18 / 64
メッセージ
しおりを挟む目を開けたくない。だるい、身体を動かしたくない。
記憶にある、俺の最後いた場所は更衣室だった。
床にダイブしたと思うからか頬が痛い。鈍い痛みじゃなく、鋭い痛みが走る。
これ、頬が痛いんじゃなくて、口内を切っているのか? 口内の右頬を舌で撫でると、ピリッと痛みが全身に広がる。
ここは床じゃないと最初から分かっていた。現状の俺はうつ伏せじゃないし、身体は仰向けで、床がベッドのようにフカフカだ。
俺が普段使っている更衣室の床はこんなにフカフカじゃない。
「やっと起きたようだね」
安心するような声音の女の人の声がする。俺は目も開けていないのに、俺が起きているのを看破している。
そう、ルイコ先生の声がする。
すぐに目を開け、上半身を起こす。周りを見渡すとカーテンで締め切られている。ここは病院か? ルイコ先生がいるということは病院か。
「あ、無理しなくていいよ」
「そう言う訳にはいきません」
「そう?」
ルイコ先生の顔を見ると、目元にうっすらとクマが出来ていた。
「私が更衣室から君をここまで運んだんだ」
感謝してよ。と付け加えるとピンッとデコにしならせた中指を当てられた。デコピンと言う奴だ。デコは少しも痛くないが、少し涙ぐんでるルイコ先生には、悪いことをしたなと思ってしまった。
「私のメッセージを無視した君が悪いけど、幹部クラスの怪人を倒すなんて驚きしかなかった」
「ルイコ先生はなんで俺が倒したって確信しているんですか?」
「ん? あの左手に掴んでた悪の力は倒したって事で良いんだよね?」
そうか、俺が気絶した後にルイコ先生は更衣室に来てくれたんだ。あの莫大な悪の力を見たら俺が倒したという見解に至るか。
「あっ! はいそうです」
「ミロフシ町の結界が無くなった時に、問題を起こした怪人が倒されてるという報告を受けてね。更衣室に急いで駆け付けた私を褒めて欲しい」
俺はルイコ先生に助けてもらうばっかりだ。ルイコ先生が急いで来てくれなかったら、更衣室を使うバイト連中に見つかって、ややこしい事になってたような気がする。
ルイコ先生にペコりと頭を下げて、「ありがとうございます」と感謝の言葉を言った。
「あの、悪の力は?」
「自分に取り込む予定だった? ごめんなさい、もう正義の力に反転させているわ」
「自分に取り込む予定はありません、正義の力に変えてもらったのなら大丈夫です」
悪の力を見たと言うルイコ先生。そうだよな、悪の力をどこにありますかと聞く方がどうかしている。
「君が寝続けて二日。やっと私も寝られる」
「寝てないんですか?」
「君が心配で……って言えるなら可愛らしいんだけど、幹部クラスの悪の力を反転するのに二日もかかっただけよ、気にしないで」
ルイコ先生は気にしないでと言う。
「でも……」
「ん、気にしないで」
ルイコ先生は相槌を打って、俺の言葉を遮ると、再度『気にしないで』と言う。
全部が俺の為だ。二日間眠っていた俺には受け入れるしかないことだ。俺が何を言っても過去が変わるわけじゃない。
俺の重りにならないようにルイコ先生は気にするなと言ったんだ。
俺は再度頭を下げる。
「ありがとうございます」
「ん、よく出来ました。ここのベッド、一日は使ってもいいわよ。まぁでもすぐに帰りたかったら、好きにして」
顔を上げると、ルイコ先生は欠伸をしながら立ち上がり、閉まっていたカーテンを開ける。
「ルイコ先生、俺に出来ることならなんでも、なんでも言ってくださいね!」
「私は君の活動に感謝している一人だよ。それで十分」
ルイコ先生は「じゃあね」と言いながらカーテンを閉める。そしてすぐにスライドの扉の開閉音が聞こえた。
活動? 無所属の怪人が事件を起こすのを未然に止めているからか? その情報もルイコ先生なんだけどな。
本当にルイコ先生には頭が上がらない。
早速ダルい身体でベッドから起き上がり、病院のローブのような服を畳んでベッドに置く。そしてベッドの横にあった机の上から、綺麗に畳まれた制服を取って着替える。
制服はクリーニングに出してくれたのだろうか? 凄く清潔で綺麗だ。土まみれでクリーニングに出そうとしてたから助かった。
着替え終わて机に置いてあった俺のスマホを取り、電源を入れる。
「夜の七時か」
電源を入れて最初に表示されたのが時間と、スマホの着信は五十六件あった。俺は一人暮らしだし、そんなに心配されるほどに友達も居ない。
スマホのロックを解除して、着信の欄を見る。
「なんで、愛華?」
着信は殆どが桜川愛華だった。八件は後輩の岡村で、五件は怪人の先輩。
岡村は無視してもいい。そして怪人の先輩はどうせ飲みの誘いだろうし折り返さなくていい。
俺は桜川愛華の名前を指でクリックして、スマホを耳に当てた。
「もしもし」
すぐにプー、ピポパと電子音が聞こえて、1コールも鳴らずに、「もしもし」と綺麗な声が耳元で聞こえた。
俺は喉をゴクリと鳴らす。
「愛華、少し会えないか?」
「嫌よ」
そして、拒絶と共にブツ、プーと電子音が聞こえた。
「それもそうか」
愛華との会話が終わり、「腹減ってねぇか?」と岡村にメッセージを飛ばして、スマホをポケットに入れる。
俺は転移石を使って、更衣室に転移した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる