56 / 82
警備兵の男
しおりを挟む
最近、ジェットの語録が増えてきたわ。どんどん成長しているのね。でも、心配な事も出てきている。ジェットは身体能力が高い上に魔力量も多い。
地底の魔物だから仕方がないのだが、自分に埋められている輝石がしっかりと核の部分で融合できるかどうかなによるだろう。
異物として取り除いてしまえば本来の地底の魔物に戻り、地上の魔物を食い尽くそうとするわね。知能が高く輝石を取り除く可能性も捨てきれないわ。
その辺はお祖母様も考えているのかしら? 今度会ったら聞いてみよう。
ー コンコンコン ー
「どなたかしら?」
私は扉を開けると、兵士の恰好をした一人の男が立っていた。
「ここは魔女殿の家で良かろうか?」
「ええ。あっているわ。お客さんね、こちらへどうぞ」
そう言って私は部屋の中へと案内する。兵士の恰好をした男は何か思い詰めたような表情をしていた。
「どのようなご用件かしら?」
「呪い殺したい奴等が居るんだ」
「あら、誰を呪い殺したいのかしら?」
「ドルク・ラグナンという男とその仲間で、俺の婚約者を奪った男だ。無理矢理、俺の婚約者を乱暴し、彼女は……、乱暴されたショックで死んだ。俺と彼女は式を挙げる一月前だったんだ。アイツらさえ、アイツらさえいなければ! 俺はアイツらに一矢報いたい。俺はどうなっても良いんだ」
「ふうん、そうなの。で、対価はあるのかしら?」
すると男は小袋を取り出し中身をテーブルの上にザラリと出した。男が出した物は宝石や金貨だった。
「残念だけどこれでは引き受けられないわ。金貨なんて使わないもの」
私が断ると男は床に平伏し、どうしても復讐がしたいのだと懇願してきた。
「……そうねぇ。いい事を思いついたわ。これを貴方にあげる」
私は小瓶に入っている黒い蛇のような影を男に見せる。
「そんなに復讐がしたいならこの影を貴方の腕に巻き付けなさいな。そして呪い殺したい男に近づいて触れるだけでいいわ。これは寄生型の魔物なの。珍しいでしょう?
寄生された人間は苦痛と幻覚を見るようになり、やがて干からびるように死に至る。ただ寄生するだけなら他にも魔物はいるのだけれど、この魔物は人間の苦痛と血液を餌に魔石を作るのよ。対価はその魔物が作る魔石でいいわ。
この魔物の面白い所はね、成長すると触れただけで触れた相手に分体を植え付ける事が出来るのよ? まるで呪いのようでしょう? この一匹で二十体ほど分かれる事が出来るわ。
寄生した先で更に人と接触すると、分かるわよね? 貴方自身も破滅に向かう。それでも良いのなら巻き付けなさいな」
私は男に説明をし終えると男は躊躇なく瓶の蓋を開けて左手に蛇の影を巻き付けた。
「魔女様、ありがとうございます。覚悟は出来ています」
そう言って男は立ち上がり、礼を述べて部屋を出ようとしている。
「あ、そうそう。その魔物の感染力というのかしら? 高いから気をつけなさいな」
― 三ヶ月後 ―
そろそろかしら? 私は出かける準備をしているとジェットがフルフルと振るえて肩に乗ってきた。
「ジェット、一緒に村に遊びに行来ましょう」
「いく! 遊びたい!」
ジェットは人間の姿に変化し部屋を駆け回っている。
「村、村! 遊びに行く!」
「ジェット、落ち着きなさい。さあ、行くわよ」
「村!」
ジェットは駆け寄り、私に抱きついてきた。私とジェットはそのまま男のいる村に転移した。
「ふぅん、半数は死んじゃったのかしら」
昼間にも拘らず、村は静まりかえって人気が全くない。
「エイシャ! ぼく、遊びたい! 遊んでくる!」
ジェットは我慢できないと走って村の中心へ行ってしまった。
「……仕方がないわね」
私は空き家となった家々を回って歩く。
家の中では骨と服だけが残されており、その中に赤い魔石が落ちていた。面倒だけれど一つひとつ取りこぼしがないように拾い集めていく。
貴族の邸なのだろうか。他の建物は木造の小さな家だが、ここの建物だけは石造りの三階建ての建物になっている。
この建物には沢山の人が生活していたのだろう。人々の衣服と共に沢山の魔石が落ちている。
いくつ拾ったかしら?
村を警備する兵士の詰所や牢は魔石を残して人影は無いわね。牢の中に落ちていた魔石の一つは他の物と比べて一際大きく、深紅に輝いていた。
「ふふっ、どれだけ恨まれていたのかしら? こんなに大きく育つなんてね。これ一個で充分元は取れたかしら?」
私は落ちている魔石を全て回収して村の広場へと向かうとジェットが走ってきた。
「エイシャ! おっきなお屋敷で魔石を沢山拾った! でもこれだけ小さな家の中で拾った。色が違う!」
ジェットは両手に沢山の魔石を抱えていたが、ポケットから魔石を取り出そうとして地面に全ての赤い魔石が転がり落ちた。
そうしてポケットから出した魔石は深蒼の魔石だった。
「あら、かなり珍しいわ。ジェット、よく見つけたわね。これはきっと依頼してきた彼ね。きっと魔物の見せる幻覚に幸せを見たのね。ふふっ、幸福な最後で良かったわね」
私達は地面に散らばった魔石を拾い集めて家に戻った。
地底の魔物だから仕方がないのだが、自分に埋められている輝石がしっかりと核の部分で融合できるかどうかなによるだろう。
異物として取り除いてしまえば本来の地底の魔物に戻り、地上の魔物を食い尽くそうとするわね。知能が高く輝石を取り除く可能性も捨てきれないわ。
その辺はお祖母様も考えているのかしら? 今度会ったら聞いてみよう。
ー コンコンコン ー
「どなたかしら?」
私は扉を開けると、兵士の恰好をした一人の男が立っていた。
「ここは魔女殿の家で良かろうか?」
「ええ。あっているわ。お客さんね、こちらへどうぞ」
そう言って私は部屋の中へと案内する。兵士の恰好をした男は何か思い詰めたような表情をしていた。
「どのようなご用件かしら?」
「呪い殺したい奴等が居るんだ」
「あら、誰を呪い殺したいのかしら?」
「ドルク・ラグナンという男とその仲間で、俺の婚約者を奪った男だ。無理矢理、俺の婚約者を乱暴し、彼女は……、乱暴されたショックで死んだ。俺と彼女は式を挙げる一月前だったんだ。アイツらさえ、アイツらさえいなければ! 俺はアイツらに一矢報いたい。俺はどうなっても良いんだ」
「ふうん、そうなの。で、対価はあるのかしら?」
すると男は小袋を取り出し中身をテーブルの上にザラリと出した。男が出した物は宝石や金貨だった。
「残念だけどこれでは引き受けられないわ。金貨なんて使わないもの」
私が断ると男は床に平伏し、どうしても復讐がしたいのだと懇願してきた。
「……そうねぇ。いい事を思いついたわ。これを貴方にあげる」
私は小瓶に入っている黒い蛇のような影を男に見せる。
「そんなに復讐がしたいならこの影を貴方の腕に巻き付けなさいな。そして呪い殺したい男に近づいて触れるだけでいいわ。これは寄生型の魔物なの。珍しいでしょう?
寄生された人間は苦痛と幻覚を見るようになり、やがて干からびるように死に至る。ただ寄生するだけなら他にも魔物はいるのだけれど、この魔物は人間の苦痛と血液を餌に魔石を作るのよ。対価はその魔物が作る魔石でいいわ。
この魔物の面白い所はね、成長すると触れただけで触れた相手に分体を植え付ける事が出来るのよ? まるで呪いのようでしょう? この一匹で二十体ほど分かれる事が出来るわ。
寄生した先で更に人と接触すると、分かるわよね? 貴方自身も破滅に向かう。それでも良いのなら巻き付けなさいな」
私は男に説明をし終えると男は躊躇なく瓶の蓋を開けて左手に蛇の影を巻き付けた。
「魔女様、ありがとうございます。覚悟は出来ています」
そう言って男は立ち上がり、礼を述べて部屋を出ようとしている。
「あ、そうそう。その魔物の感染力というのかしら? 高いから気をつけなさいな」
― 三ヶ月後 ―
そろそろかしら? 私は出かける準備をしているとジェットがフルフルと振るえて肩に乗ってきた。
「ジェット、一緒に村に遊びに行来ましょう」
「いく! 遊びたい!」
ジェットは人間の姿に変化し部屋を駆け回っている。
「村、村! 遊びに行く!」
「ジェット、落ち着きなさい。さあ、行くわよ」
「村!」
ジェットは駆け寄り、私に抱きついてきた。私とジェットはそのまま男のいる村に転移した。
「ふぅん、半数は死んじゃったのかしら」
昼間にも拘らず、村は静まりかえって人気が全くない。
「エイシャ! ぼく、遊びたい! 遊んでくる!」
ジェットは我慢できないと走って村の中心へ行ってしまった。
「……仕方がないわね」
私は空き家となった家々を回って歩く。
家の中では骨と服だけが残されており、その中に赤い魔石が落ちていた。面倒だけれど一つひとつ取りこぼしがないように拾い集めていく。
貴族の邸なのだろうか。他の建物は木造の小さな家だが、ここの建物だけは石造りの三階建ての建物になっている。
この建物には沢山の人が生活していたのだろう。人々の衣服と共に沢山の魔石が落ちている。
いくつ拾ったかしら?
村を警備する兵士の詰所や牢は魔石を残して人影は無いわね。牢の中に落ちていた魔石の一つは他の物と比べて一際大きく、深紅に輝いていた。
「ふふっ、どれだけ恨まれていたのかしら? こんなに大きく育つなんてね。これ一個で充分元は取れたかしら?」
私は落ちている魔石を全て回収して村の広場へと向かうとジェットが走ってきた。
「エイシャ! おっきなお屋敷で魔石を沢山拾った! でもこれだけ小さな家の中で拾った。色が違う!」
ジェットは両手に沢山の魔石を抱えていたが、ポケットから魔石を取り出そうとして地面に全ての赤い魔石が転がり落ちた。
そうしてポケットから出した魔石は深蒼の魔石だった。
「あら、かなり珍しいわ。ジェット、よく見つけたわね。これはきっと依頼してきた彼ね。きっと魔物の見せる幻覚に幸せを見たのね。ふふっ、幸福な最後で良かったわね」
私達は地面に散らばった魔石を拾い集めて家に戻った。
53
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
特技は有効利用しよう。
庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。
…………。
どうしてくれよう……。
婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。
この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる