陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜

熊1969

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第1章 遥か高き果ての森

三十一話 シリルラとは

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「……ん」
「あ、目が覚めましたか、センパイ」

   気絶から意識が引き上げられ、眼が覚めて瞼を開けると、見上げる形で瑠璃のほっとしたような顔が最初に移った。

   今回は眠っていたわけではなく、処理能力が追いつかなくて気を失っただけなので最初から五感がはっきりとしている。
   
   つまり、後頭部にある柔らかい太ももの感触がダイレクトに伝わってきた。瑠璃が俺の頭をそっと撫でている感覚も。

   ……ああ、また膝枕をされているのか。さっきは転げ落ちるほど驚いたけど、気絶する前にされたことを思い返せばなんでもないな…嘘ですちょっと恥ずかしいです。

   あまり思い返してもまたオーバーヒートしてしまいそうなので、すぐに頭の中に浮かんだ視界いっぱいの瑠璃の顔を打ち消して手を伸ばし、瑠璃の手に重ねた。

   そっと頭から瑠璃の手を外すと、ゆっくりと上体を持ち上げて起き上がる。するとこれまで自分の寝ていた場所がベンチだったことに気がついた。

   そのまま体の向きを変えて、ベンチの背もたれに背中を預ける。そうするとこほん、と一つ咳払いをしてから瑠璃の方を向いた。

「……お前がシリルラだってことはわかった。その上で、詳しいことを教えてくれ」

   そう、さっきは色々とありすぎて困惑して気絶なんてしてしまったが、ちゃんとそこは知りたい。

   真剣な顔で問いかける俺に、瑠璃はコクリと頷いて微笑んだ。

「はい、いいですよ。一通り楽しみましたしね。でもさっき言ったことは本心なので、勘違いしないでくださいね」
「ぐ……わ、わかった」

   キスとともに放たれた告白を思い出して赤面する俺に、瑠璃はゆっくりと語り始めた。自分がどういう存在なのかを。 

   まず、もともとシリルラは下級神などではなく、地球のとある地域……俺の住んでいた街を含めた広範囲……それこそ県一つ程度の龍脈を管理する上級の神だったらしい。

   ちなみに龍脈とは、大地に流れる自然の霊力の大河のようなものだ。俺が爺ちゃんと二人で住んでいた皇家の屋敷は、その龍脈の集中する点である龍穴に建っていた。

   そしてその龍脈の管理者であるシリルラは数千年に及ぶひたすら代わり映えしない生活に飽き飽きしていたようだ。

   ある時シリルラは、ふと自分の存在を二つに分けて、片方を人間達の中に紛れ込ませようと考えた。

   そうやって神として上から見るのではなく、人として隣で人間を見ようと思ったのだ。共に生き、本来なら一瞬にも感じる時を共有することで暇つぶしをしようとした。

   そうして二つに存在を分割した時に神としての力も二分してしまい、結果として片方では下級神程度の格となったようだ。

 龍脈を管理するために残る〝シリルラ〟には管理者としての神の力を、人間界に降りる〝白井 瑠璃〟には残りの半分ほどの力を残し、バランスをとっていたらしい。

   そうして人の形をとった片割れを、シリルラは〝白井 瑠璃〟と名付けた。それが、俺が地球で一緒にいた方の片割れというわけだ。

 そしてここが重要なところなのだが、シリルラは人間界に降ろした片割れと元は一つの存在であるがゆえに記憶を共有しており、シリルラの方も記憶として人間界を楽しんでいたようで。

「つまり今貴方の前にいる私は、正確には貴方がずっと一緒にいた白井瑠璃ではなく、白井瑠璃の記憶を持ったもう片方というわけです」
「なるほど、そういう事なんだな……ん?  そしたら今、地球での龍脈の管理は…」
「そこはおいおい説明しますね…そうして私の片割れをいよいよ人間界に降ろそうと下界を見て…貴方を見つけたんです」
「俺を?」

