脱! 初恋宣言!〜幼馴染にフラれたら、ギャル可愛い彼女ができたんだが〜

熊1969

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初恋・協定



 
 何を言われたのか、しばらく理解できなかった。



 衝撃の事実の連続で疲れた脳は鈍く、しかしこちらを見つめる瞳に否が応でも促される。

「お前、何言ってるんだ……?」
「私と付き合わないかって聞いてるの。もちろん、恋人として」

 もう一度、強調するようにじっくりと告げられる。俺の混乱は余計に深くなった。

 俺達は今、初恋に敗れたという話をしていたはずだ。それなのに恋人にならないかなんて、突拍子がなさすぎる。

「……それはアレか? フられたから復讐で俺達が付き合って、見返してやろう的な……」
「違うよ」
「じゃ、じゃあ恋愛経験積んで、自分達に振り向かせようとか……」
「ぜんっぜん違う」

 違うのかよ。じゃあなんだ?

「高峯は、失恋から立ち直る方法ってなんだと思う?」
「何って……わからねえよ」

 唐突に投げかけられた質問に、俺はすぐに答えた。

 

 ありきたりな方法なら思いつく。

 心ゆくまで遊んで発散するとか、何かに打ち込むとか、いくらでもやりようはあるだろう。

 でも今の俺は、そのどれもで自分の気持ちが上向く気がしなかった。

「あたしは、新しい恋をするのがいいんじゃないかって思う」
「まあ……よく聞く手段の一つだな」

 だが、それこそ無理な話だ。

 俺の恋心は小百合一人に長年定められてきた。今更他の誰かを好きになろうと言われても、難しすぎる。

「無理だ、って顔してる」
「エスパーかよ……」
「でもさ、だったらどうするの? 自然と折り合いがつくまで待ち続ける?」
「……それは」
「一ヶ月? 一年? それとも高校を卒業して、大人になってもずっと抱え続けるわけ?」

 ……今度は答えられなかった。

 

 ああは言ったものの、実際再起するのにどれだけ時間がかかることか。

 今の俺は七年も熱情を注いだものが無くなって、真っ暗闇に放り出されたような気持ちでいる。

 心のほとんどを占めていた初恋の消失は、ちょっとやそっとじゃ埋まらない。

「その顔、やっぱり目処が立ってないんだ」
「っ、そういう晴海はどうなんだよ。すぐに吹っ切って、次の恋愛をするのか?」

 自分の意気地のなさを揶揄されたようで、俺は苦し紛れに言い返す。

「そんなはずないじゃん。高峯なら、わかるでしょ?」

 しかし、鋭い眼光で返された言葉ですぐに自分のミスを悟った。

 今の晴海は、俺と同じくらいの悲しみを感じているはずなんだ。それなのに……。

「……ごめん。今のは忘れてくれ」
「ん。……あたしもわかんないよ。どうしたらこの恋を思い出にできるのか、全然思いつかない」

 胸の辺りに手を置いて、晴海は呟く。

「新しく人を好きになるって、どういうことだろうね? これまでの気持ちをなかったことにしてしまうってこと? それって本当に恋なの?」
「……俺に聞いても意味ないだろ」
「だよね。ごめん」

 俺も、そしてきっと晴海も、一人を追いかけすぎた。

 だからその質問への答えなど、持ちようがない。



 多くの人は、初恋を叶わないものとして体験するはずだ。

 想いが遂げられない悲しさと辛さを経験して、そこから恋愛における妥協や潮時というものを学ぶ。

 俺は今日、ようやくそのスタートラインに立ったんだから。

「初恋だから仕方ない。そんな一言で終わらせるには、この大きな恋を続けすぎちゃった」
「……ああ。俺は、小百合以外の誰かをそういう対象に見れない。知らないんだ、そのやり方を」

