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後処理をする魔女2
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サーバルに頼んだ一週間後。
水晶で見ていたけれど、謁見の間というところに捕らえた者たちを集めたようね。
王宮の謁見の間に転移する。騎士服を着たサーバルと数名の騎士が謁見の間に捕らえた者と一緒に立っていた。
「サーバル、一週間ぶりね。この人達が捕まえた全て?」
「そうです。全部で十三名ほどおりました」
「貴方達、戻っていいわよ。ご苦労様。ではサーバル、行きましょうか」
私は捕らえた人間とサーバルと共に錫杖を突いてニンフの森の中へと転移した。
初めての転移でサーバルはとても驚いていたわ。驚く姿はカインにそっくりね。
歩き始めてすぐサーバルは私に質問をしてきた。
「魔女様、なぜ我々がこの者たちを捕まえることにしたのでしょうか。魔女様なら一人でも簡単に捕らえられたはずです」
「そうね。私がやれば簡単よ? でも人間同士の問題には極力関わらないようにしているの。それに、犯人を捕まえたのが人間の国の王だということがとても重要なのよ? 今から行く場所は決して口を開いてはいけないわ」
「わかりました」
私は捕まえた人間をそのまま引きずって森の中へと入っていく。中には抵抗しようとしていた者もいたけど、私に敵う訳はないわね。
サーバルも黙って付いてきた。
森の奥深く一筋の光が射す地点に到着し、私はその光に向かって声を掛ける。
「来たわよ」
すると、一筋の光から丸い球体がフワリと降りてきて人の形を取る。
「魔女よ。ありがとう」
「お礼は要らないわ。そうねぇ、この者達を捕らえた彼にお礼がしたいの。
ガロンに継ぐ妖精を一匹、そうね、五年程貸してくれない? 今のままでは国が傾きそうなのよね。また内戦になるのは避けたいでしょう?」
「分かりました。オリーブを貸しましょう。オリーブ、オリーブこっちへ来なさい」
「お呼びでしょうか、精霊王様」
「オリーブ、五年ほど彼の国を世話してきてほしい」
「分かりました。行って参ります」
精霊王の前に手のひらサイズの緑色した妖精が現れた。
サーバルの前にスッと移動し、頭を下げる。
「妖精を貸してくれてありがとう。オリーブと言ったわね。ではいきましょう」
私は捕まえた者たちをその場に置いてサーバルとオリーブを連れサーバルの執務室へと転移する。
先日と何も変わらない部屋ね。
執務のみを行うせいか飾りっ気一つない。
サーバルは短時間で起こったことを頭の中で整理しているようだ。
サーバルは部屋の外にいた護衛に宰相を呼ぶように命令した後、ソファに座った。
私も彼の膝の上に座る。サーバルはまたかと思ったのか諦めたのか、何も触れてはこないようだ。
「魔女様、あの捕らえた人間たちは森に何か害を与えたのでしょうか。彼らは誰かに頼まれて魔獣を数匹捕まえて綺麗な魔石を入れただけだと言っていました。それが我々にはどういう影響があるのかわかりませんでしたが」
「彼らは確かにそうね。あまり重大なことだと思っていなかったみたいね。魔石を入れた魔獣はあの森で増え、森だけでなく国を埋めつくす勢いで増えていたの。そうなる前に止めたから人の住む街や村には影響がなかったのよ」
「そうだったんですね」
「さて、サーバル。オリーブを連れてきたのだし、息子を呼んでちょうだい」
オリーブは人型となって侍女のようにサーバルの後ろに立った。
ちょうどその時、宰相が部屋へ入ってきた。サーバルの膝でお茶をする私を見るなり固まってしまったわ。
「宰相、カーサスを呼んでくれ。すぐにだ」
「分かりました」
宰相も何も触れずに出て行ったわね。
「サーバル、この木苺美味しいわ。森で妖精に貰ったの」
木苺をサーバルの口の中に入れてあげる。サーバルは無表情のままもぐもぐ。餌付けしている気分だわ。
暫くすると、ノックが鳴り扉が開かれる。
「陛下、カーサス殿下を連れて参りました」
宰相は部屋の隅で口を閉じたまま立っている。
