38 / 49
38
しおりを挟む
「お婆様、只今戻りました」
お婆様と庭でお茶をしながら近況報告をする。
「半年見ない間にすっかり大人になったわ。試験はどうだったのかしら?」
「試験は残念ながら総合成績三位になってしまいました。もっと取れると思っていたのに残念です」
私は悔しそうに祖母にそう言うと、祖母はふふふっと目を細めて笑う。その後、祖母はその笑顔のまま私に聞いてきた。
「モア、あれから彼はどうなったの?」
「彼?」
「マティアス・レフト伯爵令息よ」
「マティアス様はとても素敵です。いつも紳士で私の知らないことを沢山教えてくれるのです。私、王都のレストランに初めて連れて行って貰いました。レストランって色々とメニューがあって王都名物?を食べたのですがとても美味しくて驚いたんです」
驚いた事や物珍しかった事など祖母に聞いてもらおうと張り切って話をしてはたと気づいた。
「お婆様、ごめんなさい。こんなに世間知らずで。マティアス様と一緒に街に行ってもらってようやく買い物の仕方も知ったのです。父やフルム兄様にはそれでいいといつも言われているのですが、付き合わされているマティアス様は大変かなって思うと……」
私は少し恥ずかしくなる。それを誤魔化す様にお茶を飲んだ。
「ふふっ。モアはいい子ね。それくらいで振り回されたなんて思っていないわ。もっと振り回したっていいくらいよ?マティアス・レフト伯爵令息は素敵な子なのかしら?」
「とても素敵で私には勿体ないくらいです」
すると祖母は私の言葉を聞いた後、侍女に何か指示を出したようだ。侍女が庭から出て行ったと思うとすぐに戻ってきた。後ろには彼の姿があった。
「お久しぶりです王太后様」
「マティアス・レフト、久しぶりです。学院での生活はどうでしたか?」
マティアス様が騎士の礼をしてから答える。
「充実した毎日を過ごしております」
「そう、良かったわ。ところでここに来た理由は何かしら?」
祖母はニヤリと笑いながら扇で口元を隠し、マティアス様を見ている。今日来る理由を知っているかのような素振りにも見えた。
扇子で口元を隠す祖母とは対照的にマティアス様はどこか緊張した面持ちというか、不安そうな感じが私まで伝わってくる程のものだった。
私はその二人の様子を見て不思議そうに首を傾げていると……。
「今日はモア・コルネイユ男爵令嬢に求婚の許しをいただきたく、こちらの離宮へと参りました」
マティアス様の言葉に私は驚いた。これ以上ないくらいに。祖母は先触れで知っていたに違いない。だからニヤニヤとしていたのだわ。
「あらあら。どうしようかしら?そうねぇ。コルネイユ男爵や夫君に許可をいただいたのかしら?」
「王太后様の許可を頂ければ問題ないと」
私は黙って二人のやり取りを見ている。
「シーラやダミアンはそう言ったのね。どうしようかしら?ふふっ。貴方はこの王太后グレイシアの掌中の珠が欲しいと言っているのよ?覚悟は出来ているのかしら?」
いつも優しい祖母が今日はどことなく意地悪な感じに見える。そして私は祖母に可愛がられているけれど、掌中の珠という程ではないと思うのよね。なんて考えていると。
「勿論です。全ての憂い事から彼女を守って見せます」
マティアス様はそう言うと、胸のポケットからそっと一枚の紙を取り出して祖母に献上する。その紙を見た祖母はフッと微笑んだ。
「いいでしょう。私は許可するわ。だけど、婚約出来るかどうかはモアの気持ち次第ね」
彼は祖母の話を聞いてから私に向き直った。そして跪くと胸ポケットに挿してあった一輪の薔薇を差し出した。
「モア・コルネイユ男爵令嬢。私は一目貴方を見た時から貴女の事が忘れられず、大勢の立候補者の中から護衛の権利を勝ち取り、こうして求婚する権利も頂いた。どうか、将来私の妻となってもらえないだろうか」
私は彼の真剣な様子に心臓が高鳴る。
「私はこのように顔に傷があるし、身体にも傷が残っています。それに、マティアス様を慕うご令嬢が沢山おります。男爵位で跡継ぎでもない私ではご迷惑が掛かります」
