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45.お兄様とドレス
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しばらくの間、屋敷に監禁されていた私だが、今日は久々に外出禁止令がとかれた。
ていうか、お兄様が屋敷に戻られたからなんだけど。
「マリア、街に下りるぞ」
屋敷に戻るなり、お兄様が私に言った。
「え、外に出たら私、魔道具で捕縛されるのでは?」
「わたしと一緒なら問題ない」
うーん。
でも、リリアの話だと、なんか物騒な状況になってるみたいなんだけど。
「さっさと仕度をしろ」
お兄様が急かしてくるが、
「あのー、お兄様、私どうしても街に行きたいとか、外出したいとか、そこまで切羽詰まってませんので、お気をつかっていただかなくとも結構です」
もともと私はインドア派。おいしいお菓子と友人とのおしゃべりがあれば、屋敷の中でも十分楽しめるのだ。
しかし、
「……わたしとは外出したくないのか?」
お兄様がめんどくさいことを言い出した。
あー、これ、お兄様が拗ねる一歩手前のやつ。
対応を誤ると、しばらくお兄様がアライグマならぬトゲトゲはりねずみ状態になってしまうやつだ。
しかし、私も伊達にお兄様と18年も家族をやってない。
言うなれば、熟練の爆弾処理班のようなものだ。
「そうではありません。……ただ、着ていくドレスがなくて」
「ドレス? 別にそのままでも」
言いかけたお兄様は、祝賀会の件を思い出したのか、ぴたりと口を閉じた。よしよし。
「せっかく、久しぶりにお兄様と外出するのですから、ステキなドレスでお出かけしたいんです」
「……そういうものなのか? ……しかし、ドレスか」
弱ったな、とお兄様が小さくつぶやいた。
そうだろうとも。お兄様に、ドレスのことなど、わかろうはずがない!
お兄様は、貴族令嬢の服飾関係、どのデザイナーが最近人気で、どんなスタイルが流行していて、といった情報に関しては、まったくの無知である。
どうすればドレスを注文できるのかさえ、わかっていない可能性がある。
ホホホ、お兄様、最新流行のドレススタイルをお勉強してから出直しましょうね!と私が心の中で勝ち誇っていると、
「あの、よろしいでしょうか?」
遠慮がちにメイドが私に声をかけた。
「どうしたの?」
「あの、ドレスでしたら、この前、奥様のドレスを作り直した際、候補に挙げた他のドレスも、せっかくなので、手直ししたんです。よろしければそれを……」
私は驚いてメイドを見た。
「え、仕事の他にそんなことまで? 大変だったでしょう?」
「いえ、他のメイドとも一緒に手を入れましたので。……お嬢様、もう何年もドレスを新調なさってませんでしたから……」
メイドが、何か言いたげな視線をお兄様に向ける。
お兄様が気まずそうに咳払いした。
「……それに関しては、申し訳ないことをしたと思っている。わたしは、そうしたことに不調法で、おまえに我慢を強いていることに気づけなかった。……その、もし良ければ、今日、街でおまえの望むようなドレスを注文したいと思っているのだが」
「まあ、それは大変素晴らしいお考えですわ!」
私が何か言う前に、メイドが素早く口を挟んだ。
「良かったですわね、お嬢様!」
有無を言わせぬ勢いに、私も思わず頷いた。
「あ、うん、そうね……」
そういう訳で、手直しされたもう一着のドレスを着てみたのだが、
「……なんか、胸開き過ぎてない?」
「いいえ、まったく! お嬢様は貧乳なので、開いているように見えるだけですわ。こうやって、コルセットで寄せて上げれば解消できます!」
貧乳という言葉にダメージをくらっている内に、あれよあれよと着付けられてしまった。
コルセットの威力で、ない胸が底上げされ、普段の倍以上の存在感を出している。
すごい。下着詐欺というやつだ。
「さあ、できましたわ! いかがでしょうか、ご主人様?」
着付けるなり、メイドがドアを開け、隣の部屋で待っていたお兄様を中に入れた。
「…………」
お兄様は、無言でじっと私を見た。
私の視線に気づくと、ぱっと目をそらしたが、しかし、どこ見てたのかくらいわかるぞ。
「ちょっとお兄様! 今どこ見てたんですか!?」
「何も見ていない!」
「じゃなんで耳真っ赤なんですか!」
騒がしく言い合う私達をよそに、メイドがにこやかに言った。
「さあ、お二人とも、馬車の準備もすみましたので、そろそろお出かけになられては?」
「ああ、わかった。……それと、マリアに何か羽織るものを」
耳を赤くしたままそう言うお兄様に、私まで顔が赤くなってしまった。
やっぱり見てたんじゃないかー! お兄様のバカバカ!
