陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第1章 遥か高き果ての森

二十四話 矛盾都市

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文字数を少なくして更新速度を上げることにしました。これは試験ですので、これまでの方が良いと思ったら近況ボードにお願いします。

ーーー

   全力を出したフリューゲルの速度は我ながらなかなかのもので、最初に西部を飛び立った時や黒龍の背に乗っていた時の何倍もの速度での移動を可能とした。

   石柱に沿ってシリルラのナビゲートに従い、瞬く間に北部の上空を滑るように飛んでいく。その過程でまた未知の魔物や鉱物らしきものもちらほら見えたが、今回ばかりは全てスルーだ。

   そうして飛び続けているとやがて、不意にふっと雪が降らなくなり、地上の景色が変わった。何かをくぐり抜ける感覚からして、結界が張ってあったのかもしれない。

   それまで岩と雪で覆われていた地面は真っ黒な岩で覆われ、至る所から蒸気やマグマが吹き出している。池の代わりにマグマ溜まりが点々と存在していた。

   肌をチリチリと焼くような空気に、それまで雪を弾いていた魔法陣を解除して代わりに肌の表面に霊力を纏うことで暑さを遮断する。かなり暑いな、ここ。

『これが北部地域の首都……通称〝矛盾都市〟じゃ』

   脳内に響くエクセイザーの言葉に、どこか納得する。確かにこれまでの冬山のような様相から一転、火山のような情景は正反対で矛盾しているな。

   だがしかし……今の矛盾都市には、マグマ以外にも〝赤〟が広がっていた。元は家や工場か何かだったと思われる残骸から立ち上るそれは、炎の赤である。明らかに異常事態だ。



「ガァァァァアアァアァアアアッ!!」



   そして……それらを引き起こした主であると思われる両手に巨大な斧を一振りずつ持った黒い体躯の巨人が、雄叫びをあげていた。あれは……オーガか?

   俺はフリューゲルに命令を送り、それまでの直進から円形に矛盾都市の上を飛び回り、少しずつ降下して地面に降り立つ。後ろについてきていた黒龍も加速魔力を少しずつ霧散させてドシン、と着地した。

   フリューゲルの端っこを蹴り上げてキャッチし、アイテムポーチに押し込むと代わりに鉄札を五枚とも取り出して顔を近づけ、呪文を唱える。

「……急急如律令!」

   最後の言葉とともに、札を地面に投げつける。すると西武区画で戦った時とは違い、鉄札の紋章が輝き風ではなく灰色の炎が地面から立ち上ったかと思うと岩が鉄札に集まっていった。

   30秒後、目の前には赤みがかった黒い岩の甲冑を纏った式神が五体出来上がっていた。顔の部分には鬼の面がつけられており、岩石でできているのでより厳ついものとなっている。

   式神たちが手に持つのは三体は薙刀、二体は火縄銃である。何から何まで全て岩石で形作られたそれは、割と洗礼された見た目だった。

   俺の切り札の一つであるあの鉄札は周囲にある物体によってその構造を最適化し、戦闘力を限界まで引き上げる術式が組み込まれている。試行錯誤を繰り返しながら三日三晩徹夜で作り出した。

   式神たちに生き残っている住民たちの非難、救出を命じてシリルラに操作を任せた。彼女の命令に従い、式神たちは街の中へと散っていく。

   それを見送った俺は、ある方向を向いた。先ほどの黒いオーガらしきものがいた方だ。明らかに危険そうなあの魔物をなるべく早く倒さなくてはいけない。

「クルル!」

   いざ走り出そうとしたその瞬間、後ろにいた黒龍が自分に乗れと言わんばかりに鳴き声を上げこちらを見る。すぐさまその背に飛び乗り、腹を軽く蹴ることで走らせた。

   四足で疾走する黒龍に乗る俺の目の前では、 蜥蜴人リザードマン人狼ウェアウルフが悲鳴を上げながら逃げ惑っている。中には体の一部を欠損しており、他のものが肩を貸しているものもいた。