「親父殿、俺を呼んだ? 何の用?」
部屋に入ってきたカーサスは黒髪にオレンジの目をした精悍そうな青年だった。カインのように剣士タイプなのかしら。
「親父殿、新しく妾でも迎えたのか?」
カーサスは私と目が合うなりニヤリと笑う。ふふっ、面白そうね。私はサーバルの首に手を回してみる。
「だ、そうよ? サーバル?」
サーバルは無表情のままカーサスの言葉に取り合う気は無いのね。残念だわ。
「オリーブ、彼よ。後はお願いね? 死なない程度なら何しても良いわ」
「かしこまりました。魔女様」
後ろにいたオリーブはそっとカーサスの目の前に立つ。
「これから少しの期間ですが、宜しくお願いしますね」
カーサスはオリーブを見て顔を赤くしているわ。ふふっ。
「カーサス、その方はお前の家庭教師だ。オリーブ殿、カーサスの事を宜しく頼む」
宰相は空気を読んだとばかりにカーサスとオリーブを連れて部屋を出て行ってしまった。
「あーあ、つまんないわ。行ってしまったわね。サーバル、今、暇なのよね。カインは修行に行っちゃってるし」
相変わらず私は膝の上でお茶を飲む。
「魔女様、父上は修行に出ているのですか?」
「ええ、強くなる為に。毎日が楽しそうよ? 今頃はねーネクロマンサーと遊んでいるかもしれないわね」
「父上はネクロマンサーに一人で勝てるのですか!?」
サーバルは驚いているわ。そうよね、執務に励む父親しか見た事がないのですもの。
「ええ、そうね。カインは強いわよ? 昔から」
サーバルは色々とカインの事を聞いてきたわ。
さて、そろそろガロンが帰ってくるかしら。
「さて、そろそろ帰るわ。今度はいつ来るか分からないけれど。ふふっ、そんなに寂しそうにしないのよ? 何かあればオリーブに頼みなさいな?」
私はそっと立ち上がると錫杖をシャランと鳴らす。
「サーバル、頑張るのよ? じゃあね」
私は家に転移すると、ガロンが『お帰りなさい、エイシャ様』と言ってお茶を淹れてくれる。
ふふっ、今日はとても楽しかったわ。サーバルの寂しそうな顔はカインにそっくりだったわね。
久々に忙しい日を過ごした。
後はカインが戻ってくるだけね。
水晶で見ていたけれど、謁見の間というところに捕らえた者たちを集めたようね。
王宮の謁見の間に転移する。騎士服を着たサーバルと数名の騎士が謁見の間に捕らえた者と一緒に立っていた。
「サーバル、一週間ぶりね。この人達が捕まえた全て?」
「そうです。全部で十三名ほどおりました」
「貴方達、戻っていいわよ。ご苦労様。ではサーバル、行きましょうか」
私は捕らえた人間とサーバルと共に錫杖を突いてニンフの森の中へと転移した。
初めての転移でサーバルはとても驚いていたわ。驚く姿はカインにそっくりね。
歩き始めてすぐサーバルは私に質問をしてきた。
「魔女様、なぜ我々がこの者たちを捕まえることにしたのでしょうか。魔女様なら一人でも簡単に捕らえられたはずです」
「そうね。私がやれば簡単よ? でも人間同士の問題には極力関わらないようにしているの。それに、犯人を捕まえたのが人間の国の王だということがとても重要なのよ? 今から行く場所は決して口を開いてはいけないわ」
「わかりました」
私は捕まえた人間をそのまま引きずって森の中へと入っていく。中には抵抗しようとしていた者もいたけど、私に敵う訳はないわね。
サーバルも黙って付いてきた。
森の奥深く一筋の光が射す地点に到着し、私はその光に向かって声を掛ける。
「来たわよ」
すると、一筋の光から丸い球体がフワリと降りてきて人の形を取る。
「魔女よ。ありがとう」
「お礼は要らないわ。そうねぇ、この者達を捕らえた彼にお礼がしたいの。
ガロンに継ぐ妖精を一匹、そうね、五年程貸してくれない? 今のままでは国が傾きそうなのよね。また内戦になるのは避けたいでしょう?」
「分かりました。オリーブを貸しましょう。オリーブ、オリーブこっちへ来なさい」
「お呼びでしょうか、精霊王様」
「オリーブ、五年ほど彼の国を世話してきてほしい」
「分かりました。行って参ります」
精霊王の前に手のひらサイズの緑色した妖精が現れた。
