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妖精の粉
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最近、ガロンは精霊の森を行き来しているようね。やはり仲間と過ごすのは楽しいのかしら。
私は気に止めることなく薬を作る準備をしていると、誰かが扉を叩いている。
― コンコンコン ―
久々のお客ね。いつものように準備をして扉を開けた。
「どちら様?」
扉の向こうには一人の素朴な青年がいた。緊張しながら話す彼の様子を見て違和感を覚えた。
「魔女の家で合っていますか?」
青年はそう聞いてきた。十七、八といったところかしら。
「そうよ。まぁ、部屋に入ってちょうだい」
私はそう言うと青年を招き入れ、椅子に座らせる。
「さて、ご用件は何かしら?」
青年は緊張した面持ちで口を開く。
「えっと、あの、精霊に会いたくて」
「精霊ねぇ。精霊に会うのなら私のところでは無いわ。精霊の森に行きなさいな」
私は席を立とうとした時、
「そ、それが。僕はなぜか精霊の森に入れないのです」
「拒まれているのではなくて?」
「やはり嫌われてしまったのでしょうか?」
私は興味を持ったので席に座り話を聞く事にした。
「何故嫌われていると思うの?」
「僕は、恋してしまったんです。でも妖精はすぐに消えてしまったんです。でも、どうしても諦めきれなくて」
「あらあら? 振られてしまったのなら仕方がないわ。で、それでも会いたいと?」
青年の様子を見ながら話をし、目に魔力を通して確認する。
……やはりね。
「貴方、その会いたい妖精の名前は知っているの?」
「彼女はモモと言っていた。それが何かあるのですか?」
「ええ。まぁね。妖精の知り合いに聞いてみるわ。会わせてあげてもいいわよ、モモに」
青年の背後に花がちりばめられたように微笑んで嬉しがっている。
「けれど、会うには準備が必要なの。少し待っていてもらえるかしら? そうね、三日後にまた来て頂戴」
「はい。三日後ですね。絶対に来ます。また彼女に会えるなら」
青年はすぐさま軽い足取りでもと来た道を戻って行った。
「ガロン、ガロンは帰ってきているかしら?」
呼んでも返信が無い。ガロンはまだ妖精の森から帰っていないわね。妖精のことは私が直接関与したくはなのだけれど。
……仕方がないわ。
そうだわ、オリーブがいるじゃない。オリーブにお願いしようかしら。
私は急遽、ナタクール国のオリーブの所へ転移する。何故妖精の森に直接行かないかというと、あそこは精霊王のテリトリーなの。
魔女は気ままに出入りが出来るとはいえ、聖属性が強い地域はあまり好きな場所ではないのよね。棲み分けというやつかしら。ガロンを呼び戻す程の依頼でもない。
「オリーブ久しぶり。カーサスは生きているかしら?」
私の突然の訪問に驚く事もなく、侍女姿のオリーブは出迎えてくれた。
「魔女様、お久しぶりです。カーサス様はこの通り勉学に励んでおります」
カーサスは不満な表情をしつつも課題に取り組んでいる様子。私をみるなり話しかけてきた。
「お前は、親父の愛人じゃないか。親父に何か強請りにきたのか?」
そう言葉を発した瞬間、カーサスに向かってシュルシュルと緑の蔦が足に巻きついてカーサスを持ち上げる。
「魔女様に何て失礼な。この国を平定したお方なのですよ。歴史をきちんと教えましたよね。また忘れてしまいましたか?」
「げっ。そ、そうだった! 電撃は止めてくれ! 頼む!」
「あら、電撃がお好みですか。では」
カーサスの悲鳴が虚しくこだまする。
「あら。オリーブはスパルタねぇ。偶には飴も必要よ?」
私はそう言うとポケットから取り出したケースの飴を一つつまんでそっとカーサスの口の中に入れる。
「魔女様、これは?」
カーサスは口に含みコロコロと転がし始める。
「新しく作ってみたの。携帯ポーションよ。カーサスに初めてをあげるわ」
しばらくすると、ぷすぷすと焦げていた箇所が治り始めると同時にカーサスがニマニマと微笑んでいる。
「オリーブ、この飴は凄いぞ! 何だか幸せな気分になってきた! 踊りたくなってきたぞ!」
カーサスは踊り始めた。オリーブはその様子を見てため息を吐いている。
「……魔女様、あれは。治りますよね?」
