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りんご飴
しおりを挟む「行こう」
スティールが私の手を取り、歩き出した。
手を繋いでくれたお陰で、先程よりも時間をかけて辺りを見渡すことが出来る。
食べ物の香りが混じり合い、空気を吸い込むだけで胸がワクワクしてくる。
「手始めに何か食べるか?」
「はい!」
ふと、目に入ったのはテラテラと輝くりんご飴だった。
「りんご飴食べたいです。」
「分かった。」
屋台もそうだし、食べ物もそうだけどなんか文化が日本よりなんだよね~
記憶を取り戻す前は、考えたことも無かったけど現代日本も他の世界から来た人に影響を受けた文化があったのかもしれない。
日本にいた私からすると、この光景は違和感があるけど、この世界しか知らない人にとってはなんの疑問も持たないような馴染み深い文化なんだ。
そう思うと、自分たちが知らないだけで多くの世界と繋がって影響しあっているのかも。……そうだとしたらなんか……素敵だね。存在を認識することは難しいけど、どこかでは繋がっている。
「おじさん、りんご飴1個!」
「あいよ~」
スティールは空いている左手で代金を渡し、りんご飴を受け取った。
「ん」
「ありがとうございます!」
スティールから貰ったりんご飴は、香ばしい匂いがする。
「座る?それともこのまま歩く?」
「このまま進みたいです。」
「じゃあ、そうしよう。」
いつもであれば、咎められるけど今日は歩きながら食べても誰にも文句は言えない日。最高!
りんご飴に集中している私のことを気遣ってか、遅く歩いてくれる。
甘酸っぱくて美味しい。外側の飴の部分は、パリパリしているけど内側はジューシーで。実に美味。久々に食べたけど、やっぱり美味しいなぁ。
そういえば、1個しか買って無いけどスティールは要らないのかな。
「美味しい?」
「とっても!!」
「1口ちょーだい。」
「え」
私が返事をする前にスティールの手が私の手を掴んでりんご飴に口を付けた。
手は繋いだままなので、ほとんど向かい合うような形になり、距離がものすごくちかい。ちかい。
目の前で、彼は自分が食べていたりんご飴を齧っている。
は???え?何?なんで???
あっ、毒味係が居ないから私が食べたものしか食べられないみたいなそういうこと?なら、最初に言ってくれたら渡したのに。
最初に言わないと、誤解を招くでしょう!!!ほんっとにびっくりした!!
でも、そしたら今まではどうしてたんだろう?エリザベスの食べたものを食べる訳にはいかないから、ルブラン殿下と2人で…いやそしたら2人とも危ないだけだし。
お祭りでは、無差別に毒殺はしないだろうみたいな感じ?え?
スティールは、私に対して何してもいい女とか思ってるんじゃなかろうか?妹以下では?
私が色々考えている間にスティールは私から手を離して口をもぐもぐ動かしていた。
もう、本当にこの人は……自分の見目が麗しいことを利用して……
怒りきれない私も重症だなぁ……
「おいしいな」
「……今までお食べにならなかったのですか。」
少し、不服な態度を隠しきれずにぶすっとしてしまう。
「うん。興味もなかったし。」
「でしたら!」
わざわざ私のを食べなくても!!!
「でも、アリーが食べてるやつは美味しそうだったからさ、嫌だった?」
「ッ~~~~~」
そんな風に言われたら、嫌なんて言えるわけないし、元々嫌じゃないし。
でもそんなこと口に出せないし~~
目を見開いて、顔を真っ赤に染めた私はさぞ滑稽だろう。
「ふはっ顔真っ赤っか」
揶揄うように笑いながら私の髪を手に取って毛先に口づけた。
スティールは、あざとく上目遣いで私を見る。耐えられなくなった私は
「揶揄うのは止めて下さい!」
と抗議したが、反省する気がサラサラないスティールに溜息をついた。
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