 ここで、俺がいきなり話に出てきた。きょとんとする俺にクスリと笑い、彼女は話を続ける。

 今しがた言った通り、二分された一方をどこに降ろそうと下界を見た時……龍穴の上に住んでいる俺を見つけたということらしい。
 
「陰陽師という特異な存在、何より貴方の目を見た時…貴方に接してみたくなりました」
「……目、か」

   たしかに……今思えば、シリルラ…瑠璃に出会う前の俺の目はかなり暗く淀んでいたのではないかと思う。

   幼少期……俺の最大のトラウマである事件のこともあり、自分の力で人を傷つけてしまうのではないかと恐れて人と距離を置くようになった。

   それにより淀んだ目に加えて、普通ではあり得ない灰色の髪もあり、幼馴染の男以外は見た目で周囲の人間達は俺に近づくことはなかった。
 
   俺は本来寂しがり屋だ。爺ちゃんがいたから心身ともに鍛えられて引きこもることはなかったが、塞ぎ込んでいたのは間違いない。

   彼女はそんな俺の目を見て、何を思ったのだろうか。

「人並み以上の力を持ちながら人を恐れる…そんな不思議な貴方に興味を引かれ、私の片割れは女学生として人間界に降りて貴方を観察しました。知ってますか?  ずっと見てたんですよ」
「……そうだったのか。この髪色のせいで奇異の目には慣れてたから、気づかなかった」
「ふふっ、案外抜けてますよね、センパイって」

   うっせ、と小さく呟く俺にシリルラがクスクスと笑う。くそ、ずっと見られてたってなんだか恥ずかしいな。

   そして俺を観察する過程において、瑠璃は数多くの経験をしたらしい。それまでの龍脈を管理しているだけの日常とは全く違う、人間としての日常。

   例えば勉強であったり、人付き合いだったり、現代に存在する数多くの文化であったり……当初の目論見通り、十分暇つぶしになり得るほど下界は楽しみにあふれていた。

   そして、下界での苦楽共にある暮らしを楽しみながら瑠璃は俺の観察を続けて、やがて充分に観察し終えた頃。

「……あの日。私は貴方に接触するきっかけを作るために自然現象をいじり、雨を降らせました」
「…え、マジか」

   まさかあの日の出来事は、シリルラの仕組んでいたことなのか?

「マジです。少し龍脈から霊力を引き出して雨雲を発生させました」

   ……つまり、最初から全部シリルラの掌の上だったってことか。確かに思い返せば、あの日朝見たニュースでは晴れと言っていた気がする。

   苦笑いする俺に瑠璃は楽しそうに話し続ける。そうやって俺と接触し、一緒にいることで俺という人間を、そして俺が人を恐れる理由を知ろうとしたようだ。

   あとは俺も知っている通り、四年にも及ぶ瑠璃との長い付き合いが始まった。今思い返せば、いろいろな事を一緒にしたもんだ。

   例えば放課後一緒に街に行って遊んだり、カフェや甘味処に行ったり、瑠璃の勉強を手伝ったりと、他にも数え切れないくらいの事を体験した。

   瑠璃との日々を思い浮かべていると、それをリンクしているので見ることのできるシリルラも柔らかい笑みを浮かべる。

   やがて俺が物思いにふけっていた状態から元に戻ると、待っていてくれたシリルラは話を再開した。

「思った通り、貴方はとても面白い存在だった…それこそ、ずっとこのまま下界にいたいくらいに」
「……そ、そうかよ」

   照れ隠しに思わぬぶっきらぼうな口調になる。一緒にいたいと感じていたのが自分だけじゃなかったことに思わずニヤける口元を押さえた。

   とはいえ、からかわれてドキドキするなんてことは地球で散々やられてきたのでいつもの冗談だろう、と思い直す。

   なんとか口元を元に戻してシリルラに向き直ると、彼女は少し恥ずかしそうに頬を赤くしていた。いきなりどうしたんだ?

「……じょ……だ…じゃ…あ…ませ…よ」
「え?  すまん、声が小さくて聞こえなかった」

   ボソボソと何事か呟かれた言葉にそう聞き返すと、シリルラは少し恨めしそうな顔でキッと睨んでくる。

「冗談じゃないって言ったんですけどね!」


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