星降る夜を貴方に

ごま

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モブにしかなれない

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…彼女の血によって、あの花は「魔花」になったんだ。


彼女の血に含まれていた絶大な魔力が花に作用して、色は水色から濃い紅色へ、茎に棘が生え、周りに似た花すら生えないように魔力を使っている。


禍々しい花。……でもとっても綺麗な紅い花。


私が見たのは、彼女の記憶。彼女の強い想いが「魔花」に残っていてそれを私に見せた。


そして、彼女は最後に


「お兄ちゃん、結局私は、恋を盛り上げるモブにしかなれなかったよ。お兄ちゃんの言う通りだった。」

と思った。


もしかしたら、彼女も転生者だったのかもしれない。

リアンさんは、おそらく攻略対象者でヒロインに攻略されてしまった。

彼女は、夢をみていた。異世界に転生しても漫画やノベルのように上手くできるかもって。

物語の中では、彼女は悪役だったけど転生して虐めを行わなかったために悪役にもなれず、リアンさんにとっては他大勢の1人にしか過ぎなかった。


「モブにしかなれなかった」

結局彼女は、歪んだ愛をここに遺して死んでしまった。

お兄ちゃん……兄弟で話していたのかもしれない。

「異世界に行ったらイケメンと恋ができるんだよ!!」

「んなわけねーだろ。お前なんぞモブで終わるさ。」


他愛もない会話。でも彼女は、最後に思い出した。この世界の誰のことでもなく。転生する前の兄の言葉を。


「モブにしかなれなかった……」


そう思ってしまうほどにリアンさんを愛していて、他には何もなかったのだ。


いつの間にか、私は花畑に戻ってきていた。あれほど濃く香っていた匂いはどこにも無くなっている。


ただそこには綺麗な紅い花が咲いているだけだった。


あれからどれくらい時間がたったのだろう。一旦みんなの元に戻らないと。


「アリア?」

スティール殿下だ。

後ろを振り返ると綺麗な水色がみえた。


リアンと同じアクアマリンのようなキラキラ光る水色__

「どうしたんだよ。……なんで泣くんだ。」

そう言われて頬を触ると涙で濡れていた。

「ごっごめんなさい。」

好きでもない子に目の前で泣かれても困るよね。だから、早く泣き止まないと、いけないのに……
涙が、止まらない。
ハンカチで拭っても拭っても溢れだしてくる。


「私のことを選んで欲しかった」


「もっとそばにいたかった」


「あなたの1番になりたかった」


下を向いてスティール殿下に顔が見えないようにした。こんな醜い顔は見せたくないし、あの瞳を見ていたらずっと泣きやめないような気がした。


「……」


「えっ」


スティール殿下は、私の腕を引っ張って自分の胸に引き寄せた。そして、自分の手を私の頭に乗せた

「……なんも見てないから。」



そっぽを向いて呟いた。

きっと、なんも見てないからというのはルブラン殿下からのアドバイスだろう。

女性の泣き顔をジロジロ見るものでは無いとか、時には見て見ぬふりをするのも大切だとか、実際の程は分からないけれど……


そのまま言っているのだとしたらちょっと可愛い。思わず、笑ってしまった。ぶっきらぼうに放った一言。それだけでこんなにも嬉しい。


スティール殿下の気遣いのおかげで私の涙は止まったのだけど、すると今度はこの状況に顔から火を噴きそうなくらいに恥ずかしくなって来た。



「あの、もう大丈夫です。ありがとうございました。」


そう言って私はスティール殿下から離れた。


「……」


「ッ」


スティール殿下は、私に近づいて顎に手をかけて上を向かせた。

きっと酷い顔をしているのに至近距離から見つめられてドギマギしてしまう。



「目、閉じて。」




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