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水晶の谷
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ある日、いつものようにジェットの様子を観察していると、体の中心部にある輝石の位置が少しずれていることに気づいた。
「ガロン、ジェットを連れて水晶の谷へ向かうわ。お祖母様もそこに居るのでしょう? きっとカインの修行をつけているわね。ジェット、行くわよ」
「エイシャ様、お気をつけて。ジェット、お前もきをつけるのだぞ」
「エイシャ! 行く! 楽しみ!」
私はガロンに見送られ、ジェットを連れて水晶の谷へと転移する。
水晶の谷はその名の如く水晶で出来た谷。水晶は魔力とよく馴染むため谷で魔法を使っても水晶にすぐ吸収されてしまう。
その代わり、水晶は柔らかな光を帯び、洞窟内の奥深くでも昼間のように明るい。そんな特性を持つこの谷は魔法を得意とする者には苦手な場所だ。
もちろんそれを利用した魔獣も多く出没する。
「ジェット、ここからは歩いていくわよ」
今回は流石に帯剣している。普通は使わないけれどね。暫く行くと大きな蜘蛛のような魔獣が群れでこちらに気付き襲いかかってきた。
「エイシャ! 魔物一杯! 楽しそう!」
ジェットは側で喜んでいるが、私は剣に炎を纏わせて斬り刻んでいく。ジェットは体内から出したのか、黒刀を持っていた。魔獣を切った上に武器が吸収しているわ。
「ジェット、自分で武器を出せるのね?」
「エイシャ、凄い? ジェットもっと強くなれる」
武器はジェットの身体の一部のようね。ジェットは私の攻撃を見様見真似で敵を斬り、吸収していく。
……そろそろ着く頃かしら。
「エイシャっ! ここよっ、ここよ!」
お祖母様は水晶の高台に座ってこちらに手を振っている。崖の遥か下にみえるのはカインかしら?
「久しぶりねっ! エイシャ。彼はまぁまぁ強くなったけれど、まだ修行の途中よっ」
「いえ、お祖母様。今日、来たのは少し前にお祖母様が輝石を植え付けた魔物の事です。ジェット、こっちへ来てちょうだい」
ジェットはピョンと人型から黒い毛玉になり、私の足元で跳ねている。お祖母様はそっとジェットを抱き上げて魔眼で細部まで鑑定している。
「面白いわっ。上手く育っているわねっ」
「お祖母様、輝石がずれて上手く馴染んでいないように見えるの。強くなるうちに自分で輝石を取り出してしまいそう」
「そうねぇ。自分で取り出せないようにしておくわっ。少し掛かるからその間、エイシャはカインに会ってきたらどうかしらっ?」
そう言ってお祖母様の興味はもうジェットに移っているようだ。ジェットを片手に持ち、もう片方の掌から魔力でジェットを包み始めた。
私はお祖母様の様子を見た後、谷の底の方に飛び降りた。着地は全力で魔法を放出し、ゆっくりと降り立つ。
「カイン、久しぶりね。修行は辛く無いかしら?」
「エイシャ様!! お久しぶりです」
カインはパッと明るい表情になり、駆け寄ってきた。
「何度もここで死にかけました。でも、エイシャ様と過ごすためだと思いながら頑張っています」
「偉いわね。そうそう、これを飲むといいわ」
私は茶色の小瓶をカインに渡した。
「これは……?」
「さぁ? よく分からないわ。母からカインへ渡して欲しいと言われていたのよ。多分、母の事だから体力か魔力かを増強させる物だとは思うのよね」
カインは疑問を持つことなくその場で小瓶の蓋を開けて一気に中の液体を飲み込んだ。
「!?」
あまりに不味かったのか眉間に皺を寄せていたが、突然カインは片膝を突いて苦しみ始めた。
その様子を見ていた谷の魔獣達がここぞとばかりに襲いかかってくる。
「……仕方がないわね。もう、お母様ったらなんて物を作ったの」
私は文句を口にしながら襲ってくる魔獣達を斬り刻んでいく。
薬の中身はきっと体を作り替えるものの類ね。
カインの体内からは魔力が溢れ始め、それをカインが必死に取り込もうとしている。母なら本当にカインを魔王に作り替えかねない。
前回、人間から魔人になる時はガロンと二人で押さえ込んだけれど、同じことをこの谷でやる羽目になるなんて。やはり母は無茶苦茶ね。
『お祖母様、ジェットの方は終わりました? 少し手伝って欲しいのですが』