お兄様なんてお兄様なんて、ラスカルのくせにー!
ていうか、お兄様が屋敷に戻られたからなんだけど。
「マリア、街に下りるぞ」
屋敷に戻るなり、お兄様が私に言った。
「え、外に出たら私、魔道具で捕縛されるのでは?」
「わたしと一緒なら問題ない」
うーん。
でも、リリアの話だと、なんか物騒な状況になってるみたいなんだけど。
「さっさと仕度をしろ」
お兄様が急かしてくるが、
「あのー、お兄様、私どうしても街に行きたいとか、外出したいとか、そこまで切羽詰まってませんので、お気をつかっていただかなくとも結構です」
もともと私はインドア派。おいしいお菓子と友人とのおしゃべりがあれば、屋敷の中でも十分楽しめるのだ。
しかし、
「……わたしとは外出したくないのか?」
お兄様がめんどくさいことを言い出した。
あー、これ、お兄様が拗ねる一歩手前のやつ。
対応を誤ると、しばらくお兄様がアライグマならぬトゲトゲはりねずみ状態になってしまうやつだ。
しかし、私も伊達にお兄様と18年も家族をやってない。
言うなれば、熟練の爆弾処理班のようなものだ。
「そうではありません。……ただ、着ていくドレスがなくて」
「ドレス? 別にそのままでも」
言いかけたお兄様は、祝賀会の件を思い出したのか、ぴたりと口を閉じた。よしよし。
「せっかく、久しぶりにお兄様と外出するのですから、ステキなドレスでお出かけしたいんです」
「……そういうものなのか? ……しかし、ドレスか」
弱ったな、とお兄様が小さくつぶやいた。
そうだろうとも。お兄様に、ドレスのことなど、わかろうはずがない!
お兄様は、貴族令嬢の服飾関係、どのデザイナーが最近人気で、どんなスタイルが流行していて、といった情報に関しては、まったくの無知である。
どうすればドレスを注文できるのかさえ、わかっていない可能性がある。
ホホホ、お兄様、最新流行のドレススタイルをお勉強してから出直しましょうね!と私が心の中で勝ち誇っていると、
「あの、よろしいでしょうか?」
遠慮がちにメイドが私に声をかけた。
「どうしたの?」
「あの、ドレスでしたら、この前、奥様のドレスを作り直した際、候補に挙げた他のドレスも、せっかくなので、手直ししたんです。よろしければそれを……」
私は驚いてメイドを見た。
「え、仕事の他にそんなことまで? 大変だったでしょう?」
「いえ、他のメイドとも一緒に手を入れましたので。……お嬢様、もう何年もドレスを新調なさってませんでしたから……」
メイドが、何か言いたげな視線をお兄様に向ける。
お兄様が気まずそうに咳払いした。
「……それに関しては、申し訳ないことをしたと思っている。わたしは、そうしたことに不調法で、おまえに我慢を強いていることに気づけなかった。……その、もし良ければ、今日、街でおまえの望むようなドレスを注文したいと思っているのだが」
「まあ、それは大変素晴らしいお考えですわ!」
私が何か言う前に、メイドが素早く口を挟んだ。
「良かったですわね、お嬢様!」
有無を言わせぬ勢いに、私も思わず頷いた。
「あ、うん、そうね……」
そういう訳で、手直しされたもう一着のドレスを着てみたのだが、
「……なんか、胸開き過ぎてない?」
「いいえ、まったく! お嬢様は貧乳なので、開いているように見えるだけですわ。こうやって、コルセットで寄せて上げれば解消できます!」
貧乳という言葉にダメージをくらっている内に、あれよあれよと着付けられてしまった。
コルセットの威力で、ない胸が底上げされ、普段の倍以上の存在感を出している。
すごい。下着詐欺というやつだ。
「さあ、できましたわ! いかがでしょうか、ご主人様?」
着付けるなり、メイドがドアを開け、隣の部屋で待っていたお兄様を中に入れた。
「…………」
お兄様は、無言でじっと私を見た。
私の視線に気づくと、ぱっと目をそらしたが、しかし、どこ見てたのかくらいわかるぞ。
「ちょっとお兄様! 今どこ見てたんですか!?」
「何も見ていない!」
「じゃなんで耳真っ赤なんですか!」
騒がしく言い合う私達をよそに、メイドがにこやかに言った。
「さあ、お二人とも、馬車の準備もすみましたので、そろそろお出かけになられては?」
「ああ、わかった。……それと、マリアに何か羽織るものを」
耳を赤くしたままそう言うお兄様に、私まで顔が赤くなってしまった。
やっぱり見てたんじゃないかー! お兄様のバカバカ!
お兄様なんてお兄様なんて、ラスカルのくせにー!
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