 もしかしたら、二度と誰かを好きになれない可能性すらある。

 そんな不安さえ感じてしまうほどに、俺は恋愛において無知だった。



「──でも、あたし今、あんただったら好きになれる気がしてる」
「……はぁっ!?」



 もう何度、今日は驚かされただろう。

 呆気にとられる俺に、一転して晴海は優しく笑いかけてきた。
 
「高峯はさっき、この失恋を強引に終わらせたくないって言ってたよね。それってすごく辛いことだと思う。なのに自分から選ぼうとするなんて、誰にでもできることじゃないよ」
「だって……そうするしかないだろ? 他に方法がないんだから」

 一丁前にちゃんと終わらせるなどと豪語したが、先ほども考えたように方法がないだけだ。

 強引な立ち直り方はできなさそうなので、向き合う他に思いつかないだけである。

「だよね。あたしもおんなじこと考えてた。でも苦しすぎて無理かもって、すぐに諦めたよ」
「……晴海は晴海なりのやり方をすればいいんじゃないか?」
「そう──だからあたしは、次の恋をすることにした」

 恐ろしく力の入った宣言に、思わず生唾を飲む。

「高峯は人が誰かを好きになる理由ってなんだと思う?」
「質問ばっかだな」
「いいから、ほら」

 念を押され、渋々俺は頭をひねる。

「……まあ、何か一ついいなって思って、そこからどんどん相手に興味を持って好きになるんじゃねえの?」
「高峯はそうやって宮内さんに恋したんだ?」
「うっ、まあ、そうだが……で、それがどうして俺を好きになるなんて話に繋がる?」

 回りくどい話し方に、俺は質問を返した。

「要するに、あたしは今高峯のことを〝いいな〟って思ってるってこと。おんなじ風に失恋したのに、少しずつでも進もうとしてるところに興味を持ってる」
「なっ……!」

 その気がないとはいえ、こんな美少女に興味があると言われて心臓が跳ねた。 

 謎の動悸を勘違いだと慌てて言い聞かせ、顔をしかめる。

「た、ただの同族意識だろ」
「かもしんないね。でも、いいチャンスだと思うんだ」
「チャンス?」
「そう、チャンス。次を始めることにしたって言っても、全然やり方わかんなかったんだけどさ。この気持ちがその入り口かもって」

 自分の胸に手を置いて、晴海は語った。

「これがどんな感情なのかはわかんない。けど、ただ負けたままに、終わったままにしたら、きっとあたしの心は止まる。いくら次を始めようとしても、誰かを好きになったって上手くいかないって諦めきずが邪魔をする。それはわかるんだ」

 進む方法は分からずとも、止まる未来は予想できてしまう、か。

 共感できる話だ。実際、俺も結構投げやりな心境で……

「あたしはそんなの嫌。この初恋が痛いだけの傷になってしまう前に、ちゃんと進みたい」

 しかし真っ直ぐな目で、はっきりと晴海はこの感傷を拒絶した。

「だからこの気持ちに賭けてみたいの。こうやって出会えたあんたと、次の恋ができるのか知りたいんだ」
「って、突然言われてもな……」

 色々と言われて、何が何だか。

「悪い話じゃないと思うよ。あたしとあんたが一緒にいる限り、この失恋をなかったことにはできない。そうやって無理矢理でも向き合い続ければ、一人で抱えるより早く克服できると思わない?」
「……それは」

 ……ようやく晴海が何を言いたいのかを朧げながら分かってきた。

 彼女は俺にこう提案しているんだ。



 互いの存在を利用し、協力して失恋を脱却しよう、と。



「あたしは高峯となら、それができるって感じてる。たかが初恋、そう言ってやり過ごさないで、ちゃんと終わらせようとしてるあんたとなら」
「だが……」
「じゃあ、高峯は一人で何年も苦しみたいの?」

 そう。結局問題はそこに帰結する。

 俺は口先だけじゃなく、ちゃんと自分の夢を終わらせられるのか?