   それだけに留まらず、首のないドラゴンの死骸や、上半身を真っ二つにされている獣人の骸もそこらじゅうに転がっていた。漂ってくる死臭に、口元に腕を押し当てる。

   股の下で、黒龍がこれまでで一番怒りのこもった唸り声をあげる。どうやら自分の故郷や仲間を破壊され、憤っているようだ。当然である。

   そう心の中で勘ぐる俺も、自分の顔が険しくなるのがわかった。まだ話したことも、顔すら知らない人たちだったけど……それでもこの光景は、惨すぎる。

「うわぁぁ~ん!  ママ~!」
「!」

   しばらく進んでいると、不意にどこからかそんな声が聞こえてきた。幼い男の子のような声で、明らかに震えている。

   反射的に声のした方を向くと……ちょうど進行方向の先に、半身が消し飛んでいる死体を揺らし、泣いている血まみれの蜥蜴人リザードマンの童子がいた。

   更に…その童子と殺された母親と思われる蜥蜴人の死体のすぐ後ろにある大きな石造りの建物が、今まさに同時に向けて崩れ落ちようとしているところだった。

   それを見た瞬間、黒龍の背中を蹴って跳躍。そのまま空中でアイテムポーチの中に手を突っ込み、先ほど使ったばかりのミスリルシールドを取り出す。


ガラガラガラッ……


「……え?」

   家屋が音を立てて崩れ、不安定だった石造りの家が瓦礫となりながら倒れる。そこでようやく気がついた童子が、呆然と自分に迫ってくる壁を見上げた。

「間に合え……ッ!!」

   あと二メートル、一メートル……目と鼻の先に童子と瓦礫が迫る。ふと体感時間が伸びる感覚を覚えたので、その中で手に装着したミスリルシールドを構えた。

   そして家が童子にのしかかるその刹那、童子のいる場所に到達することに成功する。そのまま子供を腕の中に抱え、落ちてくる壁の残骸に向けて自分の頭を守るようにミスリルシールドを掲げた。

   次の瞬間、ミスリルシールドを持つ腕に衝撃が伝わってくる。同時に、シールドでカバーしきれていない部分に瓦礫が当たる感覚も。

「ぐ、うぅ……!」
《龍人様!》
『主人!』

   思わず呻き声を上げて膝をつきそうになるが、しかしここで俺が倒れたらそのまま腕の中の童子が下敷きになる。歯を食いしばり、衝撃に耐え凌いだ。

「クルルルル!」

   する突然、体に伝わっていた衝撃がなくなった。一体何かと思い上を見上げてみれば黒龍が俺に覆いかぶさって翼を広げている。思わず驚いて目を見開いた。

   だが黒龍が歯をむき出しにしているのを見て、咄嗟にその頭を引っ張り込むとその上に再度シールドを構えた。再び瓦礫の衝撃に襲われるが、先ほどの比ではない。

   数十秒後、ようやく倒壊が収まり、もうもうと土煙が立ち込めた。俺は瓦礫の山の中心、ミスリルシールドの下でホッと息を吐く。

   一息つくと、シールドを持つ手に力を込めて上に突き上げる。そうするとシールドの上に乗っていた瓦礫が吹き飛び、それに続くように黒龍が翼をはためかせ体の周りの瓦礫もガラガラと音を立てて崩れた。

   ふぅ、危なかった。黒龍がいなくては俺も怪我をしていたかもしれない。結構尖った瓦礫も体に当たってたしな。

《……ご無事で何よりですね》
『ふぅ……まったく、無茶をする主人じゃ』
  
すまん、二人とも心配かけて。

っと、そんなことより。

「おい、大丈夫か?」

   腕の中にいた蜥蜴人の童子にそう声をかけるが、しかし返事がない。まさか、と思いシールドを投げ捨て、慌てて童子を見た。

   だがそんな俺の心配とは裏腹に童子の胸はしっかりと上下し、呼吸をしていた。どうやらただ気絶していただけのようだ。ほっと胸をなでおろす。

   とりあえず全身に固まってこびりついている返り血と先の倒壊での土埃を水魔術で洗い流していると、先ほど解散した式神の一体がこちらに走り寄ってくるのが見える。どうやらシリルラがよこしてくれたようだ。

   近づいてきた式神に童子を託そうとして……不意に視界の端に、瓦礫の下敷きになった腕が見えた。先ほど見た、童子の母親と思われる骸のものだ。

   血だまりの中に沈んだその手には、綺麗な装飾の施されたリングが嵌っていた。中央には小さな金色の宝石がはまっている。

「……母親の形見になるかな」

   小さく呟くと、腕からそっとリングを外して童子の手の中に握らせる。そうすると今度こそ式神に童子を任せた。

   腕の中に童子を抱え、他の負傷者と同じ場所へ運んでいく式神の後ろ姿を見送ると頭を近づけてきた黒龍の鼻を撫で、シールドを拾って装着し直した、その瞬間。





ーーゾクッ





   不意に背中に悪寒が駆け巡り、頭上に凄まじい濃度の殺気と魔力を感知した。反射的に腰を落としてシールドを使い、攻撃に備える。

   次の瞬間、金属同士がぶつかり合う甲高い音と共に凄まじい衝撃が腕に響いてきた。それは今までこの世界にきた中でも有数の威力で、地面が陥没し放射状にヒビが入る。

   押し負けそうになるがもう片方の腕を添え、【超身体能力強化】スキルを使うことで防ぎきる。相手は仕留めれなかったことに舌打ちした。

   奇襲のお返しと言わんばかりに、思い切りシールドに霊力を流し込みストックしていた雷撃をお見舞いする。だが雷撃が届く刹那の瞬間、相手はバックステップで距離をとった。

   引き続きシールドを構えて、右手でエクセイザーを鞘から引き抜く。先ほどの攻撃の威力から最大限に警戒しながら、相手の姿を伺う。

そして相手の姿を見て……思わず瞠目した。

   

「ガァアアアァァァァアアァッ!!」



   そこには……先ほど上空から見た、黒く巨大なオーガがいたのだ。
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