陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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幕間 友の旅

08.心の傷を乗り越えろ 序

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お気に入りが更新するごとに減っていきます。自分の文章の未熟さが恨めしいです。
楽しんでいただけると嬉しいです。

ーーー



   視界を覆っていた光が、少しずつ薄らいでいく。

「ん……」
「ここは……」

   目を開けた時、二人の目に映ったのはあの〝力の試練〟の草原ではなかった。

   かといって、〝技の試練〟の謎の屋敷でもなければ、〝心の試練〟の薄暗い部屋でもない。

   二人が出たのは、半壊した日本屋敷の中だった。何から何まで〝あの日〟と酷似した、幻の世界。

「てっきり、最初からやり直しかと思ってたのだけど……」
「まあ、わざわざもう一回やらなくていいなら好都合だな」

   しかし、なぜいきなりこの世界に入っているのか。すでに突破した試練を省略するにしても、あの部屋に出る方が自然だ。

   それに、元の姿のままなのも不可解である。一度目は子供の姿だったのに、現実世界と変わらない。

   魔法陣の質問が変わったことしかり、この世界しかり、二人には何者かの意思が介在しているように思えた。

   疑問は尽きないものの、今考えても始まらない。
 
「とにかく、あいつを探そう」
「ええ」

   じっとしていても試練はクリアできないので、移動を始める。

   二人が送られたのは屋敷の最も大きな広間であり、主に一族が集まった時の会議や宴会場に使われている。

   かつての華美な内装は見る影もなく、畳は剥がれ天井は崩れ落ち、屏風は無残に破れて地面に転がっている。

「ふんっ!」

   比較的破損がひどい、左側の破れかけた襖をシュウが蹴破る。

   音を立てて倒れた襖の向こうには、暗闇が広がっていた。一度は行ったらもう後戻りはできない、そう思わせる漆黒の闇が。


アァアアァ……………



   突如、暗闇の向こうから不気味な声が響いて二人の耳を撫でる。

   断続的に聞こえる獣のうなり声のようなそれに顔を見合わせ、真剣な表情で頷きあうと一歩踏み出す。

   まるでカーテン不思議な感触の暗闇を通り抜ける二人。そして前を見て……瞠目した。

「これは……」
「広間以上にめちゃくちゃね……」

   かつて廊下だった場所は、見るも無残な姿に成り果てている。

   いや、もはや廊下とは呼べまい。なぜならそこにあったのは大小様々な屋敷だったものと……人の死体なのだから。

   死体は非常にスプラッタな状態であり、遠目から見ても下半身のないものや、四肢が欠損しているものもある。

「これ、貴之の叔父様だわ」

   一番近くにあった死体を裏返して、半分削れた顔を見て驚く雫。シュウもつられて覗き込み、思わず眉をしかめた。

「だけど、なんで貴之の叔父貴が?こんなとこにいるはずねえだろ」
「ええ、だってあの日叔父様は……」

そこまで言って、二人はハッとした。

   そうするともう一度、呆然とした顔で息絶えている親戚の死骸……正確には幻だが……を見る。

   シュウは小走りでほんの数メートル離れた場所にある死体に近づいて、槍でひっくり返した。

   そしてその顔は……またも、すでに死んでいるはずの親戚のもの。

「もしかしてこれ全部……」
「あの日、龍人くんの呪いで被害に遭った人たち……?」

   こんなものまで見せるとは、一体どれほどこの試練は悪趣味だというのか。

  不快感に顔をしかめつつ、二人はさらに奥に進む。道中、大人から子供まで多くの死体があった。

   今にも腐臭が漂ってきそうな道を歩くこと、十分ほどだろうか。眼前に建物のような何かが見えてきた。

「あそこに龍人くんが……」
「多分な。行こう」
「ええ」

   うっすらと呪力を纏った浮遊する死体を避け、瓦礫を無理やり繋げたような仏堂の中に入る。

   建物の中は真っ暗だった。加えて濃い瘴気で満たされており、雫が破魔の札を自分とシュウの腕に貼って緩和する。

「………そこにいるのは、誰だ」
「っ!」
「龍人くん……?」

   聞き覚えのある声に、二人はより一層暗い奥の方を見やる。

   雫が炎の札を使って、かりそめの明かりを作る。オレンジ色の炎は、膝を抱えてうずくまる子供の姿を浮かび上がらせた。

「……お前らは、誰だ」
「龍人、俺たちだ。シュウと雫。わからないのか?」
「龍人くん、話がしたいの」

   膝に顔を埋め、表情の見えない龍人に語りかける二人。

「……不快な声だ。だが聞き覚えのある声だ」
「不快って……」
「ーーああ、そうか。思い出したぞ」

   え?という顔をするシュウたちに、龍人の幻覚はゆっくりと顔を上げる。

「お前タちハ、俺ヲ見捨テた奴ラダ」
「「っ!?」」

   龍人の幻覚は、真っ赤に染まった目から血涙を流していた。砕けるほどに歯を食いしばり、強い憎悪の念が見て取れる。

   困惑する二人の前で、龍人の体から莫大な呪力が溢れ出す。それは風圧となり、雫の手にある札を炎ごと消し飛ばす。

「きゃっ!?」
「雫!」
「あア、ニクい。ニクいにクいニクいニくイニクいニクいニクい…………………」

   再び訪れた闇の中、龍人の赤い目だけが爛々と輝きを増していく。

   それに呼応するように、仏堂が揺れ始めた。危機を察知した二人は、一瞬龍人を見て躊躇した後仏堂から飛び出す。

   二人が仏堂から出たのと同時に、地響きを立てて仏堂が崩れ落ちていく。その中から巨大な影が姿を現した。



「「「「「「「「ガァアアァアアアアアァアアァアアアッ!!!!!!」」」」」」」」



   出てきたのは、八つの首を持つ大蛇。仏堂の数倍もある巨大からは、呪力が炎のように揺らめいている。

   その姿を、二人は知っていた。古来より日の本を守るものたちの間で最悪として謳われる、大妖の一体。

   陰陽師や退魔士などの特異な存在でなくても古事記や日本書記などで知っているだろう、伝説の化け物。

「あれは……八岐大蛇ヤマタノオロチ!?」
「龍人の憎しみが八岐大蛇の形をとったっていうのか!?」

   怒りと悲しみがないまぜになったような声で咆哮する八岐大蛇に、二人は驚愕を顔に貼り付ける。

   絶大な威圧感に硬直していると、八つの首全てが二人の方を向いた。真っ赤な十六の目は殺意を含んでいる。

「おいおい、マジかよ!」
「シュウ!」

   雫の叫び声に、シュウは後ろを振り返る。

   すると、ついさっきまで物言わぬ屍だったものが次々に起き上がり、唸り声をあげながら二人にゆっくりと近づいてきていた。

「あの纏っている呪力……死霊術か」
「前門の虎、後門の狼ならぬ蛇とゾンビってわけね」

   頬に冷や汗が伝いつつも、背中合わせになって各々の武器を構える。



「「「「「「「「ガァアアアッ!!!!!!」」」」」」」」



   それを戦意と見たか、八岐大蛇が叫ぶと傀儡たちが一斉に走り出した。

   シュウは八岐大蛇に向けて槍の切っ先を向け、雫は傀儡の大群を見据え札に霊力を通す。

「いくぞ、八岐大蛇!」
「いくらでもかかってきなさい!」

   そうして、新たな第三の試練が幕を開けたーー。


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