マティアス様の求婚に嬉しくなったけれど、私の置かれている状況は婚約者になる人にとってあまりいいものではない。
また顔の傷の原因となったクロティルド王太子殿下を慕う令嬢のような事があったらどうしようと不安も芽生える。そして前回のような事が起こってしまったらどうしようと。
今は嬉しさよりも不安が勝っていて素直にその花を受け取る事が出来ないでいた。
「モア、無理に受け取らなくて良いの。不安なのでしょう?彼に迷惑が掛かるとかまた怪我を負わされるんじゃないかって」
祖母は私の思っていた事を口にした。
「……はい。その通りです」
するとマティアス様はすくっと立ち上がって私の手を取り、両手で包みこむようにして話しはじめる。
「モア嬢、貴方の憂いは全て取り除きます。先ほど王太后様にお見せした紙にも書いてありますが、私はモア嬢を害する者全てを排除していきます。例え顔や身体に傷があっても、どんな姿をしていようとも気にしないし、全ての者から貴女を守り抜く。どうか貴女と生涯を共に過ごす許しを」
切に願うようなマティアス様。
祖母に渡した紙はどんな事が書かれていたのだろう。私はマティアス様の熱烈な求婚に恥ずかしさと嬉しさと困惑や不安が入り混じった複雑な感情を持て余していた。
どうしようと祖母に視線を向けると祖母はふふふっとこの状況を楽しんでいるようにも見える。そしてお茶を入れていた侍女も微笑んでいた。
「……お婆様、その紙にはどのような事が書かれているのですか?」
私は彼から手を引き抜いてお婆様に向き直り聞いてみる。
「あぁ、これ?これはね、モアに求婚するための最低限の条件としてコルネイユ男爵に敵意を持っている家をちょっとばかり牽制してもらったの。彼は優秀だと聞いているけれど、実力はどうなのか分からなかったからね」
祖母の言葉に一瞬ドキリとする。マティアス様はノア様のような事をして情報を集めているのか、と。
お婆様と庭でお茶をしながら近況報告をする。
「半年見ない間にすっかり大人になったわ。試験はどうだったのかしら?」
「試験は残念ながら総合成績三位になってしまいました。もっと取れると思っていたのに残念です」
私は悔しそうに祖母にそう言うと、祖母はふふふっと目を細めて笑う。その後、祖母はその笑顔のまま私に聞いてきた。
「モア、あれから彼はどうなったの?」
「彼?」
「マティアス・レフト伯爵令息よ」
「マティアス様はとても素敵です。いつも紳士で私の知らないことを沢山教えてくれるのです。私、王都のレストランに初めて連れて行って貰いました。レストランって色々とメニューがあって王都名物?を食べたのですがとても美味しくて驚いたんです」
驚いた事や物珍しかった事など祖母に聞いてもらおうと張り切って話をしてはたと気づいた。
「お婆様、ごめんなさい。こんなに世間知らずで。マティアス様と一緒に街に行ってもらってようやく買い物の仕方も知ったのです。父やフルム兄様にはそれでいいといつも言われているのですが、付き合わされているマティアス様は大変かなって思うと……」
私は少し恥ずかしくなる。それを誤魔化す様にお茶を飲んだ。
「ふふっ。モアはいい子ね。それくらいで振り回されたなんて思っていないわ。もっと振り回したっていいくらいよ?マティアス・レフト伯爵令息は素敵な子なのかしら?」
「とても素敵で私には勿体ないくらいです」
すると祖母は私の言葉を聞いた後、侍女に何か指示を出したようだ。侍女が庭から出て行ったと思うとすぐに戻ってきた。後ろには彼の姿があった。
「お久しぶりです王太后様」
「マティアス・レフト、久しぶりです。学院での生活はどうでしたか?」
マティアス様が騎士の礼をしてから答える。
「充実した毎日を過ごしております」
「そう、良かったわ。ところでここに来た理由は何かしら?」
祖母はニヤリと笑いながら扇で口元を隠し、マティアス様を見ている。今日来る理由を知っているかのような素振りにも見えた。