「ええ。思ったより副作用が強いわね。飴を食べ切る頃には効果も切れるはずよ?」
踊りはじめたカーサスを無視する事を決めた。
「オリーブ、今日はカーサスでは無く、オリーブにお願いがあってきたの。モモという子が妖精の粉を青年にかけて自分は森に戻ってしまったのよ。
粉をかけられた青年が彼女に会いたいと依頼してきたの。ガロンに頼んでもいいのだけれど、ガロンが留守にしていてオリーブにお願いしようと思って来たの。ブーゲンビリアの粉を少し貰って来て欲しいのよ」
私は優しく微笑む。
「分かりました。魔女様は相変わらず面白い事を考えているのですね。ブーゲンビリアから貰ってきます。しばらくお待ち下さい」
そう言ってオリーブはすぐさまブーゲンビリアの元へ転移して行った。
私はオリーブを待っている間、踊るカーサスを見て思い付いた。備え付けのベルを鳴らし、サーバルを呼びつける。
またしても執務を邪魔されて不満なようでサーバルは眉に皺を寄せながら部屋へ入ってきたわ。
「カーサス、何事だ?」
「サーバル、久しぶりね」
サーバルは部屋を見回し、踊るカーサスを見てため息を吐いた。
「親父、踊る事がこんなにも楽しいと知らなかったよ」
「魔女様、これはどういう状況ですか?」
「面白いよねっ! 新しく携帯ポーションを飴にして作ってみたのっ! 試しに食べてもらったら楽しくって踊り始めちゃったのっ!」
……祖母のように可愛く言ってみたが、サーバルには通じなかったようだ。ため息を吐かれてしまった。
「それより、どうかしら。あれからカーサスは少しマシになったのではないかしら?」
「おかげ様で軽率な行動は控えるようにはなってきました。これもオリーブ殿のお陰です」
「あら、精霊王には五年の期限で借りてきたけれど、足りないなら自分達でお願いしてね」
「父上は今日もいらっしゃらないのですか?」
「カイン? ええ。今、魔大陸に行って王の下で修行しているわ」
「魔大陸!? 大丈夫なのですか?」
「まぁ、死んではいないと思うわ」
踊り疲れたのか、飴を食べ終えたのかカーサスは座って話に入ってくる。
「爺様がどうしたの? 死んだよね?」
「父上は元気だ。今は魔大陸で修行中だそうだ」
「爺様、凄いな!」
「カーサスよ、父上はこの国の歴史を振り返っても稀に見る賢王だった。父上にはガロン殿が側に付いていた。お前には今、オリーブ殿が付いている。この国が荒れぬようにお前はしっかりと今は学べ」
サーバルが口を開こうとした時、オリーブは転移で部屋に戻ってきた。
「魔女様、お望みの物をお持ちしました。王からも許可は出ております」
オリーブから手渡された小さな小瓶にはキラキラと光る粉が入っていた。
「オリーブ、ありがとう。カーサスも元に戻った事だし、行くわ。オリーブ、これはお礼よ」
私はそう言ってオリーブに一つの指輪を渡し、転移する。
オリーブに頼んだのは同じ仲間の妖精であるブーゲンビリアの羽に付いている粉だ。
妖精の種類によって粉の成分が少し違っていて、妖精の粉の組み合わせにより効果は無限大に広がる。ただ、粉を分けてくれる妖精は殆どいないが。
人間には妖精の粉が少し掛かるだけで効果を発揮するが、妖精に向かって妖精の粉を掛けても効果は無い。
彼のために私は自分の極僅かな血液を配合した特製の秘薬を作った。
……ふふっ、楽しみね。
― 三日後 ―
「魔女様、来ました。是非彼女に会わせて下さい」
青年は今か今かと待ち侘びている様子でやってきた。
「待たせたわね、準備が出来たわ。一つだけ言っておくけれど、貴方はモモと生涯を共に過ごしていきたいのでしょう? なら、彼女に会ったらこの秘薬をすぐに彼女にかけなさい。彼女も貴方を見てくれるはずよ」
私はそう言って青年に渡す。青年は貰った小瓶をじっと見つめて香りを嗅いでいた。
「これは香水、ですか?」
「良い香りでしょう? 他の妖精が貴方の為に彼女が振り向いてくれる薬を用意してくれたのよ? 対価は、そうね。モモの羽根を頂くわ。必要が無くなるでしょうから」
青年は私の説明を聞いて緊張したように頷く。
後は彼次第かしら。
「さて、ここでは出来ないから外に出るわ」
「魔女様、この香水、どうやって使うのでしょうか?」
「私が今からモモを呼び出すからモモが現れたらこの薬をモモに向かってかけなさい」
「……わかりました」
私は青年を連れて玄関先に出て魔法円を描き、呪文を唱えた。
