもこれだけ騎士たちが罹っているのにナーニョ様は罹らないんだな。不思議だ」
「……私が獣人だから、かもしれません」
「獣人は病に罹りにくいの?」

「罹らない訳ではないんです。けれど、病気になることはあまりありませんね。身体を冷やせば風邪になりますけどね」

 そこはやはり種族の違いが大きく出ているのかもしれない。

「そうそう、先ほどローニャから新しい指輪が届きました。もう今日は遅いですから明日指輪を使ってみますね」
「どんな指輪なんだい?」

「病原菌死滅という指輪らしいです。死滅ってなんだか怖い感じですよね。とても扱いが難しい魔法らしいので魔力が満タンになってから使おうと思っています」

「病原菌死滅? この病気に効くかもしれないのか。これで流行り病が治るとすればまた一つ奇跡を起こしたということになる。ますます君は聖女として有名になってしまうんじゃないか」
「ふふっ。私は聖女なんて立派な人ではありませんよ。こうして私の周りの人が怪我をしたり、病気になったりするのを見たくないだけですから。さぁ、お話もまた明日にしましょう。今日はゆっくり休んで下さいね」
「ナーニョ様、ありがとう」

 私は部屋へ戻り、ベッドに入った。

 翌日はいつもよりゆっくりと起きて食堂へと向かった。

 病に罹っていない騎士たちが食事の準備をしていたので急いで手伝う。騎士たちに食事を持っていった後、私もゆっくりと食堂で食事を摂った。

「さて、そろそろ魔力も回復したわ」

 私はトエモノストロの指輪を付けてから騎士たちの手紙を籠に入れ、一部屋ずつ回って手紙を渡す。

 家族からの手紙を喜ぶ騎士たち。その姿を見るだけで本当に良かったと思う。そして最初の部屋で病気に罹った六人の騎士に告げた。

「今から病気を治したいと思います。ですが、これは新しい魔法ですのでどこまで効果があるか分かりません。それでも受けますか?」
「……どのような魔法なのでしょうか?」
「体内にいる病原菌というばい菌を死滅させるのです」

「上手くいけばすぐに治る、という事でしょうか?」
「身体の中にいる菌が死ぬので治ると思いますが、菌が悪さをしてダメージを負った身体は、ヒエロスでの治療か安静にする必要があります。この魔法に効果があった場合、他の方への治療も行います。その場合、ヒエロスでの治療はできないので体力が戻る二、三日は安静にするしかありません」
「俺は受けたいです」
「俺も受けます」

 ゴホゴホと咳き込みながら騎士たちは答えた。六人みんな治療を受けてくれるようだ。

「分かりました。では治療しますね。では始めます」

 指輪を通して魔力を流すと、青い光が瞬時に六人を包んだ。赤や薄いピンクに淡く光って見えるのはきっと私だけだろう。魔力が病原菌に反応しているように見える。

 人間はいくつもの菌がいるようだ。
 それも数えきれない。

 だけど、六人に同じような色の菌があり、肺や身体の中の血を取り囲むように見える色がある。

 きっとこれだ。

 私はその色に向かって唱える。
『トエモノストロ』と。

 すると彼らを包んでいた魔力は詠唱と共にその色に向かっていく。シュンと音を立てて煙のようにそれはすぐ消えていった。

「治療は終わりました。気分が悪いとかありますか?」
「いえ、何も。今ので終わったのですか??」

 彼らにとっては青い光と身体中から煙が出て行ったように見えたようだ。

 ばい菌が死滅したけれど、すぐに効果は分からないので半日ほど様子を見る。

 全ての菌を死滅させるとどうなるんだろう?
 あまり良くない気がする。
 人間の身体で悪さをしている菌が取り除ければいい。

 流行り病に使う魔法だから全ての菌を死滅させることは魔力を多く使い非効率だと思う。

「治療は終了しました。半日様子をみるのでこのままゆっくり過ごして下さいね。何かあればすぐに呼んで下さい」
「わかりました。ナーニョ様、ありがとうございます」

 私は一旦部屋を出て全ての手紙を配り終えた後、エサイアス様の元へ向かった。

「エサイアス様、体調はどうですか?」
「……」

 エサイアス様は咳が酷く、とても苦しそうだ。

 どうしよう。
 今、騎士たちを治療したばかりで効果が分からない。けれどこんなにもぐったりしているエサイアス様を見るのは初めてだ。

 このまま半日様子見をしていて大丈夫なのだろうか。不安になる。

 明らかに昨日よりも状態が悪くなっている。薬は効いていないのか。

 どうしよう、どうしよう。

 エサイアス様がもし、居なくなってしまったら……。

 不安で泣きたくなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...