扇子で口元を隠す祖母とは対照的にマティアス様はどこか緊張した面持ちというか、不安そうな感じが私まで伝わってくる程のものだった。
私はその二人の様子を見て不思議そうに首を傾げていると……。
「今日はモア・コルネイユ男爵令嬢に求婚の許しをいただきたく、こちらの離宮へと参りました」
マティアス様の言葉に私は驚いた。これ以上ないくらいに。祖母は先触れで知っていたに違いない。だからニヤニヤとしていたのだわ。
「あらあら。どうしようかしら?そうねぇ。コルネイユ男爵や夫君に許可をいただいたのかしら?」
「王太后様の許可を頂ければ問題ないと」
私は黙って二人のやり取りを見ている。
「シーラやダミアンはそう言ったのね。どうしようかしら?ふふっ。貴方はこの王太后グレイシアの掌中の珠が欲しいと言っているのよ?覚悟は出来ているのかしら?」
いつも優しい祖母が今日はどことなく意地悪な感じに見える。そして私は祖母に可愛がられているけれど、掌中の珠という程ではないと思うのよね。なんて考えていると。
「勿論です。全ての憂い事から彼女を守って見せます」
マティアス様はそう言うと、胸のポケットからそっと一枚の紙を取り出して祖母に献上する。その紙を見た祖母はフッと微笑んだ。
「いいでしょう。私は許可するわ。だけど、婚約出来るかどうかはモアの気持ち次第ね」
彼は祖母の話を聞いてから私に向き直った。そして跪くと胸ポケットに挿してあった一輪の薔薇を差し出した。
「モア・コルネイユ男爵令嬢。私は一目貴方を見た時から貴女の事が忘れられず、大勢の立候補者の中から護衛の権利を勝ち取り、こうして求婚する権利も頂いた。どうか、将来私の妻となってもらえないだろうか」
私は彼の真剣な様子に心臓が高鳴る。
「私はこのように顔に傷があるし、身体にも傷が残っています。それに、マティアス様を慕うご令嬢が沢山おります。男爵位で跡継ぎでもない私ではご迷惑が掛かります」
マティアス様の求婚に嬉しくなったけれど、私の置かれている状況は婚約者になる人にとってあまりいいものではない。
また顔の傷の原因となったクロティルド王太子殿下を慕う令嬢のような事があったらどうしようと不安も芽生える。そして前回のような事が起こってしまったらどうしようと。
今は嬉しさよりも不安が勝っていて素直にその花を受け取る事が出来ないでいた。
「モア、無理に受け取らなくて良いの。不安なのでしょう?彼に迷惑が掛かるとかまた怪我を負わされるんじゃないかって」
祖母は私の思っていた事を口にした。
「……はい。その通りです」
するとマティアス様はすくっと立ち上がって私の手を取り、両手で包みこむようにして話しはじめる。
「モア嬢、貴方の憂いは全て取り除きます。先ほど王太后様にお見せした紙にも書いてありますが、私はモア嬢を害する者全てを排除していきます。例え顔や身体に傷があっても、どんな姿をしていようとも気にしないし、全ての者から貴女を守り抜く。どうか貴女と生涯を共に過ごす許しを」
切に願うようなマティアス様。
祖母に渡した紙はどんな事が書かれていたのだろう。私はマティアス様の熱烈な求婚に恥ずかしさと嬉しさと困惑や不安が入り混じった複雑な感情を持て余していた。
どうしようと祖母に視線を向けると祖母はふふふっとこの状況を楽しんでいるようにも見える。そしてお茶を入れていた侍女も微笑んでいた。
「……お婆様、その紙にはどのような事が書かれているのですか?」
私は彼から手を引き抜いてお婆様に向き直り聞いてみる。
「あぁ、これ?これはね、モアに求婚するための最低限の条件としてコルネイユ男爵に敵意を持っている家をちょっとばかり牽制してもらったの。彼は優秀だと聞いているけれど、実力はどうなのか分からなかったからね」
祖母の言葉に一瞬ドキリとする。マティアス様はノア様のような事をして情報を集めているのか、と。
318
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる