星降る夜を貴方に

ごま

文字の大きさ
29 / 50

りんご飴

しおりを挟む


「行こう」

スティールが私の手を取り、歩き出した。
手を繋いでくれたお陰で、先程よりも時間をかけて辺りを見渡すことが出来る。

食べ物の香りが混じり合い、空気を吸い込むだけで胸がワクワクしてくる。

「手始めに何か食べるか?」

「はい!」

ふと、目に入ったのはテラテラと輝くりんご飴だった。

「りんご飴食べたいです。」

「分かった。」

屋台もそうだし、食べ物もそうだけどなんか文化が日本よりなんだよね~

記憶を取り戻す前は、考えたことも無かったけど現代日本も他の世界から来た人に影響を受けた文化があったのかもしれない。

日本にいた私からすると、この光景は違和感があるけど、この世界しか知らない人にとってはなんの疑問も持たないような馴染み深い文化なんだ。

そう思うと、自分たちが知らないだけで多くの世界と繋がって影響しあっているのかも。……そうだとしたらなんか……素敵だね。存在を認識することは難しいけど、どこかでは繋がっている。


「おじさん、りんご飴1個!」

「あいよ~」

スティールは空いている左手で代金を渡し、りんご飴を受け取った。

「ん」

「ありがとうございます!」

スティールから貰ったりんご飴は、香ばしい匂いがする。

「座る?それともこのまま歩く?」

「このまま進みたいです。」

「じゃあ、そうしよう。」

いつもであれば、咎められるけど今日は歩きながら食べても誰にも文句は言えない日。最高!

りんご飴に集中している私のことを気遣ってか、遅く歩いてくれる。

甘酸っぱくて美味しい。外側の飴の部分は、パリパリしているけど内側はジューシーで。実に美味。久々に食べたけど、やっぱり美味しいなぁ。

そういえば、1個しか買って無いけどスティールは要らないのかな。

「美味しい?」

「とっても!!」

「1口ちょーだい。」

「え」

私が返事をする前にスティールの手が私の手を掴んでりんご飴に口を付けた。

手は繋いだままなので、ほとんど向かい合うような形になり、距離がものすごくちかい。ちかい。 

目の前で、彼は自分が食べていたりんご飴を齧っている。

は???え?何?なんで???

あっ、毒味係が居ないから私が食べたものしか食べられないみたいなそういうこと?なら、最初に言ってくれたら渡したのに。

最初に言わないと、誤解を招くでしょう!!!ほんっとにびっくりした!!

でも、そしたら今まではどうしてたんだろう?エリザベスの食べたものを食べる訳にはいかないから、ルブラン殿下と2人で…いやそしたら2人とも危ないだけだし。

お祭りでは、無差別に毒殺はしないだろうみたいな感じ?え?

スティールは、私に対して何してもいい女とか思ってるんじゃなかろうか?妹以下では?

私が色々考えている間にスティールは私から手を離して口をもぐもぐ動かしていた。

もう、本当にこの人は……自分の見目が麗しいことを利用して……

怒りきれない私も重症だなぁ……


「おいしいな」

「……今までお食べにならなかったのですか。」

少し、不服な態度を隠しきれずにぶすっとしてしまう。

「うん。興味もなかったし。」

「でしたら!」

わざわざ私のを食べなくても!!!

「でも、アリーが食べてるやつは美味しそうだったからさ、嫌だった?」

「ッ~~~~~」

そんな風に言われたら、嫌なんて言えるわけないし、元々嫌じゃないし。

でもそんなこと口に出せないし~~

目を見開いて、顔を真っ赤に染めた私はさぞ滑稽だろう。

「ふはっ顔真っ赤っか」

揶揄うように笑いながら私の髪を手に取って毛先に口づけた。

スティールは、あざとく上目遣いで私を見る。耐えられなくなった私は

「揶揄うのは止めて下さい!」

と抗議したが、反省する気がサラサラないスティールに溜息をついた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...