サーバルの前にスッと移動し、頭を下げる。
「妖精を貸してくれてありがとう。オリーブと言ったわね。ではいきましょう」
私は捕まえた者たちをその場に置いてサーバルとオリーブを連れサーバルの執務室へと転移する。
先日と何も変わらない部屋ね。
執務のみを行うせいか飾りっ気一つない。
サーバルは短時間で起こったことを頭の中で整理しているようだ。
サーバルは部屋の外にいた護衛に宰相を呼ぶように命令した後、ソファに座った。
私も彼の膝の上に座る。サーバルはまたかと思ったのか諦めたのか、何も触れてはこないようだ。
「魔女様、あの捕らえた人間たちは森に何か害を与えたのでしょうか。彼らは誰かに頼まれて魔獣を数匹捕まえて綺麗な魔石を入れただけだと言っていました。それが我々にはどういう影響があるのかわかりませんでしたが」
「彼らは確かにそうね。あまり重大なことだと思っていなかったみたいね。魔石を入れた魔獣はあの森で増え、森だけでなく国を埋めつくす勢いで増えていたの。そうなる前に止めたから人の住む街や村には影響がなかったのよ」
「そうだったんですね」
「さて、サーバル。オリーブを連れてきたのだし、息子を呼んでちょうだい」
オリーブは人型となって侍女のようにサーバルの後ろに立った。
ちょうどその時、宰相が部屋へ入ってきた。サーバルの膝でお茶をする私を見るなり固まってしまったわ。
「宰相、カーサスを呼んでくれ。すぐにだ」
「分かりました」
宰相も何も触れずに出て行ったわね。
「サーバル、この木苺美味しいわ。森で妖精に貰ったの」
木苺をサーバルの口の中に入れてあげる。サーバルは無表情のままもぐもぐ。餌付けしている気分だわ。
暫くすると、ノックが鳴り扉が開かれる。
「陛下、カーサス殿下を連れて参りました」
宰相は部屋の隅で口を閉じたまま立っている。
「親父殿、俺を呼んだ? 何の用?」
部屋に入ってきたカーサスは黒髪にオレンジの目をした精悍そうな青年だった。カインのように剣士タイプなのかしら。
「親父殿、新しく妾でも迎えたのか?」
カーサスは私と目が合うなりニヤリと笑う。ふふっ、面白そうね。私はサーバルの首に手を回してみる。
「だ、そうよ? サーバル?」
サーバルは無表情のままカーサスの言葉に取り合う気は無いのね。残念だわ。
「オリーブ、彼よ。後はお願いね? 死なない程度なら何しても良いわ」
「かしこまりました。魔女様」
後ろにいたオリーブはそっとカーサスの目の前に立つ。
「これから少しの期間ですが、宜しくお願いしますね」
カーサスはオリーブを見て顔を赤くしているわ。ふふっ。
「カーサス、その方はお前の家庭教師だ。オリーブ殿、カーサスの事を宜しく頼む」
宰相は空気を読んだとばかりにカーサスとオリーブを連れて部屋を出て行ってしまった。
「あーあ、つまんないわ。行ってしまったわね。サーバル、今、暇なのよね。カインは修行に行っちゃってるし」
相変わらず私は膝の上でお茶を飲む。
「魔女様、父上は修行に出ているのですか?」
「ええ、強くなる為に。毎日が楽しそうよ? 今頃はねーネクロマンサーと遊んでいるかもしれないわね」
「父上はネクロマンサーに一人で勝てるのですか!?」
サーバルは驚いているわ。そうよね、執務に励む父親しか見た事がないのですもの。
「ええ、そうね。カインは強いわよ? 昔から」
サーバルは色々とカインの事を聞いてきたわ。
さて、そろそろガロンが帰ってくるかしら。
「さて、そろそろ帰るわ。今度はいつ来るか分からないけれど。ふふっ、そんなに寂しそうにしないのよ? 何かあればオリーブに頼みなさいな?」
私はそっと立ち上がると錫杖をシャランと鳴らす。
「サーバル、頑張るのよ? じゃあね」
私は家に転移すると、ガロンが『お帰りなさい、エイシャ様』と言ってお茶を淹れてくれる。
ふふっ、今日はとても楽しかったわ。サーバルの寂しそうな顔はカインにそっくりだったわね。
久々に忙しい日を過ごした。
後はカインが戻ってくるだけね。
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