すると、魔法円はぼんやりと光を放ち始める。『モモ、出て来なさい』私の言葉に応じるようにモモがふわりと浮かび出てくる。
「今よ」
私の言葉で促されるように青年は秘薬をモモにかけた。
モモは『もう! 何よ! 何を私にかけたのよ!』と青年に向かって怒りだす。
ふふっ。目が合ったわね。モモは顔を真っ赤にして目を潤ませている。
「……あ、アルス。貴方の事が好き」
「モモ。もう離さないよ」
二人はもう自分達の世界に入っているわ。私の事を気にも留めていないもの。
「ふふっ。良かったわね。羽根は後日、貰いにいくわ。では幸せにね」
私はそう言うと二人を森の外へ転移させた。
ふふっ、流石ブーゲンビリアね。
『あなたしかみえない』
私は気に止めることなく薬を作る準備をしていると、誰かが扉を叩いている。
― コンコンコン ―
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「どちら様?」
扉の向こうには一人の素朴な青年がいた。緊張しながら話す彼の様子を見て違和感を覚えた。
「魔女の家で合っていますか?」
青年はそう聞いてきた。十七、八といったところかしら。
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……やはりね。
「貴方、その会いたい妖精の名前は知っているの?」
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呼んでも返信が無い。ガロンはまだ妖精の森から帰っていないわね。妖精のことは私が直接関与したくはなのだけれど。
……仕方がないわ。
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魔女は気ままに出入りが出来るとはいえ、聖属性が強い地域はあまり好きな場所ではないのよね。棲み分けというやつかしら。ガロンを呼び戻す程の依頼でもない。
「オリーブ久しぶり。カーサスは生きているかしら?」
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カーサスは不満な表情をしつつも課題に取り組んでいる様子。私をみるなり話しかけてきた。
「お前は、親父の愛人じゃないか。親父に何か強請りにきたのか?」
そう言葉を発した瞬間、カーサスに向かってシュルシュルと緑の蔦が足に巻きついてカーサスを持ち上げる。
「魔女様に何て失礼な。この国を平定したお方なのですよ。歴史をきちんと教えましたよね。また忘れてしまいましたか?」
「げっ。そ、そうだった! 電撃は止めてくれ! 頼む!」
「あら、電撃がお好みですか。では」
カーサスの悲鳴が虚しくこだまする。
「あら。オリーブはスパルタねぇ。偶には飴も必要よ?」
私はそう言うとポケットから取り出したケースの飴を一つつまんでそっとカーサスの口の中に入れる。
「魔女様、これは?」
カーサスは口に含みコロコロと転がし始める。
「新しく作ってみたの。携帯ポーションよ。カーサスに初めてをあげるわ」
しばらくすると、ぷすぷすと焦げていた箇所が治り始めると同時にカーサスがニマニマと微笑んでいる。
「オリーブ、この飴は凄いぞ! 何だか幸せな気分になってきた! 踊りたくなってきたぞ!」
カーサスは踊り始めた。オリーブはその様子を見てため息を吐いている。
「……魔女様、あれは。治りますよね?」
「ええ。思ったより副作用が強いわね。飴を食べ切る頃には効果も切れるはずよ?」
踊りはじめたカーサスを無視する事を決めた。
「オリーブ、今日はカーサスでは無く、オリーブにお願いがあってきたの。モモという子が妖精の粉を青年にかけて自分は森に戻ってしまったのよ。
粉をかけられた青年が彼女に会いたいと依頼してきたの。ガロンに頼んでもいいのだけれど、ガロンが留守にしていてオリーブにお願いしようと思って来たの。ブーゲンビリアの粉を少し貰って来て欲しいのよ」
私は優しく微笑む。
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そう言ってオリーブはすぐさまブーゲンビリアの元へ転移して行った。
私はオリーブを待っている間、踊るカーサスを見て思い付いた。備え付けのベルを鳴らし、サーバルを呼びつける。