 そう考えた時──俺は、まったく自信がないことに気がついた。

「難しいよね。できるはずがないって思う。あたしもそうだよ」
「っ、晴海……」

 自分の中に没頭していた意識が、彼女の言葉に掬い上げられる。

「一人じゃ無理かもしれない。でも、二人なら違うかも。辛い、苦しい、なんであたしを選んでくれなかったの……こんな思いをまたするなら、もういっそ恋なんて。そういう考えを振り払えるかも」

 そう切実な眼差しで訴える彼女は、確かな俺の理解者だった。

 今この瞬間、同じ悲しみを感じているからこその言葉だ。

「そのために今ここで、〝次〟を始めようよ」
「ここで、次を……?」

 頷いて、彼女は話を続ける。
 
「初恋に負けっぱなしじゃいられない。いつまでも落ち込んでるなんてもったいないもん。だからあたしは、今一番興味を惹かれるあんたと恋がしたい」
「……マジで言ってんのか?」
「マジだよ。少なくとも、あたしは今の高峯の気持ちを誰より理解してる自信がある。あんたも、少しはあたしの気持ちに共感してくれてるよね?」
「あ、ああ」
「だったら、やる価値はあるよ。恋人になって、互いを知って、この興味がいつか恋になれば……」

 ……俺も晴海も、それぞれの失恋を消化して、新たな恋を始めることができるかも。

 晴海が言いたいのは、きっとそういうことだろう。



 ……でも、結局それは互いを傷つけることにしかならないんじゃないか?

 最初は協力関係と割り切れるかもしれない。

 しかし、もしも本当に好きになってしまったら、きっとそれぞれが好きだった人の影を感じたとき苦しくなるだろう。

 大きく傷ついた心は、その可能性を考えて怯えていた。

「ねえ、高峯。二人で守ろうよ、あたし達の心を」
「っ!」

 そんな俺の心さえ見透かしたように、晴海は言葉を紡いだ。

「苦しくてもいい。今は好きになれるかどうか不確かでいい。でも、傷ついたこの心をそのままにするのだけは駄目だから」

 だからと、彼女は俺の手を強く握って。



「あたしと高峯で、新しい恋の始め方を探そう?」

 

 彼女の目には、強い決意があった。

 これからどうすればいいのかさえわからない俺とは違う、未来を掴もうとする意志が。

 とても同い年とは思えないほどに真っ直ぐで、眩しくて──ふと、小百合と重なる。



 七年見続けてきたあいつの目も、こんな色をしていたっけ。



「……駄目? あたしみたいなのはタイプじゃない?」

 少し、不安げな色がその一言で入り混じる。

 手を差し伸べてくれようとしている晴海に、俺は……。

「晴海は、俺でいいのか?」
「あたしは、高峯がいいな。さっきも言ったけど、ああやって自分の気持ちを大切にできるあんたなら、好きになれると思う」

 ……そっか。晴海は、俺を選んでくれるのか。
 
 女の子にここまで言わせといて渋ってるのは、かっこよくないよな。

 それに、晴海となら……また自分を変えられるのかもしれない。

「……俺、かなり頑固なんだ。結構長い間、引きずると思う」
「うん、いいよ」
「小百合のことばっか考えてたから、他の女子との付き合い方なんてわからない」
「そこはまあ、これからに期待ってところかな」
「晴海のことを好きになれる自信も、ない」
「ふふん。これでもあたし、先輩に好きになってもらうために色々頑張ってたから。案外コロッといっちゃうかもよ?」

 優しく言葉を返してくれることに、俺はふっと脱力した。

 それから怯える自分の心を叱咤して、真っ直ぐに晴海の目を見る。

「そんな俺でもいいなら……その、これからよろしく」
「うん。よろしくね、高峯っ!」

 屈託なく笑う晴海に、俺も出来る限りのやり方で笑い返した。



 こうして、俺は晴海陽奈と付き合うことになった。



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