陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第2章 王への道

二話 目覚めの時

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瑠璃達の方を先にするかと思いましたが、こちらを先にしました。
あまり上手くないかもしれませんが、楽しんでいただけると嬉しいです。

ーーー








   その瞬間は、唐突に訪れた。







   俺はパチリ、となんの躊躇もなく瞼を開けて覚醒する。眠りと覚醒の中間……あの時彼女と再会した時の最初のまどろみのような感覚もなく、起きた瞬間全ての感覚がはっきりとしていた。

   いや、それは少し正しくないかもしれない。長い間仮死状態で眠りについていたせいか、全身が心地よい痺れに包まれている感触がする。

   しかし、異形と戦った時の四肢を失った瞬間の痛みに比べればどうってことないその痺れが収まるまで俺は寝たままの体制でじっと待つ。

   やがて、体感時間でほんの数分程度で痺れは緩やかに収まっていき、それまで曖昧な感覚で動かせなかった神経と言う名のケーブルに霊力という電気を通して力を込める。

   長らく眠っていた神経は突然開かれたことにより驚いたのか、一瞬膨張して筋肉を内側から圧迫する。俺はすぐに流す霊力の量を減らし、少しずつ慣らしていった。

   そのまま両手の五指を握ったり開いたりして力の具合を確かめてみる。すると握ろうとする瞬間、わずかな抵抗を覚えた。まあ、液体の中にいるから当然か。

   両手がしっかりと動くことを確認すると、今度は両足に同じように霊力を流し込んでほぼ骸に近い状態の肉体を蘇らせた。すると緩んでいた筋肉が引き締まり、活力が漲ってゆく。

   またしばらくして両足が自由に力を込めることができるようになり、さて次は内臓かと思っていると外側から何かが流れ込んでくる感覚を覚えた。
  
   未だ動かぬ頭についた二つの目でそれの根源を探す。するとそれが、俺の両手両足、胸を中心に全身の皮膚の下に侵入した灰色の枝であることがわかる。

   ……そうか、四肢が再生してなおまだ『大精霊の大樹』から力が送られていたのか。そして俺の霊力に反応し、活性化を促した、と。

   それを理解すると、これ幸いとその力に乗じて魂から直接全身に霊力を送り込む。するとまず内臓が劇的な速度で復活を果たし、それまで補助器具の役割を果たしていた枝を押しのけて心臓が高鳴った。

   ドクン、という鼓動に体が浮く。そして俺の心臓は無秩序に全身に流した霊力をかつてのように道を作って制御し、ポンプの役割を果たして錆び付いた血潮とともに効率よく体に行き渡らせていった。

   心臓が動き出してからほんの数十秒間ほどで、全身に力がみなぎってきた。よし、いい感じだ。この様子だともう起き上がれそうだな。

   そう思った俺は、有り余るほど漲り、灰色のオーラとして可視化するほどに高ぶった霊力を背中の肩甲骨あたりに一気に流し込む。もし〝それ〟が終わっているのなら、可能なはずだ。



ビキッ、ビキビキッ………!  



   そしてその俺の期待に反することなく、霊力に反応して肩甲骨の部分がどんどん膨らんでいきーーそして、皮膚を突き破って泉の中に一対の骨が姿をあらわす。

   折りたたまれていた骨を広げ、筋肉を纏い皮膜と鱗で覆い隠されたその翼の鉤爪で俺は泉の底を鷲掴みにする。

   そしてぐっと関節を曲げてバネのように力を込め、一気に解放する!


ブヂヂヂヂッ!


   人外の膂力を持つ翼の力で強制的に体が上に引っ張り上げられ、全身に根付き張り巡らされた枝が軋みをあげる。その枝を強引に引き千切り、俺は泉から勢いよく飛び出した。

   虹色の水しぶきが上がり、千切れた枝の欠片が宙を舞う。それを眼下に水の尾を引き、不恰好に枝を全身から垂らしながらも俺は空高く飛び立った。

   十分な高さまで飛ぶと、空中で翼をしまい落下する。棒立ちの体制から体をひねって減速し、静かに泉の前に着地した。

「ふぅ……なかなか大変だったな」

   息を吐いてそう呟きながら立ち上がり、翼を収納する。まるで水分を失いしおれる枝葉のごとく縮小した翼は背中に空いた穴の中へと姿を消し、そしてその穴もすぐに塞がった。

   うまく翼を収納できたことに満足して頷くと、周囲の様子を伺ってみる。長い年月を眠って過ごしたその場所は、昔見た時と何も変わっていなかった……ただ一点を除いて。



グゥ……グゥ……



   なんか、馬鹿みたいにでかいドラゴンが泉の真ん前でとぐろを巻いて眠っていた。五メートルや十メートルじゃない。少なくとも二十メートル以上はあるバケモノだ。

   しかし、その巨体に反してドラゴンは細身だった。どちらかというとトカゲやヤモリに近い体型だろうか。そのしなやかな肉体を包むのは闇より深い黒色の鱗と……そして逆立つ黄金の鱗。

   先ほどの俺同様黄金の鱗が並んだその背中の前脚の上あたりの部分には折りたたまれた翼が生えており、それはドラゴンの寝息に伴い上下している。

   他の場所と同じように細身のその頭部には両目の間の額に一本の刀のような角がそそり立っており、僅かに開いた口からは鋭い牙が覗いていた。

   四本の足には鋭い爪がそれぞれ三本ずつ備わっており、また胴体と同じくらい長い尻尾は先端がレイピアのように尖っていた。あれで刺されたらひとたまりもないだろう。

   そんな明らかに強そうなドラゴンな訳だが……俺はこいつに見覚えがあった。たった一日にも満たない関係だったが、長い時を経てもなお俺の記憶に強く残っている。

   とはいえ、気持ちよさそうに起こすのも忍びないので自然に起きるまでそっとしておこう。ていうかさっきの音で起きないくらい深く眠ってるのか、こいつ。

「まあ、それを言ったら俺の方が長く眠ってたけどな……っとと」

   誰にきかれるでもなくぼやきながら足を踏み出すと、危うくバランスを崩しそうになった。慌てて片手を突き出して転倒を防ごうとする。


ギュルルル!


   すると千切った時に全身に残っていた大樹の枝が伸びて絡み合っていき、手の中に太い杖が出来上がるとそれで体を支えた。思わず驚いて自分の手に巻きついた枝を見る。

   枝の行動に驚きながらもこれ幸いと体制を立て直した。すると枝は役目を終えたと言わんばかりにバラバラに解け、シュルシュルと掃除機のコードのように皮膚の中に消えていった。

   枝が全て収納されると、それまで枝が浮き上がってデコボコだった体は元の何の変哲も無い体に戻っていた。心なしか少し力が増したような気がするが。

  試しにわざと倒れかかってみると、腹筋の部分に亀裂のようなアザが浮かび上がりそこから枝が出現してバランスを保つ。

   重心を背後において体制を戻すと、枝が収納されアザも消えた。その瞬間思い切り地面に向かって拳を振り下ろすと、今度は肘周りにアザが出現して拳全体を覆う。

   地面にあたる直前に寸止めをして止めて振りかぶった腕を戻すと、枝はまた収納される。なるほど、宿主の行動に反応して出てくるのかな。

   それからしばらくシャドーをしたりバク転をしたりと色々と試した結果、枝は筋肉の収縮に反応することがわかった。不思議なものだ。

   まあ、枝のことは置いておくにしても……こりゃまずいな。頭では体の動かしかたをしっかりと覚えてるけど、動くのが久しぶりすぎて体の方が付いていってないから全体的に動きが鈍い。

   力はあっても自在に動かない体なんて面倒極まりないので、誰も見ていないうちにしばらく歩き回って体を慣らしていこう。よし、まずは普通に歩けるようになろう。

「よっ、ほっ……うん、普通に歩くくらいはさっきので慣れたか」

   完璧なバランスを保って歩けるようになると次は小走り、それができるとわかると疾走し、そして最後にジャンプして木の幹を走ろうとして……つるりと足を滑らせて頭から泉に落ちた。



   バッシャァン!



   大きな音を立てながら再び水しぶきを浴びて泉の中に逆戻りする。割と深い泉から両手に絡みついた枝を使って頭を出し、口の中に入った泉の水を吐き出した。

「ゲホッゲホッ……はぁ、目覚めて早々こんなんかよ」
《……無事に目覚めたようで何よりですね》
「のわっ!?」

   突如頭の中に響いた少女の声に俺は驚いた声をあげ、とっさに泉から飛び出して身構えた。が、背後のドラゴン以外にどこにも誰もいない。

   少し体制を維持したまま黙考して、その声の主が何であるかを思い出した。なので構えを解いてため息をつく。まったく、テンパりすぎだろ俺。

   何度かため息をついて自分の間抜けな所業を反省すると、気分をリセットして自分から脳内の声に話しかけた。

   おう、まあ無事に起きたって言えば起きれたな……頭から泉に突っ込むなんてこともしたけど。ま、それは限界を見極めれなかった俺の自業自得だ。

   心の中でそういうと、少女の声はそうですか、とだけ返してきた。いつも通りクールなその声音に、思わず苦笑する。

   まあ、それはともかく。俺は気分を取り直し、突然頭の中に現れた彼女へまた言葉を投げかけた。

   眠っている間……十年もの間一緒にいた・・・・・・・・・・その少女に、はっきりとした声で。



「おはよう、シリルラ」
『おはようございますね。そしておかえりなさい……龍人様』



   そうして俺は十年という長い眠りを乗り越え、この『遥か高き果ての森』にて目覚めたのだった。




ーーー

うーん、もっと派手な描写をした方がいいでしょうか。
毎回ほとんど来なくてへこんでいたりするので、感想をいただけると嬉しいです。
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