【完結】美しすぎてごめんなさい☆

まるねこ

文字の大きさ
5 / 27

超鈍足ダッシュで逃げます

しおりを挟む
 ついにやってきたお茶会。

 あれから何度となくデザイナーが我が家へ来てはデザインを書き上げていく謎の迷惑行為がありました。

デザイナー曰く『ブランシュお嬢様を見ているとイメージが空から降りてくるのです』よく分からないけれど、何着か無料で作って貰えたので良かったわ。

そして今回のお茶会のドレスは兄とお揃いにしたの。テーマは妖精らしい。どの辺が妖精なのかは正直私には分からないのだけれど、淡いグリーンのドレスでふんだんに使われたレース。

兄はシャツのボタン部分や袖部分が私と色合いを同じにしたフリルが付いてとても華やかな仕上がりになっていた。

「お兄様、とぉ~っても格好いいですわ」
「ブランシュこそ本当に妖精みたいだよ。城に出掛けるなんて憂鬱でしかないよ。このまま邸でお茶をする方がいいよね。出掛けたくない」

侍女達もうんうんと頷いているわ。

「王命なのが口惜しいわ。行ってすぐに帰ってきましょう」
「はい。お母様」

私達は馬車に乗り込み城へと向かった。

 外の景色が気になって仕方がないのだけれど、母も兄も顔を出してはいけませんって言うの。でも、こればかりは仕方がないわよね。

きっと街並みは中世ヨーロッパのような格式高い作りの建物ばかりなのかしら?

でも中世の下水事情はあまり良くなかったはずなのよね。ただ、この世界は魔法で清掃する人がいると聞いたことがある。

きっと街は綺麗なはず!そう信じたいし、信じているわ!

 それにしても今から大勢の人の前に出るのよね。憂鬱過ぎる。馬車が城に到着する頃にはすっかり笑顔も消えてしまう。

「ブランシュ、大丈夫かい? 僕が付いているからね」
「はい、お兄様」

 馬車を降りてお兄様にエスコートされて城へと入っていく。もちろん反対側には母が側にいてくれている。随所に配置されている警備の騎士達の視線が一方向に集まっている。

纏わりついているような、驚いているような、好奇の目でみているような、様々な視線が私に向けられているのが分かる。

お城ってやっぱり恐ろしいわ!

「お兄様、怖い」

 兄にしがみつきながら歩く。騎士達は私が過ぎ去る度にみんな手を胸に当てガタンと膝を付いているわ。

なんて不思議な光景なの!?

これは漫画本でしか見たことがない光景よ?

本当にこんな事ってあるのね。

「ブランシュ、大丈夫よ。母もこんな光景見たことは無かったわ。ふふっ、凄いわねブランシュ」

驚いている私を見ながら母は笑っている。私達は建物入り口から従者の案内で中庭へ向かって歩いていた。

何となく、何となくなんだけど、中庭遠くない?

遠回りをしているような気もするのだけれど。

「お兄様、中庭までこんなに遠いのですか?」

小声で聞いてみた。

「いや、いつもと違う通路を通っているみたいだ。引き返そう」

母と兄と視線が合って頷き合うと母は私の手をしっかりと掴んでそっと周囲を確認する。

案内の従者にはバレていないようだ。そして角を曲がるまで静かに歩いて従者が見えなくなった所で走り出す。


……引きこもりには辛かった。

走るのが遅いし、体力が無さ過ぎて自分が嫌になる。家に帰ったらスクワットとプランクをすると心に決めたわ。

筋肉を絶対つけよう。筋肉は裏切らない!!

 幸いなことに私達が走っているのを警備の騎士達が気づいてくれたようですぐに助けてくれたの。騎士達は顔を真っ赤にしながらも私達を心配してくれている。

「どうなされましたか?」

後から来た警備の騎士とは違う二十台後半と思われる騎士服を着た人がイケメンが声を掛けてきた。

「今日のお茶会に出席するために従者が案内してくれていたのですが、中庭とは違う所に案内されそうになりましたの」

母がそう騎士に告げると、騎士は驚いたような、困惑したような顔を一瞬したけれど、私を見て何か納得したように笑顔で話す。

「この世の物とは思えぬほどの素晴らしきご令嬢に目がくらんでしまったのでしょう。すぐにその従者を捕まえますのでご安心下さい」

彼は騎士の礼を執ると部下に顎で指示をした。

「僭越ながら私が責任をもって中庭へとご案内致します」

母と兄はほっと安心したように見える。でもね、先ほど猛ダッシュ(超鈍足)した私は足が生まれたての小鹿のようになり、歩けないでいた。

「私めに抱き上げる栄誉を頂いても宜しいでしょうか?」

騎士は微笑みながら跪き私に手を差し出す。
なんてカッコいいんだ!!
その仕草に惚れてしまいそうよ。

「騎士様、お名前をお伺いしても?」
「私、ノルヴァン・アジュートです。第一騎士団、団長を務めさせて頂いております」
「アジュート様、お願いいたしますわ」
「ノルヴァンとお呼び下さい。麗しき姫君」

私はノルヴァン様の手を取ると、ヒョイと抱えられた。

所為お姫様抱っこというやつ!

みんな見てる?
ちゃんと見てる?
人生でお姫様抱っこされるなんて滅多にないのよ?

イケメン騎士団長にお姫様抱っこされるなんて役得だわ。母は抱っこされた私を見て微笑んでいるけれど、兄は嫉妬で怖い顔をしているわ。後でお膝に乗ってあげるしかないかもしれない。

「ノルヴァン様、重くありませんか?」
「何をおっしゃるかと思えば。羽根が生えたように軽いですよ」

 ノルヴァン様は満面の笑みを浮かべている。先ほどとは打って変わり、安心して中庭に到着する事ができた。

私達は遠回りを余儀なくされたせいでお茶会はもうすぐ始まろうとしていた。皆が着席しているわ。一同遅くなった私達に視線が集まる。

……うぅっ、怖いわ。

私は集まる視線が怖くなりノルヴァン様の胸板へ顔を向けて隠す。

「ブランシュ、さぁ、降りて。席はこっちだよ」
「はい、お兄様。ノルヴァン様、お連れいただき有難うございました」

抱っこされている私は顔を上げてノルヴァン様に微笑みながらお礼を言う。するとノルヴァン様はそっと私を降ろした後、胸を押さえて跪いたわ。何かやらかしてしまったのね。

ノルヴァン様、御免なさい。

「こらっ、ブランシュ。微笑んではいけないよ」
「はい、お兄様気を付けますわ」

 兄にエスコートされて用意された席へと向かう。母はどうやら大人達同士で別の席に座るようだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃
恋愛
バートン伯爵家のミアの婚約者、パーシーはいつも「魔法が使える人がいい」とばかり言っていた。 実はミアは幼いころに水の精霊と親しくなり、魔法も得意だった。 妹のリリーが怪我した時に母親に「リリーが可哀想だから魔法ぐらい譲ってあげなさい」と言われ、精霊を譲っていたのだった。 リリーはとっくに怪我が治っているというのにずっと仮病を使っていて一向に精霊を返すつもりはない。 それでもミアはずっと我慢していたが、ある日パーシーとリリーが仲良くしているのを見かける。 パーシーによると「怪我しているのに頑張っていてすごい」ということらしく、リリーも満更ではなさそうだった。 そのためミアはついに彼女から精霊を取り戻すことを決意する。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...