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第1章 遥か高き果ての森
一話 えっと…死んだみたいです。
しおりを挟む「ほんっとうに、すまなかった!」
「………え?」
目を開けると、いきなり目の前で土下座をされていた。重力に従って、艶のある若々しい黒髪が流れる。
…何これどう言う状況?
キョロキョロと周りを見渡す。
4畳ほどの小さな部屋に、硬い畳。土下座をしている人と俺の間にはちゃぶ台があり、その上には急須とお茶受けと思われる菓子の包みが乗っている 。
レトロな二段冷蔵庫や古くさい感じのする戸棚を見て、昭和の日本家屋を思い浮かべる。
「…えっと、聞いてもいいですか?」
「何だい?」
頭を上げる青年。俺はその顔に心底驚いた。
薄い唇にキリッとした目元、鋭い鼻梁に細い顎。日本人を完璧にしたら、こう言う感じになるのかな?といった風な、超和風美青年。
一瞬完成された美貌に喉を詰まらせ、しかしすぐに気を取り直して口を開く。
「まず、あなたは誰でしょうか?」
「僕はイザナギ、万物を生み出した八百万の神の長、創世神伊邪那岐だ」
神様かよ。
伊邪那岐は高天原の神々に命ぜられ、海に漂っていた国土を天から矛でかき回し、陸を作ったとされる神だ。その自らが作った島で伊邪那美命と結婚し、やがて多くの神を生み出した。
有名な名前をあげれば、左眼から生まれたとされる天照大御神、右眼から生まれたとされる月詠尊月読命、鼻から生まれたとされる建速素戔嗚だろうか。
まあそのあと死んだ奥さんをあの世に迎えに行って逃げ帰ってきたっていうなんともアレな神様だが…見た感じ、そんな人には見えない。
その自称国づくりの神様が、一体何の用で俺なんかを?
「今君は、何故こんな場所に呼ばれたのか、と考えているね?」
「はい」
「それが、その…僕のミスで、君を殺してしまったんだ。その謝罪とお詫びを、と思ってね」
…なんじゃそりゃ。
聞くところによると、某笑ったらケツバットなバラエティ番組を見ていたところ、不意にどこからか蛾が入ってきた。
それを追い出すために縁側に出た際、蛾から鱗粉が落ちて鼻が痒くなりくしゃみをしたら、それが下界まで届いて俺の魂の炎を消してしまったとか。
なんとも傍迷惑な。
俺、神様のくしゃみで殺されたのか…ていうか神様もあの番組見てるのかよ。
「おや、自分が死んだというのに落ち着いているね」
不思議そうに首を傾げながら、伊邪那岐様がそう聞いてくる。
「まあ、人はいつか必ず死にますからね。それが早いか遅いかの違いです」
「へえ……随分あっさりしているんだね?普通なら騒ぎ立てると思うけれど」
「んー……俺の家柄的に命にそこまで固執することがないからですかね?」
俺の家は陰陽師の一族であり、俺や他の人間も命は自然の摂理の中にあるという思考が強い。
そのため、生きている間は精一杯生を謳歌する。その代わり死んだときは、それが自然の理の中で定められた自らの命の期限なのだと納得して輪廻転成の輪に帰るのだ。
それに当てはめれば、理由はともかくとして自然の造り主である神の手によって命が終わったというのならば、それは俺に定められた運命だったのだろう。
それを説明すると、達観しているねとイザナギ様には少し面白そうに笑われた。
それにしても、俺くしゃみで死んだのかぁ…くしゃみで、くしゃみ…
騒ぎ立てはしないが、ちょっと虚しくなる。神様の生理現象でポックリいく人生とか、少し悲しくなった。
「それで、ここは神様の家ってことでいいんですか?」
「切り替えが早いね…その通りだ。ここは僕が作った神の暮らす上界、『神界』とでも呼んでくれ」
なるほど、だったら俺たちが住む下界は人界とでも呼ぶのかな。
「とにかく、神が自らの眷属である人間を理由なく殺すなどありえない。なので、特例として魂を修復した。けど、一度死んだ人間を同じ世界には返せない。すまないね」
柔らかな笑みを引っ込め、真剣な顔でそういう伊邪那岐様。
たかが人間一人に謝罪をするなんて…人格ができてるな。さすがは神と言ったところだろうか。
「と、いうわけで、君には別の世界で生きてもらう。サブカルチャーでいうところの、剣と魔法の世界というやつかな?」
「了解しました」
落ち着き払った態度でそう答えると、伊邪那岐…長いからイザナギ様でいいか。イザナギ様はぽかんとした顔をする。どうした?
「こう、もっと何かないのかい?何か強い力をよこせ!とか」
ああ、そういうこと。
「特に何も。『男なら、全部自分で一から手に入れろ!』っていうのが爺ちゃんの口癖の一つだったんで」
俺の家はかなり特殊なのだが、現代日本ではあまり残っていない陰陽師の家系だった。その中でもずば抜けて身体機能と霊力(魂から肉体に流れるエネルギーのようなもの)が抜きん出ており、初代すら凌駕している。
歴代最強とされた爺ちゃんから期待された俺は、五歳の頃から地獄すら生温い訓練のオンパレードの中暮らしてきた。
日本じゃありえないだろってくらいの修羅場を嫌という程味わってきたので、十歳になった頃には命だけあれば儲けもの、という思考になっていた。
生き返らせてくれるというのなら他には何も望まない。むしろ諸手を挙げて喜ぼう。その後のことなんて、自力でなんとかしてみせる。
「君は将来大物になれただろうに。本当に惜しいことをした」
「誰にでもミスはありますよ」
くしゃみがミスかどうかは知らないが。
「それじゃあ、これは僕の善意なんだけど…君の魂を修復する際、身体機能と霊力、あちらの世界では魔力と言うんだけど…それを底上げしておいた。あっさり死なれても困るからね」
「わかりました。ありがたく頂戴させていただきます」
「ああ、それと君のスマホをあちらの世界で使えるようにしたから。電池は減らないし、電話とメール系も、僕限定で繋がるようにしておいたよ」
そう言って、懐から黒いスマホを取り出すイザナギ様。使うかわからないが、まあ貰っとこう。
で、何でイザナギ様のメールアドレスを?
「何故って顔をしているね。それはもちろんヒマ…ゲフンゲフン、いつでも親愛なる友人である君の力になるためさ」
今ヒマだからって言いかけなかった?この人実はけっこう適当なんじゃ…
「それじゃあ、このくらいで。いつでも電話してね」
「神様に気安く電話できませんよ」
「はは、それもそうか。じゃあ、転移させるよ」
そう言うと同時に、足元に魔法陣が現れる。俺は正座を解き、立ち上がると少し体を伸ばした。さて、これから頑張りますか。
「あ、聞き忘れてた。君の名前は?」
「皇 龍人です」
「了解。それじゃ龍人くん、頑張って」
その会話を最後に、俺の意識は暗転した。
「あっ、まずい、転送先ミスって…」
意識が途切れる直前、とんでもないことを聞いた気がするが、それを確かめることはできなかった。
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