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本編
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「ツィリル陛下、私はこの塔で千年を越える時を過ごしてきたわ。こうなる前、つまり、私の首と身体が繋がっていた頃はこの国の王女だったの」
「昨日、ブラッドローも言っていた。どういう事なの?」
子供のように聞いてくる陛下が微笑ましい。
「私はサロメラ国の第三側妃から生まれたラナ・トラーゴ・オリベラというわ。
私の父、カルシオン王は正妃と政略結婚だったの。正妃は気性が荒くていつも父は困っていたわ。
そして正妃は父に愛されている側妃達に次々と毒を盛った。
第一側妃は無くなり、第二側妃は後宮に篭り、私の母は離宮へ逃げた。
兄達は皆優しかったわ。正妃に殺された兄もいるけれど。
そして正妃が産んだ王子がいたの。私はその王子の罠に陥れられたの。
多くの民を虐殺した罪に問われ、『永久(とこしえ)の首』という刑に処されたの。
そして首だけの魔女になった。
表向きの理由としてはね」
「表向き? 裏があるの?」
「それは、私が教会から神託を受けた子供だからよ」
「神託? その内容は?」
「『王女は魔法使いを復活させた後、悪しき物を消滅させ、この国を守るだろう』と神託があったの。
王国、というより当時はこの世界に魔法使いは沢山居たわ。魔法使いが居なくなる世界、それはずっと後の世界だと父も考えた。
そして月日は流れ、ツィリル王子がこの塔へとやってきたわ」
「貴方の話でこの世界に魔法使いが居なくなったことを知ったの。だから貴方達に魔法を教えたわ」
「でも、首だけのラナがどうやって魔物と対峙するの? 出来ないよね?」
ツィリル陛下は疑問を口にする。
「それは、「それは俺が答えよう」」
ブラッドローは私をベッドにそっと置いて陛下へと話し始めた。
「俺もラナと同じ精霊の祝福を受けた魔法使いだ。
王家の秘術を使い、こうして転生を果たした。
俺は生まれてからずっとラナの身体を探し、ようやく見つけた。そしてラナを迎えに来た」
「ちょっと待ってくれ、精霊の祝福とは何だ? 今居る魔法使いは魔法使いではないのか?」
「ああ、魔法使いになるには基本的に師匠が必要だ。
一人前に育て上げ、精霊の泉に弟子が入り、弟子が無事に精霊の祝福を受けるよう師匠が魔力を代償に契約を結ぶ。
ツィリル陛下はラナが師匠だ。
だが、彼女にはそれだけの魔法を使う事が出来なかったから陛下は祝福を受けていない。まあ、今のこの時代、代償を払わずに魔法使いを名乗っても問題はないだろうな」
「祝福を受けるとどうなるのだ? それに代償とは?」
「祝福を受けるとどのような効果があるのかは人によるわ。分かっているのは魔力が何倍も増加するという事かしら。代償は、魔法使いの師匠は三年間一切の魔力が無くなる事よ」
私がそう言うと、ツィリル陛下は驚いている。
「ラナの祝福は、一体何?」
「私の祝福はね、多分だけれど、精神を崩壊させない事だと思っているわ。そうでもしないとこの長い年月を一人で乗り越える事は出来ていないもの」
「他の祝福を受けた魔法使いが居ないのは何故なの?」
「それは転生や記憶の引継ぎなどの祝福が無かったからだろう。
俺も最近転生したばかりで理由は分からないが精霊の祝福の儀式を行う魔法使いが居なくなったか、祝福を行う泉に何かが起こったのだろうな」
「それでも魔法を使わなくなる理由がない。今でもこうして私は使えている。ずっと人間は魔力を保有し続けてきた」
「それは多分だが、騎士団と魔法使いの間で諍いが起こったのだろう。当時は祝福を受けなくてもほぼ全ての貴族は魔法が使えた。騎士達もだ。
魔法使いなど要らぬとでも言って廃れていって徐々に魔法使いは減り、忘却魔法でも使ったのではないか?