またしても執務を邪魔されて不満なようでサーバルは眉に皺を寄せながら部屋へ入ってきたわ。
「カーサス、何事だ?」
「サーバル、久しぶりね」
サーバルは部屋を見回し、踊るカーサスを見てため息を吐いた。
「親父、踊る事がこんなにも楽しいと知らなかったよ」
「魔女様、これはどういう状況ですか?」
「面白いよねっ! 新しく携帯ポーションを飴にして作ってみたのっ! 試しに食べてもらったら楽しくって踊り始めちゃったのっ!」
……祖母のように可愛く言ってみたが、サーバルには通じなかったようだ。ため息を吐かれてしまった。
「それより、どうかしら。あれからカーサスは少しマシになったのではないかしら?」
「おかげ様で軽率な行動は控えるようにはなってきました。これもオリーブ殿のお陰です」
「あら、精霊王には五年の期限で借りてきたけれど、足りないなら自分達でお願いしてね」
「父上は今日もいらっしゃらないのですか?」
「カイン? ええ。今、魔大陸に行って王の下で修行しているわ」
「魔大陸!? 大丈夫なのですか?」
「まぁ、死んではいないと思うわ」
踊り疲れたのか、飴を食べ終えたのかカーサスは座って話に入ってくる。
「爺様がどうしたの? 死んだよね?」
「父上は元気だ。今は魔大陸で修行中だそうだ」
「爺様、凄いな!」
「カーサスよ、父上はこの国の歴史を振り返っても稀に見る賢王だった。父上にはガロン殿が側に付いていた。お前には今、オリーブ殿が付いている。この国が荒れぬようにお前はしっかりと今は学べ」
サーバルが口を開こうとした時、オリーブは転移で部屋に戻ってきた。
「魔女様、お望みの物をお持ちしました。王からも許可は出ております」
オリーブから手渡された小さな小瓶にはキラキラと光る粉が入っていた。
「オリーブ、ありがとう。カーサスも元に戻った事だし、行くわ。オリーブ、これはお礼よ」
私はそう言ってオリーブに一つの指輪を渡し、転移する。
オリーブに頼んだのは同じ仲間の妖精であるブーゲンビリアの羽に付いている粉だ。
妖精の種類によって粉の成分が少し違っていて、妖精の粉の組み合わせにより効果は無限大に広がる。ただ、粉を分けてくれる妖精は殆どいないが。
人間には妖精の粉が少し掛かるだけで効果を発揮するが、妖精に向かって妖精の粉を掛けても効果は無い。
彼のために私は自分の極僅かな血液を配合した特製の秘薬を作った。
……ふふっ、楽しみね。
― 三日後 ―
「魔女様、来ました。是非彼女に会わせて下さい」
青年は今か今かと待ち侘びている様子でやってきた。
「待たせたわね、準備が出来たわ。一つだけ言っておくけれど、貴方はモモと生涯を共に過ごしていきたいのでしょう? なら、彼女に会ったらこの秘薬をすぐに彼女にかけなさい。彼女も貴方を見てくれるはずよ」
私はそう言って青年に渡す。青年は貰った小瓶をじっと見つめて香りを嗅いでいた。
「これは香水、ですか?」
「良い香りでしょう? 他の妖精が貴方の為に彼女が振り向いてくれる薬を用意してくれたのよ? 対価は、そうね。モモの羽根を頂くわ。必要が無くなるでしょうから」
青年は私の説明を聞いて緊張したように頷く。
後は彼次第かしら。
「さて、ここでは出来ないから外に出るわ」
「魔女様、この香水、どうやって使うのでしょうか?」
「私が今からモモを呼び出すからモモが現れたらこの薬をモモに向かってかけなさい」
「……わかりました」
私は青年を連れて玄関先に出て魔法円を描き、呪文を唱えた。
すると、魔法円はぼんやりと光を放ち始める。『モモ、出て来なさい』私の言葉に応じるようにモモがふわりと浮かび出てくる。
「今よ」
私の言葉で促されるように青年は秘薬をモモにかけた。
モモは『もう! 何よ! 何を私にかけたのよ!』と青年に向かって怒りだす。
ふふっ。目が合ったわね。モモは顔を真っ赤にして目を潤ませている。
「……あ、アルス。貴方の事が好き」
「モモ。もう離さないよ」
二人はもう自分達の世界に入っているわ。私の事を気にも留めていないもの。
「ふふっ。良かったわね。羽根は後日、貰いにいくわ。では幸せにね」
私はそう言うと二人を森の外へ転移させた。
ふふっ、流石ブーゲンビリアね。
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