高台に向けて言葉を飛ばす。
『今、終わったわっ。今度はカインねっ』
言葉が届くと同時にお祖母様はジェットと谷底に降りてきた。
「お祖母様、お母様からカインにと渡された新薬をカインが飲んだ途端にこれです。後でお母様をみっちり叱って下さいな」
お祖母様は魔眼でカインの様子を調べている。
「凄いわっ。流石メーデイアねっ。一気にカインが進化を始めているわっ」
お祖母様はそう言って苦にする様子もなく一人でカインを結界で包み魔力を抑え込んだ。
やはりお祖母様は桁違いに強い。
そして母を叱ってくれそうにないわ。
ジェットは輝石が上手く融合出来たようで人型になると髪の毛は一筋金色が差しているわ。
そして先程より強くなっているようだ。
「エイシャ、僕、こいつらヤって良い?」
「良いわ。思う存分楽しんでちょうだい」
私がそう言うとジェットは武器を出し、嬉々として魔獣達に斬りかかって行った。ジェットはバーサーカーなのかしら? 楽しそうね。
私はその場に座って様子を見る事にした。
何時間経ったのだろう。
ジェットは相変わらず魔獣と遊び、傍らではお祖母様が結界を張っている。
「エイシャっ、そろそろよっ」
お祖母様がそう言うとカインは徐々に魔力が体内に吸収されていった。
「カイン、おめでとうっ! これで貴方も魔王の卵よっ! エイシャくらい強くなりそうねっ」
カインはホッとした様子。
「お母様も修行中に飲ませようとするなんて。カイン、大丈夫かしら?」
「生まれ変わった気分です」
「エイシャっ、貴女はもう帰りなさいっ! カインの修行はもうすぐ終わるわっ! 楽しみにしていてっ!! あと、ジェットも置いていってっ! 暇だし、新たな息子として育てるわっ!」
「エイシャー僕やだー。エイシャと帰るー」
ジェットは武器を消して私に駆け寄ると腰にしがみついた。けれど、お祖母様に敵うはずもなくジェットは私から引き剥がされ、お祖母様と手を繋いだ状態となった。
お祖母様はいつになくやる気だわ。
「お祖母様、ではカインとジェットをお願いします」
私は立ち去ろうとした時、カインはさっと私を抱きしめ、
「すぐに修行を終えて向かいます」
と耳元で囁いていた。
「カイン、楽しみに待っているわ」
ジェットはお祖母様に手を繋がれぶすくれているが、本人も何処か理解している様子。
「ジェット、お祖母様の事を宜しくね」
「仕方ない!エイシャ。ロリばばぁは僕が世話する!」
あぁ、いつそんな言葉を覚えたのかしら。
お祖母様のゲンコツが落ちたわ。
「そうそう、お祖母様。私、昨日人間からデメテルの吐息を三輪貰いました。一輪はお祖母様に渡しておきますね。後の一輪はお母様に」
「エイシャ! ありがとうっ。嬉しいわっ」
お祖母様のテンションは爆上がりな様子。
私は安心して谷を後にした。
「ガロン、ジェットを連れて水晶の谷へ向かうわ。お祖母様もそこに居るのでしょう? きっとカインの修行をつけているわね。ジェット、行くわよ」
「エイシャ様、お気をつけて。ジェット、お前もきをつけるのだぞ」
「エイシャ! 行く! 楽しみ!」
私はガロンに見送られ、ジェットを連れて水晶の谷へと転移する。
水晶の谷はその名の如く水晶で出来た谷。水晶は魔力とよく馴染むため谷で魔法を使っても水晶にすぐ吸収されてしまう。
その代わり、水晶は柔らかな光を帯び、洞窟内の奥深くでも昼間のように明るい。そんな特性を持つこの谷は魔法を得意とする者には苦手な場所だ。
もちろんそれを利用した魔獣も多く出没する。
「ジェット、ここからは歩いていくわよ」
今回は流石に帯剣している。普通は使わないけれどね。暫く行くと大きな蜘蛛のような魔獣が群れでこちらに気付き襲いかかってきた。
「エイシャ! 魔物一杯! 楽しそう!」
ジェットは側で喜んでいるが、私は剣に炎を纏わせて斬り刻んでいく。ジェットは体内から出したのか、黒刀を持っていた。魔獣を切った上に武器が吸収しているわ。
「ジェット、自分で武器を出せるのね?」
「エイシャ、凄い? ジェットもっと強くなれる」
武器はジェットの身体の一部のようね。ジェットは私の攻撃を見様見真似で敵を斬り、吸収していく。
……そろそろ着く頃かしら。
「エイシャっ! ここよっ、ここよ!」
お祖母様は水晶の高台に座ってこちらに手を振っている。崖の遥か下にみえるのはカインかしら?
「久しぶりねっ! エイシャ。彼はまぁまぁ強くなったけれど、まだ修行の途中よっ」
「いえ、お祖母様。今日、来たのは少し前にお祖母様が輝石を植え付けた魔物の事です。ジェット、こっちへ来てちょうだい」
ジェットはピョンと人型から黒い毛玉になり、私の足元で跳ねている。お祖母様はそっとジェットを抱き上げて魔眼で細部まで鑑定している。
「面白いわっ。上手く育っているわねっ」
「お祖母様、輝石がずれて上手く馴染んでいないように見えるの。強くなるうちに自分で輝石を取り出してしまいそう」
「そうねぇ。自分で取り出せないようにしておくわっ。少し掛かるからその間、エイシャはカインに会ってきたらどうかしらっ?」
そう言ってお祖母様の興味はもうジェットに移っているようだ。ジェットを片手に持ち、もう片方の掌から魔力でジェットを包み始めた。
私はお祖母様の様子を見た後、谷の底の方に飛び降りた。着地は全力で魔法を放出し、ゆっくりと降り立つ。
「カイン、久しぶりね。修行は辛く無いかしら?」
「エイシャ様!! お久しぶりです」
カインはパッと明るい表情になり、駆け寄ってきた。
「何度もここで死にかけました。でも、エイシャ様と過ごすためだと思いながら頑張っています」
「偉いわね。そうそう、これを飲むといいわ」
私は茶色の小瓶をカインに渡した。
「これは……?」
「さぁ? よく分からないわ。母からカインへ渡して欲しいと言われていたのよ。多分、母の事だから体力か魔力かを増強させる物だとは思うのよね」
カインは疑問を持つことなくその場で小瓶の蓋を開けて一気に中の液体を飲み込んだ。
「!?」
あまりに不味かったのか眉間に皺を寄せていたが、突然カインは片膝を突いて苦しみ始めた。
その様子を見ていた谷の魔獣達がここぞとばかりに襲いかかってくる。
「……仕方がないわね。もう、お母様ったらなんて物を作ったの」
私は文句を口にしながら襲ってくる魔獣達を斬り刻んでいく。
薬の中身はきっと体を作り替えるものの類ね。
カインの体内からは魔力が溢れ始め、それをカインが必死に取り込もうとしている。母なら本当にカインを魔王に作り替えかねない。
前回、人間から魔人になる時はガロンと二人で押さえ込んだけれど、同じことをこの谷でやる羽目になるなんて。やはり母は無茶苦茶ね。
『お祖母様、ジェットの方は終わりました? 少し手伝って欲しいのですが』
高台に向けて言葉を飛ばす。
『今、終わったわっ。今度はカインねっ』
言葉が届くと同時にお祖母様はジェットと谷底に降りてきた。
「お祖母様、お母様からカインにと渡された新薬をカインが飲んだ途端にこれです。後でお母様をみっちり叱って下さいな」
お祖母様は魔眼でカインの様子を調べている。
「凄いわっ。流石メーデイアねっ。一気にカインが進化を始めているわっ」
お祖母様はそう言って苦にする様子もなく一人でカインを結界で包み魔力を抑え込んだ。
やはりお祖母様は桁違いに強い。
そして母を叱ってくれそうにないわ。
ジェットは輝石が上手く融合出来たようで人型になると髪の毛は一筋金色が差しているわ。
そして先程より強くなっているようだ。
「エイシャ、僕、こいつらヤって良い?」
「良いわ。思う存分楽しんでちょうだい」
私がそう言うとジェットは武器を出し、嬉々として魔獣達に斬りかかって行った。ジェットはバーサーカーなのかしら? 楽しそうね。
私はその場に座って様子を見る事にした。
何時間経ったのだろう。
ジェットは相変わらず魔獣と遊び、傍らではお祖母様が結界を張っている。
「エイシャっ、そろそろよっ」
お祖母様がそう言うとカインは徐々に魔力が体内に吸収されていった。
「カイン、おめでとうっ! これで貴方も魔王の卵よっ! エイシャくらい強くなりそうねっ」
カインはホッとした様子。
「お母様も修行中に飲ませようとするなんて。カイン、大丈夫かしら?」
「生まれ変わった気分です」
「エイシャっ、貴女はもう帰りなさいっ! カインの修行はもうすぐ終わるわっ! 楽しみにしていてっ!! あと、ジェットも置いていってっ! 暇だし、新たな息子として育てるわっ!」
「エイシャー僕やだー。エイシャと帰るー」
ジェットは武器を消して私に駆け寄ると腰にしがみついた。けれど、お祖母様に敵うはずもなくジェットは私から引き剥がされ、お祖母様と手を繋いだ状態となった。
お祖母様はいつになくやる気だわ。
「お祖母様、ではカインとジェットをお願いします」
私は立ち去ろうとした時、カインはさっと私を抱きしめ、
「すぐに修行を終えて向かいます」
と耳元で囁いていた。
「カイン、楽しみに待っているわ」
ジェットはお祖母様に手を繋がれぶすくれているが、本人も何処か理解している様子。
「ジェット、お祖母様の事を宜しくね」
「仕方ない!エイシャ。ロリばばぁは僕が世話する!」
あぁ、いつそんな言葉を覚えたのかしら。
お祖母様のゲンコツが落ちたわ。
「そうそう、お祖母様。私、昨日人間からデメテルの吐息を三輪貰いました。一輪はお祖母様に渡しておきますね。後の一輪はお母様に」
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