魔法自体も騎士達や聖女の活躍で影が薄くなって消えていったのだろう。まぁ、真相は分からないが」
「ラナの身体を取り戻したらどうなるのかな?」
「私の魔力が元に戻ればブラッドローと一緒に魔獣に力を与えている物を消しに行くわ」
「目星は付いているの?」
「そうね、きっと分かるわ。ブラッドもそれなりに感じているのでしょう?」
「俺はラナほど魔力があるわけじゃないが、何となく気配は分かる」
「悔しい。僕はラナの役に立てない」
「そんな事は無いわ。ツィリル陛下は立派に国を治めているじゃない。子供もいるのでしょう? それで十分だわ。むしろ私の魔力が足りずに一人前の魔法使いにしてあげられなくてごめんなさいね」
「ラナ、僕に出来ることはある?」
私が考えていると、ブラッドローが答える。
「陛下、チュリサーラにある第二教会の地下へ行く許可を。力ずくで行っても問題ないが、話が通っているのであれば楽に済む」
「チュリサーラか。ラナの身体はそこに?」
「多分な」
「分かった。教会に話を通しておく」
「手紙を送るのは時間が掛かるから書状を持っていくわ。すぐに用意出来そう?」
「今から準備すれば一時間も掛からないよ」
ツィリル陛下は私と話す時にはとても従順な子供に戻るのね。
余談だけれど以前、教会の推す聖女との婚姻を拒否した事で教会と王家の仲が悪くなり互い距離を置いていたのだが、ツィリル王子が回復薬の作り方や聖女の探し方を教える事で教会との不和は無くなったようだ。
次代の聖女候補者達はシャロンよりも優秀だそうで結界や攻撃魔法も少し使えるのだとか。
結局王都に居た聖女は騎士団達と魔獣討伐へ出掛ける名目で王都外へと追い出されたようだ。
私は直接聖女を見たことが無いので興味は薄かったが、ツィリル陛下が教会宛の書状を掻きながらラナ聞いて、聞いてと話をしていたのは言うまでもないわね。
「昨日、ブラッドローも言っていた。どういう事なの?」
子供のように聞いてくる陛下が微笑ましい。
「私はサロメラ国の第三側妃から生まれたラナ・トラーゴ・オリベラというわ。
私の父、カルシオン王は正妃と政略結婚だったの。正妃は気性が荒くていつも父は困っていたわ。
そして正妃は父に愛されている側妃達に次々と毒を盛った。
第一側妃は無くなり、第二側妃は後宮に篭り、私の母は離宮へ逃げた。
兄達は皆優しかったわ。正妃に殺された兄もいるけれど。
そして正妃が産んだ王子がいたの。私はその王子の罠に陥れられたの。
多くの民を虐殺した罪に問われ、『永久(とこしえ)の首』という刑に処されたの。
そして首だけの魔女になった。
表向きの理由としてはね」
「表向き? 裏があるの?」
「それは、私が教会から神託を受けた子供だからよ」
「神託? その内容は?」
「『王女は魔法使いを復活させた後、悪しき物を消滅させ、この国を守るだろう』と神託があったの。
王国、というより当時はこの世界に魔法使いは沢山居たわ。魔法使いが居なくなる世界、それはずっと後の世界だと父も考えた。
そして月日は流れ、ツィリル王子がこの塔へとやってきたわ」
「貴方の話でこの世界に魔法使いが居なくなったことを知ったの。だから貴方達に魔法を教えたわ」
「でも、首だけのラナがどうやって魔物と対峙するの? 出来ないよね?」
ツィリル陛下は疑問を口にする。
「それは、「それは俺が答えよう」」
ブラッドローは私をベッドにそっと置いて陛下へと話し始めた。
「俺もラナと同じ精霊の祝福を受けた魔法使いだ。
王家の秘術を使い、こうして転生を果たした。
俺は生まれてからずっとラナの身体を探し、ようやく見つけた。そしてラナを迎えに来た」
「ちょっと待ってくれ、精霊の祝福とは何だ? 今居る魔法使いは魔法使いではないのか?」
「ああ、魔法使いになるには基本的に師匠が必要だ。
一人前に育て上げ、精霊の泉に弟子が入り、弟子が無事に精霊の祝福を受けるよう師匠が魔力を代償に契約を結ぶ。
ツィリル陛下はラナが師匠だ。
だが、彼女にはそれだけの魔法を使う事が出来なかったから陛下は祝福を受けていない。まあ、今のこの時代、代償を払わずに魔法使いを名乗っても問題はないだろうな」
「祝福を受けるとどうなるのだ? それに代償とは?」
「祝福を受けるとどのような効果があるのかは人によるわ。分かっているのは魔力が何倍も増加するという事かしら。代償は、魔法使いの師匠は三年間一切の魔力が無くなる事よ」
私がそう言うと、ツィリル陛下は驚いている。
「ラナの祝福は、一体何?」
「私の祝福はね、多分だけれど、精神を崩壊させない事だと思っているわ。そうでもしないとこの長い年月を一人で乗り越える事は出来ていないもの」
「他の祝福を受けた魔法使いが居ないのは何故なの?」
「それは転生や記憶の引継ぎなどの祝福が無かったからだろう。
俺も最近転生したばかりで理由は分からないが精霊の祝福の儀式を行う魔法使いが居なくなったか、祝福を行う泉に何かが起こったのだろうな」
「それでも魔法を使わなくなる理由がない。今でもこうして私は使えている。ずっと人間は魔力を保有し続けてきた」
「それは多分だが、騎士団と魔法使いの間で諍いが起こったのだろう。当時は祝福を受けなくてもほぼ全ての貴族は魔法が使えた。騎士達もだ。
魔法使いなど要らぬとでも言って廃れていって徐々に魔法使いは減り、忘却魔法でも使ったのではないか?
魔法自体も騎士達や聖女の活躍で影が薄くなって消えていったのだろう。まぁ、真相は分からないが」
「ラナの身体を取り戻したらどうなるのかな?」
「私の魔力が元に戻ればブラッドローと一緒に魔獣に力を与えている物を消しに行くわ」
「目星は付いているの?」
「そうね、きっと分かるわ。ブラッドもそれなりに感じているのでしょう?」
「俺はラナほど魔力があるわけじゃないが、何となく気配は分かる」
「悔しい。僕はラナの役に立てない」
「そんな事は無いわ。ツィリル陛下は立派に国を治めているじゃない。子供もいるのでしょう? それで十分だわ。むしろ私の魔力が足りずに一人前の魔法使いにしてあげられなくてごめんなさいね」
「ラナ、僕に出来ることはある?」
私が考えていると、ブラッドローが答える。
「陛下、チュリサーラにある第二教会の地下へ行く許可を。力ずくで行っても問題ないが、話が通っているのであれば楽に済む」
「チュリサーラか。ラナの身体はそこに?」
「多分な」
「分かった。教会に話を通しておく」
「手紙を送るのは時間が掛かるから書状を持っていくわ。すぐに用意出来そう?」
「今から準備すれば一時間も掛からないよ」
ツィリル陛下は私と話す時にはとても従順な子供に戻るのね。
余談だけれど以前、教会の推す聖女との婚姻を拒否した事で教会と王家の仲が悪くなり互い距離を置いていたのだが、ツィリル王子が回復薬の作り方や聖女の探し方を教える事で教会との不和は無くなったようだ。
次代の聖女候補者達はシャロンよりも優秀だそうで結界や攻撃魔法も少し使えるのだとか。
結局王都に居た聖女は騎士団達と魔獣討伐へ出掛ける名目で王都外へと追い出されたようだ。
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